軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 遭難者と突如始まる冒険授業

「落ち着けミミ。声がでかい。なにがあった」

「あ、ご、ごめんダンくん。えと、人がいる。男女二人。遠巻きに見た感じだけど、すぐ死にはしないけど男は歩けない、と思う」

なんだって? こんなところで何をやってるんだ?

「風体は」

「え? そうだね、普通の恰好っていうか、防具の類はつけてなかった。冒険者じゃないのかも。武装もナイフ一本しか見えなかった」

「ほかに気配は」

「近くにはその二人だけだったよ。さっきボスを倒したから、このフロアの魔物は隠れて息をひそめてるって感じ?」

そうとう妙な話だ。未踏破と聞いているダンジョンの1層とはいえその奥に二人だけ、しかも武装や防具もなし。まともな事情でここに居るとはとても思えなかった。

「聞いてくれ。状況はいまミミが伝えてくれた通りだ。助けるべきかどうか、俺は正直迷っている。みんなの意見を聞きたい」

「もちろん助けるべきよ。迷う余地がどこに?」

エリーは即答だった。実に彼女らしい回答だ。

「ご主人様。発言よろしいでしょうか」

エルザだ。彼女に頷くとエリーに向かって話し始めた。

「エリーさん。おそらくご主人様は罠の可能性を考えていらっしゃるのかと。私は放置すべきだと考えます。私たちは 初心者(ニュービー) を連れています。想定外のリスクを冒す余地などありません」

エルザが淡々と答える。エリーは気圧された様子だったがすぐに気を取り直したように錫杖を握りなおす。

「で、でも。同胞が困っているのなら手を差し伸べるのが」

「それはあなたの宗教でのお話でしょう。ここは教会の中ではありません。ダンジョンです」

そうだ。教会に救いを求めるものならいざ知らずここはダンジョン。魔物や盗賊が扮している可能性も考えると、むやみに手を差し伸べるのは上策とは言えない。

しかしエルザ。それは辛らつ!

「っ、確かにここは教会ではありません。相手は敵が用意した罠かもしれない、けれど私は神職です。同胞が傷ついているのを聞いて見過ごすわけには」

「それが仲間を危険にさらす行為だとしても、ですか」

「そ、それでも私は」

「二人ともストップ。おちつけ。二人の言い分はどっちもよくわかる。まずは抑えてくれ。リーダーとしての俺の答えはもう決めた。が……さてここで質問だビル、メグ」

化け物でも見るような目で見返す二人。心の声が聞こえてくるようだ。「俺たちに、何を言わせるつもりだ」と。

「お前たちならどうする。仮にここにはお前たちしか居ないとすれば、助けるか、見捨てるか」

「ちょっと兄さん、そんなこと」

抗議の声をあげるエリーを手で制する。

「どうなんだビル。メグ」

ビルが生唾をのんだ。

「お、俺なら……見捨てる」

「うん。どうしてだ」

「こんな状況で二人だとしたら、身を守るので精いっぱいだと思う。そんなときに他人のことを気にかけるなんて、できないと思う、から」

「うん。メグはどうだ」

「ボクも……ビルと同意見です。二人が生き残ることを最優先に、考えます」

二人寄り添ってこちらを見つめる。自分たちの答えは 俺(・) に(・) と(・) っ(・) て(・) いい答えなのか、気になって仕方ないのだろう。

「そうだな。そういう状況なら、その選択が正しい。義憤に駆られて助けに行く、なんて言わなくてホントによかったよ。お前たちが葛藤したのもわかる。ふつう誰だってそうだ。俺だって迷う。でもそうやって悩んだ末選んだ『見捨てる』という選択は、必ずしも悪じゃない。そのことを覚えていてくれ」

二人は神妙な表情でうなずく。正解を引いて無邪気に喜ぶ内容でもない。

「言いたいことはわかるけれど。でも兄さん。それいま言うこと?」

エリーは納得いかない様子で腰に手を当て見上げてくる。だがこれは大事なことだ。

「今だからこそ言えることだとは思わないか、エリー。どんな座学の知識も肌で感じた経験には敵わない。エリーもわかるだろ? 俺はな、こいつらに死んでほしくない。だから機会があればどんな些細なこともその場で教えるつもりだ」

「はぁ、わかるわよ、わかるけど! ああもう、納得したわけじゃないわよ。後で話しましょ」

「じゃあダンくん、奥の二人は見捨てるの?」

袖をつかんだままのミミがささやくように尋ねてくる。

「いや? 助けるぞ?」

「へ? いやでもだってさっき」

ミミは混乱しているようだ。見捨てるといったその直後に助ける、って聞いたからかな。

あれ? なんでエリーもそんな顔してんだ?

「前提が違うだろ。なにせここにはフロアボスをワンパンで沈められるほどの、伝説級の竜のふりをしたロリっ子とかいるし?」

「だーれが竜のふりをしとるじゃと? というか我らを『とか』など雑にくくるでない。……ま、とにかく主が言いたかったことは『今からすることはこのパーティーじゃからできるだけで、自分も同じようにできると思うなよ』ってことじゃろ?」

う、一行でまとめられた。

クロエは鼻で笑うと主の言うことはわかりにくくていかんのー。仲間も大変じゃのー。などと双子の頭をなでて回った。ごめん、ありがとうクロエ。

結局問題の場所にたどり着くまでに魔物の集団ふたつを相手することになった。

もっともけが人を抱えて運ぶ可能性も考えると先に掃除しておきたかったという事情もある。いつもより音を立てて魔物をあぶりだしたわけだ。

その際は小型か中型しか出なかったので、双子の訓練にはうってつけだった。二人は着実に力をつけつつあった。

「あそこだよ、ダンくん」

ミミが指さす先、目を凝らさないとわからない通路の奥。確かに袋小路にうずくまる何かが見える。けれど生死はおろか何人いるのかさえわからない。

「生きてるのか?」

息はしている、とのこと。しかしケガをしているのだろう、男は横たわり、女が男の頭を膝に乗せるような体勢らしい。

「おい、大丈夫か。俺たちは冒険者だ。盗賊じゃない。今からそっちにいっていいか?」

通路の奥に向かって声をかける。しばしの沈黙ののち、女性のか細い声が響いた。

「連れが……ケガをしてしまって動けないんです。助けてください」