軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 優秀な斥候とありがちな罠

「んじゃ、ウチのお仕事だね。まってて、ダンくん」

ミミが今日何度目かの投げキッスを寄越しながら闇に消えた。 斥候(スカウト) というのは夜目が利くことが有利とはいうが、確かにその通りだと思う。

ダンジョンに潜ってから数刻が経ったかと思うがこれと言ってトラブルもなく、順調に探索を進められていた。これもひとえにミミの存在が大きい。

洞窟には基本明かりが存在しないから、ヒカリゴケなどのうっすらとした明かりを頼りに状況を把握できることの優位性は疑うべくもない。

彼女の狐人族由来の夜目の良さは強力な武器だ。さらに嗅覚、聴力も兼ね備えているため、陰に潜む魔物の気配にも敏感だという。それらの能力はマッピングの精度にも現れている。

「 罠(トラップ) や 待ち伏せ(アンブッシュ) の正確さがすごいですよね……」

「ミミねえがいたら楽勝じゃないかな?」

双子はミミがマッピングした地図を眺めながらしきりに感心している。確かにすごいのだが、それではまずいんだよなぁ。あとで本人にも言わなければ。

「いや、逆にこの正確さは時に仇になるかもしれない。ミミには悪いが、この手の情報は固定罠以外書き込まないように頼もうと思う」

「え、どうしてさ? これだけ正確なら皆だって楽に」

「じゃあ聞くがビル。もしアンブッシュしている場所が変わっていたら? 設置しなおせる罠の場所が変わっていたら?」

「……なるほど、斥候の情報を信用し過ぎるリスクを、ダンさんは指摘されているのですね」

頷くとメグは薄明りの中でもわかるほど、にこっと明るい笑顔を見せた。

「いくら斥候が優秀だとしても、持ち帰ってくれた情報はその時点ですでに 過(・) 去(・) の(・) 情報だ。動かない壁なんかはある程度信用してもいいが、罠や敵の位置は結局自分たち一人ひとりで見抜く必要がある。そういう目を普段から養っておかなければ最悪死ぬことになる。罠については俺やミミが追々教える。覚えろ」

ビルがこくこくと頷く。

「っていうか『ある程度信用してもいい』って。地形まで疑うとか、どれだけ疑り深いのよウチのご主人様は」

ライザがあきれ顔を見せつつ肩をすくめた。

「いや? そうとも言えないぞライザ。お前らいつも空飛んでるから知らないだろうが、ダンジョンも下層になると壁自体が魔物化している場合があって、そいつが結構厄介らしい。ま、じいちゃんの受け売りだけどな」

「や、厄介って?」

若干奇妙な笑顔をはりつけている。ふむ。ちょっとからかってやろう。

「見た目はタダの壁だが、油断して背中を見せたとたんバクリ! ってこともあるらしい。だから油断せず、ってどうしたメグ」

「こ、怖いこと言わないでください……」

見ればメグが涙目で壁をにらみつつ腕にしがみついている。あらら、効果てきめんだったな。こりゃ悪いことをした。

「悪い悪い、こんな上層じゃまず出ないだろうから今のところは心構えだけ、な」

見ればエリーはジト目で俺を見るし、エルザとライザは心なしか壁から離れ、しきりに気にしているようだった。

「戻ったよ、ダンくん」

ミミが戻った。音もなく闇から現れるので正直心臓に悪いが口には出さない。さすがの彼女も、探索中は控えめな冒険者然となる。実は案外まともな奴だった。

「おつかれ。怪我無いか?」

彼女の身体を素早く観察しながら尋ねるとにへ、と笑う。

「大丈夫、ありがと。えと、下層への階段を見つけたけれど、門番がいる。背丈はダンくんの頭二つ分くらい大きいファイタータイプだね。武器はこん棒。エリーさんくらいの長さかな? あとは杖を持った奴。おそらく 魔法使い(スペルキャスター) 。何を使ってくるかはわかんない。他は中型が二体、小型が五体。武器は全員こん棒だったよ」

「よくわかった。いつも助かるよ、ありがとう」

「えへへ。落ち着いたらいっぱいほめて?」

ミミの頭をひとなでするとみんなに向き直る。

「聞いての通りだ。少し多いが俺は連中を先に掃除すべきと思ってる。このフロアの残りの部分の探索はそのあとでいいだろう。みんなの意見を聞きたい」

「その通りじゃな。いずれ下層に降りるにせよ排除せねばならんのは同じじゃ。背後から不意打ちなぞ厄介じゃしな」

クロエが口を開くと全員が頷く。他のメンバーもおおむね同意見のようだった。

「よし、じゃあ作戦はこうだ」

ミミが指し示す先。赤々と部屋が照らし出されている。かがり火だろう。その奥にぽっかりと明いた暗闇。階下へ続く階段と思われる。

その前にはどっかりと腰を下ろした人より二回りほど大きな魔物。更に取り巻くように中小八体。ミミの情報通りだ。

先ほどの打ち合わせ通り、ミミが弓の準備をする。まもなく引き絞られる弓。全員とアイコンタクトをとる。ミミが引き絞る矢に 貫通(ペネトレイト) を付与。メグとエルザは 氷槍(アイススピア) を準備した。

俺の合図で同時にキャスト。狙いは違わず魔法使いと小型の二体の頭部を正確に射抜いた。ざわつく敵に向かって走る。すぐ後ろにはライザとクロエだ。

部屋に入ってすぐのところに陣取り、地面に盾を突き立てると 強化(ストレングス) と 挑発(トーント) を発動する。途端にすべての悪意が俺に向く。

壁役(タンク) のお仕事だ。

早速三体が向かってくるが脇からライザが細剣、クロエは拳で横殴りを始める。実質一体を相手すればいいので楽な仕事だ。ボスらしき個体が相手だが、攻撃をいなして時間稼ぎをする。数を十分減らしたあと、複数人で相手をすればいいのだ。

残りの小型が走り込んできたがもれなく転んだ。エリーの 転倒(トリップ) だ。それらにメグとエルザが魔法を撃ちかける。これで小型も残り一体、と思いきやビルが残りを始末する。これで目の前の三体のみとなった。とはいえ、クロエとライザが相手している中型ももはや青息吐息。下等な人型と竜族が一対一で打ち合って、まともな勝負になるわけがない。

「エリー、ボスにデバフ頼む。メグ、魔法攻撃を。ビル、背後から攻撃しろ」

挑発の効果時間にもまだ余裕がある。ヘイトはこちらに向いているから振り回しなどに気を付けさえすれば双子でも問題ない。

緊張の面持ちで二人は攻撃のタイミングを測る。二人視線を交わし、まさにいざと気合を入れた時それは起こった。突然ボスの動きが制限された様にビタリと止まり、恨み節のような唸り声がかろうじて発せられる。

「え? なに?」

ビルが虚を突かれた様に剣を引く。あらら。

「おいエリー。これじゃ訓練にならねーだろが」

どうやらエリーは 金縛り(ホールド) を選んだようだった。対象の動きを止める魔法。術者と相手の能力差が端的に効果として現れる。つまり、このフロアボスはいまや指先一本動かせない状態にさせられているわけだ。こりゃこのままだとなぶり殺しだな。

「? あー、それもそうね」

ダンジョンには場違いなほどののんびりしたエリーの声が、すこし広くなった部屋に響いた。

結局この状態では訓練にならないということで、ボスはクロエが始末した。ちなみにワンパンだった。素手で一撃。こわい。

魔物の死体の整理をしたあと少し休憩を入れ話し合う。その結果、階下に降りるのは後にして、残りの未探索エリアを探索することに決めた。

偵察行ってくるねと出て行ったミミを待つ間、訓練なんだから俺らが必要以上に手を出しちゃいかんでしょ、とエリーにお小言を言っているときだった。

「ダンくん、大変!」

やたら慌てた様子で戻ってきたミミが、焦りの色も隠さず俺の袖を引いた。