軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 支配の魔術とは

エドワードは自分の推論を三人に話した。

ジーナはエドワードと同じく青くなり、カロージェロは考え込み、ベッファは眉根を寄せている。

「私としては、シルヴィア様にもう少し詳しく確認するべきかと思います」

と、カロージェロは意見を言った。

ベッファも同意する。

「私も、カロージェロさんと同意見です。私は今、シルヴィア様を尊敬してやみませんが、シルヴィア様の魔術を撥ねつけたときは確かに己の不利益になる場合は害することも躊躇わなかった気持ちがありました。デボラさんの弟がシルヴィア様に不利益なことをするとわかっていながら行うのは、私としてはできないと思うのです」

もし不利益になるとわかっていながら行動できるのならば、ベッファは最初から受け入れられていたはずだ。

「【支配】の魔術が解けた可能性はどうでしょう?」

ジーナも推論を述べる。

「だとすると怖いな……。とは言え、確かに聞かないとわからないな。シルヴィア様に面会しよう」

エドワードがまとめた。

シルヴィアは、全員がかしこまって質問したいというので目をパチクリさせた。

「に、鶏さんも一緒でいいですか?」

「「「「どうぞ」」」」

鶏は、最近よく抱っこされるなあと思いつつ、シルヴィアの膝に乗る。

カロージェロが口火を切った。

「シルヴィア様。【支配】の魔術について詳しくお聞きしたいのです。……たとえばですが、住民の誰かが家族を人質にとられ、『シルヴィア様を殺せ』と命令されました。その場合、住民はシルヴィア様の殺害を決意しますか?」

シルヴィアは首をかしげる。

「……そのときは、私に助けを求めます。私はあるじなので、ぶかのきんきゅうじたいは把握するのです」

思いも寄らない回答が来たので、全員驚いた。

「……え? つまり、襲われたらシルヴィア様に助けを求めるんですか?」

ジーナが放心したように尋ねると、シルヴィアがうなずく。

「でも、以前に賊が襲撃してきてカロージェロとジーナが襲われたときは、特に何も言いませんでしたよね?」

エドワードがそう言うと、シルヴィアがジーナを見た。

「カロージェロがきんきゅうじたいだってジーナに教えたです。ジーナのきんきゅうじたいもエドワードに教えたです」

「「あ」」

それで二人は思い出した。

そういえば、カロージェロがどこにいるかわかっていたな、と。

本来なら教会に向かうはずだ。

なのに、まっすぐあの場所に向かった。なんの疑問もなく、導かれるようにあの場所に向かったのだ。

カロージェロも驚き、シルヴィアに深く頭を下げた。

「シルヴィア様のおかげをもちまして、今も息災です」

「よかったのです! でも、次からは私が助けるのです。じゃないとジーナが怪我しちゃうので」

「すみません……。あれは私の覚悟が足りないせいですから。もう、あんな失敗はしないので安心して任せてください!」

ジーナが握りこぶしを作ったが、シルヴィアとしては心配なので、やっぱり自分でどうにかしようと考えている。

エドワードは口もとに手を置き考えている。

ベッファが恐る恐る挙手し、シルヴィアに尋ねた。

「……もしかして、緊急事態のときは誰かしらを動かしているんですか?」

「そです。私がリーダーなので!」

その回答を聞いたエドワードは、もしかしたら家畜たちの参戦もシルヴィアの指示だったのかもしれないと思った。

知れずに誘導されているのは怖いが、いきなり『えどわーど! ドコ行ったですか!?』という叫び声が脳内に響き渡るよりマシかなと考えた。

ジーナも挙手する。

「はい! その、【支配】の魔術が解けることはありますか?」

シルヴィアはうなずく。

「あります」

このひと言で四人に緊張感が走り、シルヴィアは驚き鶏を抱きしめる。

「わ、私をリーダーと認めなくなったら魔術がとけます」

「解けたらわかりますか?」

「わかります」

これにもシルヴィアはうなずく。

「今、住民で解けた者はいますか?」

「いません」

ハキハキと質疑応答が進む。

エドワードは考え込んだままだ。

だが、どういう魔術だかはわかってきた。

シルヴィアをリーダーとして認識し、主従関係を結ぶ魔術のようだ。

知らず指令が飛んでいるらしい。

恐らくシルヴィアの危機にも魔術にかかった全員に指示が飛ぶだろうし、魔術がかかった者の危機にも指示がいく。

主従関係を拒む者には魔術がかからない。

本来シルヴィアは公爵令嬢で城主なのだから、この都市の住民になりたいと願う者あるいはこの都市に住む者なら当たり前のように受け入れるはず。

ベッファは最初かからなかった。内心では主従関係を結ぶのを拒否していたから。

悔い改めなければ、何度試そうが絶対にかからなかっただろう。

だから、この魔術がかかっている者は、シルヴィアを主として認めている、それは確実だ。

シルヴィアを害するよう脅されたとしても、恐らくは無理だろう。

その場合はシルヴィアに連絡がいくようだ。ただ『害することはできない』とは言ってない。

言ってないがシルヴィアにはわかってしまうから、結局はできたとしてもその点は安心だ。

安心なのだが……。

エドワードは顔を上げてシルヴィアに尋ねる。

「今回、ガストンの息子でデボラの弟であるディエゴという者が、『料理店が存続できないので二人を呼び戻したいと考えている』と親しい者に打ち明けています。これは、主を差し置いて自分を優先するような発言です。つまりは、自分の料理店を続けられればシルヴィア様が料理を食べられなくなってもいい、そう言っているのですが……なぜコイツはそんな考えができるんでしょうか?」

シルヴィアは、困った顔をする。

「そんなこと言ってないからだと思います」

そう返したら、全員が口を揃えて返す。

「「「「言ってます」」」」

そうは言っても。

シルヴィアは、もう一度同じ言葉を告げた。

「でもその人はそんなこと思ってない……です」

モジモジしていると、ジーナが唸る。

「うーん……。じゃあ、その人から緊急事態ってメッセージは来てます?」

「きてないです」

その回答を聞いたカロージェロとベッファは顔を見合わせた。

「つまり、甘えてるんじゃないですか? 単なる泣き言以外のなにものでもなくて、本気で戻ってきてほしいとも思ってない。……もしかしたら、そういう泣き言を言ってたらガストンとデボラが戻ってきて助けてくれるかもしれない、でもそこまで切羽詰まってない、って感じですかね」

ベッファが突き放すような口調で推論を述べる。

「私もそう思いますね。まさしく甘えて泣き言を言っているだけかと。恐らく、潰れてもいいと本人もどこかで思っていますよ。もともと家を出て仕出屋をやろうとしていたのでしょう? 家を継ぐことには執着していなかったということです。――姉が譲ってくれるから受けた、恋人が脅えるから二人を追いだした、全部自分のせいじゃない。呼び戻したいんじゃなくて、押しつけて逃げ出したいんでしょう。だから、たとえ戻らなくても逃げ出すでしょうね」

カロージェロも同意した。

エドワードも理解して、疲れたようにうなずく。

「……そういうことか。城主をないがしろにした発言ではなく、単なる泣き言、愚痴の範疇を超えないってことで、本気で呼び戻したい……いや、自発的に戻そうとは思っていない。もし二人が 勝(・) 手(・) に(・) 戻(・) っ(・) て(・) く(・) る(・) のならそれでよし、それによってシルヴィア様が困るのなら自分が代わりに城塞で働こう、そう考えてるってことか」

「そです。私が困るって思ったら、そんなことしないです」

シルヴィアがうなずいてそう言うと、エドワードが苦笑する。

エドワードは、シルヴィアのその部下に対する信頼はどこからくるのかと思うが、シルヴィアがそう言うのならそうなのだろう。