軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

銀狼とギルド受付嬢の婚約騒動 4

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屋敷に帰って、その直後に、会話する間もなくレイは出かけてしまった。

王立騎士団に緊急案件が発令されたらしい。

「戻ってきたら、ちゃんと話そう」

「はい……。レイ様」

エレナも、衣服を着替えると、魔術師ギルドに出勤することにした。

すでに、今日は休みの連絡をしていたし、夕暮れに差し掛かっている。

「お出かけになるのですか?」

「ええ、魔術師ギルドに。在庫がないと、明日から困ってしまうので」

それでも、先日依頼をかけた在庫が補充されているか気になる。

忙しなく、ギルド受付の制服に着替えて、屋敷を後にしたエレナの後を、今日もリフェルが当たり前のようについてくる。

「エレナ様、お気をつけて」

リフェルは、魔術師ギルドの直前までついてくると、エレナから距離をとった。そして、そのまま大通りに姿を消した。だが、エレナが表に出た瞬間に、リフェルはいつの間にかそばにいるらしい。

だから、きっとどこからか、エレナのことを見ているに違いない。

(何者なんだろうリフェルさん。ただの侍女ではないよね。間違いなく……)

しかし、ギルドの中に入った瞬間、エレナは、愕然とする。

「エレナっ!」

魔術師ギルド内は騒然としていて、涙目のフィルが、エレナの姿を見つけたとたん飛び込んできたのだ。

「――――エレナっ、ギルド長が連れていかれちゃったの」

すでに、そこにギルド長ローグウェイは、いなかった。

早朝に、第二王子とローグウェイ侯爵家からの呼び出しがあったというのだ。

「――――急にローグウェイ侯爵家の私兵がギルドに押し入ってきたの。エレナを引き渡せという言葉に、頷かないギルド長は無理やり連れていかれて……。ギルド長の実力なら、逃げることだって簡単だったはずなのに。いったい何があったの?」

エレナのことを心配げに見つめながら、フィルがようやく体を離す。

けれど、エレナはその問いに答えるすべを持たず、自然と広がる震えを収めるのに精いっぱいだった。

何があったかなんて、エレナのほうが知りたい。

でも、エレナのことで、ローグウェイが連れていかれてしまうなんて、一つしか理由が考えられない。

その理由は、さっき国王陛下から聞いたばかりなのだから。

どうすればいいのかと思いを巡らせていた時、落ち着いた低い声を聴いてエレナはバッと顔をあげた。

「エレナ」

「っ……アーノルドさん! 戻ってきたんですね」

「ああ、無事依頼は完遂したが……。何の騒ぎだ?」

「ギルド長が」

「――――落ち着いて話してみろ」

アーノルドは、エレナにとって信頼のおける人間の一人だ。

確かに二人の間には、友情と呼ぶべき絆があると、エレナは信じている。

そして、エレナの秘密を知っている数少ない人間の一人でもある。

(でも、アーノルドさんまで巻き込むわけには)

言葉を飲み込みかけたエレナの頭上に、大きくて優しい手が乗せられた。

いつも無表情なうえに、言葉少ないアーノルドだが、ふとした仕草には彼のやさしさが、現れているとエレナは常々思っている。

「――――大丈夫だ。ギルド長は俺にとっても恩人だ。話してくれないか?」

「……はい」

「では、場所を変えるか」

次の瞬間、緻密な魔法陣が発動した。

足元にぽっかり穴が開いて、体がバラバラになった後に、再構成されるような形容しがたい感覚がエレナを包み込む。

思わずへたり込んだエレナを、アーノルドが手をつかんで立ち上がらせる。

「うっ、転移魔法ですか? 誰かを連れてなんて……。なんて無茶するんです」

「ほかの人間に聞かれるのは不味い話だろう? それに、ギルド長まで連れていかれたとなれば、安全な場所とはいいがたい。……もしや、その髪の毛と瞳が関わっているのか?」

エレナは、丸いメガネの中で、グレーの瞳を見開いた。

そっと壊れ物を扱うように、アーノルドがエレナのメガネを外す。

「……アーノルドさんも、私の髪と瞳の秘密に、気が付いていたのに、上に報告しなかったんですよね」

「第二王子と、ローグウェイ侯爵が、手配書を出したのを知ったのは王都に戻ってきた先ほどだ。まあ、一目見た時からエレナには何かあるとは思っていたが、大事な人間を何してくるかわからない奴に、差し出すわけないだろう」

(アーノルドさんが相変わらずカッコいい)

いつも、当たり前のようにエレナを助けてくれるアーノルドは、心外なことを言うなとでもいうように形の良い眉を寄せている。

「アーノルドさん、ギルド長は、私のことを守るために連れていかれてしまったんです。助けないと」

「エレナ」

エレナの目線に合わせてしゃがみ込んだアーノルドの、知的な印象のスクエアのメガネの奥、ブルーグレーの瞳がエレナを覗き込む。

長い長い溜息、アーノルドは、あごに手を当てて思案しているようだった。

深閑な部屋の中で、時間だけが過ぎていくようで、エレナの鼓動は嫌な音を立てる。

「――――エレナ、お前はレイ殿の屋敷に戻っていろ。ハルト公爵家には、王族であってもすぐに手を出すことは困難だ。王都で一番安全だろう」

「なっ、何言っているんですかアーノルドさん! ギルド長は、私のせいで連れていかれたんですよ?!」

「……もし、それが事実なのだとしても、それを選んだのはギルド長自身だ」

もう一度、アーノルドの足元に、複雑な魔法陣が浮かぶ。

このままでは、レイの屋敷に送り返されてしまうのが間違いない。

「そんなの嫌! 私は、ギルド長から受けた恩を返していない」

そのままエレナは、衝動に突き動かされるように丸いメガネを外し、魔法が掛かった髪紐を解いた。

その瞬間、足元の魔法陣が、まるで落雷のように弾けて消えた。

「――――っ、エレナ」

発動しようとしていた魔法が消えてしまったその場所に立つエレナの髪は、青と桃色の小さな光に囲まれ、スミレ色の瞳は、青く深い色に変わっていく。

「アーノルドさん……。私、行かなくちゃ。アーノルドさんなら出来るでしょう? ギルド長のところに連れて行ってください」

「エレナ、無理を言うな。大人しく待っていろ」

「ギルド長に受けた恩は、命を懸けたって返さなきゃいけないんです」

エレナの決意は固く、しかもアーノルドの魔法は、今この瞬間、確かに精霊から見放され、発動することができなくなっていた。

精霊から加護を受けなければ、魔術師は魔法を発動することができない。

「精霊からの愛情を受けた人間……?」

そのことに、思い至ったアーノルドは瞳に驚愕の色を浮かべる。

エレナは、あきらめを交えた瞳で、アーノルドの瞳を見つめた。

故郷では、大人も子どもも、時々エレナのことをそんな瞳で見てきた。そして、そのあと畏怖と、どこか自分と違うものへの嫌悪をにじませたのだった。

「……アーノルドさんは、私のこと、怖いですか?」

けれど、覚悟していたエレナの想像に反して、アーノルドの顔に、驚き以外の感情が浮かぶことはない。

「馬鹿かお前。俺が、エレナのことを怖いと思うはずないだろう? お前が俺を傷つけるはずないからな」

「今、巻き込もうとしています」

「エレナが危ないことをしようとしたら、止めようとするが、一人で行かせもしない」

「お願いします」

「……ふぅ。仕方ないな。迎えが来るまで、付き合ってやる」

その瞬間、エレナの願い通りの魔法が発動する。

直後、二人は揃って、ローグウェイの目の前にいた。