軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋と運命と予言 1

「……どうした? そんなにこちらを見て」

「いっ、いいえ!」

ほんの少しとはいえ、住む世界の違うお方との恋を想像してしまい、火照ってしまった頬を、両手のひらで冷やす。冷やしながら、これは危険だと心の奥底で警鐘が鳴る。

「なんでも、ないです」

「そんな赤い顔をして、具合でも悪いのか?」

「本当だ! 大変ですっ、少し休んだほうがいいのでは? エレナ殿」

真剣な表情でそんなことを言う二人。

二人が並ぶと、人外に近い美貌を持つレイと並んでも遜色ないほど、ジャンが可愛い系の美男であることに改めて気がつかされる。クルリと大きな二重に、まだ幼さの残る顔、癖のある赤みを帯びた薄茶色の髪、すべてが可愛らしい。

こんな風に、人懐っこくてかわいい中型犬は、王立騎士団にとっては仮想敵国と表現しても過言ではない魔術師ギルドに、単身で乗り込んでしまう無鉄砲さを併せ持つ。

(レイ様よりもリドニック卿が、命の危機というほうが納得がいく気がするの……)

まあ、二人は上司と部下で、歴戦の騎士だ。たまたま今回、別行動だったらしいジャンは無事だっただけで、二人とも危険に陥る可能性もある。

(それは……すごく嫌。そういえば、ギルド長は休みを取れ、受付には出せないと言ったけれど、魔術師ギルドに来てはいけないとは言わなかったわ。職員しか入ることができない書庫に、予言に関する書もあったはず)

「――――レイ様、助けていただいた恩、決して忘れません」

「……急に、どうした」

「用事を思い出したので、帰ります」

「……エレナ嬢。単独行動は推奨しない」

キョトンと、スミレ色の瞳がレイを見つめた。

なぜか、その瞳があまりにも無防備に見えてしまい、レイのいら立ちを掻き立てる。

「魔術師ギルドで調べ物をするだけですから」

「そ、そうか……。だが、もし良かったら、ここには魔術師ギルドに引けを足らないほどの、魔術関連の書籍がある。私的なものだが、古代魔法から、現代の最新研究論文まで、たぶん王都でも有数の蔵書だと思う」

なぜか、急にとても早口になって、エレナに屋敷の蔵書について語るレイ。

どこか必死さを帯びたその言葉につられるように、エレナは思わず口に出す。

「――――予言に関する本があるのなら、見たいです」

その瞬間、レイの顔色が、明らかに変化した。

一瞬にして血の気が引いたような、その変化をエレナは茫然と見つめる。

「予言……。どうして」

そんなレイの問いに、まさか恋の予言について本当のことを言うことなどできない。

でも、嘘を言うこともできなかった。

だから、エレナは、ギルド長とアーノルドにしか話したことがない、もう一つの真実を語ることにした。

「……うーん、実は今はいない私の家族が巻き込まれた事件は、予言が関係していそうなんです。それに、少し気になることもあって……」

「――――そっ、そうか。……辛い思い出を、無理に聞き出してしまったようだな」

エレナの境遇を聞いたレイは、申し訳なさそうな顔をしながらも、明らかに顔色が良くなった。

その変化に、ギルドの受付係をしているエレナの経験が、違和感を感じさせる。

(明らかに、安堵した。どうして……? レイ様も、何か予言に思うところがあるの?)

「――――予言に関する蔵書は、王都で一番多いかもしれないな」

「珍しいですね」

ちらりと、練武場に目を向けると、話に全く興味がないらしいジャンが、素振りをしていた。

この話を、聞いてはいなかったらしい仕草に、どこかエレナはほっとした。

「ああ、ほかの本も多いが、予言とは少し因縁があるからな」

「そうですか……」

レイが、壮絶な色気をまき散らしながら、前髪をかき上げる。

かき上げた直後に、パラリと下がった前髪が、陽光を反射するのを見ながら、エレナはここで本を見せてもらうことを決める。

(魔術師ギルドの本なら、いつでも見ることができるけれど、ここの本を見る機会なんて、きっと今しかないわ)

エレナが頷いたのを見て、どこか満足そうに口の端を緩めたレイは「おい、ジャンはどうする?」と素振りを続けるジャンに大きな声をかける。

「――――俺が、本なんて読まないの知ってるじゃないですか。……今日は帰りますよ」

「そうか、まあ、また来ると良い」

「ほんとに来ますよ?」

「ふん。前もって予定を知らせておけば、肉くらい焼いてもてなしてやるのだがな」

「う~ん。――――ものすごく魅力的ですが、たぶん俺には無理です」

二人の掛け合いを見ながら、顔パスだなんて勝手に来ているようなことを言っていても、レイがジャンのことをなぜか気にかけているのが分かる。

それにしても、予定を知らせるとか、先触れを出すなんていう概念は、ジャンにはないらしい。

(昨日の出来事も、起こるべきして起こったことなのかしら……)

少しだけジャンという人間が、心配になったけれど、直後、ジャンが、あまりに優雅な騎士の立礼をして、踵を返した姿を見て、エレナはその思いを振り払うのだった。

「できるくせに、頑なにしなかったジャンのあんな礼儀正しい姿を見ることになるとは。叔父上の言う通り……たしかに、何かが変わったのか」

そんな、レイのつぶやきは、風に消えて、エレナの耳には届かなかった。