軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.ファミリー

シクロダンジョン協会のテント。

ダンジョンマスター・バイコーンを討伐したおれはそれを報告しに来た。

責任者のデュークは最初信じられなかったが、人を走らせて確認させるまでもなく、ダンジョンにまたモンスターが出る様になったことで冒険者たちが我先にと動きはじめたから、討伐の事実を受け入れざるをえなかった。

「驚いた、まさかダンジョンマスターまでをも倒してしまうとは」

「ヘテロとのごたごたで時間掛かりそうだったから手を出した。迷惑だったか?」

「とんでもない! バイコーンは知ってると思うけどややっこしい能力をもってるのだ。対応できるネプチューン一家をどうにか送り込もうとしていたのだが、ヘテロ側もそれを知ってるからあれこれ注文をつけてひき伸ばしてたのだ。無理矢理にでも倒してくれて本当にありがたい」

「ネプチューンだと対処できるのか」

「詳しくは知らない――やり手の冒険者ほど自分の能力を隠す傾向があるからな」

それは何となく分かる。

おれだって「ドロップS」の事をほとんど誰にもいってない。

知ってるのはエミリーだけだ。

「だから判断するのは実績と自己申告だが、ネプチューン一家の実績は申し分ない」

「なるほど」

「なにはともあれ……倒してくれてありがとう。いきなりの事だから報酬はここでは決められない、おそらくサトウさんがシクロに戻った後になる――ただ働きはさせない、それだけは確かだ」

「構わない、おれもやりたくてやっただけだ」

「なら、せめてお礼だけ言わせてくれ。本当にありがとう」

デュークのお礼の言葉と、薄いテントの外で活気づく冒険者達の声で。

おれは、出しゃばってよかったと思った。

ダンジョン協会のテントを出て、エミリーのテントに向かって歩く。

セレンのまわりがいつも通りに戻った。

冒険者はダンジョンに次々と入って、早くも別の冒険者がドロップ品を積んだ魔法カートを押して出てきて、買い取りにむかった。

買い取られたドロップ品は街に運ばれていき、街からは冒険者のための物資や、彼らが稼いだ金を目当てにした商品が次々と運ばれてくる。

みてて、面白いと思った。

ここはまるでこの世界の縮図のようだ。

ダンジョンが全てをドロップする世界では、人々の生業はダンジョンを中心に回っている。

生産も、製造も、サービスも、その他全ても。

ありとあらゆる活動がダンジョンを中心に成り立っている。

この世界にもインフレとかデフレとかあるんだろうか、バブルとか不景気とかあるんだろうか。

あるとしたらどんな感じなんだろうか、ダンジョンとどう関わってくるんだろうか。

それがちょっと気になって、シクロに戻ったらちょっと調べてみようと、おれは歩きながら思ったのだった。

エミリーのテントに戻ってくると、エミリーとセレストの姿が見えた。

エミリーはテントの前にたき火を起こして、何かをしている。

手を振ると向こうもニコニコで手を振りかえしてくれた。

セレストはテントから少し離れたところで、こちらに背を向けてて、いつもの様にゴミに向き合っていた。

足元に魔法陣を展開して、レベル3の炎の魔法、インフェルノでゴミをまとめて焼き払う。

広範囲魔法でまとめて焼いた後、あっちこっちにちょびっと残ったゴミがある。

今度は手を差し出し、二本の角を掲げた。

ダンジョンマスターのドロップ、バイコーンホーン。

それを掲げると、さっきとは比べ物にならないくらい小さい炎がゴミを焼く。

炎は小さいが、余った少量のゴミを焼く分に充分な火力だった。

まとまったゴミは自分の大魔法で、余った分はバイコーンホーンの小規模な魔法で焼いていく。

そこにあったゴミを全部処理すると、追加でちょこっとだけゴミが運ばれてきた。

それをバイコーンホーンの炎で焼いて、あっさりと処理した。

全部処理し終えたのを確認してから、おれは彼女に声をかけた。

「セレスト」

「リョータさん!」

振り向く彼女は笑顔を浮かべて、小走りでやってきた。

「……」

はじめてなんじゃないだろうか。

彼女と出会ってから、ゴミ処理を終わっても、こんなに元気な彼女の姿を見るのって。

いままでは大抵、疲れ果ててヘトヘトな彼女しか見えてない気がする。消耗しきって倒れてる事も少なくない。

「ゴミの処理をしてたんだな」

「リョータさんにもらったこのバイコーンの角のおかげだわ」

「役に立てたのなら嬉しい」

「このバイコーンの角ってすごいわ。レベル1とはいえ魔法を無制限に使えるなんてはじめて。回数制限のある、使い切りのものなら知ってるのだけど」

「使い切り?」

「世界に三箇所しかない、特殊なものをドロップするダンジョンから生産されるの。知らない?」

「特殊……特質か」

頷くセレスト。

そういえばドロップの中に「特質」ってのがあったっけ。

動物、植物、鉱物はわかりやすい、魔法ってのもなんとなく想像つく。

特質だけが今ひとつ分からなかったけど、なるほどそういうものか。

世界に三箇所しかないダンジョンなら、そのうちいってみたいものだ。

なんとなく振り向いて、 外(、) から冒険者達やそのまわりの人間で賑わっているセレンダンジョンを眺めた。

ドロップの調査は終わった、ハプニングのダンジョンマスターも倒した。

ここでのおれの仕事はもう終わりだ。

「そろそろセレンともおさらばだな」

「もう……行くの?」

「ああ、もともとはシクロダンジョン協会に請われての短期出張の様なものだし、そろそろ家が恋しくなって来た。エミリーのテントも実家の様なぬくもりと安心感を覚えるけど、やっぱり同じエミリーが手入れした普通の家にはかなわないからな」

「そう……いつ、戻るの?」

「一晩休んで……明日だな。もうここでやる事はないし、今は冒険者が押し寄せてるから稼げないしな」

「……」

うつむくセレスト、下唇をかんで、何か言いたげだ。

胸もとで手を合わせて、バイコーンホーンをぎゅっと握り締めている。

そんな彼女をみて、おれは。

「一緒に来ないか?」

「ここが終わったらシクロに行くわ」

おれが切り出したのと同時に、彼女も意を決して言ってきた。

ほぼ同じタイミングだった。セリフがかぶったことで、二人してキョトンとなった。

「シクロに行くって、な、何しに?」

「シクロだってゴミの処理は必要だから、今のをやめてそこで就職するつもりだったんだけど……一緒に来ないかって?」

「パーティーを組むって言うか――」

ふと、頭の中にネプチューンのむかつく顔が浮かんで、思ったままの言葉を口にした。

「――亮太一家? みたいなのを作らないかって」

「なる!」

セレストが即答して、迫ってきた。

このチャンスを逃せば次はない、とばかりの勢いだ。

「なる! 作る! またリョータさんと一緒にダンジョンに行けるなら!」

バイコーンホーンをぎゅっと握り締めたまま、おれに詰め寄るセレスト。

真剣さが……思いが伝わってきた。

「うん、一緒に行こう。あっ、その前にエミリーにも聞かなきゃ――」

「お祝いなのです!」

「どわっ!」

いきなり真後ろから話しかけられてびっくりした。

振り向くとそこにエミリーがいて、なんと彼女はケーキを持っていた。

皿の上に乗ってる、綺麗なホールケーキ。

「ケーキなんて用意してたのか?」

「焼いてたです」

「……たき火おこしてたもんな」

「はいです」

エミリーはケーキを持ったまま穏やかに微笑んだ。

セレストを改めてみた、話を一旦保留させられた彼女はすがるような目でおれを見ていた。

モデルの様な長身美女なのに、まるで捨てられそうですがってる子供みたいだ。

「これからよろしくな」

「よろしくです」

「――はい!」

セレストはバイコーンの角を更にぎゅっと握り締めて、満面の笑顔で頷いたのだった。