軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402.全員救出

ぶち破った入り口の穴をもっと大きくする。

相手が空間の裂け目であろうと、普段と変わらない、マイペースな遅さで進む鉄壁弾。

それを四角形の四つの隅に撃って、時間切れになりそうになると同じところに撃ってリレーする。

四隅に鉄壁弾を撃ち続けた結果、入り口の裂け目が人一人通れるくらいの、部屋のドアくらいの広さになった。

「行ってくる」

「気を付けて」

ニホニウムに頷き返して、俺は入り口をくぐった。

カーボンの中は石を積み上げたような、天井の低い地下ダンジョンだ。

その石がところどころで青白い光を放っていて、今までに見てきたダンジョンの中で、一番物静かな不気味さを漂っている。

「リョータさん」

「セレスト!」

中に入ると、早速セレストの姿が見えた。

彼女は俺を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくる。

俺も彼女に駆け寄った。

「大丈夫だったか?」

「ええ。特になんとも」

「そうか。他の冒険者達は――」

セレストの無事にホッとしつつ、周りを見回すと――びっくりした。

青白い光の中大半の冒険者は地べたに座ってくつろいでいる。

一部はカーボンでドロップしたらしき食材を使って、宴会をしている。

「……何これ?」

「何が?」

「俺、もっと切羽詰まったのを想像してたんだけど。なんでこんなにのんびりしてるんだ?」

「それはサトウさんのおかげっすよ」

若い男が会話に合流してきた。

冒険者の中では比較的小柄な方だ、だからといって弱そうという事もなく、装備などを見る限り、スピードと手数を駆使して近接戦闘モンスターを翻弄するタイプの冒険者だろう。

「あんたは?」

「自分はエリオットファミリーのアクロっす」

「エリオットファミリー、アクロ……」

どこかで聞いたことのあるような名前だが、すぐには思い出せなかった。

そのアクロは人なつっこい笑みを浮かべたまま、俺の疑問に構わず更に続ける。

「そりゃ緊急事態だったすよ。気の毒だったけどやられたやつが消えちゃったし。緊急事態のレベルがぐぐぐーんと上がったっすよ」

「だったら、もっと焦ったり、パニックになったりするもんじゃないのか?」

「それはそうなんすけど、誰かがぼろっといったんっすよ。ここまでヤバイならリョータが来るって」

「お、おう……?」

俺が来る……?

「ヤバイ案件ならサトウさん来るから、だから俺らが救出されるのも時間の問題だって。それで倒しても倒してもキリがないモンスターとも延々と戦ってられたんす」

「そこにモンスターがいきなり居なくなったの。それでみんな、ああ、リョータさんが来たんだな、って」

セレストがアクロの言葉を引き継ぐように説明した。

「なるほど」

ちょっと複雑な心境だった。

そこまで信頼されていたのかと嬉しい反面、密閉空間で中は極限状態になってると推測した肩すかしもある。

「……ま、大事になってなくて何よりだ」

「リョータさん!」

「ん? おっといけない」

慌てるセレスト、彼女の視線を追いかけていくと、鉄壁弾の一発が消えて、四角形が崩れて、縦に長い直角三角形になっていた。

慌てて斜辺を伸ばすために鉄壁弾を撃って、角にも追加の鉄壁弾を撃った。

応急処置をして、セレストらに振り向く。

「とりあえず外にでよう。セレスト、先に出てくれ」

「私も残るわ。何かあったときの戦力に」

「いや、セレストは外に出てってくれ。戦力よりも、いざって時に転送部屋を使えるかもしれない可能性の方がありがたい」

「……なるほど、確かにそうね。分かったわ」

納得しつつも、どこか後ろ髪を引かれているような表情をするセレスト。

そんなに残りたかったのかと思いつつも。

「行こう、この膠着がいつまでも持つとは限らない」

「ええ」

「アクロも、みんなに知らせてきて。俺はこの入り口を維持してるから」

「分かったっす」

二人はそれぞれ動き出した。

セレストは真っ先に入り口をくぐって、すぐ外で待機している。

アクロはダンジョンの奥に走って、くつろいだり宴会したりしている冒険者らに伝達に走った。

「外に出られるっす、でも不安定だから急ぐっす」

実際に入り口が閉じかかっているところを見ているからか、アクロの口調は真に迫っていた。

そのアクロの呼びかけに応じて、冒険者が次々と、ぞろぞろとやってきた。

「ありがとうね」

「たすかったぞ」

俺の横を通り過ぎる度に、冒険者達からお礼の言葉が掛けられる。

もちろん全員が全員そうじゃない、☆の多い、ベテランの実力者が多くここに入っていて、それらの者は相応にプライドも高い。

「借りは必ず返す」

と、言ったりもした。

それを見送りつつ、鉄壁弾で入り口を維持。

入り口は狭く一度に一人しか通れない。

故に、冒険者の長蛇の列が自然とできあがっていた。

「……」

「どうしたのリョータさん」

入り口のすぐ外で聞いてくるセレスト。

「もしかしたら足りないかも知れない」

そう言いながら、そろそろ時間切れになりそうな鉄壁弾を追加で撃った。

入り口をスムーズに通れるように維持するには、1セットで4つの鉄壁弾が必要だ。

そのセット数と効果時間、そして残りの人間の列。

「三分の一くらいが取り残されそうだ」

「二回に分ける必要があるって事なのね」

「それは避けたい」

「どうしてなの?」

俺は手をすうっと伸ばして、ニホニウムを指す。

「今カーボンが静かなのはニホニウムが抑えてるからだ。だけど鉄壁弾を追加で仕入れるには、ニホニウムに戻ってポイズンゾンビを倒さなきゃならない」

「……違うわ、今ニホニウムにポイズンゾンビを出してもらえば良いのよ」

「違う」

一呼吸間が空いて反論したセレストに、俺はノータイムで反論した。

それは、既に考えてる。

「ここじゃダメなんだ」

「……あっ」

どうやらセレストも気づいたようだ。

鉄壁弾はポイズンゾンビの――ハグレモノのドロップ品だ。

ドロップSによってハグレモノからもドロップ出来るということを、そもそもドロップSというのは仲間内の秘密にしている。

感づいている人も居るかも知れないが、それでもはっきりとは見せたくない。

だから鉄壁弾の仕入れにはいったんここから離れたい。

「ここを離れる、つまりこの入り口を一度閉じてしまうんだが、それは出来れば避けたい。安定してる時は状況を変えたくない」

鉄壁弾が消えてしまった場合のシミュレーションを頭の中でして見た。

まず、人気の無いところに行って、ニホニウムに協力してもらって鉄壁弾を補充してここに戻る。

それですんなりまた入り口を開ければいいが、ダメだった場合屋敷に速攻でもどって転送ゲートを使ってカーボン地下一階に飛ぶ。

最悪の場合もある、転送が使えない場合だ。

そういう可能性を考えると、やっぱりどうにかしてこの入り口を今のこの状態で維持したい。

考え過ぎだが。

「ありがとうございます! 助かりました!」

俺にお礼を言って、カーボンを出て行く若い冒険者。

感謝、そして、信頼。

それらを寄せられている現状、不安要素は避けたい。

「……やってみるか」

「何を?」

「見てて」

どのみち、今のままじゃ絶対に足りないんだ。

ならば一セット――いや二セットか。

無駄にしても試す価値はある。

そう思い、バナジウム弾を取り出して、鉄壁弾を二つ込めてから、銃で撃ちだした。

消えかかった鉄壁弾の代わりにダブル鉄壁弾。

すると。

「遅いわね」

「ああ、まったく動いてないな」

W鉄壁弾は鉄壁弾よりもさらに遅かった。

目を凝らして見ると、動いている錯覚がするのに、よく見たらやっぱり動いてないくらい遅かった。

W鉄壁弾が入り口の一つの角を維持した。

その間に他の三つも消えかかったから、通常の鉄壁弾を撃った。

じっと見守る、通常の鉄壁弾がまた消えかかったから追加――がW鉄壁弾に変化は無かった。

通常の鉄壁弾二セットで三つの角がわずかに進んだが、W鉄壁弾はまったく動かず、消えもしない。

そのせいで入り口がちょっと歪んで、台形っぽくなった。

さらに1セット、もう1セット。

都合4セット経過しても、W鉄壁弾は消えない。

バナジウム弾で融合したダブル鉄壁弾は、通常よりも遥かに遅く、そして遥かに長持ちした。

これならいける!

俺は他の三つの角もW鉄壁弾に入れ替えた。

入り口は安定した。

それまでは維持のためにドタバタ感があったが、W鉄壁弾で一気に安定した。

「いけそう?」

「ああ」

とはいえ、気は抜けない。

俺は最後まで集中して、入り口とW鉄壁弾の変化を見つめて。

カーボンに閉じ込めた冒険者の全員の、救出に成功した。