軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

366.勘と確信

推測は正しかった。

エリスロニウム地下二階、三階、四階。

島々に小川が流れて橋がその間をつなぐという構造のダンジョンを、俺はほとんど素通りに近い形でするすると降りていった。

武器を持たないで攻撃意志も無しでいたら、モンスターはまったく攻撃してこなかった。

モンスターは地下一階と同じ、空中にふわふわと浮かぶ綿毛の見た目をした奴らばかりだ。

ただし、階層ごとに色が違う。

きっと効果は違うが、自爆を喰らったら「何かが下がる」というのは間違いない。

それはただの勘だが、この場合確信に近い勘だった。

後日必要ならちゃんと確認、情報を回収しに来よう。

そう思いつつ、地下五階に降りた。

「うおっ、こりゃまた激しいな」

思わず声に出してつぶやき、眉間に皺を作る程の光景が目の前に広がった。

まず雪がふっていた。

赤い雪――ダンジョンスノー。

魔力が具現化したそれが空から絶え間なく降り注いできた。

見慣れた光景に加えて、川の色も赤くなっていた。

ただの赤じゃない、どろりとした、「重さ」と「熱さ」を感じさせる赤。

血。

血の川。

頭の中にそんな言葉が真っ先に浮かび上がってきた。

一から五階までのどかな光景だった、しかし六階から一変、おどろおどろしい地獄絵図になった。

そんな血の池地獄のような場所に足を踏み入れた俺は、思わず動揺して、 抵抗(、、) しそうになって、すがるものを求めて手を無意識に腰にやった。

「……ああ、そういうことか」

武器を全部外に投げ出したのが幸いした。

すがれるもの。

今の俺にとっては、二丁拳銃を始めとする一連の武器だ。

目の前の光景に気圧されて護身のために武器に手をかけるのは当たり前の行動だった。

目の前を綿毛がふわふわと通過していく。

もしも武器を持っていたら、今ので反応されて自爆を喰らっただろうな。

地形でモンスターをフォローする、そういう仕組み。

そして、おどろおどろしい地獄のような光景になっても、モンスターの性質はかわってなかった。

攻撃態勢に入ってない俺には反応しない。

俺は歩き出した。

血の河に眉をひそめながらも、橋で島々を次々と渡っていった。

地下六階、七階、八階、九階、十階――。

次第に重さと熱さが増していく血の池地獄の中で、吐き気が催してきた頃、また環境が一変した。

地下十一階、今度はマグマだ。

「ある意味こっちの方が楽だな」

俺は苦笑いしつつ、つぶやいた。

基本構造は同じだ。

島があって、繋ぐ橋があって、綿毛がふわふわ飛んでいる。

精神的に ク(、) る上と違って、マグマはただ熱いだけ。

気分は一気に楽になって、俺は先に進んだ。

地下十二階に降りると。

「あれ?」

また、思わず声が出た。

一から五階、六から十階。

それぞれ同じのが続いてたから、十五階まではマグマが続くのかと思っていたが、いきなり裏切られた。

エリスロニウム地下十二階。

今度は空だった。

とても不思議な光景だ。

空に島々が浮かんでいる、それに橋が架かっている。

下は果てが底が見えない、まるで空のような不思議な見た目。

かと思えば、遠く見える島の一つに、はっきりと「下に続く階段」が見える。

「不思議な所だな」

つぶやきつつ、更に進む。

俺は高所恐怖症がないし、ここまで来ればもう高所恐怖症もくそもないって感じがする。

ビルの上から下を見ると足がすくむが、飛行機の窓から下を見てもそうはならないのと同じ感覚かもしれないな、これ。

そんな事を思いつつ、島々を渡って、下に続く階段に辿り着いた。

そこを降りていくとマグマにもどった。

十一階と同じ、マグマと島々という構成だ。

何だったんだろうと思いつつ、降りていく。

十三階、十四階、十五階――。

エリスロニウム地下十五階。

降りてきたそこは、下へ続く階段が無かった。

全部の島に渡って、念のために三周くらいして、隅から隅まで見回す。

ない、下へ続く階段がない。

つまり。

「ここが最下階か」

さて、どうしたもんか。

正直言って、ちょっと困った。

今更ながら気づく。

精霊の部屋への行き方、おれは二パターンしか知らない。

一つは精霊に召喚される、もう一つは最下階でモンスターを倒して入る。

厳密に言えば二度目以降は転送部屋を使えるが、それはそれ。

その二つしか知らなくて、エリスロニウムではここまで戦闘意思無しで降りてきた。

周りには綿毛がふわふわ浮かんでいる。

戦って倒そうとするとこれが一斉に襲ってくるだろう。

そもそも、戦っていいのか?

今までの事を考えれば、エリスロニウムではいくら倒しても精霊の部屋に続く道が出ない可能性が十二分にある。

いや、そうに違いない。

何者かに殺され、あの手この手で人間を「拒絶」しているダンジョンになった。

多分、いくらたおしても道は拓かれない。

「……」

だったらどうする?

その場に立ち止まって、あれこれ考えてみた。

答えは出なかった。

どうすればいいのかが分からない。

「みんなの意見を聞いてみるか」

俺はそう思って、一旦脱出する事にした。

そのままきた道を引き返していく。

十五階、十四階、十三階、十二階――。

「むっ」

マグマを抜けて、空島っぽい地下十二階に戻ってきた。

「そういえばここだけだな、この構造って」

なんとなくその場で立ち止まった、腕組みして、上と下を交互に眺めて、考え込む。

何の理由もなく、この階だけこうなってるとは思えない。

この構造だと十人中十人が落ちないように立ち回る。

そしてダンジョンに入れば十人中十人モンスターを倒すため戦闘モードに入る。

「……ということは」

俺は上がってきたばかりの島の端っこにいった。

橋ではなく、島の端っこ。

そこから下をのぞき込む。

どこまでも続く空。

すくなくとも、見た目で言えば1万メートル以内に地面が見えないほどの高い空。

ただの勘だ。

しかし、確信に近い。

「……」

俺は――そこから飛び降りた。

体がぐんぐん加速して落ちていく。

ぐるぐる回って、テレビで見たスカイダイビングのような動きに自然になっていく。

おちて、おちて、落ち続けてーー十分。

終わりはいきなりやってきた。

まるで映画の場面転換の様に、いきなり目の前の景色が変わって、俺は、二本足で地面に立っていた。

そこは何もない真っ白な空間。

ダンジョンは奇妙な作りだったが。

「精霊の部屋は変わらないんだな」

俺は目的地に辿り着いたと確信した。