軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335.サクヤの希望

サクヤを連れたまま、ダンジョンを更に進む。

スケルトンとエンカウントした。

下手な人間よりも俊敏な動きをするスケルトンだが、その動きにも慣れてきた。

初手を躱して、襲いかかってきた勢いを利用してバランスを崩し、立てた膝の上に落とした。

野球のバット折りの要領でスケルトンの腰骨を折った。

一撃で致命傷になって、スケルトンは倒されて、消えた後に10個の種をドロップした。

それをサクヤに拾ってもらう。

「これ使って」

「これは?」

「触れるとHPの最大値が上がるアイテムだ」

「え?」

「もちろんダンジョンの中でだけだ。サルファだってレベル上がってもダンジョンの中だけだろ」

「あっ、なるほど」

サクヤはすぐさま頷き、すんなりと納得した。

「サルファクイーン」って呼ばれる程通い詰めている彼女だ、ダンジョンの中のみ、と言う話をなんの疑いも無く納得してくれた。

裏ニホニウムがそういう物だから、俺も説明はしやすかった。

「しかし、サルファクイーンってすごいな。自分で名乗ったんじゃないよな」

何となくだが、彼女はそういう性格じゃない。

力をつけ始めると気が大きくなる人間もいるが、サクヤはそういう人間じゃないと思う。

むしろ――。

「はい、いつの間にか呼ばれる様になって。それでちょっと困ってます」

「だろうな。あんたはサルファで本当の自分にあいたい、それだけだもんな」

「はい……」

サクヤは苦笑いしつつ。

「ありがとう……」

といった。

「ありがとう?」

「そうよばれるのちょっと困ってます、でもみんな分かってくれなくて」

「分かってくれない?」

「クイーンって呼ばれるのすごいじゃん、格好いいじゃん。って友達がみんなそういうんです」

「そうか」

複雑そうな顔。

本人は言わないが、きっと「カマトトぶって」とか「自虐風自慢か?」とか、そういう手合いもあるんだろうな。

本人の事情を理解しようとしないでありきたりな枠に押し込めようとする「善意の人」は多い。

何かしてあげられないか――って思っていると。

「リョータさん、危ない!」

「え?」

きょとんとする俺、考えごとの最中のせいで反応が一呼吸遅れた。

横合いからスケルトンが壁を割って出てきた。

奇襲だ!

これは避けきれない、仕方ない一発受けて――

「はっ!」

覚悟した俺の前にサクヤが割り込んできた。

決して速くはない、EとかFとか、スペック相応のスピード。

だが彼女の無駄のない動きはステータス以上に速く見える。

割り込んできたかと思えば、さっきとまったく同じ動きで、関節を極めて投げて、最後に当て身で骨を砕く。

背景とシチュエーションが違うけどまるでリプレイかのよう。

コマンド式のRPGで、キャラがまったく同じ動きをしている。

そんな風に見えた。

「大丈夫ですか」

「ああ、助かった」

「よかった……あっ、種が」

ホッとしたサクヤは、自分の足元に種が一つ落ちている事に気づく。

「今のモンスターがドロップした物?」

「そうみたいだ」

そうか、なるほど。

裏の体力の種は俺以外でもドロップするのか。

サクヤが種を使ってHPを上げた。

再びダンジョンの中を歩き出す。

今は余計な事を考えない、能力も下がってるし集中だ。

それを意識してると、普通にエンカウントしたスケルトンも奇襲してきたスケルトンも普通に倒せた。

そして探し回った果てにエンカウントしたミニスケルトンも。

「違うモンスターです!」

「アレが目当てのヤツだ、任せろ」

と、サクヤの手を借りずに、一人で普通に倒した。

ミニスケルトンを倒して、ドロップしたレベルダウンの種を持って戻ってきて、サクヤに見せる。

「これがそれだ」

「これが……」

「戻るぞ」

サクヤを連れてゲート戻って、それを使って屋敷に帰還。

転送部屋に戻ってきてから、種を渡す。

「使ってみろ」

「はい――あっ」

「分かるか」

「はい! レベルが、レベルが1下がりました」

「ん」

俺は頷きつつ、用意してたポータブルナウボードを差し出す。

裏ニホニウムではアイテムとか武器の持ち込みは出来ないから持ってなかったが、転送部屋に戻ってきたらちゃんと持ち物にあった。

それをうけとったサクヤは速攻で使う。

―――1/2―――

レベル:65/66

HP E

MP F

力 E

体力 E

知性 F

精神 F

速さ F

器用 E

運 F

―――――――――

「さがった……下がりました!」

「これを繰り返していけばレベル1に戻れる。そこからレベル上げして――能力が上がるパターンって分かるよな」

「はい! サルファで!」

「なら話が早い。レベルアップしたときに能力が上がればよし、上がらなかったらまたニホニウムで種を取ってレベルダウンして、前のレベルからやり直す。実質セーブ&ロードだな」

「……」

目を見開き驚くサクヤ。

しかしその目には期待と希望が満ち満ちていた。

「そうすれば……」

「そう、そうすれば」

頷き、サクヤと見つめ合う。

本当の私が――。

という、彼女の心の声が聞こえた気がした。

一呼吸置いて、更にいう。

「さっきのあそこはどうやら正規の入り口からはいけないみたいだから、この部屋から行くといい。しばらく泊まってっていいぞ」

「本当ですか!」

「ああ」

「ありがとうございます!」

サクヤは深々と頭を下げた。

こうして、彼女はしばらくの間居候する事になった。

翌日、朝起きると部屋の外がなにやら騒がしかった。

何事かと思い、着替えて部屋の外に出て、騒ぎの方に向かって行く。

すると玄関先で、サクヤと知らない男が話しているのが見えた。

サクヤは困った顔で断ろうとするが、男は食い下がってる。

「おはようなのです」

「おはようエミリー。あれはどうしたんだ?」

サクヤから少し離れた所で様子を見守っていたエミリーがこっちに来たので、状況を尋ねた。

「サクヤさんの買い取りをしてた商人さんみたいです」

「へえ」

買い取り屋なのか。

「ですから、いきなりそう言われても困ります。サルファクイーンさんにいきなりやめられてはその穴を埋めるのは大変なんです。分かりますよね」

「そ、それは……」

商人に押されて、サクヤは困り果てた顔をする。

「さっきからこんな感じなのです、やめるのは困るって言われてサクヤさんが困ってるです」

「そりゃあなあ……」

気持ちはわかる、ものすごくよく分かる。

ようやく見つけた希望の道筋だ、サクヤからすれば全力でそっちに行きたい気持ちが強いんだろう。

俺もそうだったからよく分かる。

能力が種で上がると分かると、HPは一気にSまで上げた。

その後はゆっくりとやったが、それはHPがSになって、「可能性」がはっきりと「現実」になって、心にゆとりが生まれたからだ。

サクヤは今、HPがSになる前の俺だ。

全てをなげうってても、まずはレベルを1まで戻したいって思ってるんだ。

そういうことなら。

「ですので今まで通り――」

「俺がやる」

進み出て、話に割り込んだ。

「関係ない人は引っ込んでてください。やるって、サルファクイーンの穴をおいそれと埋められる訳が――」

「リョータさん!」

「――ないってリョータ!?」

商人は勢いよくまくし立てていたが、俺の名前を聞いて表情が強ばった。

「リョ、リョータって、あのリョータ・サトウ?」

屋敷まで来ておいてそれを知らなかったのか。

まあいい。

「俺の名前を知ってるのなら話が早い。俺がしばらく彼女の穴を埋める。足りるだろ? 俺なら」

「そ、それは……いえ!」

口籠もったのも一瞬だけのこと。

商人はシャキッとして、迷いのない口調で。

「もう大丈夫です!」

「大丈夫?」

「はい! それでは失礼します」

商人はそういって、回れ右で屋敷から立ち去った。

……。

この流れ、見た事がある。

かつて有休を取りたくて、上司に「有休の理由を出せ」って言われた同僚。

その同僚が「社長にも出します」って返事したら理由無しで有休をとった時と同じだ。

要するにそいつはサクヤを困らせたかっただけ、好意的に解釈しても金つるが逃げるのを止めたかった。

それだけの事。

それが俺の事をしった。

理不尽に首を突っ込み続ける事で有名な俺をしって、そそくさと退散した。

まったく、あの手のがまだいるのか……。

と、俺が軽く腹を立てていると。

「あの、ありがとうございます!」

サクヤがパッと頭を下げた。

玄関先で腰を九十度に折るくらいものすごい勢いで頭をさげた。

顔を上げると、その目は希望と期待の光が。

昨日持ち始めた光がそのまま残っていて。

俺は割り込んだのが正解だと思った。