軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

321.ツンデレ

「大変、大変ですよリョータさん!」

昼近くになって、プルンブムの所から戻ってくると、エルザが転送部屋から出てきた俺に駆け寄ってきた。

大変とはいいながら切羽詰まった様子とかはまったくない。

むしろ嬉しそうだ。

「どうしたんだエルザ、そんなに慌てて」

「今協会長から連絡があって、すぐにリョータさんに来てほしいとのことです」

「俺に?」

しかもすぐにか。

何の用なんだろうか……いや。

「大変だって言うって事は、エルザは話は聞いてるのか」

「はい!」

フンス! って勢いで鼻息を荒くするエルザ。

何かを話して、触れ回りたい時の顔だ。

やっぱり切羽詰まった系の「大変」ってことじゃないみたいだ。

「テネシンの階層が増えたみたいです!」

「階層が?」

「はい! 今までの最上階の上にもう一つの階が出来たみたいなんです」

「へえ」

この世界に来てまだ一年半くらいの俺は、その事のすごさをまだ分かってなかった。

「前代未聞と言っていい」

テネシンダンジョン最上階。

ニホニウムの力が掛かって、モンスターはいない。

そして新たらしく出来た階層だから、テネシン建設の大工とかも入って来てない。

だからなのか、子供の時、建設途中で放置されたビルに潜り込んだ時の様な、妙なわくわく気分になっている。

そんな完全に無人のフロアでセルと二人っきりでいたら、彼がものすごい、今までで一番の真顔で言い放った。

「前代未聞?」

「このような形でダンジョンの階層が増えることだ」

「ないのか?」

「もしあれば、セレンの時サトウ様の出番はなかっただろう」

セレンダンジョン。

全部で十階層あるそこは、半分が野菜をドロップして、半分が肉をドロップする。

それを巡って、二つの街の間でダンジョンの所有権の争いが行われて、俺が手伝いにかり出された事があった。

階層を増やせる方法があるのなら奇数階にして、それで多数決をすれば俺の出番はなかっただろう。

ちなみにあの時はなんとも思ってなかったが、半分肉で半分野菜は、あのセレンと実際に会った後だと「両刀」という言葉を連想してしまう。

単なる邪推でこじつけて、まあ余談だ。

「これもサトウ様のおかげだろう」

「俺は何もしてないぞ」

「一度精霊と話をしてみたい。それで実際の所どうなのかが分かる」

「アイツは素直じゃないけどな」

テネシンはツンデレだ、しかもかなりわかりやすい正統派なツンデレだ。

男のツンデレなんて誰が得するんだろうかって思ったが、この世界の冒険者達はそれでメチャクチャ得してる。

「本気と照れ隠しの見分けがつくつもりだ。相手に感情があって会話が出来ているのなら」

さらりと言ってのけるセル。

いつも俺の事をすごいすごいと言うが、セルの方がなにげにすごいと思う。

「ここが永続であればすぐにでも建設を始めさせよう」

セルがそういう、目は値踏みするかのようにダンジョンの中を見回しているが、言葉は俺に向けられている。

「分かった、確認してくる」

気まぐれでちょっとだけ増やした可能性もあるから、まずは、テネシン本人にその事を確認しなきゃと思った。

「そんなの知らん」

話を聞くと、テネシンからお約束な返事が返ってきた。

ツンデレとの付き合い方の鉄則、いや基本。

一発目の言葉は基本照れ隠しで本心じゃない。

だから俺は更に聞いた。

「知らんと言われても、実際にフロアが一個増えてるんだし」

「知らんものは知らん。気づいたら増えてた」

「うーん」

「ふん」

いつもと違って、ツンの後にデレはなかった。

もしかして本当に知らないのか?

精霊とはいえ、完全にダンジョンと自分の力をコントロール出来る訳じゃない。

大半の事は出来るが、本人じゃどうしようもないこともある。

餓死寸前になったアルセニックとか、ドロップ出せなくて他まで道連れにしてしまうニホニウムとか。

テネシンのこれもそういうことなのかな。

「そうか、わかった。変な事を聞いて悪い」

本人が分からないって言ってる以上、増えた最上階のことはしばらく様子見してもらおう。

もったいないが、セルなら分かってくれるし、何もしないのを我慢出来るだろう。

まずはセルにそれを話そうと、転送ゲートで屋敷に戻ろうとした。

その時。

「おい、これを持ってけ」

テネシンに呼びとめられて、黒玉スイカを差し出された。

「どうしたんだこれ」

「余りもんだ」

「余り物か」

「ふん、こんなもん売るほど余ってる」

まさしくな。

テネシンの事だ、俺が遊びに来たお礼にスイカをお土産に持たせてくれた、そんな所だろう。

そこはいくらツンデレっても、彼の性格を大体分かってきたから間違いは無い。

そうあたりをつけた俺は、受け取って夕食後のデザードにでもしよう、と受け取ったその瞬間。

スイカを抱きかかえた指先に変な感触がした。

溝……? と思ってぐるっとスイカを反転させると。

ありがとう。

スイカの表面に、文字にしか見えない紋様が出ていた。

はっきりとありがとうの文字、それに驚いてテネシンを見る。

「……」

テネシンは「何故か」真横を向いていた。

「このスイカ……」

「柄だ」

いやまだ紋様の事までは言ってないけどそこはスルーしよう。

「柄?」

「てめえバカか、スイカなら柄があるだろ」

「いやあるけど、こんな文字になる様な柄って」

「たまにある」

「たまにあるって」

「たまにあるつってんだろ。十万百万とドロップしていきゃ一つくらいそうなるだろうが」

テネシンに逆ギレされた。

そんなネコがキーボードでシェイクスピアを書けるような事を言い張られてもな。

テネシンらしかった。

まったくもってテネシンらしかった。

「それとな」

「うん?」

「増えた階に人間ども入れるなよ、ウザイから」

「入れちゃダメか?」

「ああ、絶対に入れるなよ。絶対だからな」

「……わかった」

何チョウクラブ方式なんだかって思ったけど、これもテネシンらしいから深く突っ込まなかった。

結局は使えると答えてくれたテネシン、セルへの報告を修正しないとな。

「そうする。ああ、そうそう」

俺は思い出したように言った。

ネプチューンから聞かされたダンジョン入場者数、その上位に入ってるダンジョンのメンツから思いついた事。

多分、テネシンにしてやる最後のアドバイス。

「もしも、人が増えすぎてウザくなったら」

「いつだってウゼエよ」

脊髄反射のツンデレは微笑みでスルーした。

「人数でドロップを調整するといい」

「人数でドロップ?」

「ドロップが増えればダンジョンに来たがる人間は増えるし、減れば人間も減る。冒険者ってのはそういうもんだ。あるところは常時月殖――って精霊に通じる言葉だっけ? ドロップが常に倍になったら人が増えた」

「……ふん、人間どもが調子にのったら減らしてやる」

「そうするといい」

多分減らないだろう。むしろ場合によっては増えるだろう。

ドロップが増えて、それによって不法入 村(、) 者も増えるだろう。

その辺は完全に取り締まれるもんでもないし、テネシンが喜ぶだろうから、ある程度までは目をつぶるとセルが言っていた。

これで、テネシンにしてやれる事はほとんど終わった。

そう思って、ゲートから屋敷に戻ろうとした俺に。

「おい」

テネシンが呼びとめてきた。

立ち止まり、振り向く。

テネシンは俺を見つめる、しかし何もいってこない。

何か言いたげだが、言ってこない。

何かまだ心配ごととか抱えてることがあるのか? だったら――。

「あ、ありがとう」

「…………え?」

テネシンと馴染んできて、スイカでお礼をもらったと思った俺は。

最高のお礼で、意表を突かれて面食らったのだった。