作品タイトル不明
264.精霊が恐れた男
「一通り階層をみてみよう。実態を把握したい」
「ええ、その方がいいわね」
「ん」
セレストもイヴも、ついてきてくれるようだ。
俺たちはプルンブムを一階ずつ降りていった。
ダンジョンは全部、一階と同じ「呼吸できる水中」だった。
動きが鈍くなって戦い辛かったが、セレストの様な魔法使いはあまり影響がなかった。
ちなみに銃の弾速は落ちた。
普段のおおよそ半分になった。
更に、最初から全速力で動き出すと抵抗が大きくて、体力をかなり消耗する。
ゆっくりと、常に同じペースで動き続けるのがベストだ。
プールの中で歩いてるような感じだ。
モンスターは全部が「魚」だった。
牙が生えてるイルカだったり、角付きの金魚だったり、水中なのに翼が生えてる鯨だったり。
全部が、魚の外見をしたモンスターだった。
特性も一緒だ、一撃で倒さなきゃ分裂をしてしまう。
頑張って一撃で倒そうとしても、俺だと動きも弾速も落ちて、ぎりぎりで致命傷を外される事がよくある。
やっかいなところだ。
「ここの問題はこのモンスターの分裂属性ね」
進みながら、セレストが的確に問題点を口にした。
「そうだな」
「それをかえればいいのだけど、モンスターの特性ってどうやって変えるのかしら」
「品種改良でいけるかやってみるのも手だ。あれはモンスターそのものが変わったしな」
「なら、屋敷から誰か二人呼ぶ」
「それなら大丈夫だ」
イヴがきょとん? と小首を傾げた。
「品種改良は精霊付き二人以上ってのはシクロのルールだ。テトラミンは多分批准というか、導入してない」
「低レベル一人で十分……か」
「俺だけかよ」
苦笑いしつつ、突っ込んだ。
「低レベルなら出来る。ウサギは信じてる」
「そりゃなんとかするけど、必要な時は力を貸してくれ。ニンジンならいくらでもやるから」
「ウサギのやる気が天元突破している」
安いんだかそうじゃないんだか、とりあえずイヴの協力は取り付けた。
一行三人、半ば世間話をしながら、モンスターを倒しつつ、どんどん下の階に降りていった。
☆
プルンブム、最下層。
ダンジョンスノーが降りしきる、息の出来る水中。
「ここが最後ね」
「聞いてた階層だとそうだな」
「モンスターは一緒、魚が犬かきしてる」
「不思議な光景だよな」
イヴの説明は的を射ていた。
最下層のモンスターは魚だが、手足がついている。
手はびっしり毛が生えてて、足は網タイツをはいている。
その手足で犬かきをして泳いでいる――という、世にも奇妙な光景である。
「一応魚、一応は同じ系統だよな」
「そうね。そう思うわ」
「まあ、ブックマークの為に一回は倒しとこう」
俺は銃を構えた。
使うかは別として、リペティションが使える状況になるように、一回倒しておこうと思った。
銃には追尾弾を込めた。
色々試してみた結果、銃という武器の性質上、弾速がメチャクチャ落ちるこの「水中」では、ホーミング性能のある追尾弾が一番ダメージを与えられる。
もちろん慣らしていけば追尾弾以外でもちゃんと出来る用になるが、今はまずブックマークだ。
銃を構えて、引き金に指を掛ける――。
「え?」
「き、消えたわ!」
驚く俺とセレスト。
照準を合わせた先のモンスター、それが急に消えてしまったのだ。
「低レベル、もっとよく見る」
「……全部消えてる?」
イヴに指摘されて改めて見ると、モンスターが完全に姿を消している事にきづいた。
さっきまで普通のダンジョンのようにモンスターがあっちこちに、犬かきで泳いでいたのに完全にいなくなった。
「ダンジョンマスターが出たのよ」
「なるほど。いまダンジョンマスターに暴れ回られると面倒だ、捜し出して倒してしまおう」
「ええ」
「しょうがない」
とりあえずこの階層にはないみたいだから、俺たちは階段で一つ上の階に戻った。
「え?」
目の前の状況に驚かされた。
一つ上の階は、何事もなかったかのように、魚のモンスターが普通に泳いでいる。
「モンスターがいる? ダンジョンマスターじゃないのか?」
「そうなるわね……ダンジョンマスターが出るとモンスターは全階層消えてしまうもの」
この世界の 理(ことわり) は意外とお堅いところがある。
「ドロップS」、俺のユニークスキルが絡まない事に「例外」はほとんどない。
ダンジョンマスターが出ればそのダンジョンの全階層からモンスターが消える、これは間違いない。
「下に戻ってみる」
「ええ」
頷くセレスト、無言のイヴ。
二人と一緒に最下層に戻った。
モンスターはいなかった。ダンジョンスノーだけが降り注ぎ、寂しいことこの上無い風景だった。
「どうなってるんだ?」
「ウサギ、町の人に聞いてくる」
イヴはそう言って、身を翻して階段を上って行った。
待つこと数十分、イヴが戻ってきた。
「どうだった?」
「誰も知らない、こんなこと今までになかったって」
「不思議な現象ね。リョータさんが銃を構えた途端にこうなったのよね」
「ああ、そうだった」
「まるでリョータさんに倒されたくなかったみたい」
「……俺に倒されたくなかった? ここで?」
「ええ……あっ」
ハッとするセレスト、彼女も気づいた。
ほかの階層がよくて、最下層がダメな理由はもう一つある。
精霊。
精霊へ続く道は、その大前提の一つに。
ダンジョンの最下層でモンスターを倒す事がある。
俺はドロップSで、普通の冒険者よりも遥かに楽にその道を開ける。
だけど、それでも。
この世界の 理(ことわり) は融通が利かないもので。
ドロップSだろうと、モンスターを倒さない事にはどうしようもない。
今のようにモンスターがいなかったら、俺でも精霊に会いに行くことは出来ない。
そして、それをコントロール出来るのは。
「ここの精霊、プルンブム。俺にあいたくないのか?」
「そう思うとつじつまが合うわ。アウルムもそうしてたように、精霊はダンジョン内のモンスターとドロップを支配している。モンスターがでない様にするのは訳もないことだわ」
「モンスターが出る設定なら、低レベルがうっかり突破するかも知れない」
「それならいっそのことモンスターそのものを無くせば。か」
仲間の二人と、まるで答え合わせするかのように状況を言い合っていく。
言えば言うほど、それが正しいものだって、俺たちは確信していった。
「でも、どうしよう。リョータさんを警戒されるのは嬉しいけど、モンスターがいないとどうしようもないわ」
「いや、問題はないだろ」
「え?」
「イヴ」
「低レベルは人使いが荒い」
イヴはもう一度、身を翻して階段を登っていった。
「どういう事なのリョータさん」
「クズいも」
「クズいも……あっ、この階層のドロップ品を持ってくれば」
「そう、この階層のドロップ品を孵して、それをたおせばいいんだ。ハグレモノは本来の階層で孵れば普通にドロップするモンスターに戻るだけだからな」
「なるほど。でもそんなに上手く行くのかな。リョータさんでも道を拓くまで回数が必要なのよね。それを現物でやるとなると必要の数が大変なんじゃ?」
「……いや、大丈夫だ」
俺は確信めいたものを感じていた。
俺を避けるダンジョンの精霊。
銃口を向けた瞬間、モンスターを全部消すほどの強硬手段。
それはきっと――。
「お待たせ」
しばらく待ってると、イヴが白い液体の入った瓶を持って戻ってきた。
「これがこの階のドロップ品なのか?」
「そう、ヤギミルク。残り二本しかなかった」
「二本だけ? そっか、テトラミンは人がいなくて大変だから、生産量も……大丈夫なのリョータさん」
「ああ、大事に使うよ――一本だけで足りると思うけど」
俺はヤギミルクを受け取って、それを地面に置いて、仲間の二人とともに距離を取った。
しばらく待って、手足のついた、犬かきの魚が孵る。
銃を構える、追尾弾を撃って、魚を倒す。
すると、道が拓かれた。
今まで何度かやってきたことと同じ。
ヤギミルクじゃなくて、更に先に続く道が拓かれた。
「すぐに消したのは、あっさり開かれるのを恐れてたからだったんだよ」
「なるほど! すごいわリョータさん」
「さて、行くか」
開かれた道、俺から逃げようとした精霊。
なにもなければスルーか後回しだったんだが、ここまでされると、一度あって来なきゃな。