軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248.お金なんていらない(sideアリス)

アリス・ワンダーランドは階段をゆっくり降りていった。

ふと立ち止まって背後を振り向く。

ゆっくり閉じていく入り口、消えて行く亮太の姿。

その亮太の姿が、彼女の決意を更に固める。

「うん、頑張る! リョータのためにちゃんと精霊付きにならなきゃ」

拳を握り自分に気合を入れてから、改めて階段を降りていく。

降りていった先はなにもない、真っ白な空間だった。

「――」

彼女の肩に乗っている仲間のモンスター達がざわつく。特にスケルトンのホネホネがギュッ、と顔にしがみついてきた。

彼女の仲間になったモンスター達は様々な性格をしている、スケルトンのホネホネは一番臆病で、甘えん坊だ。

「大丈夫、あたしが一緒にいるからね」

アリスはホネホネを撫でつつ、周りを見た。

「ふしぎな所だね、狭いのか広いのかも分からない……これ、長くいたら目がおかしくなっちゃう」

何処までも広がっているようであり、手を伸ばせば見えない壁に届きそうでもある。

そんな不思議な空間に、いきなりモンスターが現われた。

モンスターは人型で、人間の倍くらいはあるサイズだ。

人型ではあるが、皮膚はなく、鱗とかでもない。

全身が宝石や金銀といった、財宝で固めて出来ている。

「すごいね――うわっ!」

アリスは慌てて真横に飛んだ。

モンスターが手を上げると、その手が爆発したかのように飛んで来た。

黄金、白銀、真珠にダイヤモンド。

値打ちの物がショットガンの如く飛んで来た。

真横に飛んだが、宝石の一つを躱しきれず、額をしたたかにぶつけてしまった。

「いたたた……」

アリスは当てられた額を手で押さえた。

生ぬるい物が手のひらを伝って流れ落ちた。

「みんな、お願い!」

傷口から血が流れるのを抑えながら、仲間のモンスター達を召喚した。

スケルトンのホネホネ。

スライムのプルプル。

小悪魔のボンボン。

ニードルリザードのトゲトゲ。

マスタードラゴンのガウガウ。

デフォルメした見た目のモンスター達が一斉に飛び出す。

さっきまで怯えていたホネホネまでもが、勇んで敵モンスターに襲いかかった。

アリスは距離を取って、敵を観察する。

五対一の戦いは熾烈を極める。

敵は宝石を飛ばすだけではない、一万ピロの札束を使った近接殴りもしてくる。

どこぞの成金かと突っ込みたくなるような攻撃だが、威力は絶大。

一瞬のうちに前衛を務めるホネホネとトゲトゲが粉々に砕かれ、人形サイズになってアリスの肩に戻ってきた。

「大丈夫!?」

ホネホネとトゲトゲは頷くと、再びモンスターの姿になって、戦闘に復帰していった。

精霊に続く道を守るモンスターだけあって、それがかなり強かった。

アリスの仲間のうち、マスタードラゴンのガウガウをのぞくほかの四体はやられては復帰するのを繰り返していた。

一方、敵は倒れる気配はなかった。

五体の猛攻を受けて、その都度体の金銀財宝をまき散らしながらも、次の瞬間には何事もなかったかのように修復していた。

「どうしよう……」

アリスは困り果てた。

これが亮太なら、「無機生命体で自己修復、どこかにコアがあるパターンだ」と推測がついただろうが、アリスにはそんな発想ができる程の経験と知識は無い。

それが出来ない彼女は困り果てた。

が、彼女にしかできない事もある。

「なんか……ある?」

敵のモンスターが攻撃する度、または再生する度に。

人間で言うヘソのあたりが「なにかある」とアリスは感じた。

何かが光ったというわけではない、魔力か生命力が高まったとかでもない。

でも、何かあるとアリスは感じる。

ダンジョン生まれの彼女は、いつも感じているのと同じように、相手のヘソあたりに「なんとなく何かがある」と感じた。

「……よし」

考えてもらちがあかない、彼女は動くことにした。

懐からパチンコを取りだし、それをつかって丸い玉を敵モンスターに飛ばした。

それは相手のヘソにあたり、ぴちゃ、と音を立てて赤い汁が広がった。

物自体はただのペイント弾だ、殺傷力とか魔法的な効果とか一切無い。ただのペイント弾だ。

しかしそれを見た彼女の仲間のモンスター達が、脇目も振らずに、ペイントされた所に攻撃を集中した。

彼女とホネホネ達の取り決めだ、それで印をつけた時、ほかは全て無視してつけたところに集中攻撃をする。

ホネホネの骨こん棒、プルプルの体当たり、ボンボンの魔力弾、トゲトゲのトゲ飛ばしに、ガウガウの噛みつき。

全部の攻撃が、ペイントされた場所に集中した。

パリーン!

乾いた音がして、敵の動きが止まった。

数瞬ぴく、ぴくとけいれんしたが、金銀財宝で出来た体はやがてばらばらになって崩れ落ち、地面に高価な財宝が散乱した。

「やったー! みんなありがとう」

激戦の末の勝利、仲間の五体は一斉にアリスに飛びつき、スキンシップをして彼女にじゃれついた。

それを一体ずつ撫でて、ねぎらっていると、何もなかった空間から下に続く階段が現われた。

ごくり、とアリスは生唾を飲んだ。

「この下に……精霊が……」

ぶるっ、と震えた。

漏れ出してきた空気のせいか、それとも期待と不安か。

あるいは両方か。

アリスは緊張で強ばってしまった。

「――」

そんなアリスに、ホネホネがしがみついてきた。

白骨のモンスターでむしろホラーの世界の住人なのに、恐がりなホネホネ。

そんなホネホネはさっきと同じように――いやさっき以上に怯えた感じでアリスにしがみついてきた。

「……大丈夫、あたしがついてるから」

自分以上に怯えるものをみると逆に落ち着いてくるものだ。

アリスはホネホネをなだめつつ、すこしだけリラックスして、階段を降りた。

降りた先にモンスター? がいた。

地面に一万ピロの札束を、まるでベッドのように積み上げている。

その札束のベッドの中心で、お札を燃やして出来ているような炎のモンスターがいた。

お札を燃やしてる炎が照らし出すこの部屋は、不思議とうえの真っ白な空間よりも明るく感じられた。

「なんでい、何百年ぶりに人間が来たと思ったらこんな小娘かい」

炎はぶっきらぼうな口調で口を引いた。

「あの……フォスフォラスさんですか? ここの精霊の」

アリスは敬語になって、炎にたずねた。

「そのとおり、オイラがこのダンジョンの主。フォスフォラスだ」

「よかった……なんとか会えた」

「なんでえ、偶然じゃなくてオイラに会うために来たのかい」

「はい! お願いがあってきました」

「ふーん」

フォスフォラスは眼を細めて――といっても目は無いが、そんな感じでアリスを見た。

しばらくして、つまらなさそうに。

「まっ、ここまで来れたんだ。ご褒美くらいやるよ」

「本当ですか! ありがとうございます」

「で、どれくらい――」

「あたしの仲間になってください!」

「――は?」

意表をつかれたかのように、フォスフォラスの言いかけた言葉が飛んでしまった。

「いまなんつった」

「仲間になってください! あっ――」

アリスは慌てて、戦闘が終わって肩に戻ってきた五体のモンスターを再びモンスターサイズに召喚した。

「こんな感じで、仲間になってください!」

「なんだって?」

「あの……むり、ですか?」

「いや。それダンジョン生まれの特技だろ。お前がオイラを一発ぶん殴れば出来るけど……いいのかそれで」

「はい!」

「金はいらんのか」

「はい! そんなのいりません!」

即答するアリス、その即答っぷりにフォスフォラスがあっけにとられた。

「……」

「あの……やっぱりダメですか?」

「……いや、驚いてるだけだ。お前のような人間ははじめてだ」

「え?」

「ここに来る人間、いやオイラのダンジョンに入ってくるヤツはどいつもこいつも金目当てでな、お前の様なのは初めてだ」

フォスフォラスは笑った――ように見える炎の揺らめき――で、最後に念押しする様に聞いた。

「本当に金はいらねえんだな? その姿になると、おめえが死ぬまでオイラは金とか出せなくなるぞ」

「はい!」

迷いなく答えるアリス。

フォスフォラスは大笑いした、とても愉快そうに、部屋が震える程の声で笑った。

それが収まった後。

「よし、オイラを一発ぶん殴れ」

「はい!」

アリスは躊躇なく向かって行き、フォスフォラスを殴った。

ほかの子の時と同じように、彼女が自分で倒す、って感じで殴った。

札束の上で燃えている炎を殴ってもあつくはなかった。

そのかわり炎は一度しぼみ、形を変えて、アリスの手のひらに現われた。

炎という意味ではおなじだったが、アリスのほかの仲間モンスターと同じように、コミカルな目が炎のまん中につくようになった。

こうして、アリスの仲間としてフォスフォラスのメラメラが仲間になり。

精霊を仲間にした彼女は、念願の精霊付きとなったのだった。