軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180.ただ、座っているだけ

コバルトダンジョンの外。

中には入れずにいる冒険者達が騒いでいる。

ダンジョンの入り口は鉄で詰まっていた。

コバルトダンジョン地下一階のドロップ品、鉄の延べ棒。

それが崩れたメダルの山の様に入り口を封鎖して、誰も出入り出来ないような状況になっている。

「おいグズグズするな、もっと早くどかすんだよ!」

「ムリですよ!」

「そうですよ! どかしてもどかしても出てくる……どかすのより増えるのが早いんです」

「だったらもっと人を増やせ!」

「だからムリですってば。入り口の広さ的にこれ以上人増やしても意味ないです」

まるで土砂崩れを除去する様に動いているもの達もいたが、実際にやってる人間の泣き言の通りに、いくら取り除いてもそれ以上のペースで中から鉄の延べ棒が出てくるしそもそも出入り口も狭い。

すでに千近い延べ棒を取り除いてはいるものの、道が開きそうな気配はまったくしない。

冒険者達がいらついていた。

ダンジョンに入れないと言うことは稼ぎが止まるということ。苛立つのも宜なるかなだ。

「なんなんだよこれは! 一体どうなんってんだ?」

「まだこうなってないときに中から出てきたヤツの話なんだけどよ、中にリョータ・サトウがいるんだと」

「あの『アンタッチャブル』、リョータファミリーのリーダーか」

「ああ。そいつはそこに座ってるだけなんだが、どうやら攻撃を反射する能力があるらしくてな。モンスターが攻撃しただけで勝手に倒されるっぽいんだ。それで今のこの有様になってる」

「なんでそんなことしてるんだよ」

「それがな……」

冒険者の一人が口元に手を当てて、声を押し殺していった。

「そいつ、昨夜暗殺されかけたっていってる」

「暗殺?」

「そう。しかも女を使った自爆まがいのやり方で」

「どこのバカだよ! そんなやり方をしたら『アンタッチャブル』の逆鱗に触れるのわかり切ってるだろうが」

「噂があるだろ?」

「噂だぁ? ……例のシクロにダンジョンデブリがしかけられたってヤツか」

「ああ」

「って事はライナス・ローニンか? バカかよあいつ!」

さっきから大声でわめいてる冒険者が更に激怒する。

話をする方の冒険者は声を殺しているがほとんど意味がない。

周りは二人の会話に注目していた。

「女使った自爆なんかしたらどうなるか――こんなことになるだろうが!」

「ああ、こうなった。アンタッチャブルはいったさ。命を狙われて危険だから、一番安全なダンジョンに籠もってるしかない。しかもいつ狙われるかわからないから、自動反撃をやめる訳にはいかない」

「向こうに理があるじゃねえか! ライナスめ」

冒険者が吐き捨てると、似たような声があっちこっちから上がった。

ライナスを罵る声が、ひっきりなしに上がったのだった。

サメチレンダンジョン協会、会長室。

ライナスは怒りにまかせ、今し方目を通した書類をぶちまけた。

書類はほとんど苦情の類だ。

冒険者の苦情、買い取り屋の苦情。

コバルト、稼ぎの多いダンジョンが丸一つ機能しなくなった事への苦情がライナスのところに集まってきた。

表向きは「なんとかしてくれ」という内容なのだが、ところどころ遠回しに「お前のせいだろ早くなんとかしろ」と言う意図の文言が目立つ。

自分を責めるそれ――自業自得とは言え、集中砲火を浴びせかけられたライナスは苛立って、その書類らを怒りにまかせてぶちまけた。

書類だけではない、目につくものを片っ端から投げつけて、苛立ちを発散させていった。

「いよう」

そこにニコラスが訪ねて来た。

頭を抱えているライナスの前にやってきたニコラスはいつもの、飄々としてつかみ所のない感じだ。

「元気かい」

「何をしにきた!」

「まあまあ、お礼を言いに来たんだ」

「お礼だと?」

「アイツと戦う理由をくれたこと。あんがとさん、おかげで久しぶりにいい喧嘩が出来たぜ?」

「それでよく顔をだせたものだな! しくじったくせに!」

「しょうがねえさ。喧嘩をふっかけて、それで負けたヤツに従うのがすじってもんよ」

「従う?」

「おう。アイツから伝言だ」

ニコラスはニコニコしたままだが、ライナスの表情が強ばった。

「そっちの出方次第。だとさ」

「出方次第だと? 金でもいるのか」

ニコラスは鼻で笑った。

「それじゃ謝ればいいのか?」

今度はあきれ顔で肩をすくめた。

「ま、伝言は届いたってことで。俺はこれでしつれいするわ」

ニコラスは飄々としたまま身を翻し、立ち去ろうとする。

会長室のドアノブに手をかけたところで立ち止まり、独り言のようにいう。

「そうそう。予報じゃ明日あたりにコバルトにダンジョンマスターが出そうだってよ。出現予測は最下階だ」

「!」

「じゃあな」

言いたい事を言い終えたニコラスは今度こそ立ち去った。

残されたライナスはわなわなと震えだした。

怯え。

ダンジョンマスター、放置したらダンジョンの生態とドロップ品が変わってしまうやっかいな存在。

そのやっかいさ故に出現の予測はかなり重要だ。

そして今、出現が予告された。

誰も立ち入ることの出来ないコバルトダンジョンに。

更なるバッシングがライナスをまちうけていた。

夜、日がおちた後の会長室。

更に積み上げられた書類に囲まれて、デスクで頭を抱えるライナス。

半日程度で十年は歳を取ってしまった、そんな有様になっている。

そこにセルがやってきた。

「邪魔をするぞ」

「な、何を……」

部屋に入ったセルはつかつかとライナスの前にやってきて、傲然と彼を見下ろした。

「バッシングがひどいようだな」

「くっ……。そ、そっちには関係のない話だろ」

「そうだな。しかし余は忍びないと思っている」

「はあ?」

訝しむライナス、セルは彼の前に書類を投げ出した。

「これは?」

「読むがいい」

促されておずおずと書類に目を通すライナス。

最初は訝しむ顔だったのだが、次第に青ざめていく。

「こ、これは……っ」

「余は水に落ちた犬をうつことを好まない。それはお前がインドールの金を抜いていた事を密告する書類だ」

「……」

「インドールに支援するはずだった金はほとんどお前のポケットに入っていた。今回の事に乗じてお前を叩こうとする人間から手に入れた」

「ど、どうするつもりだ」

「余はこういうことが明るみに出ることを好まない。例えよその街であっても。しかし、事がここまで大きくなったのだ、敵が多い人間なら、もっといやなものが出てくるだろう」

そうだろ? という目でライナスを見る。

ライナスはたじろいだ。

実質もうでてる、そしてもう掴んでると、セルは言外に主張している。

いや、主張されなくても分かる。

ダンジョンデブリの一件、当事者であるセルが掴んでないはずがない。

このタイミングで出されればそれこそ完全に破滅だ。

逡巡、苦悩、そして……諦め。

様々な感情が去来し、何よりも 自分の事(、、、、) とセルの恐ろしさを知っているライナスは観念した。

「辞任する、それで勘弁してくれ」

「サトウ様に伝えよう」

セルはそう言って、今度こそ部屋を出た。

ドアを閉める直前ちらっと見たライナスの姿は、この一瞬で更に十年分老け込んで……まるで老人のようになっていた。

「さすがサトウ様だ」

セルは尊崇の籠もった眼差しで前を見つめ、ここにいない男に思いをはせながら歩き出す。

「座っているだけでヤツを辞任に追い込んだ。サトウ様にしかできぬ芸当だ」

亮太信者の貴族は、この一件でますます彼に心酔していくのだった。