軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179.アンタッチャブル

ポケットから店の女性を出してあげた。

「気をつけて。いったん引っ込んで足から出た方がいいかもしれない」

「大丈夫です、もうちょっとで――ひゃん!」

上半身は無事に出たが、最後に足を出すとなった段でポケットの縁にその足を引っかけて、盛大にバランスを崩した。

俺のポケットに足を引っかけたまま前のめりに倒れたところ――。

「なんだ新品のパンツかよ」

横にいたニコラスがげんなりした。

「お前さんよ、パンツは古いのはけよ。パンツはじっくり時間をかけて自分の体で育てたゆるパンの方がいいぜえ? 大体新品のパンツじゃ――」

女性に巻き込まれて、ズボンを下ろされてしまった。

それを見たニコラスが明後日の方向に意見を言い出したのを無視して、慌ててズボンをはき直す。

「ご、ごめんなさい! 私とんだ失礼を」

「いやいや、気にしないでくれ」

「本当にごめんなさい!」

「……」

「……」

気まずい。

完全に事故なのはお互い分かってるけど、それでもズボンを下ろされてパンツを見た(見られた)というのは気まずい事このうえなかった。

どちらからともなく沈黙する中、助けてくれたのは空気を読まないニコラスだった。

「完璧に使われたなあ。へへ、俺としたことが」

その一言が俺を引き戻した。

「使われた。今ので相手が分かったのか?」

「ああ、俺にお前を殺せって頼んで来たのと同じヤツだ」

「なんで分かる」

「お前さんの武器に似せたものを罠に作ったんだ。前から狙ってたって事だろ。やつとお前さんのいざこざ聞いてるぜ?」

ヤツ……ライナスと俺のいざこざ。

「いざこざってレベルじゃないかもな」

「そうかもなあ、なんせダンジョンを一つ持ってったんだ」

「それをずっと恨んでて、何かあるときのために準備をしてたって事か」

「それかこの事件自体、お前さんをおびき出すためだけのものだったかもしれんぜ?」

「え? ああそうか。その可能性もあるのか」

俺があれこれにクビを突っ込むのは有名な話だ。そしてはっきりとしないけど、セルが俺に入れ込んでるのも……銅像まで造ってるんだから有名な話になってもおかしくない。

シクロにちょっかいを出したら俺が出てくる。

そう判断した上で狙ってこられてもおかしくない。

おかしくはないんだが……ちらっと女性を見た。

ニコラスはいい、彼のは「依頼」だ。

アウトローで何でも屋稼業やってる人間に暗殺してこいという依頼、それはニコラスが嬉しがって受けたように正当な話だ。

だけど彼女は違う、無関係な人を巻き込むのは違う。

腹がたつ。ものすごく腹がたつ。

「どうする。殺すか?」

「……いや」

「おいおい、優しいなぁおい。こういう時はぶっ殺しとかねえとさあ」

「それよりも……」

俺は考えた。

俺は……アンタッチャブルだ。そう呼ばれている。

それは俺の目の届く範囲で おいた(、、、) したらその反動で状況をもっと悪くする――俺がさせてきたからそう呼ばれるようになった。

今回もそうしたい。

普段は自然の成り行きでそうなったが、今回は狙ってそうしたい。

意図的に、ライナスの状況を悪くする方法を。

考えた、いろんな事を考えた。

この街に関わる全て――サメチレンにきてからの全てのことをからめて、考えた。

「コバルトって」

「あぁん?」

「儲かるダンジョンなのか? ドロップ的に」

「うーん、知らねえな、俺はそういうのでダンジョン入らねえから――」

「かなり儲かります」

女性がニコラスの代わりに答えた。

「銅をドロップする階がいくつかあって、うちの常連さんの何人かが、それで家を建てたくらいです」

「銅か……なるほど」

確か鉄の30倍くらい高いんだっけな、銅って。

ゲームだと大抵鉄の装備の方が高いけど、物質としてだと銅の方が高い。

それが、コバルトにあるという。

「……よし、決まった」

「何をするんだ?」

俺はにやりとニコラスに笑って見せた。

「しばらくダンジョンに寝泊まりする」

「んあ?」

次の日、俺はコバルトダンジョン地下一階に入った。

天はこっちに味方した。朝からの魔力嵐が吹き荒れていた。

昨日来たときも冒険者が少なかったが、今日は輪にかけて少ない。

俺は銃を抜いて構えた。

ダンジョンに入る前にセルに取り寄せてもらったマグロで拳銃を二丁に戻した。

その二丁拳銃でかたっぱしからゾンビデーモンを倒した。

何も考えない、とにかく片っ端から倒す。

鉄塊が次々にドロップされたが……それを拾わなかった。

全部その場に放置した。

ダンジョンのあっちこっちに鉄塊を放置した。

ドロップしたものをその階層に放置するのは罪にならない、文句もいわれない。

なぜならそのドロップ品が新しいモンスターになる、その階層のモンスターそのままになって、数が増えるからだ。

放置した鉄塊から新しいゾンビデーモンが孵る、それとは別に通常のゾンビデーモンがダンジョンから生まれる。

そいつらを全部倒す、倒して、鉄塊を放置する。

放置した鉄塊が更にゾンビデーモンに――。

モンスターが増えていく、わらわらわらわらと増えていった。

モンスターが増えて困るのは冒険者だった。

下の階にいこうと通り抜ける冒険者は、いつもよりもはるかに数が多いこの階の状況に困った。

それでもモンスターは増え続ける。

倒して、放置して、増やす。

昼頃になると、まるでモンスターハウスといっても差し支えないくらい、コバルトの地下一階はわらわらした。

ここで俺は倒すのをやめた。

入り口が見えるところにどかっと座って、スライムの涙を装備する。

モンスターの攻撃を反射するアイテム、スライムの涙。

HPと体力がSだった頃にこれを手に入れて、ダンジョンで寝てたらモンスターが反射で倒れまくってた。

今はHPも体力もSSになった。

ますます雑魚モンスターの攻撃が効かなくて、反射出来るダメージも増えた。

俺はスライムの涙を装備した状態で座り込んだ。

何もしなかった。

ゾンビデーモンが俺に攻撃して、勝手に反射で倒れる。

何もしなかった。

近くにあるとくつろぐのに邪魔だから、鉄塊を遠くに避けただけで何もしなかった。

するとゾンビが増える。

途中からそれも必要無かった。

ゾンビが俺に攻撃してくる過程で、勝手に鉄塊を押しのけてくれたからだ。

俺はダンジョンの中でくつろいだ。

それが勝手にパターンに入って、デーモンゾンビが無限増殖した。

夜になると、冒険者が次の階に降りるどころか、ダンジョンにも入って来れないくらい。

コバルトの一階は、モンスターまみれになったのだった。