軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

161.営業時間外

深夜、アウルムダンジョン地下一階。

「くそっ! 冒険者狩りか!」

「分かってるなら出すもん――」

「悪いがそこまでだ」

男の背中に銃口を突きつけた、それまでにやけた顔で冒険者を脅していた男の体がびくっとして、顔も強ばった。

「リョータ・サトウ!?」

「分かってるなら話は早い」

「馬鹿な、早すぎる。まだ何も――」

「どうする? このままアウルムを出て二度と来ないなら見逃してやる」

銃口を更におしつけ、声のトーンを落として男を脅す。

「わ、わかった。見逃してくれ、もう来ない」

「本当か?」

「本当だ!」

「わかった」

銃を下ろすと、冒険者狩りの男は脱兎の如く逃げ出した。

最後に振り向き、俺を見て舌打ちして、ダンジョンから姿を消した。

もう多分来ないだろう。

すっかり慣れたアウルムが、「冒険者狩りの兆候」がわかるようになって、俺は実際に狩られる前、今みたいにやった瞬間に駆けつける事ができるようになった。

例え今みたいな深夜で、普通の人間が寝ているような時間帯でも。

アウルムの事前察知で、寝ている俺がおきて余裕で駆けつけられる様になった。

それで冒険者狩りを全部しらみつぶしにつぶしていったら、件数が急速に減っていった。

近いうちに完全になくなるだろう。

銃をしまい、冒険者に話しかける。

「大丈夫か?」

「あ、ああ。ふう・・」

冒険者、若い男はその場に座り込んだ。

「どうした? どっかやられたのか?」

「あ? ああいや、単に疲れただけなんだ。ボスの命令でここしばらく深夜狩りが続いててさ」

「深夜狩り?」

「深夜の方が冒険者も少なくてモンスターの奪い合いがないんだよ」

「ああ、なるほど」

若い冒険者に言われて納得する。

ダンジョンのモンスターの数には限りがある――というより同時に存在する数の上限がある。

一匹でもやられるとダンジョンが新しいモンスターを産むが、上限を超えて産むことはない。上限を超えた数が存在することはないのだ。

そして冒険者の数がその上限を超えてると、当然ながらモンスターを狩れない冒険者もでてくる。

それで取り合いになったり、ならない様にダンジョン協会が横殴りを禁止したりする。

それをよけるための方法の一つが深夜狩りってことなんだろうな。

当然のことながら冒険者も人間、深夜はほとんどの者が眠りにつく時間帯だ。

深夜にダンジョンに入れば競争が少ないのは当たり前の事だ。

「あんた一人なのか?」

「ああ、ボス達は昼間で俺は夜担当だ。ボスもそうだけど他のみんなは年寄りだから夜弱いんだ。仕方ないさ」

「仕方ないのか?」

「やらなくてもいいならそりゃやらないけどさ」

男は手のひらを上にして肩をすくめた。おどけた笑顔も浮かべている。

よく見ればやつれている男の姿を見て深夜バイトのワンオペを連想したが、本人が納得してるのならしょうがないな、と思ったのだった。

次の日の朝、俺は転送部屋を使ってアウルムの部屋にやってきた。

頭に角、背中に羽、纏っているのはゴスロリ服というこのダンジョンの精霊、アウルム。

雰囲気に幼さが残る精霊は笑顔で俺を歓迎した。

「リョータ! 今日は大丈夫だよ? それっぽいのがダンジョンの中にいないよ」

「そうか。本当にありがとう、アウルムのおかげで助かった」

「いいのいいの、言ったじゃん? あたし大した事してないって」

「それでもありがとう。……今それっぽいのがダンジョンの中にいないっていったか?」

「うん、いないね。今いるのは――うん、全員が知ってる顔、普通にモンスターだけと戦う奴らだね」

「そうか。お礼もかねてどっかに遊びにいくか」

「ほんとう! あたしリョータの家に行きたい。新しい家に引っ越したんでしょ」

「そうか来たことなかったんだっけ? よし、じゃあ行くか」

「うん!」

俺は銃を抜いて――そのまま戻して。

「どうしたの?」

「いやこっちの方がいいと思って」

代わりに手をかざした。

アウルムを連れ出すには一回倒して外でハグレモノに孵すという手順が必要だ、そのため今までは銃で撃ち抜いてから連れ出してた。

必要な手順だし本人は気にしてないけど、彼女に銃を突きつけるってのがあまり好ましい絵面じゃないのは確かだ。

だから銃じゃなくて魔法を使うことにした。

「リペティション」

魔法を唱える、一回倒した相手を即死させる魔法。

アウルムがいつものように一メートル立方の金塊になった――瞬間。

くらっときた、たっていられない程の立ちくらみを起こした。

この感覚は分かる、MPがきれたんだ。

リペティションは相手の強さ、あるいはランクみたいなものに応じて消費MPが変わる。

ダンジョンの本当の主、精霊アウルム。

彼女を即死させるのに必要なMPはSSで満タンなのが一瞬で0になる程のもの。

今までで一番MPを消費させられた。

「納得だけどな」

つぶやきつつ、銃口を自分の肘の付け根に当てて、無限回復弾を連射してMPを回復する。

こっちは悪くない絵面だった、回復って事もあって、銃だけど注射をしているようにみえなくもないからだ。

俺はMPを全開させてから、 アウルム(1立方メートルの金塊) を担いで、転送ゲートで屋敷に戻った。

屋敷のサロン、夕日が差し込む中、アウルムはそこでくつろいでいた。

ソファーに深く座って、ダンジョンの中ではまったく見られなかった、だらけきった表情をしていた。

「ここいいところだね、なんかすっごく安らぐ」

「だろ。エミリーのおかげなんだ」

「安らぎ過ぎて――どうしようリョータ!」

アウルムが困った顔をする。

「どうした」

「ここから離れたくないよ」

切羽詰まった様子でそれを訴えるアウルム。

まるでこたつに取り込まれた人間みたいな表情と台詞だ。

……まあ、分かるけどな。

エミリーが手入れしてる家の暖かさは人を虜にする魔力のようなものを持ってる。

それはもはやこたつ級なのだ。

「いっその事ここに住むか? 部屋もいっぱいあるし」

「いいの! ――ううん、それダメね」

「ダメなのか?」

「うん、外に出て遊ぶ分にはいいけどさ、外で寝る――外泊とかしちゃったらダンジョンドロップしなくなるし」

「ああ、それは困るな……」

「そのかわりまた連れてきて。昼間出歩く分には問題ないからさ」

「お安いご用だ、何だったら毎日――んん?」

「どうしたの?」

ソファーの上でくつろぎながら、首をかしげて俺を見つめるアウルム。

俺は彼女の台詞を反芻した。

外で寝る――外泊とかしちゃったらダンジョンドロップしなくなるし。

その台詞が頭の中でリピートした。

「ねえ、本当にどうしたの? 別に毎日じゃなくてもいいんだよ? たまーにでいいし。あたし精霊だからあんた達人間の時間感覚とはちが――」

「アウルム!」

「な、なによ……」

詰め寄ると、アウルムは引き気味になった。

「今の本当か?」

「い、今の?」

「外泊するとドロップしなくなるって」

「うん……正確にはダンジョンの外で意識を無くすとって意味だけど……」

それがどうしたの? という目で俺を見つめる。

俺は考えた。

いろいろ考えた。

冒険者として。

ダンジョン協会の協会長として。

そして、元社畜として。

色々な事を、いろいろな角度から考えた。

「アウルム、ここで暮らさないか。俺が毎朝送り迎えするから」

「だから、あたしが外で寝ちゃうとドロップが――」

「うちは夜いいぞー? エミリーも戻ってくるし、他のみんなも――ああそうだ、ボンボンもいるな」

「ボンボン?」

「アリスの仲間だけど、アウルムとは気があうはずだ」

生まれがアウルムだからな。

説得を受けたアウルムは気持ちうつむき、そして上目遣いで俺を見て。

「本当にいいの?」

「ああ」

「ありがとう、リョータ」

と、はにかんだ笑顔でいった。

こうして、アウルムダンジョンの精霊、アウルムがうちの屋敷に住むようになったのだった。

次の日、インドールの村。

俺はインドールダンジョン協会長の名前で公示をだした。

アウルムは深夜になるとドロップしなくなる、という公示だ。

冒険者達は公示の札の前に立ってあれこれ言い合っていた。

「深夜ドロップしないって不便になるな」

「ならねえよ、夜なんてみんな寝てるししなくてもそんなにかわらないって」

「いやする人もいるだろ?」

「そんな事よりここに書いてないけどドロップ増えてないか? 前にも増えた事があったけどまた増えたみたいだぞ?」

侃侃諤諤といい合ってる冒険者達を遠目に眺めた。

パッと見た感じ一部不満を漏らす人たちもいるけど、ほとんどが「まあ別に何も変わらないだろ」ってスタンスだ。

深夜はどうせ寝てるし、って人がおおいのだ。

こんなもんだよな。

俺もファミレスが深夜営業やめるかもってニュースを見た時似たような事思ってたしな。

「な、なあ」

「ん?」

横から声をかけられた。

振り向くと、そこに若い冒険者が立っていた。

一昨日の深夜に助けた若い冒険者だ。

「あんたなんだろ、あれ」

「いや、精霊の気まぐれだよ。精霊も夜寝たいんだろ」

「そうか……じゃあ精霊に伝えてくれないか」

「ん?」

「ありがとう、これで俺も夜寝られるって」

「ああ、伝えとく」

「本当にありがとう」

俺の目をまっすぐ見てそう言ってくる若い冒険者。

次に会うときはやつれてるの治ってるといいな、と俺は思ったのだった。