軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

160.見えない抑止力

自宅に戻って、サロンで考え事をした。

セルからの依頼、それを一番効果的に解消するにはどうしたらいいのかを考えた。

おおよそのプランが固まったけど、一つだけちゃんとしたプランを考えないといけない事があって、それを延々と悩んでいた。

長時間の思考で集中力が切れて、 戻って(、、、) 来た頃には日が暮れていた。

ガチャ。ドアが開く。

入って来たエミリーとめがあった。

「ヨーダさん」

「エミリーか。その手に持ってるのは?」

「お茶のおかわりなのです」

エミリーはトレイを持って、俺のところに近づいてきた。

おかわりという言葉に首をかしげていると、目の前のテーブルにティーカップが。

まったく手をつけてないティーカップが目に入った。

それと入れ替えに、エミリーが新しい、湯気立っているティーカップを置いてくれた。

「お茶をいれてくれてたのか。ごめん気づかなくて」

「大丈夫なのです。それよりどうしたです? ヨーダさん、うーんうーん唸って悩んでたです」

「そうだな……相談に乗ってくれるか?」

「もちろんなのです!」

エミリーは満面の笑顔で頷き、俺の向かいに座った。

わくわくした顔でわずかに身を乗り出し、130センチの小柄な姿と相まって普段よりも愛くるしく見える。

そんな彼女にセルの依頼を話した。

「アウルムで冒険者狩りが出てるらしい」

「冒険者狩り」

エミリーの笑顔が一瞬で消えた。

彼女にしては珍しく、完全にフラットな表情だ。

「知ってるのか?」

「冒険者狩りはしってるのです」

答えるエミリー。

顔に笑みが戻る……今のは何だったんだろ。

「それがアウルムでおきてる。砂金はため込みやすいから、ため込んだ人から奪う……ってのが問題になってる。それを解決してくれと」

「はいです」

「冒険者狩りの犯人を倒せる……かは実際やってみないと分からないけど、その前に一つ問題が出てくる」

「なにです?」

俺は苦笑いした。

「最近、俺がいるだけでいろんな事――まあ良くない事をしてる人たちが自粛するようになってる」

「はいです、ヨーダさんが抑止力になってるです。さすがヨーダさんなのです」

「この依頼を解決するためにはパトロールをするのが正攻法だ。それは転送部屋を使えば楽にやれる。そうなんだが、パトロールをすると向こうが実行しない、俺がパトロールしてない時を狙われるかもしれない」

程度はともかく、歩行者の信号無視と同じだ。

狭い車道に車が来てないときは信号を無視しても渡る、それをおまわりさんに見られたら怒られるから、おまわりさんが見てるときはやらないけど、いないときは普通にわたる。

今の俺がパトロールしても、俺がいるときだけ事件が起こらないことになる。

それは解決にならない、抑止しているだけだ。

これが、俺が悩んでいる事だ。

「なるほどなのです!」

「それをどうしたもんかなあ……って思ってさ」

唸る俺、エミリーは一緒になって唸ってくれた。

一緒になって悩んだが、解決する方法は見つからなかった。

「犯人を見つけてコテンパンにするしかないかもなのです」

「そうだなあ」

厳罰する。

やっぱりそうするしかないか。

となると何回かわざと見逃して襲わせて……いやでもなあ……。

「あっ」

「どうした、何か思いついたのか?」

「ごめんなさいなのです。こっちじゃなくて、おじいちゃんの事を思い出したです」

「おじいちゃん?」

誰の事だ?

「アルセニックのおじいちゃんにご飯を届けないといけないのです」

「ああ、あそこの精霊と仲良くしてたっけ」

仲いいどころか精霊の加護を受けてるんだよな、エミリーは。

「毎日ご飯を届けてるのか?」

「ちがうです。おじいちゃんは人間じゃないからお腹がすかないときもあるのです。なのでまちまちなのです」

「そうか……何か連絡手段……むっ?」

「どうしたです?」

訝しむエミリー。

俺の頭の中で何かがひらめいた。

一瞬のひらめき、しかしひらめいた直後に分からなくなったひらめき。

ネット検索しようと思って、いざブラウザ開いたら何を検索したかったのか忘れてしまうあの感覚。

なので辿る。この場合直前の見たものや話した事をなぞれば思い出せることが多い。

俺は、言ったことやったことをもう一度やった。

「連絡手段、か?」

「はいです?」

「――っ! ありがとうエミリー! ちょっと出かけてくる!」

「え? ヨーダさん!?」

びっくりするエミリーを置いて、俺は屋敷を飛び出して、セルのところに向かった。

アウルムダンジョン、地下二階。

ダンジョンの中はピリピリしていた。

冒険者狩りが出るようになって、砂金狙いの冒険者達はモンスターだけじゃなく、他の冒険者にも警戒する様になっていた。

自分以外すべてが敵、そんな空気が蔓延していた。

「あの……すいません」

「――っ!」

双剣を武器にして小悪魔を倒していた冒険者が一瞬で警戒した。

背後から声をかけられて、武器を構えたまま振り向くと。

「違うんです! これこれこれ!」

そこにいたのは若い冒険者だった。若い方は慌てて手を振ってアピールした。

そして鞘を差し出し。

「落とし物を拾ったんです、これあなたのものですよね」

「え? ああ本当だ」

言われた冒険者は腰の間をまさぐった。

双剣の鞘が一つしか無い。

「いつ落としたんだろ」

「はい、どうぞ」

「ありがと――」

鞘を受け取った瞬間冒険者は大きく飛び下がった、一瞬で反応したのは直前まで警戒していたからだろう。

それでも手遅れだった、受け取った鞘……その表面に毒が塗られていて、男の手はヒリヒリとした痛みがはしった。

「くっ、お前か冒険者狩りは!」

「その通り、ちなみに落としたんじゃなくて俺が盗んだんだ。警戒するのもいいけど、殺気だけを警戒してるとこういうのにはまるよ」

「くそっ! この程度――」

双剣の冒険者は膝をついた。

頭を押さえ呻く。

「あっ、その毒は手をどうにかするものじゃなくて、体そのものの動きを止める毒だから」

「く、そ……」

若い男は悪意丸出しにして、双剣の冒険者に近づいた。

膝をついて動けなくなった冒険者の前に立って、手を振り上げる。

「ま、これも授業料って事で」

「そういう授業はいらない」

「なに!」

手を振り下ろそうとした瞬間、別の男が現われた。

若い男の真っ正面、双剣の冒険者の背後。

そこに亮太が現われた。

何もないところから現われた亮太は、問答無用で若い男の横っ面を殴り飛ばした。

アウルムダンジョン、精霊の部屋。

転送部屋経由でやってきた俺はアウルムに頭をさげた。

「ありがとう、助かったよ」

「あたしほとんど何もしてないけど、あれでよかったの?」

「そんな事ない」

俺ははっきりと首を振った。

「アウルムのおかげで一番のハードルを越えられた、ありがとう」

「本当に何もしてないけどね。だってあたしがした事って――」

アウルムはそう言って、スイッチを取り出して掲げて見せた。

「ダンジョンで人間同士がもめてる時にこれを押しただけ」

「それが一番助かるんだ」

スイッチは、セルの装置だった。

シクロのダンジョンに取り付けた、ダンジョンマスターの出現を実力者に知らせるもの、それを改造したものをアウルムに渡した。

アウルムは――精霊は 自分の中(ダンジョン) でおきたことを全て把握出来る。人間同士の争い、冒険者狩りがおきたときにそれを押して、俺に知らせるようにした。

そして知らせを受けた俺が転送部屋で急行して解決する、というわけだ。

これが、一番被害最小限に、そして効果を最大にする方法だ。

この神出鬼没の制止が広まれば冒険者狩りに制止力が働くはずだ。

「まっ、あんたがそれでいいって言うのならそれでいいけどさ」

「悪いけどしばらく頼む。今度また遊びに連れて行くから」

「うん」

アウルムにもう一回頭を下げて頼んでから、精霊の部屋を後にした。

しばらく、というのはそんなにかからなかった。

俺の狙い通り、冒険者狩り 狩り(、、) が広まった結果、アウルムでは急速にそれがなくなって。

「さすがサトウ様、ダンジョンの精霊をも使役するとは」

依頼をしてきたセルは感心するやら、驚くやらで舌を巻くのだった。