軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156.わんこ貴族

ニホニウムダンジョン地下七階、転送部屋を使って来た瞬間「うっ!」ってなった。

魔法の使えない階層、魔力嵐がいつもナチュラルにある階層。

魔法がなくても普通に戦えるからそっちは問題ないけど、魔法使いとしての能力――知性がSSまで上がったことで、ここに来ると若干の頭痛がする様になった。

低気圧の日に全身がだるい、ってレベルだけど、部屋移動レベルで一気に来るとちょっと堪える。

深呼吸すると、それが大分楽になったから、気を取り直してモンスター狩りをはじめる。

いつも通り無人の地下七階、マミーがうようよしていた。

体にまいてる包帯がバチバチ放電しているマミー。やっぱり純粋な物理攻撃は 効きが悪い(、、、、、) 。

貫通弾はほとんど効かなかった、追尾弾は包帯のスキマでミイラの肉体が露出しているところに飛んでいったが、放電している電気に当たって塵にかえった。

「おっ?」

逆に拘束弾の効きがよかった。

着弾すると光の縄が相手を縛りあげる拘束弾。

強化弾を使わないプレーンの拘束弾でも、結構長くマミーを拘束出来た。

他のモンスターよりもずっと長い、三倍近くの時間拘束出来た。

こいつだけか? それともこのマミー自体そうなのか?

ほんのわずかだけどモンスターにも個体差があるから、地下七階にいるマミーに片っ端から拘束弾を撃ち込んで、倒さないで様子見する。

すると他のマミーにも拘束弾がよく効いてるのがわかった。

拘束弾が効くなら、睡眠弾は?

そう思って今度は睡眠弾を撃った。

回復弾の融合弾である睡眠弾。

それを片っ端からマミーに撃ち込む。

効き目はやっぱり抜群だった、マミーが立ったまま動かなくなった。睡眠弾が効いてて寝ているのだが、ゾンビ系だから表情はあまり変わってなくて立ったまま動かない蝋人形のようになった。

フロア中のマミーが全部動かない姿はちょっとシュールだった。まるで時間が止まって俺だけが動ける世界、そんな感じだった。

そうやって睡眠弾も通常の三倍効くことを確認した後、この日は睡眠弾とパンチのコンボでマミーを狩っていった。

眠らせてから好きにする、そのコンボで倒し続けて。

精神を、EからDにした。

午後はテルルに入らず、街にでた。

セレストに話を聞くと、魔力嵐で魔法を使えないのはどうにもならないけど、副作用の頭痛を抑える薬なら普通に売られているって話だから、それを探しに出た。

「そこの庶民」

「うん?」

歩いてるといきなり声を掛けられた。

若い男の声、態度がやたらでかい言葉遣いだ。

足を止めて振り向く、銀色でセレスト並みのロングヘアーに貴族の服、知性的な瞳と端正な目鼻立ち。

絵に描いたようなイケメン貴族って感じの青年だ。

「ダンジョンのテルルは何処にあるのだ?」

「テルル? テルルは……」

一瞬だけ迷った。

テルルはよく行くけど、最近は転送部屋ばっかり使ってたから一瞬だけ分からなかった。

といっても迷ったのは三秒くらい、シクロの目立つ建物を目印にしてそこを辿って記憶を思い出して、場所を青年に教える。

「そうか。礼を言う庶民よ」

礼を言われて、青年を見送った。

道を聞く素知らぬ人に「庶民よ」を連呼するのはすごいなと思いつつ、気を取り直して薬を探そうと再び歩き出す。

ドーン!

突然、背後から轟音が聞こえた。

地面がわずかに揺れて、何事かと思って振り向くと、そこにゴリラがいた。

いつぞや倒したことのある、銃をドロップするハグレモノだ。

それが暴れ回っていた、街の人が逃げ惑っていた。

大半の人はすぐに逃げたが、ある店のおばちゃんが逃げ遅れた。

見ると店の中、カウンターの奥にある金庫から売上金を出している。

売上金を全部集め、ようやく逃げ出そうとした時にはもう遅かった。

暴れ回ったゴリラが店先に来ていて逃げ道を塞いでいた。

「や、やめ……」

「ぐおおおおお!」

胸を叩き、咆吼するゴリラ、獰猛な顔でおばちゃんに襲いかかる。

瞬時の判断。

普段から色々やるようにしてきた俺は、とっさに天井と敷居の両方に冷凍弾を打てば氷の壁をつくって時間を稼げると判断した。

突進しつつ時間を稼いで冷凍弾を込めておばちゃんを助ける為に構えた――瞬間。

真横から一人の男が飛び出した。

銀色の長い髪をなびかせて、レイピアでゴリラをつく。

細身の剣であるのにも関わらずものすごいパワーを秘めていたそれは、ゴリラを真横に吹っ飛ばした。

暴れて崩れかかっていた建物にゴリラが突っ込み、いよいよがれきと化してしまった。

男――青年はさっき道を聞いてきた男だった。

彼はレイピアを持ったままゴリラを追撃する。

倒れて、がれきに足を取られてもがくゴリラに容赦の無い追撃を加えて、そのまま倒してしまう。

思いがけない形で出番をなくした俺、あげた銃を下ろしてしまう。

青年もレイピアを納めてまわりを確認、その目つきは知ってる、冒険者にありがちな、まわりに敵が残っているかどうかを確認する時の目だ。

そんな青年の元におばちゃんが駆け寄った。

「ありがとう。助かったよ」

「気にするな庶民よ。困る者がいて助ける力をもっている者がいた、それだけのこと」

これまた当たり前のことのように言い放つ青年。

態度は尊大、言葉遣いも嫌みな貴族そのものだが、反感はわかなかった。

まわりに人が集まる、逃げ出した街の人々が集まってきた。

みんな青年を褒め称える、一部の若い女の子達は尊敬と憧れの目を向けていた。

「前と同じ業者さんだったみたいです」

夜、みんなが集まるリビング、サロンともいうべき場所で、お茶を飲みながら他の仲間の帰りを待つ俺とエミリー。

世間話がてら今日街でおきた出来事をエミリーに話すと、彼女もその話を聞いていたのか、俺の知らないことを教えてくれた。

「前って、俺とエミリーが倒した時か」

「はいです! あの時とまったく同じ業者さんで、同じミスでハグレモノにしちゃったです。前も警告されてたですから、ダンジョン協会に営業禁止命令を出されちゃったです」

「なるほど……同じミスを二回もして街を危険にさせてしまったらなあ……」

俺に銃と出会うきっかけをくれたゴリラのハグレモノだが、普通に街のみんなからしたら大迷惑なので処分も止むなしだな。

「前にゴミあさりも問題になってたです」

「ケルベロスのことだな」

「ハイです。だからゴミのポイ捨てとか、ハグレモノ関連の罰則が厳しくなるって噂です。例えば食べきれない、骨付きの食べ物とかのテイクアウトが禁止になるかも知れないです」

「ガム禁止のシンガポールみたいだな……」

「しんがぽーる、です?」

聞いたことのない地名に首を傾げるエミリー。

「鮭の切り身も危ないみたいです」

「何でだよ! 鮭の皮美味しいだろ!」

こっちは完全にとばっちりだった。

いやそもそも鮭のテイクアウトなんてそうそうないけど。

明るくて暖かい空気に満ちた屋敷のサロンで、エミリーと二人世間話をしていると、ドアがノックされた。

玄関のところのノッカーがコンコンコン、とならされてしまう。

「客?」

「こんな時間に珍しいのです」

まさかまたクリントか? 色々禁止するって話だしまた何か問題が起きたのかな。

そう思って、エミリーと一緒に玄関に向かった。

ドアを開くと。

「失礼、こちらがリョータ・サトウのご自宅かな」

来客はクリントじゃなく青年だった。

銀色のロングヘアーに貴族の服、イケメンの顔は今日街であった青年だ。

「あんた……」

「うむ? 余を知っているのか?」

向こうはどうやらこっちのことを覚えていないようだ。

というか、リョータ・サトウの自宅って聞いたよな、なのにこれってことは。

俺の顔も知らないってことか。

「ハイです」

「そうか。余の名はセル・ステム。サトウ様はご在宅かな」

「俺が佐藤亮太だけど」

「おお!」

瞬間、青年――セルの瞳が興奮に輝いた。

「会えて光栄だサトウ様。余の名はセル・ステムと申す」

「それは今聞いた」

「これは失礼だった、サトウ様に会えたことで舞い上がってしまったようだ」

俺はエミリーと顔を見合わせた。

どういう事だ? って感じのエミリーの顔、俺もきっと似たような顔をしてるはずだ。

サロンの中、セルと向き合ってテーブルを挟んですわった。

エミリーが出したお茶を上品な仕草で一口つけてから、セルはまっすぐ俺を見つめてきた。

「余は、サトウ様に感銘を受けて冒険者となった」

「俺の?」

「うむ、サトウ様の数々の功績を聞き及んでいる。憧れなのだ」

「ヨーダさんのファンなのです?」

俺の隣で、お茶を出したトレイを持ったままのエミリーが聞く。

「その通りだ。いや尊敬と言ってもいい。これまではサトウ様の後を追って同じことをせねばと思っていたが、成したことの数々が毎日のように聞こえてきて、是が非とも一度実際にあわなければと思った次第だ」

熱弁を振るうセル、目の前でそんなにほめられると逆に恥ずかしくなる。

照れ隠しに、セルも持ち上げることにした。

「あんたの方がすごいだろ。今日のあれ見たけど、あそこで飛び出して人助けするのはなかなか出来る事じゃない」

「え? それこの人だったです?」

驚くエミリー、頷いて肯定する。

それで更に驚いてセルをみるエミリーだが、当のセルは平然と言い放つ。

「あれはサトウ様の模倣なのだ」

「模倣? 俺の真似ってことか?」

「うむ。サトウ様の数々の行動、それらを聞いて余の中にある言葉が浮かび上がった。つまるところ『困る者がいて助ける力をもっている者がいた』、ということだったのだ」

「あっ……これは本物のファンなのです……」

つぶやくエミリー、それ以上に俺は驚いていた。

それは、ゴリラを倒した後セルが街の人々に放った言葉だ。

まさかその言葉の由来が俺の行動だったとは。

「それを知った瞬間、サトウ様の事をもっと知らねばならぬと思い、シクロにやってきたのだ」

「そうなのか……いやでも俺は普通の冒険者――」

「全てを知るためにここのダンジョン協会の会長になることにした」

「――だからってえええ?」

「か、会長さんなのです?」

さも当然のことのようにいい放つセル。

会長になるって、クリントは?

クリントはどうなったんだ?

そんな俺の驚きなど知るよしもなく、セルは、まっすぐ俺を見つめてくる。

どこかで見たような目、この目は――。

「ケルベロスみたいなのです」

エミリーのつぶやき、そうケルベロスだ。

渋谷の交差点で死ぬまで待っていそうなわんこの目。

イケメン貴族は、そんな目で俺を見つめていた。