軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155.転職のススメ

夜、ビール専門の酒場ビラディエーチ。

俺は一人でここにやってきた。

たまには一人で静かに飲みたい、毎日が賑やかで楽しいからこそたまには一人で。

そう思って、一人でやってきた。

顔なじみの店員に席に案内してもらって、最近マイブームのコーヒービールを注文する。

それが運ばれてくるのを心待ちにしていると。

「はあ……」

隣の席から深いため息が聞こえてきた。

酒場――というか居酒屋によく聞くタイプのため息。

「あれ? レオンじゃないか」

「え? あっ」

相手は俺を見て驚く。

そこにいたのはレオンだった。

彼はビールにヤキトリというオーソドックスなメニューをオーダーしていたが、テーブルの上の水たまり……グラスから滴る水で出来た水たまりから五~六杯は飲んでいるのにもかかわらず、焼き鳥にはまったく手をつけていない。

酒だけをあおってる、そんな状況だ。

「どうした、そんなに深いため息をついて」

「ああいえ……その、この前はありがとうございました」

「ありがとうございますって声のトーンじゃないな、何かあったのか?」

「ええ……実はあれすごく助かりました、クライアントが大喜びで、これからもお願いしたい、って事になったんです」

「よかったじゃないか」

「それが……全部ボスの手柄になったんです」

「うん?」

「ボス……ジョエルさんが手柄をひとりじめしたんですよ。まあファミリーのボスだからしょうがないけど……」

レオンは更にビールをあおった。

「上司に手柄を持ってかれたのか……」

頷くレオン、その光景が目に浮かんでくるようだ。

なにもしなかった上司、プロジェクトが成功したときだけしゃしゃり出て、さも自分が全部やったから成功したかのように振る舞って、手柄を全部持っていく。

元の世界、会社にいた時もそういうヤツがいた。

「それはまあいいんですよ、ボスだから。でもね」

ドン! とコップを強くテーブルにたたきつける。

顔を赤らめ、目が座ってる。

「それでまた仕事を取ってくるのはどうかって思うんだ。しかも他のファミリーが受けたがらないような、儲からない様な仕事を」

「あぁ……」

それも分かる、そういうのもいた。

現場の事なんか考えないで、儲かるかどうかも考えないで仕事を受けてくるヤツがいる。

それで割りを喰うのはいつもこっちだ……。

複合技をやられたレオン、飲み屋でグダをまきたくなる気分も分かる。

俺はそっちの席に移動して、店員が運んできたビールを受け取って、ジェスチャーで相席することを告げる。

そうしつつ、レオンにたずねる。

「いっその事独立したら? ファミリーにいるよりも一人でやった方が良くないか? 冒険者だしそれでもやってけるだろう」

「だめなんだ……俺はファミリーの中のナンバー2、いまやめてしまったら他の仲間達に迷惑がかかる。若い子達にもまだまだ教えないといけないことがあるし」

「頼られてるとそうなるか……だったらさ」

「うん?」

「あんたが仲間を全員引っこ抜いて独立したら?」

言うと、レオンは目を見開いた。

瞳に一瞬だけ希望の光がともった。

「その手が――ああ、ダメだ……」

「なんで?」

「俺はもうないけど、若い子はみんな借金があるんだ。装備のための借金」

「装備のための借金?」

眉間がキュッ! ってなったのが自分でも分かった。

「うちは何も持たないで入って来た子が多くてさ、最初の一回目は武器を支給するんだけど、大抵すぐに壊してしまう。それで新しいものは自腹になるんだけど……大抵そこで借金をする」

「ジョエルにか?」

「直接にじゃない。ボスが保証人でダンジョン協会から借りるんだ」

「ダンジョン協会から……そんな事もしてたのか」

「ボスが保証人だから……ファミリーを抜けるとなると当然すぐにかえさないといけない。そんな金なんかないぞ……」

レオンは更にため息をついて、ビールを一気にあおった。

転職したいけど出来ない理由は色々あるけど、そのうちのいくつかは「とどのつまり金」という話になる。

借り入れがあったり、生活の不安だったり、給料が下がるかもしれないだったり。

多くの場合「金」が足かせになる。

俺は少し考えて、レオンに言う。

「一緒に来い」

「え? ど、何処に」

「いいから」

レオンの返事を待たずして先に歩き出す。

目的地は、ダンジョン協会。

夜いきなり、しかも酒くさい俺とレオンをクリントは快く迎え入れてくれた。

会長室の中、クリントは驚きの上に笑顔を被せつつ聞いてきた。

「どうしたんだサトウ、こんな夜に」

「ダンジョン協会は金貸しもしてるって聞いた」

「金貸しとは違う、冒険者共済といってくれ。その辺の金貸しよりも遥かに低い利息で提供してる。もちろん借りるには冒険者としてそれなりの信用を求めるが……」

クリントは俺とレオンを見比べて。

「サトウはまとまった金が必要なのか?」

「違う」

俺は首を振ってから、レオンの事を話した。

ジョエルファミリーの一員で、独立したいけど仲間達の借金がネックになって出来ないという事を説明した。

「なるほど……あのジョエルの……」

「あの?」

「あの」

クリントは頷いて、レオンをちらっと見て、言った。

「新人に劣悪な武器と防具を無料で提供したはいいが、壊れた後は『ちゃんといいものを買い換えた方がいい』っていってやけに高いものを買わせる手口で有名だ。ぼったくってはないけど、身の丈にあったものじゃないから若い子は大抵それで長い間こまる」

「そうなのか?」

「……」

レオンは重々しく頷いた。

「長く使えるし強いから、騙されてるとかじゃないんだが……」

「しかし悪意はある」

「……」

レオンは黙った、本人もそう感じているのだろう。

俺はクリントに向き直った。

俺が払ってもいい、新人冒険者を縛り付ける程度の金なら払えないことはない。

だが、それは少し違うんじゃないかっておもった。

俺はクリントに向かって、考えていた方法を聞いてみた。

「ジョエルが保証人になってる借金、俺が代わりに保証人になるってできるか?」

「普通はだめだ」

「普通は?」

「普通は」

言い切ったクリント、隣でレオンが落胆したのが気配で伝わってきた。

レオンは「普通は」を額面通りにうけとった、しかし俺はクリントの 行間(視線) を読んだ。

本当にだめなら、こんな風に俺を見つめて「普通は」とか言わない。

「そこをどうにか」

俺は頭を下げた。

「な、何もそこまで――」

「わかりました」

クリントが言うと、レオンが「え?」って驚いた。

「サトウがそこまで言うのなら」

クリントは頷き、こっちの頼みを聞き入れてくれた。

何故行間を読ませて、なぜこうまわりくどい事をさせたのか分からないが。

「……」

レオンの感激しきった目を見て、俺は、彼の障害を全部取り除けたことを確信した。

数日後、 仲間(ぶか) に全員逃げられた間抜けなリーダーの噂が、シクロの冒険者中に広まったのだった。