軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152.あなたにここにいてほしい

シクロダンジョン協会の建物の中、会長室。

サルファのおおよその調査が終わった俺は、報告のためにここを訪ねた。

出迎えたクリントは俺の話を最後まで聞いて、手を広げて立ち上がった。

「さすがサトウだ。こんなに早く調査をしてきてくれるとは」

「運がよかった、仲間にも恵まれた」

「いやいや、サトウじゃなかったら無理だったろうな。話を聞く限りレベル上限が高い冒険者、パーティーでの攻略になれた冒険者には鬼門ではないか」

「武器が必須な人もつらいな」

「うむうむ」

ダンジョンの中ではレベルアップするけど、エミリー、セレスト、イヴの報告からは3ラウンドまででレベル5行くかどうかというレベルだ。そもそも一緒にダンジョンに入っても個別のリングに飛ばされてソロプレイを強要される。

ドロップが低くても――例えFファイナルであっても稼げる一方で、かなり人を選ぶダンジョンだ。

「だから本当に感謝している。その情報があれば、明日からも冒険者にダンジョンを解放できる」

口には出さなかったけど「それで税金も増える」ことで、クリントは上機嫌そのものになった。

秘書がいれた紅茶に角砂糖の山をいれて、羊羹のように切った角砂糖を爪楊枝で刺して口の中に放り込む。

見てるだけでこっちが糖尿病になりそうな砂糖の量だ。

「サトウはシクロにとってのラッキーボーイだな」

「ん?」

いきなりなんだ?

「サトウが来てからシクロは順調そのもの、順風満帆だ。セレンも手に入れた、アウルムも実質傘下になった、更にサルファもすぐに冒険者をいれられる状況だ。全てサトウが来てからの事、そしてサトウがしてくれた事だ」

「俺は頼まれた事をやっただけだ」

「どうだろう。今年の年度表彰を受けてくれないか?」

「年度表彰?」

初めて聞く言葉だな。

字面から何となくある程度の想像は出来るけど。

「そうだ。各地のダンジョン協会がそれぞれ行うものだ。各地からその年で貢献した人間の事績を喧伝、表彰するのだ」

「別にそう言うのは……」

「受けてくれるとありがたい」

クリントは真顔で俺を見た。

賞を与える側が頼んでるという不思議な事になった。

「活躍している人間が顕彰される、それを見て冒険者達が発奮するのだ。そうすれば――」

「――税収も増える、なるほど」

要は労働者の意欲をあげるためか。なるほど。

「だから受けてくれるとありがたい」

「そういうことならありがたくもらっとく」

「ありがとう! サトウにはいつも助けてもらってばかりだ。そうだ、表彰には賞金も出る、年金という形で。これも発奮の材料なのだ」

「分かった、もらっておく」

「それと」

まだあるのか? と驚くおれ。

「今サトウがすんでいる屋敷、あれをダンジョン協会で買い上げることにした。サトウが住んでいる限り家賃は取らない」

「いや、あれ結構でかいし高かっただろ。もう呪い解除して普通にすんでるから訳あり物件じゃなくなったし」

「それと」

「まだぁ!?」

息つく間もなく、クリントは次から次へと、俺を優遇する事を提案してきたのだった。

ダンジョン協会を出て、表で待機していたアリスと合流する。

彼女は建物の横にしゃがんで、4体の仲間モンスターとじゃれ合っていた。

見ようによっては道ばたで人形遊びをしている女の子に見えなくもない、結構心和む光景だ。

「お待たせ」

「報告終わった?」

「ああ……」

「どうした? なんか複雑そうな顔をしちゃってるよ?」

「うーん」

腕を組んで、首をひねった。

正直困ってる、戸惑ってる。

何故クリントがあんなに俺を優遇するのかが今ひとつ分からない。

俺はアリスと肩を並べて歩きつつ、中で起きた出来事を話した。

「それはリョータにシクロにいてほしいからだよ」

「ここにいてほしい?」

「うん! あたしも村長達と色々それっぽい事を相談してたし」

村長。アリスの出身であるインドールの村長の事だろう。

アウルムというダンジョンが生まれたとき、俺が出っ張って助けに行った村の事でもある。

「住む所を用意したり、色々与えたり。女とかなかった?」

「……あった」

最後らへんになって、クリントはそういう話も持ちだしてきた。

いい女を紹介するとか、いい女がいる店を案内するとか。

そういう話だ。

もちろんその辺は断った。性に合わないのだ。

「そう言うので籠絡して、ずっと街にいてほしいんだよ」

「なんでまた」

「それはね……あっ」

言いかけたアリスが立ち止まる。

何故かにやにやした顔でまっすぐ前を見つめる。

シクロの街、人々が行き交う大通り。

その先に洗練されていない格好の少年達がいた。

アリスが村から出てきた時と似ている、格好も、雰囲気も。

いかにも全員、上京してきたばかりの若者って感じだ。

「ここが農業の街シクロ……」

「頑張ろうな!」

「ああ、一旗揚げようぜ」

少年達が互いを励まし合う、微笑ましい姿だ。

が、それだけではなかった。

「俺、リョータ・サトウみたいになるんだ」

「俺も」

「俺も俺も」

……へ?

今なんて? 俺みたいになる?

訝しんで横を向く、アリスはさっきとまったく同じようににやにやしていた。

「これが理由の一つ」

「もしかして……」

「うん! リョータは新人冒険者の憧れなんだよ。ここにいると冒険者志望が次から次へとくるんだよ」

そんな事になってるのか……しらなかった。

「「「目指せ! リョータ!」」」

少年達の円陣は見ててこっちが恥ずかしくて。

その上まわりのもの達が「頑張れよ」とふつうに受け入れてるのが二重に恥ずかしかった。