軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124.開かずの扉

屋敷の地下室。

何もない、だだっ広い空間。

屋敷の地下、というロケーションと相まって、今にも秘密結社のサバトが開かれるんじゃないか、という不思議な空気がある。

俺は一人そこに佇んでいた。

待っている(、、、、、) 間に地下室の広さをチェックする。

長方形の作りになってるここは、おおよそでテニスコート二つ分くらいの広さだ。

だだっ広いから、色々使い道がありそうな地下室だ。

そんな地下室の反対側にハグレモノが孵った。

置いたもやしから次々とスライムが孵って、それが俺に向かってくる。

銃を抜き、狙いを定めて撃つ。

一撃一殺、銃弾は全てのスライムを貫通して倒し、通常弾をドロップさせた。

振り向いて、上に続く入り口を見た。

あの上に仲間たちを待たせている。何か音が聞こえたら入ってくれと頼んである。

入ってこないって事は、銃声がもれない程度の防音効果はあるみたいだ。

もう一度通常弾を撃った、撃った直後全速力で回り込んで、銃弾を掴んだ。

速さSS、あまりにも長い距離だと息切れするけど、この短い距離ならば通常弾以上のスピードが出せる。

次にクズ弾を撃った。

ノロノロと出て、秒速5センチで飛んでいく。

こっちはゆっくりと回り込んで、振りかぶってからの全力パンチを弾に叩き込んだ。

衝撃波が広がる、爆音が鳴り響く。

それほどのパワーで殴りつけたのに、弾はマイペースに秒速5センチで進み続けた。

ある意味すごい弾丸だ、あまり使い道はないけど。

そして、確信する。

この地下室で、何をやっても外に漏れないし、邪魔も入らないという事を確信したのだった。

10LLSDKの屋敷、リョータファミリー全員で引っ越してきた。

街の一等地に立てられている屋敷は結構な値段がした。

月200万ピロ。この世界の通貨ピロは円とほぼ同じ価値だから、月二百万円の家に住んでるのと同じ事だ。

二百万……新卒の時の年収とほぼ同じ額だ。

そんな額のする屋敷に住めるなんて……。

改めて、自分でもすごいな、としみじみ感動した。

ふと、視線の先にエミリーを見つけた。

エミリーは山のような布を抱きかかえている。

シーツ類やカーテンといったインテリアだ。

それを抱きかかえて、部屋に一つ一つ入っていく。

忙しそうだ……でも楽しそうだ。

エミリーは眉をひそめて困った顔をしているが、口角は笑みの形に固定されている。

家事好きな彼女としては、新しい住まいであれこれやれるのは嬉しい悲鳴のようなものがあるんだろう。

エミリー匠のおかげで、明日にはこの屋敷も明るく温かいなんということでしょうな屋敷に変身していると思うとわくわくしてきた。

そんなエミリーの邪魔をしないで、おれは仲間たちの部屋を回ることにした。

一番近くにある部屋はイヴのネームプレートが掲げられていた。

ノックをして、返事があったからドアをあけて中に入る。

「低レベルが来た」

中にいるイヴは着ぐるみのようなパジャマを着ていた。

真っ白くてふわふわしているそれはうさぎ。

イヴはいつものバニースーツじゃなくて、うさぎの着ぐるみを着ていた。

「そういう服も持ってたのか。イヴのバニースーツ以外の服は初めて見るかも知れない」

「うさぎはうさぎを着る」

「なんか迷言出た」

「うさぎインうさぎ」

「マトリョーシカだなもはや」

イヴは自前のうさ耳を生やしている獣人。本人はうさぎである事がほこりなのか、それとも単に大好きなのか、ことあるごとにうさぎである事をアピールしてくる。

一人称からして「うさぎ」なのだ。

「低レベル、何か用」

「新しい部屋に馴染んでるかなって思って」

「問題ない、ちゃんとニンジンを運び込んでる」

「うん、ニンジン以外は普通の部屋だな」

一通り見回したが、割と普通の部屋だった。

棚があって、タンスがあって、窓際にデスクがあって、シングルのベッドがある。

若干味気ないが、割と普通の部屋だ。

そんな普通の部屋の半分がニンジンに占拠されていた。

そのおかげで「普通の部屋」が一変して、「ニンジン倉庫」になってしまった。

「ある意味イヴらしいよ」

「ほめてもニンジンあげないよ」

「あまり食い過ぎて腹壊すなよ」

「ニンジンで死ねるのなら本望」

いつもの起伏に乏しい口調、しかしわずかに顔を紅潮させて言う。

本当にそう思ってるのが恐ろしい。

そんなイヴの部屋を辞して、次の部屋をノックした。

アリスのネームプレートが掲げられている。

「だれー」

「俺だ」

「リョータ? 入って入って」

フレンドリーで人なつっこいアリスに招かれ、ドアを開けて中に入った。

驚いた、部屋は匠も真っ青な大改造をされていた。

コンセプトは、ダンジョン。

アリスの部屋はまるでミニチュアサイズのダンジョンになっている。

そのダンジョンのあっちこっちにホネホネ、プルプル、ボンボンが散っている。

第一印象は驚いたが、仲間モンスターがそこにいると途端にそれっぽく見える。

ふと、家中をプラレールで埋め尽くした友人の事を思い出した。

「いらっしゃいリョータ」

「驚いたな、これは自分でやったのか?」

「うん! 前の部屋から持ってきたんだ」

「そうか。こっちの方がホネホネたちも落ち着きそうだな」

「実はあたしの方が落ち着くんだ」

アリスはそういい、ケラケラと笑った。

「なんか普通の部屋よりダンジョンっぽい部屋の方が落ち着くのよねー」

「ダンジョン生まれだからか」

「かもね!」

一通り見て回った後、アリスの部屋を出て次の部屋に向かった。

次はセレストの部屋だ。

ノックをして、セレストを呼ぶ。

「りょ、リョータさん? どうしたのいきなり」

「セレストの部屋どうなってるのかなって思って」

「私の部屋? ちょ、ちょっと待って」

セレストに止められたので、その場に立って少し待った。

中からかなりの物音が聞こえてきた。

この音は知ってる、物凄くよく知ってる。

急に異性が来て慌てて部屋を片付けてる時にでる音だ。

まさかエロ本を隠してるわけでもあるまいし……と思いつつそのまま待った。

しばらくしてセレストがドアをあけた。

「ど、どうぞ」

「お邪魔します」

部屋に入る、綺麗な部屋だった。

というか、普通に綺麗な部屋だった。

ニンジンを山の様に積み上げているイヴとも、部屋をダンジョンのミニチュアに改造しているアリスとも違う。

セレストの部屋は至極まともで綺麗だった。

強いていえば女の子らしい良い匂いがして、それで俺がちょっと落ち着かないけど、でも普通に良い部屋だった。

「綺麗だな」

「えええ!? あっ、へ、部屋の事ね」

セレストは一瞬慌ててから、落ち着いて答えた。

「前の部屋をそのまま持ってきただけよ。少し広くなったからどうしようかって考えてるところ」

「そうか。広いことはいいことだ。気に入ってくれたんなら嬉しい」

「もちろん! リョータさんが貸してくれた部屋に文句なんてないわ!」

「ありがとう。……うん? この布きれはなんだ?」

クローゼットの隙間から何か布が見えた。

今の片付けで押し込んだのか?

一瞬下着の類かなって思ったけど、材質からしてそういうものじゃなさそうだ。

もっと厚手で、衣類にはふさわしくない布だ。

それをなんとなしにつまむと……パカン! とクローゼットが開いた。

瞬間、雪崩が起きた。何かが崩落してきた。

おれはその中に埋もれた、どうやら限界を超えるまで詰め込んだはいいが、俺がちょっと触ったのがきっかけで崩落したみたいだ。

何かに埋もれて、何も見えない。

「きゃあああ!」

セレストは悲鳴を上げた。悲鳴を上げたまま俺を引っ張り出して、その勢いのまま部屋の外に押し出した。

パタン、とドアを閉める。しめた後は背中に隠す。

「はあ……はあ……」

そして息を切らせる、一体どうしんだ?

「み、見たの?」

「いや何も……何が入ってたんだ?」

「そ、その……そう! 下着、下着なのよ! 脱ぎっぱなしの下着をまとめて押し込んだのにリョータさんったら崩しちゃうんだから」

「……」

それでいいのかセレストよ。

何か、を隠そうとしているのは分かるけど、そのいい訳が下着って女性としてどうなんだ?

「と、とにかく部屋はすごく嬉しい、ありがとう。じゃあ!」

セレストは一気にまくし立てて、部屋の中に戻っていった。

ふと、地面に何かがおちている事にきづいた。

拾い上げる、それはぬいぐるみだった。

プライズでよくある、手のひらサイズのぬいぐるみだ。

俺のぬいぐるみだ。

……。

セレストの慌てる姿を思い出す、下着をいい訳にしたさっきの表情を思い出す。

見なかったことにしよう。

そう思って、ぬいぐるみをその場に置いて、そっと立ち去ったのだった。

「ヨーダさん!」

「どうしたエミリー」

屋敷の中をあてもなくぶらついてると、エミリーの方からやってきた。

「ちょっと変なお部屋があるです」

「変な部屋?」

「こっちです」

エミリーが身を翻して歩き出す。どんな部屋なんだろう、と俺は彼女の後をついて言った。

屋敷の奥まった所にある部屋の前にやってきた。

観音開きの扉の部屋だ。

「ここなのです」

「この部屋がどうしたんだ?」

「あかないのです」

「あかない? どれどれ……」

ドアを開けようとした俺だが、すぐに異変に気づく。

ドアをべたべたさわって、上から下まで見る。

「はいです、ドアノブも鍵穴も、何もついてないです」

「のっぺらとしてるな、こんなドアってあるのか? まるで壁に書いたドアの絵じゃないか」

なにもないから試しに押してみた、ドアはびくりともしなかった。

「これ、ただの壁じゃないのか?」

「私もそう思ったですけど……」

エミリーはドアの前に立って、強めに叩いてみた。

ダンジョンをよく潜っているから一発で分かった。

叩いたときの音は軽く、向こうに空洞――空間があるときの音だ。

「ちゃんと部屋があるです」

「そのようだな……」

念の為に押してみた、動かない。

肩でも押してみた、やっぱり動かない。

やっぱり壁なんじゃないのか? と思ったその時。

「あっ」

「どうした」

「ヨーダさんが今体で押した時、ちょっとだけ隙間が開いたです」

「なに?」

驚いてドアを見る、もちろん今は隙間なんて空いてない。

もう一度肩を押し当てて、全身の力で開けてみようとした。

するとエミリーの言うとおり、ちょっとだけ隙間が開いた。

ドアから離れるとその隙間はすぐになくなった。

「本当にちょっとだけ開いたな」

「もしかしてすごく重いだけのドアなのです?」

「そうみたいだな。もっと押してみる」

腰を落として、全力で押してみた。

さっきよりちょっと隙間が空いた、コイン一枚程度の隙間だ。

それが限界だった。

10秒間頭の血管が切れそうなくらい全力で押してもコイン一枚の隙間しか開かなかった。

「重すぎるのです、ヨーダさんの力SSでも押して開かないなんて間違ってるです」

「押してダメなら引いてみろ――ってオチでもないしな」

そもそも取っ手とかそういうのがまったくない、押すしかできない扉だ。

一応エミリーと二人で押してみた。

力Aと力SSの二人、片方ずつ全力で押してもコインもう一枚分開いただけだ。

力推しで開ける扉、でも俺たちの力じゃ開かない。

「困ったです……使えない部屋があるのは良くないのです……」

しゅん、と落ち込むエミリー。

家事好きな彼女にとって開かずの間が家の中にあるというのはかなりのストレスになるようだ。

どうしたもんか、と思っていると。

「そうだ、これがあった」

「はいです?」

首を傾げるエミリーに、銃を抜いて見せた。

二丁拳銃にクズ弾を込めて、ドアに押しつけた状態でトリガーを引く。

弾が撃ち出された、秒速5センチで前に進んだ。

全てを押しのけて秒速5センチで進む弾丸は、このドアでも例外ではなかった。

ドアは徐々に徐々に開いていき、やがて人が通れるくらいに開いた。

「すごいです! 開いたのですよヨーダさん」

「どうにか開いたか、さて、中はどうなってるかな?」

苦労した分期待に胸を膨らませて中に入ると。

『ダンジョンと階層を指定してください』

と、部屋のどこからか声が聞こえてきた。

「だれだ? どこにいる」

『ダンジョンと階層を指定してください』

聞いても同じ台詞が聞こえてくるだけ。

どういう事だ? ダンジョンを指定するって。

とりあえず試してみるか。

何があってもいい様に銃に特殊弾を一通り込めてから、答える。

「ニホニウム地下一階」

瞬間、目の前の景色が一変。

部屋の中にいたのが、一瞬にしてダンジョンになった。

鍾乳洞の様なダンジョン、そして向こうからやってくるスケルトン。

俺は、指定した通りのニホニウム地下一階にワープしたみたいだ!