軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123.秒速5センチメートル

新しい家を探す前に、まずは新しい特殊弾の効果を確認することにした。

銃から弾を全部抜く。なるべくプレーンでの効果を知りたいから、強化弾を全部抜いて、新しい特殊弾の一発だけを込めた。

そして、撃つ。誰もいない方角に向かって撃つ。

「……えっ?」

思わず声が出た。

銃口から弾丸が飛び出した――事には飛び出したんだが、それはものすごく遅かった。

物理法則に真っ向から喧嘩を売っているような、ノロノロとした、一秒で約5センチ程度しか進まない速度で空中を飛んだ。

「何これ面白い!」

アリスには大うけだった。彼女はノロノロと飛ぶ弾丸の横に行って、間近からのぞき込む。

「すっごい遅いね! ホネホネちょっと乗ってみて」

SDスケルトンはカクカクと骨をならしながら、アリスの肩から弾丸に飛び乗った。

上に乗っても弾丸はびくりともしなかった、まるでガンコオヤジの如く「俺はこう飛ぶんだ!」と言わんばかりに飛んでいく。

一秒5センチ、それは――。

「あはははは、あたしもぶら下がれる。これ面白い」

乗っかる相手がホネホネからアリスになっても変わらなかった。

アリスをぶら下げた弾丸はノロノロ進む。

「なんだこれは」

「なんだろうね。でもおもしろいじゃん」

「おもしろい……はおもしろいけど。こんなの攻撃力なんてないだろ」

「進む力は強いみたいだよ。ほらほら押されるよあたし」

ぶら下がるのをやめたアリスは弾丸の前に立って、両手でそれをおした。

押さえるのも無視して、逆にアリスをおして秒速5センチのまま進む。

力強いみたいだが、攻撃には使えないなこれは。

そんな弾丸はおよそ5メートル進んだところで消滅した。

「あっ、なくなっちゃった」

「これは外れだな。クズ弾と名付けよう」

「だねー」

アリスは同意してくれた。

さすがにこんなの、狩りで使えそうにないと俺たちは思ったのだった。

アリスと一緒に街に戻ってきて、不動産屋にやってきた。

中に入ると、顔なじみのアントニオがいて、彼は俺たちを見るなり手元の仕事を置いて立ち上がり、こっちにやってきた。

「やあサトウさんお久しぶりです。サトウさんの大活躍はこっちにまで聞こえてきてましたよ」

「活躍?」

「セレンの強奪、アウルムの改造、アルセニックの再生。最近おきた大きな事件の裏に全てサトウさんのリョータファミリーが絡んでるから次は何をするんだろうとみんな期待してるんです」

「あまり期待されても困るんだけど」

アントニオと話しつつ、彼と一緒に応接スペースに入った。

俺とアリスがまず座り、それからアントニオが向かいに座った。

「それで、今日はどんな物件をお探しですか?」

「そうだな……」

俺は頭の中でまとめていた要件を伝える。

「まず部屋は最低で5つ」

「5つ?」

アリスが首をかしげた。

「仲間は全部で5人だろ? せっかくだからアリスも一緒にすもうぜ」

「――うん! あっでもイヴちゃんはどうかな」

「部屋は用意しといて、後は彼女の意思に任せよう」

「だね」

アリスと話がついて、再びアントニオの方を向く。

「という訳でファミリーが全員入れるように部屋は5つ、これからも増える可能性はあるから部屋は多ければ多いほどいい。それと魔力嵐対策も」

「それくらいになると屋敷クラスですね」

「屋敷か……」

その単語はわくわくする響きが含まれていた。

これまで少しずつ大きい家に住み替えてきた。

一月2万ピロのボロアパート、2LDKの新築、三階建の一軒家。

そして、屋敷。

どんどん進化していく住処の響きに心が躍った。

おっと、いかんいかん、一番肝心の条件がまだだ。

「一番重要な条件がある。広いスペースがほしい」

「広いスペース?」

「そうだ、誰にも邪魔されない様なスペース。広さは――端から端でものがハグレモノになってしまう位の広さで」

「なるほど……」

それもメモして、唸るアントニオ。

「それは少し難しいですね」

「ないのか?」

「シクロはそこまでのスペースを取った屋敷があまりないのです。あっても今誰かが住んでて。そこに住める冒険者だと凋落はあまりないですから」

何となく分かる。

稼げる冒険者には共通した特徴がある、それは安定してダンジョンを周回できる能力なり知識なり、仲間なりを持っているということ。

安定して周回、という能力を持つ冒険者は性格も慎重なのが多い。

成り上がったあとおちてくることはあまりないだろう。

「うーん……」

唸るアントニオ。今まで何回か頼んでて、全部すぐに注文通りの物件を出してきたアントニオはきっと有能なんだと俺は思ってる。

そのアントニオがこうして唸るくらい、難しい条件だったのか。

仕方ない、何か条件を減らすか。

ネックになりそうなのは……。

「一つだけ……あるにはあるのですが」

アントニオはそう言った、しかし表情は晴れない。

あるにはあるって、どういう事なんだ?

アントニオに連れてこられたのは、シクロの中心近くにある屋敷だった。

そこそこの庭と、敷地を取り囲む塀。

正門と建物の玄関の間に噴水がある、いかにも屋敷って感じの屋敷だ。

「すごいいい屋敷だね! ピカピカだしすごく広い! 10人とか軽く住めそうだよね!」

「おっしゃる通り、10LLSDKの間取りになります」

「えるえるえす……なんかいっぱいだ」

いっぱいだな。

リビングが二つあるのはぱっと見二階建てだからか? DKはいいけどSはなんだ?

そんな事を考えていると。

「今まで誰も借りようとしなかった物件なのです、なので中は新品同様です」

「誰も借りようとしなかった、なんで?」

「もしかして……事故物件か?」

頭の中にいやな想像がよぎった。

「いえいえ、そういうのではありません。まあ近いと言えば近いのですが」

「?」

「?」

俺とアリスは互いをみて、首をかしげた。

一体どういう事なんだろう、と思っている内に玄関についた。

アントニオは持ってきた鍵で玄関の重厚な扉を開いて、横にずれた。

「どうぞ……入れれば、ですけど」

「入れれば?」

「入ってみて下さい、すぐに分かります。ちなみに身体的にも精神的にも害はありませんのでご安心下さい」

アントニオの補足でますます訳が分からなくなった。

ともかく入れば分かるっていうのなら、入ってみるか。

おれは扉をくぐって中に入った。

瞬間! 前に進めなくなった。

扉をくぐった瞬間何かに包まれて、指一本動かすのさえおっくうだ。

まったく動かせないわけじゃない、しかしとんでもなく抵抗が強い。

例えるのなら水の中――あれの数百倍くらいの抵抗だ。

「どうしたのリョータ」

「アリスも入ってみればわかる」

「どれどれ――あっ」

アリスも同じみたいだった。

入った瞬間ほとんど体が動かせなくなってる。

おれは外に出た、不思議な事に後ろには普通に動ける。

「どういうことなんだこれは」

「あそこにクリスタルが見えますよね」

「玄関ホールのど真ん中にあるあれ?」

アントニオが指さした先に変哲のないクリスタルがあった。

「あれ、モンスターなのです。というかハグレモノですね」

「モンスター?」

「リジェクトクリスタルといって、自分のテリトリーからあらゆる物を拒み、排除するモンスターです。ちなみにアルセニックの岩と同じように攻撃はしてきません。安全だと言ったのはそのためです」

「なるほど」

「最初の持ち主が自分以外の誰も屋敷にいれたくないから設置したのですが、あれのせいで持ち主自身も住めなくなりました」

「本末転倒だね」

「それ以来誰も借りられなくなった物件なのです。ちなみにサトウさんがお望みのスペースは地下です、この屋敷と同じサイズの地下室があります」

それはいいな。地下室なのもいい。

この屋敷と同じ位ならハグレモノを普通に孵せるし地下室なら仲間以外に見られる心配もない。

後は……。

「クリスタルを破壊すればいいって事か」

「はい、ですがどんな攻撃も届きません」

苦い顔をするアントニオ。

攻撃か。

二丁拳銃を抜く。あの見えない壁を貫くにはどの弾丸が一番効くのかを考えた。

左右に通常弾を一発ずつ、それ以外を強化弾で埋めた。

強化弾マシマシの通常弾を撃って、途中で融合させて貫通弾にした。

貫通弾は飛んでいき……玄関の境目で止まった。

わずかに入っただけで、力を失い地面におちた。

「ダメみたいだね」

「マシマシ貫通弾でもダメか」

「サトウさんでもダメでしたか……噂のあなたならあるいは、と思ったのですが」

落胆するアントニオ。

なんか、ちょっと悔しいな。

「あっ」

「どうしたアリス」

「あれ、あれがあったじゃん」

「あれ?」

「クズ弾だよ」

「……おお」

大急ぎでニホニウム地下六階に行って、アブソリュートロックで石になってポイズンゾンビを何体か倒して、クズ弾を調達してきた。

そして屋敷に戻ってきて、クズ弾を込める。

「よし、やってみるか」

「がんばってリョータ!」

アリスに応援されて、まずは一発。

打ち出されたクズ弾はノロノロと進んだ、秒速5センチで進む。

玄関の境目を通っても、それは。

「おお、進んでる」

「しかも速度変わらないな」

「すごいですねサトウさん。まだ進んでる。すごい。この屋敷の中をあんなに進むもの始めてみました」

きっと何人も仲介しようとしたんだろうな、アントニオ。

クズ弾は屋敷の中に入っても同じ速度で進んだが、5メートル進んだところで消滅した。

クリスタルまで約二メートルを残したところで消えた。

「くう、残念。ねえ、今度は強化弾込みでやってみてよ」

「そのつもりだ」

アリスにそういって、クズ弾を込めなおし、残ったところを強化弾で埋めた。

そして、撃つ。

打ち出された銃弾は――更に遅くなった!

秒速5センチほどだったのがその10分の1くらいまで遅くなった。

あまりにも遅くて止まってるんじゃないかってくらいの遅さだ。

「強化弾で遅くなるの?」

「いや、多分遅くなる代わりに押す力が強くなるんだろう」

「そうなの?」

「推測だけどな」

そのままクズ弾が進むのを見守った。

ノロノロと進んだそれは同じように屋敷にはいって5メートルのところで消滅した。

「距離は変わらないみたいだね」

「だな。後はこっちが二メートル詰めるしかないか」

おれは色々考えて、玄関から距離を取った。

「リョータ?」

訝しむアリスをよそに、俺は猛ダッシュした。

玄関に向けて猛ダッシュ、そのまま屋敷に飛び込む。

助走の勢いをつけて中に飛び込んだが、とてつもない抵抗を感じ、一メートルも進まないうちに止まった。

全速力の助走は1メートルしか稼げなかった。

精一杯手を伸ばして、クズ弾を撃つ。

最初から中に入ったクズ弾は秒速5センチで進む。

クリスタルの手前、50センチのあたりで消滅した。

「おしい! もうちょっとだね」

「ああ、もうちょっとだ」

「頑張ってリョータ」

「おう」

アリスに励まされて、何回かチャレンジし直した。

助走をつけて、飛び込んで、クズ弾を撃つ。

しかしクリスタルの排斥力は強く、おれは一メートル以上先に進めなかった。

何回やり直しても、残りの50センチを突破できない。

「はあ……はあ……くそっ、もうちょっとだってのに」

「なんかないかな、残りの50センチを稼げる方法」

俺とアリスは腕を組んで、うんうんとうなりあった。

しかし何も出なかった。

おれは既に全力を出しているのと、距離を稼ぐ、なんてこの世界にきて初めて考える事で二重のハードルになって、アイデアは出なかった。

そこにエミリーが現われた。

ハンマーを担いで、魔法カートを押して。

いかにもダンジョン帰りって格好だ。

「こんなところで何してるですかヨーダさん」

「いや、ちょっと……エミリー?」

「はい、エミリーです」

「いやその返事はおかしいでしょ。ってかどうしたのリョータ。変な顔して」

「エミリー!」

「はいです!」

俺はエミリーの前でしゃがんで、彼女の手を取って目をまっすぐのぞき込んだ。

「エミリーだけがたよりだ」

「ど、どういう事ですか……」

説明が終わった後、エミリーは玄関の横に立った。

俺は何回もやってきたように、玄関から距離を取る。

「いくぞ」

「はいです!」

エミリーに合図をだし、全速力でダッシュ。

猛然と玄関に向かって飛び込んでいく。

俺が玄関をくぐった瞬間、エミリーはハンマーを振った。

勢いをつけて、真横に盛大なフルスイング。

ハンマーは、俺に当たった。

当たる瞬間俺はアブソリュートロックの石で体を石にかえた。

絶対防御の体を、エミリーのハンマーがホームラン級のジャストミート!

助走で増した勢いの上にエミリーのパワーを上乗せ。

屋敷にはいって抵抗を感じた。

それでも体は進む。

一メートルを超えても進んだ。

進むペースが落ちる、エミリーのパワーを乗せてもクリスタルには届かない。

だけど――充分だ。

俺の全力ダッシュ、エミリーの全力ホームラン。

それで二メートル近く稼げた。

銃を突き出し、撃つ。

クズ弾が飛び出た、秒速5センチでノロノロ進む。

屋敷から押し出されたおれは仲間たちと一緒に銃弾を見守る。

ノロノロ、ノロノロ。

銃弾はのろのろ進み――クリスタルに当たった!

「おお!」

「どうだ!」

クリスタルに当たったクズ弾は同じ速度のママ進んだ。

クリスタルの中にめり込んで、同じ速度で進む。

そして、貫通。

動かないクリスタルはすべてを押しのけて進むクズ弾に貫通され、そのまま消えた。

風が吹いた、屋敷の中から突風が外に向かってふいた。

仲間たちがたっているのもつらいくらいの突風。

それがやんだ後。

「おっ、普通に入れる」

真っ先に屋敷に飛び込んだアリスは玄関の中で仲間のモンスターたちと一緒に踊った。

「すごい……本当に解決してしまうなんて……」

離れたところで感嘆するアントニオ。

クリスタルを消した俺は、新しい屋敷を手に入れたのだった。