軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第59話 野生のスコルピウスが現れた

カルキノスという男はどうやら十二星の中でもコミュニケーション能力はそれなりに高い方のようだ。

あれからもアリエスやリーブラ、アイゴケロスと仲良く(?)話しており、たまにリーブラに斬りかかられたりしながらも場が盛り上がっている。

だが新入りであるウィルゴだけはその輪に加わる事も出来ず、外から見ているだけだ。

知己の再会を邪魔しないように空気を読んでいるだけかもしれないが、この濃い面子の中でマトモな常識人である彼女はイマイチ馴染めていないようにも見えた。

俺は騒ぐ十二星達を放置してウィルゴの隣に座る。

「馴染めんか?」

「あ、ルファス様」

ウィルゴは半ば強引にパルテノスの命令で同行させられたようなものだ。

つまり他の面子と違って自分の意思で来たわけではなく、本来なら平和に過ごしていたはずのもんを俺達が引きずり出した形になる。

だからまあ、少し心配ではあるのだ。

彼女にとってこの旅が辛いものになるのは俺にとっても望ましくない。

「いえ、私ってここにいてもいいのかなあと……皆さん、凄い人ばかりですし。

私みたいな低レベルがいても役に立てる事ってないじゃないですか。

能力だってディーナさんの下位互換みたいなものですし」

ウィルゴが言うように、属性こそ違えどウィルゴとディーナのポジションは被っている。

共に後衛支援型であり、だがディーナが魔法と天法の両方を使えるのに対しウィルゴは天法しか使えない。

しかもディーナは水と金の二重属性持ちでその上知力極振りのレベル1000だ。

挙句エクスゲートというチート技までもが使用可能で後衛型のくせに相手の遠距離攻撃は一方的に無効化しつつ容易く距離も取れるので前衛の守りもそんなに必要ない。

改めて考えると、何だこの反則キャラ……。

しかしまあ、ウィルゴだって鍛え方次第ではディーナに負けない性能にはなるはずだ。

天翼族は魔法こそ使えないが基礎ステータスに優れ、堅い後衛という美味しいポジションにし易い。

そういう視点で見れば、ウィルゴのポテンシャルは充分ディーナに匹敵し得るものだ。

「そう焦る必要はない。其方はあのパルテノスが見出した後継なのだ。

直にあやつらにも並び立てる程になるさ」

「そうでしょうか?」

「そうだぜ嬢ちゃん。辛気臭い顔はしちゃいけねえ」

俺とウィルゴの会話に、無駄に渋くていい声が割り込む。

少なくとも俺の知らない声だ。

一体どこから発されたものかと思い声の方向へと視線を走らせれば、そこには調理待ちの食材――バロメッツがいた。

植木鉢から生えた植物の、一際大きな実から出た羊の頭部が喋っていたのだ。

「……魔物が喋るのか」

「おいおい黒翼のレディ、これはおかしな事を言う。

そりゃあ魔物だって喋るさ。オークだってベラベラ話すだろう」

……ああ、うん。そういやあいつらも喋ってたね。

というかアリエスやアイゴケロスだってよく考えなくても魔物だった。

バロメッツは無駄に渋いダンディな声でさも当然のように言葉を続ける。

「嬢ちゃん、難しく考える事ぁねえ。役に立たない奴なんてのはいねえんだ。

誰だって、どんな奴にだって必ず役割ってもんがある。輝ける場面があるんだ。

今は輝けずとも、嬢ちゃんにしかねえ輝きが必ずある。

自分を卑下するのは止めな。可愛い顔には似合わねえ」

調理待ちの食材が何か無駄にいい事言ってる……。

何だろう、言ってる事は正論なんだけど妙に腹立つ。

「俺だってそうさ。俺は自力じゃあ動く事も出来ねえ駄目な魔物だが、調理されて喰われる事で人を笑顔に出来る。食卓の上で俺は輝けるんだ」

「バ、バロメッツさん」

「其方それでいいのか」

どうしよう、どこから突っ込めばいいのか分からない。

俺が何とも言えずにバロメッツを見ていると、アリエス達との会話を終えたらしいカルキノスがこちらへ来てバロメッツの頭を鷲掴みにした。

「ルファス様、ミーはこれより旅の準備の為にバロメッツを全て燻製肉にしてきます。

よろしければ、もう少々お待ち下さい」

そう言い、カルキノスは厨房の奥へと歩いて行ってしまった。

どうやら長旅に使える保存食を作ってくれるらしい。

バロメッツは『嬢ちゃん、自分の可能性を信じるんだ!』などと言いながら連行され、そしてやがて声も聞こえなくなった。

彼はきっとこの先、美味しい保存食として俺達の助けとなってくれる事だろう。

……まあ、いい奴だったよ。うん。

それはそうと、今日はやけにディーナが大人しいというか静かだな。

まるで備え……いつ何が起きてもすぐに動けるように構えているようにも見える。

何かを待っている、否、何かが起こるのを知っているかのように。

……というのは俺の勘ぐりすぎだろうか?

*

荒野の上を、一人の女が歩いていた。

魅惑的なスタイルの、外見年齢二十台前半の美女だ。

彼女は肌を多く露出した黒いボンデージを着込み、上からは同じく黒い、ファー付きのコートを袖を通さずに羽織っている。

唇には紫の口紅が引かれ、左頬には真紅のハート上に黒い羽が描かれたタトゥー。

頭の上で括られた黒髪は足元にまで伸び、その先端部分はまるで蠍の尾のような形状となっていた。

いや、“ような”ではない。まさに蠍の尾そのものだ。

柔かなはずの髪はどういうわけか、先端に近付くほどに硬度を増し、先端部分で完全に尾と化してしまっている。

一言で語るならば毒婦。魅惑的な肢体で男を誘い、毒に漬けて喰らい尽くす。そんな危険な香りを隠す事もせずに女は振りまいていた。

名をスコルピウス。覇道十二星の一角に名を連ねる毒の 使い手(スペシャリスト) だ。

その視線の先にあるのは、かつて主を裏切った忌まわしき敵『七英雄』の一人であるミザールが作り出した鋼の王都。

「嫌あねえ、センスのない王都だこと。

雅さが足りていないわあ。ねえ、貴方達もそう思うでしょお?」

まるで酔っているような、あるいはへばりつくようなねっとりとした口調で女が話しかける。

その言葉を聞くのは背後に控えた幾千、幾万もの魔物の軍勢だ。

魔神族から借りた雑魚などではない。彼女自身が従える、蠍の軍勢。

エンペラー・バーサク・スコーピオン。彼女を示すその名に含まれた皇帝の名は伊達ではない。

彼女こそが蠍の王。砂漠に生きる全ての、蠍から変異した魔物の頂点。

故にあらゆる蠍の魔物は彼女の子であり、配下であり、手足でもあった。

彼女自身の絶大な戦闘力に加え、質と量を兼ね備えた軍勢。

これがあったからこそ、彼女は『冒険王』が作り出した王国『フロッティ』を攻め滅ぼす事が出来たのだ。

ルファスは一つの思い違いをしている。

彼女はフロッティには何の護りもなかったのだと考えている。

スヴェルで言うレヴィアやレーヴァティンで言う結界、そしてこのブルートガングのような魔神族の侵攻を跳ね返す守りがなかったから滅ぼされたのだと、そう勘違いしている。

違う、違うのだ。

フロッティにも確かに護りはあった。レヴィアにも劣らぬ護りが確かに存在していたのだ。

モンスターテイマーのスキルを持つフェクダが生前に何も残さぬなど、それこそ有り得ない。

彼は己が死ぬ前に、己が生前に捕獲した魔物の中でも特に選りすぐりの四体を国の守護獣として遺していた。

だがそれでも滅亡した。

冒険王が遺した護りを食い破り、蠍の軍勢が国を蹂躙し尽したのだ。

そして今また、次なる獲物を求めて彼女はこの地へと訪れたのである。

「でも格好の獲物だわあ。あんな狭い所に閉じこもっちゃあ、毒の廻りもさぞ早いでしょうねえ。

ああ……ああ……愉しみだわあ……ドワーフ達はどんな顔で苦しみながら死ぬのかしら。

穴という穴から血を垂れ流して、あの狭い棺桶から逃げようともがいて、絶望しながら死ぬんでしょうねえ……たまらない、濡れそうだわあ」

赤い舌を艶かしく出し、唇を舐める。

人類など苦しんで当然だ、と彼女は考えている。

むしろ苦しんで死ぬ事こそが義務だとすら思う。

だってそうでもなければ、とても主が報われない。

人類と世界の為にあれだけ頑張った主が最後には、その人類に裏切られて討たれたのだ。ああ、許せるものか。

だからスコルピウスは狂った。自らの意思で理性と倫理と秩序と自制を捨て去り、殺戮の狂者と化した。

血の池に溺れて悶え苦しめ。悲鳴を上げろ。絶望に染まれ。

今は亡き最愛の主に、その声が届くように喉の奥から泣き叫べ。

それだけが今の彼女を突き動かしているものだった。

主だけが彼女の全てだった。主の隣だけが彼女の世界だった。

それを奪われた今、生きる目的も意味もありはしない。ただ、奪った者達を皆殺しにする事だけが唯一、亡き主へ報いる道だ。

だからそこに戸惑いなどなく、可哀想だとも思わない。

女? 子供? 赤子? 老人? 知った事か。

全て纏めて平等に苦しんで死ね。

故に彼女は望んで狂う。狂気に身を委ね続ける。

この世界を絶望で染め上げる、その為だけに。

その侵攻は、ブルートガングからも当然のように感知された。

何より隠す気が微塵もない。

数万の蠍の魔物を率いて正面から歩けば、見付かって当然だ。

ブルートガングの最上階である十五街。そこではブルートガングの操作を許された元帥が険しい顔をしてモニタ越しに映る外の景色を眺めていた。

元帥……このブルートガングにおける軍の最高位を示す階級であり、この十五街にて全ての兵士に指令を出す実質的なブルートガングの最高位だ。

勿論名目的には王族の方が上に位置している。

だがブルートガングを動かしての戦闘などは彼に一任されており、実質上彼がこの王都のトップであると言って過言ではない。

「来たか……毒婦め」

髭が白く染まった元帥はドワーフの中でも一回り大きな体格を誇り、人間とほとんど変わらない。

青い軍服を着こなし、頭の上には星が五つ飾られた帽子。

口元にはキセルをくわえ、動じる事なく椅子に腰かけている。

名をジェネル。極僅かながら王家の血を引き、在りし日のミザールに生き映しとまで言われるドワーフの老将だ。

緊張はある。しかし動揺はない。

フロッティが滅ぼされた日から、いずれはこの日が来るだろうと予想はしていた。

既に十五街は第一種戦闘配備に付いており、部下達は全員がそれぞれの持ち場へと座っている。

「ブルートガング全街に緊急発信! これよりブルートガングは覇道十二星、『蠍』のスコルピウスとの戦闘に入る!」

「緊急発信了解!」

ジェネルの言葉に従い、すぐに部下の一人がマイクを手に戦闘に入る旨を繰り返す。

するとその言葉はブルートガング全域に広域発信され、王都内にいるあらゆる住民の耳へと入った。

実の所、一体どういう仕組みでこのような事が出来るのかは使っている彼等にも分かっていない。

偉大なる鍛冶王が作り出したこのブルートガングはあまりに技術が高すぎるが故にそのほとんどがブラックボックスであり、二百年経った今でも解き明かせていないのだ。

「こちらから先手を打つ! 砲撃用意!」

「砲撃用意!」

「目標補足!」

「 撃(て) ええええええええいッ!!」

ジェネルの号令を引き金に、ブルートガングの至る所から飛び出た砲門が一斉に火を吹いた。

大地を揺らす爆音を響かせながら大砲が矢継ぎ早に撃ち込まれ、蠍を蹴散らして行く。

だが肝心のスコルピウスはまるで動じず、悠々と歩を進めていた。

効いていない? 否、自らに届く前に髪を尾の如く操り砲弾を叩き落としている!

「駄目です、効いてません!」

「構わん、撃ち続けろ! 数は減らせる!」

「元帥、ゴーレム部隊の配備が完了しました!」

「よし、出撃させろ!」

ブルートガングのゲートが開き、そこから硬質な音を響かせてゴーレムの大隊が進撃する。

近年に造られたゴーレムは当然として二百年前にミザールが造り上げた高レベルゴーレムすら投入した出し惜しみなしの鋼の守護者達だ。

有人搭乗型のゴーレムには鎧を着込んだドワーフが乗り込み、恐れる事なく前進している。

「突撃ィィ!!」

隊を率いる隊長格のドワーフが叫び、ゴーレム大隊が一斉に加速した。

恐れを知らぬ鋼の番人達が荒野の大地を抉りながら前身し、魔物の群へと突撃する。

「迎え撃ちなさぁい」

それに合わせるように蠍の魔物達も前へと進み、中央でゴーレムと魔物が衝突した。

戦況は互角。

互いに恐れという感情の存在しない魔物とゴーレムであるが故に、退きも怯みもしない。

相手を滅ぼす事のみを考え、全霊を注ぎ込んで敵を討ち倒して行く。

仲間の屍を、あるいは残骸を踏み越え、ゴーレムと魔物は互いにその数を減らし合った。

「チャージ完了!」

「照準、定めい!」

「照準セット!」

「砲撃地点確認!」

「敵が600! 味方が100! 味方は全てゴーレムです! ミザール製は1体のみ!」

「よおし……主砲、 撃(て) ええええええい!!」

敵を多く削る為ならば、多少味方を巻き込む事すらも厭わない。

要はそこに生きているドワーフさえいなければいいのだ。

ゴーレムはまた作り直せばいい。

ミザール製は流石に作りなおせないが、それでもここで躊躇は出来ない。

1と600の引き変えを惜しんで機を逃す事は出来ないのだ。

その狙い通りに多くのゴーレムが砕け散り、それを代償として更に多くの魔物を肉片へと変えた。

「あらあら、味方ごととはヤンチャねえ」

戦況はこれで多少ブルートガングへと傾いた。

いかに強かろうと、相手は戦略も戦術も知らぬ魔物の寄せ集め。

質と数で互角ならば戦略を持つこちらが有利だ。

その考えは決して間違いではなく、戦争というのは常に戦略が物を言う。

だが、侮ってはならない。今戦っているのはその戦略すら単機で引っくり返す化物なのだから。

故にこその覇道。故にこその十二星。

その自負があるからこそ、スコルピウスに動揺はない。

「なら、私も少し遊んでみようかしらあ!」

スコルピウスの形相が狂気に染まる。

目を見開き、口が耳まで裂けているかのように笑い、せっかくの整った美貌を醜悪に歪めてゴーレム達へと踊りかかった。

髪――否、尾が動いたと思った瞬間にゴーレム達が纏めて薙ぎ払われた。

スコルピウスの本領はあくまで毒だが、だからといって攻撃力が低いわけではない。

ましてや今の彼女は常に狂い続け、狂っている事が正常な状態。

常に狂化しているという事であり、その攻撃力は当然跳ね上がっている。

低レベルのゴーレムは無論の事、レベル300や400のゴーレムですら耐え切れる攻撃ではない。

「ほらほらほらァ!」

目で見る事も出来ないほどに高速で振るわれる尾が次々とゴーレムを残骸へ変えて行く。

何とか彼女を止めようとゴーレムが殺到するも、いくら数を揃えても同じ結果に終わるだけだ。

そしてこの猛攻により高レベルのゴーレムの多くを失ったブルートガングは一気に劣勢へと追い込まれる事となった。

均衡が崩れた所に魔物達の攻撃が雪崩れ込み、次々とゴーレムの数が減らされて行く。

誰の目から見ても、このまま続けばどちらが勝つかは明白だろう。

「げ、元帥! こうなったらブルートガングを突撃形態へと!」

「駄目だ! 忘れるな、奴は毒を持っている!

近付けば例え勝てても住民が死ぬ! それは敗北と同義と思え!」

「しかしどうすれば!」

「天秤部隊を出す! 奴に対抗出来るのはそれしかない!」

「……! 了解、天秤部隊を出撃させます!」

ブルートガング自身の突撃こそがブルートガングの保有する最大の戦力だ。

だがこの戦闘においてそれは出来ない。

近づく事は毒にやられ、住民を失う事を意味している。

だがブルートガングの持つ切り札は一つだけではない。

もう一つの切り札――『天秤部隊』。

その名を冠した四つの人影が出撃し、空中にて陣形を取った。

「ん?」

呑気に見上げたスコルピウスの目に映ったのは、懐かしい戦友の姿だった。

同じ覇道十二星に所属し、『天秤』の名を冠した殺人メイド、リーブラ。

それがあろう事か四体、空中にて魔物達を見下ろしていた。

「は? 何よあれ……リーブラじゃなあい」

「目標補足……破壊します」

よく見れば色が違う。

リーブラの髪が茶色であるのに対し、あの四体のリーブラは白髪だ。

しかしそれ以外は記憶にある戦友と何ら変わりなく、更にそのうちの二体がこれまた見覚えのある武装を展開した。

「 右の天秤(ズベン・エル・ゲヌビ) ……ファイア!」

「! ちいっ!」

リーブラが持つ遠距離主武装の『右の天秤』。その威力はスコルピウスも知っている。

紫電を纏った二条の光線が大地に突き刺さり、数多の魔物を一斉に薙ぎ払った。

咄嗟に回避したスコルピウスだが、その隙を突くように煙の中から二体のリーブラもどきが飛び出す。

「 左の天秤(ズベン・エス・カマリ) 」

左腕を刃とし鋼鉄すら切り裂く、これまた見覚えのある攻撃。

それをスコルピウスは尾で迎撃し、防ぎ切る。

だが二体目のリーブラが素早く横に回り込み、刃を薙いだ。

間一髪――刃は僅かに頬を掠めだけに留まり、だが見間違いようのない負傷をスコルピウスへと与えた。