軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第58話 野生のカルキノスが現れた

ドワーフ達の田中調査は大体三時間ほどで終わった。短いと思われるかもしれないが、これも錬金術あってのものだ。

その間に買い物を終えたディーナとリーブラも戻り、今では改修された田中を俺と共に呆れた顔で見ている。

改修……そう、田中は調査だけに留まらずちょっと調子に乗って改修してしまったのだ。

最初はドワーフ達がバラしたりして調べていただけなのだが、途中から暇を持て余した俺が加わったのが不味かった。

言い訳をさせて貰うなら、ドワーフから買ったこの国特有の素材が予想以上にいい物だったのが悪い。

名を『ミザール鋼』というらしく、偉大な建国者であるミザールの名を付けられた、ここ百年で造られた新しい鉄だ。

堅く、軽く、柔軟性にも優れたそれはゴーレムに用いた場合の限界レベルが驚きの400に到達していた。

惜しむらくは、この国にその限界レベル一杯のゴーレムを造れる高レベルアルケミストがいない事か。

いれば今頃この国はレベル400ゴーレムで戦力が充実していただろうに、勿体ない話である。

勿論俺ならこの素材を十全に活かす事も出来るし、量産型ゴーレムのいい素材となってくれる事だろうから多めに購入にしておいた。

いずれは王墓で回収したゴーレムと合わせて中堅レベルゴーレムの一個大隊とか造ってみたい。

で、田中もとりあえずミザール鋼で強化しておいたのだが、これが少しやりすぎだった。

ドワーフ達に色々教わったり、逆に俺が現代日本の知識を適当に伝えたりして共同で田中を改造したのが不味かったのだろう。外見こそほとんど変わっていないが、元々でかかった田中は更に大きくなり、全長15メートル、高さ2、8メートルまで巨大化した。

間違いなく日本の道路を走れない特大サイズで、中もちょっとしたホテル並に豪華になった。

つまりこの世界基準で言うと凄く豪華という事だ。

床は磁器タイル。壁やキャビネットにはあえて木を使い、普通に売ってたニスを塗って光沢を出した。

この国はニスが普通に出回っているらしく、手造りする手間が省けたのは嬉しい誤算だ。

布とかも購入し、カーペットやらソファやらベッドやらも新調している。

多分これで宿泊施設やれば金も取れるだろう。やらないけど。

「いい出来に仕上がったのう!」

「かっかっか、満足じゃあ!」

ドワーフレンジャーも満足そうに笑い、田中を見上げている。

とりあえずサスペンションやらタイヤの構造やらは彼等も十分理解したと思うので、そう遠くないうちに現代風の車に似た搭乗型ゴーレムがこの国にも登場する事になるだろう。

余談だが、ミザール鋼や布は格安で売ってもらえた。

田中を調べさせてくれたお礼、という事らしい。

本人達は『無料でいい』とまで言ってくれたが、流石にそれは悪い気がしたので格安で落ち着いた、というのが実際の所だ。

「ところでリーブラ、カルキノスの居場所は分かったか?」

「その質問をお待ちしておりました。既に突き止めています」

「よし、ならば次はそこへ向かうとしよう」

ちょっと忘れそうになっていたが、俺達がここに来た目的はカルキノスとの合流、およびスコルピウスを止める事である。

カルキノスの居場所も無事リーブラが突き止めてくれたようだし、これならすぐにでも迎えに行く事が出来るだろう。

俺はドワーフレンジャーに軽く挨拶をすると、先頭を歩くリーブラに付いて行った。

再びゲートを潜り、王都へと戻る。

そして歩く事数分、俺達はやがて見覚えのある一軒の店の前へと到着していた。

それは、最初この王都に来た時に俺がお洒落だと思った、蟹の看板の店だ。

「…………」

何という事だろう。カルキノスはまさに目と鼻の先にいたわけだ。

しかも堂々と蟹の看板を掲げて。

その、なんだ。まず言い訳をするなら、人っていうのは結構視野が狭いというか、何かを探そうとすればするほど近くの物が見えなくなる生き物なんだ。

こんな話を聞かないだろうか。下手に隠れているよりも、むしろ堂々と街中を歩いてる奴の方が見付かりにくいとか、そういう話。

今回の件はまさにそれで、灯台下暗しというかだな。

というか予想しないだろう。十二星の一角がこんな所で店やってるなんて。

「目の前でしたねえ」

「目の前ですな」

ディーナとアイゴケロスが俺に追い討ちをかけるように呟く。

なんだよ、お前達だって気付いてなかっただろ。

「ま、まあよい。ともかく中に入ろう」

俺は話題を逸らすように皆を急かし、店内へ入る。

壁やテーブルが木製の、静かな感じの店だ。

だが自然そのままというわけではなく、ニスでもかけられたかのように光沢を放っている。

テーブルには赤い布がかけられ、照明が弱いのがかえって雰囲気を盛り立てている。

そしてカウンター前に立つ、眼鏡の青年。

艶のある黒髪は首の後ろでバッサリと切り揃えられ、刃を思わせる切れ目の瞳には眼鏡をかけている。

鼻は高く、全体的に見て整った顔立ちだ。

スラっとした長身に、白いシャツの上にネクタイ。更にその上からは赤いベストを着こなし、スラックスと靴は黒。

なんというか、『出来る男』って感じだ。

その男は俺を見るや、突然その場から跳躍して空中で回転すると、天井に激突して跳ね返った。

ベシャリという音を立てて俺の前に墜落したと思ったら即座に立ち上がり、俺の両手を握る。

「Oh! I was surprised!

ルファス様ァ! そこにおわすは我が最愛の主、ルファス・マファール様ではありませんかァァ!」

あ、これ駄目なタイプだ。

いきなりだが前言を撤回させてくれ。これ『出来ない男』だ。

彼はその場でクルクルと回り始めると、何故か周囲にバラの花弁を撒き始めた。

「嗚呼、この日を……この日をどれだけ待ちわびた事か。

このカルキノス、貴女様を失って以来一時もあの時の無念を忘れる事は出来ず、夜も眠れずに昼寝をし、食事も喉を通らず間食をし、いつかまたお会い出来るだろうと信じて待ち続けておりました」

意外と大丈夫そうだな、おい。

呆れる俺だったが、突然店内の照明が落ちたと思ったらスポットライトのようにカルキノスを照らし出した。

「しかしミーは信じておりました。貴女様があの程度で終わるはずがないと。

いつか必ず再会出来ると確信していたのです」

そう言うとカルキノスは俺の腰に手を回し、手を掴む。

そして社交ダンスでよく見る、男が女性側の腰を支えてるアレをやった。

何て言うんだっけ……ドロップ・オーバースウェイだったか?

だが俺が考えている間に体勢も戻り、最後にカルキノスは俺の前に跪いて呆気に取られる俺の手の甲に口付けをした。

男にやられると、何か薄気味悪いものがあるな。

「よくぞお戻りになられました、我が麗しの主よ。

この再会に感謝を。そして二百年経っても変わらぬ我が愛と忠誠を貴女へと捧げ――」

そこまで言いかけたカルキノスだったが、彼の言葉は最後まで続く事なく中断させられた。

その理由は簡単で、リーブラが無表情で光刃をカルキノスの首に突き付けているからだ。

「……や、やあ……ユーもいたのか、リーブラ」

「お久しぶりです、カルキノス。早速ですが許可もなくマスターの腰に手を回した事への弁解を聞きましょう」

「いやその、何だ。ミーとユーの仲だ。少しくらい多目に見てくれても……」

「それが最期の遺言ですね。承りました」

「NOォォォォォウ!?」

リーブラが躊躇なく薙いだ剣をカルキノスがブリッジでかわし、そのままの体勢でシャカシャカと動いて距離を取る。

そして素早く立ち上がるも、既にリーブラが次撃へと移っていた。

俺はそんな、「Help!」と叫んでリーブラから逃げ回るカルキノスを見て、小さく溜息を吐く。

……十二星、ほんっとロクなのいないなあ……。

*

【12星天カルキノス】

レベル 800

種族:キングクラブ

属性:土

HP 105000

SP 4500

STR(攻撃力) 4850

DEX(器用度) 2228

VIT(生命力) 10503

INT(知力) 1180

AGI(素早さ) 2134

MND(精神力) 4160

LUK(幸運) 4050

うん、堅いな。

カルキノスのステータスを見て、俺は改めてこいつのアホみたいな堅さに呆れそうになった。

生命力はこのゲームにおいていかに敵の攻撃に耐えられるかの数値であり、要は防御力だ。

生命力が高い=身体が強靭=堅いって事らしい。

で、このカルキノスは十二星最大の防御の持ち主なわけだが、これがその数値だ。

生命力、という一点に限って言えばレベル1000でドーピングしまくりな俺にすら匹敵している。

ついでにHPも高い。

「で、何故こんな所で店を開いているのだ其方は」

カルキノスとリーブラの追いかけっこが一段落し、落ち着いた所でカルキノスへ問いかける。

俺達が全員がカウンター前に座り、カウンターにはカルキノスが作ってくれた蟹スープがある。

味は確かに蟹そのものだ。こんな国でどうやって蟹を入手したのかは気になるが……まさかこいつ、自分を出汁にしたりしてないだろうな。

カルキノスは今は人間の姿だが、魔物の例に漏れずその本性は巨大な蟹だ。

魔物名をキングクラブ。蟹から変異した魔物の中では最強とされるモンスターで、馬鹿みたいに高い防御力と鬱陶しいカウンター能力で数多のプレイヤーが苦しめられた。

そんなわけで、こいつを出汁にする事は一応不可能ではないが……などと思っているとウィルゴが「あ、これバロメッツだ」などと言い出した。

横を見れば気付かず食べてしまったアリエスが青い顔をしている。

おいカルキノス、何さらっと詐欺行為働いてるんだ。

蟹と偽ってバロメッツを出すな。

「よくぞ聞いてくれました。ミーはルファス様が敗れた後、いつか訪れる復活の時を信じて各国を巡り歩き、情報を集めました。

しかしある時、自分自身で歩き回るよりも、情報が集まってくる場所を自らが作った方がいいと気づいたのです」

「それで飲食店か」

「Yes、That's right。ある時はフロッティ、ある時はユーダリル、ある時はスヴェル。そして今はブルートガング。

各国を巡り、店を開き、そして情報を集めていたのです。

いつかきっと、ルファス様ご復活に繋がる有力な情報が舞い込んで来ると信じて」

「で、そうこうしていたら余自身が舞い込んで来たと」

「Yes、Yes、Yes! これぞ運命だとミーは感じました!

やはりミーとルファス様は主従の赤い糸で繋がれているのです」

うーん……発想そのものは悪くなかったんだと思う。

こいつの失敗はブルートガングなんていう文字通り外界と遮断されている王都に店を建てた事だろう。

例えばこれが交易都市ユーダリルならば世界各国から商人や旅人が来るわけだから、もっと早くに俺の復活を知る事が出来たはずだし、もっと早くに合流出来ただろう。

発想は悪くない。だが選んだ場所が致命的に悪すぎた。

と、言ったら落ち込みそうだから言わないがな。

「場所選びを間違えてますよねえ。どうせ店を開くならユーダリルですよ」

とか思ってたらディーナがあっさり言いやがった。

カルキノスはショックを受けたように固まり、そのまま床に伏せてしまう。

「……本当はミーも薄々そんな気はしてたんだ……この国、なんか外の情報入ってこないなーって……」

「いや、気付こうよ。相変わらずお馬鹿なんだねカルキノスって」

落ち込むカルキノスにアリエスが容赦なく追撃を入れた。

元々素直というか、サラッと毒を吐くのがアリエスだったが今回はいつもより辛辣だ。

多分、蟹と騙されてバロメッツを食わされたのを怒っているのだろう。

ともかく、これでカルキノスとの合流は果たせたわけだ。

今までは必ず何かしら一悶着あった事を思えば、案外一番スムーズに合流出来たんじゃないだろうか。

……後はこれで、変に癖のない奴だったら最高だったんだがな。