軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖人インゴルフの暗躍

立ち上がってみんなを助けに行こうとした瞬間、足下から蔦がいくつも這い出てきた。

「なっ――!?」

私を覆うように伸びた蔦は頭上で集まり、鳥かごのような形になる。

手を伸ばそうとするも、軽く弾かれてしまう。

どうやらメルヴ・ウィザードが結界を張ってくれていたらしい。

きっと何かあったときに、あらかじめ私を守るよう展開していたのだろう。

遠隔で回復術を施そうとするも、結界内から外へ干渉することができないようだ。

そんな状況の中、聖人インゴルフがゆっくり歩きながら話しかけてくる。

「やっぱり、偽物の聖女なんて存在してはいけなかったんだ。謝るよ、ごめんね!」

いっさい悪びれる様子もなく謝罪してくる。

「君達がせっかく聖女をお披露目しようとやってきたのに、妨害するようなことをしてきたから、怒っているんだろう?」

信じがたい、という目で見ていたら、聖人インゴルフはパン! と手を打った。

「ああ、そうだ! この姿が醜いから無視しているんだね! わかってるわかってる、君達人間は美しい生き物が大大大好きってね。待っててね、すぐにどうにかするから。そこにいい 存在(もの) があるのさ!」

いったい何をするというのか。

それに〝いいもの〟とは?

踵を返した聖人インゴルフは、まっすぐ王太子殿下のもとへと向かった。

「なっ、何をするというのですか!?」

「何って、知らないの? 王族の血はね、とーってもおいしくって、栄養がたっぷりあるんだよ」

それは王族の血の味を知っている者の発言としか思えない。

「どこの国も、王家の者達に流れる〝青い血〟は絶品でねえ」

青い血というのは王家同士の結婚しか許さず、長い歴史において混じりけのない血筋を守ってきた者達を示す言葉である。

また、労働を知らない王族は日に焼けることがないため肌が白いので血管がはっきり見え、そこに通る血が青く見えたことから囁かれるようになったという謂われもあった。

「あなたどうして、青い血の味を知っているのですか?」

「決まっているじゃないか! いただいたからだよ!」

初めて口にしたのは、二十年以上も前だという。

「味見のつもりだったんだけれど、小さかったから、一瞬で干からびてしまったんだよね!」

「干からびる……?」

それを聞いてハッと気付く。

「まさか、王太子殿下のお兄様の死は、あなたが関係しているのですか?」

「ああ~、まあ、はっきり言えばそうだね。でも、秘密だよ」

王太子殿下の双子の兄君は旅先で奇病に罹り、たった一晩で干からびて亡くなってしまったという。

それは奇病でもなんでもなく、聖人インゴルフが全身の血を吸い尽くしたことによる失血死だったようだ。

「大丈夫、心配しないで。王太子殿下の血は吸い尽くすことはしないから! 彼にはこの先も細々と生きてもらって、私のごちそうになってもらわなければいけないからさ!」

「あなた、これまでも王太子殿下の血を吸っていたのですか?」

「そうだよ? でもやり過ぎるとバレるから、十日に一回くらいで我慢していたんだ!」

なんてことだ、聖人インゴルフが頻繁に王太子殿下の血を奪っていたなんて。

魔力吸収に加えて血も飲まれていたとなれば、起き上がれなくなるわけである。

べらべら喋るのをいいことに、私は核心を突くような問いかけをした。

「ずっとあなたのことを、インキュバスか何かの悪魔だと思っていたのですが」

インキュバスであれば標的は女性のみで、血なんか吸わない。

そう思っていたが――。

「あはは、気付いていたんだ、そうだよ、正解。私はインキュバスなんだ」

「インキュバスは血ではなく、精力を吸うのでは?」

「そうなんだけれど、私はインキュバスと吸血鬼の間の子だからさ、どっちもたくさん必要になるから、ずっと困っていたんだ!」

まさかの情報だった。

必死になって調べて回っていたのに、王太子殿下に執着する部分が謎でしかなかった。

彼は吸血鬼として、王太子殿下の血を求めていたのだ。

「君の一人目の夫の血もさ、おいしかったんだけれど、王家の血は半分しか流れていなかったでしょう?」

「ルーベン様に、王家の血が?」

「ああ、知らなかった? 彼は王妃とメクレンブルク大公の間に生まれた子なんだよ」

聖人インゴルフへの依存から解放するため、メクレンブルク大公が王妃と接触していたことは知っていたが、まさかそんな関係にあったなんて。

「おいしかったにはおいしかったんだけれど、半分しか王家の血が流れていないからか、どこか臭みがあってねえ。それに彼、ルーベンは勘が鋭いところがあってさ。吸血したあとは大抵意識が途切れて前後の記憶はなくなるんだけれど、うっすら覚えていたみたいでさ」

ルーベン様からの追求を受け、聖人インゴルフは距離を置くことにしたようだ。

「まあ、彼も私を拒絶していたからね、いい機会だと思って」

ルーベン様までそんなことをしていたとは。絶対に許せない。

怒りがふつふつとわき上がるも、今の私には何もできず、歯がゆい思いとなる。

「もう、いい? 君が浴びせてくれた浄化術のダメージが地味にきつくてね」

そう言って聖人インゴルフは眠る王太子殿下に接近した。

「王太子殿下の血を一口飲んだら、こんな傷、一瞬で治るからさ!」

聖人インゴルフの口から、鋭い牙が見えた。

私は手を伸ばすも、メルヴ・ウィザードが張った結界に阻まれてしまう。

「王太子殿下、危ない!!!!」

聖人インゴルフは王太子殿下の肩にがぶり、とかぶりつく。

「ああ――!」

頭を抱えた瞬間、苦悶に満ちた叫びが部屋に響き渡った。

「ぎゃああああああああ、があああああああ!!!!」

叫んだのは王太子殿下ではなく、聖人インゴルフのほうだった。

「臭い! 臭い! どうしてこんなに臭い血なんだ!?」

耐えきれず、聖人インゴルフは倒れ、床でのたうち回る。

「ああああああ、がああああああ、ぐうううううう!!」

大量の血を吐き、苦しみの声を上げ、転がり回るも体が朽ちるばかりであった。

「お前、お前、いったい何をしてくれたんだ!!」

その問いに、王太子殿下が起き上がって答えた。

「ニンニクをしこたま食べていたんだ。おかげさまで、血は臭かっただろう?」

「お前えええええええええ!!!!」

聖人インゴルフは最後の力を振り絞り、立ち上がる。

拳を振り上げ、王太子殿下へ振り下ろそうとした。

その瞬間、矢のような鋭い雷撃が聖人インゴルフの体を貫く。

「がっ――!?」

振り返った聖人インゴルフの視線の先に、エーリク様が立っていた。

「お、お前、なぜ、動ける? 血の棘には、毒があって、触れただけで、し、死んでしまうというのに……!?」

「血の棘で貫かれたのは、幻術で作り出した僕だからね」

「なっ!?」

聖人インゴルフに刺さった雷撃が爆ぜた。それが致命傷となる。

彼の体はあっけなく力尽き、倒れてしまった。