軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖人インゴルフ

「ごふっ――!」

聖人インゴルフは胸を押さえ、吐血した。

ふらふらと後退したかと思えば、力なくその場に 頽(くずお) れる。

「我が、野望も……ここで、潰えたり……なーんて、言うと思った? 残念、この体は 模造品(ダミー) だよ!」

聖人インゴルフは口周りを血で塗らした状態で、底抜けに明るく言う。

「本物の私はどこにいるかな? ゾンビ達と戦いながら、探してみてね!」

そう言って、模造品だと言っていた体は消えてなくなる。

「あいつ……」

「エーリク様、王太子殿下とメクレンブルク大公が心配です」

「ああ」

ここでメルヴ・ウィザードが私の服の袖を引き、いつの間にか展開させていた魔法陣を示しながら言った。

『ココ、安全ダヨ』

どうやら結界を作ってくれたらしい。

「メルヴさん、ありがとうございます。でも、わたくしもエーリク様と一緒に行かせてくださいませ」

「危険だ」

「承知の上です」

もしかしたら足手まといになる可能性がある。けれどもこの場で、自分だけ安全な場所で待つことはしたくなかった。

「ゾンビ達は聖術が弱点ですし、聖人インゴルフとの戦いの中で負った傷も回復術で癒やせますので、どうか最後までお付き合いさせてください!」

「ゼラ……」

「お願いします」

ここでダメだと言われたら諦めよう。

そう思っていたのだが、エーリク様は「わかった」と言って頷いてくれた。

「ゼラを危険な目には遭わせない」

「――っ、ありがとうございます!」

きっとこれが聖人インゴルフとの最後の戦いとなる。

心して挑むつもりだ。

問題はメクレンブルク大公と王太子殿下、どちらへ救助に向かうかである。

エーリク様は迷わず選択した。

「先に王太子殿下をお助けする」

「はい、承知しました」

王太子殿下は未来の国王である。

聖人インゴルフの毒牙にかからせるわけにはいかない。

「では、転移魔法で」

「いや、転移魔法は使えない」

なんでも聖人インゴルフの魔力干渉があったらしく、屋敷全体の魔法に 歪(ひず) みが発生しているらしい。

「直接向かうしかないようだ」

そんなことを話している間に、ゾンビ達が押し寄せる。

「わたくしにお任せを!」

浄化術で一掃し、先を急ぐ。

「次から次へと!」

ゾンビ達はどこからともなく召喚され、私達を襲い来る。

最初は修道服を着ているゾンビばかりだったが、次第に服装がバラバラになってくる。

「おそらく大聖堂の地下にある、安置所の遺体でゾンビを作ったのだろう」

「亡くなったお方を利用するなんて、許せません!」

遺体は丁重に扱いたい気持ちはあるものの、一瞬でも気を抜けば命を刈り取ろうと襲ってくる。

「みなさん、ごめんなさい!」

謝罪しながら浄化術で襲撃を回避していく。

迫り来る大波のようなゾンビの群れを倒して回り、やっとのことで王太子殿下がいる部屋に辿り着く。

展開していた結界は破壊され、扉も破かれていた。

「王太子殿下!!」

急いで駆け寄るも、傍に聖人インゴルフが接近しているところだった。

「やめろ!!」

エーリク様は雷撃を矢のように放つ。

聖人インゴルフは振り返りもせず、 障壁(バリア) で防いだ。

ゆっくり振り返った聖人インゴルフは、いつも通り笑顔だった。

けれども少しだけその笑みに怒りが滲んでいたように思える。

「ふふ……彼をこんなところに隠していたなんて、すごーく探したんだよ」

王太子殿下の不在はすぐにバレるかと思いきや、枢機卿就任と重なり多忙だったからか、気付いていなかったらしい。

夜会の騒動を受け、ここにいるのではないか、と思ってやってきたのだという。

「厳重に結界を展開して、ここにいますよ、って言っているようなものじゃないか」

「その様子だと、結界を壊すのに時間がかかったのではないか?」

「うるさい!!」

初めて見せる、聖人インゴルフの余裕のない言葉だった。

彼は衝撃破のようなものを放つ。

床が捲れ、カーテンはズタズタ、窓ガラスは割れてしまう。

即座にメルヴ・ウィザードが結界を展開し、私達を守ってくれた。

エーリク様は蔓魔法で聖人インゴルフを拘束するも、すぐに脱出してしまう。

「こんなもので、私が捕まると思っていたのか!?」

その言葉は無視し、エーリク様は「今だ!!」と指示を出す。

「――神よ、 浄化せよ(ピュリファイア) !」

ゾンビでないのでそこまで効果があるわけではないだろうが、悪魔であれば聖術は苦手なはず。

そう思って最大出力の浄化術を聖人インゴルフに浴びせる。

「がああああああああ!!!!」

想定通り効果は抜群のようで、聖人インゴルフは断末魔の叫びを上げた。

全身から血が吹き出し、皮膚はただれ、ふらふらな状態となる。

「はは、あはははは……あーあ」

もう一撃――そう思った瞬間、聖人インゴルフはまさかの行動に出た。

部屋に散った血から鋭く長い、槍のような 棘(いばら) を生やし、私達に向かって突き出してきたのだ。

「――!?」

先にエーリク様の体が棘に貫かれ、私の腹部にも迫る。

衝撃を覚悟したが、先ほどエーリク様が展開した蔓魔法が棘に巻き付き、届かなかった。

「はあ、はあ、はあ……」

気がつけばメルヴ・ウィザードも倒れ、ふわりんも棘にぶら下がっていた。

「聖女ギーゼラ、やっと二人きりになれたね」

聖人インゴルフは皮膚がただれた顔で、にやりと笑った。