作品タイトル不明
暗躍する悪魔
それからというもの、聖人インゴルフは聖教会の上層部を掌握したという。
ただ、長年メクレンブルク大公家が統べていた聖教会を、シモンがいるのに乗っ取っているのではないのか、と不満に思う信者もいたようだ。
シモンはその者達を集め、抗議活動を行ったという。
けれども聖人インゴルフはその活動を、神への違背行為とし、シモンと信者達を聖騎士に拘束するよう命じた。
その後、シモン達の行方を知る者はいないという。
イゾルテは大丈夫なのか、と思って探偵に調べさせた。
子どもをお腹に宿した状態で困っているのであれば、助けてあげようと思っていたのだ。
しかしながらイゾルテは聖人インゴルフの取り巻きの一人となっており、シモンのことなんて欠片も心配していないという。
またロイス司教との関係も表沙汰とし、婚約まで発表したようだ。
シモンが私との離縁を隠していたのをいいことに、好き放題振る舞っているという。
心配をして損をしたと思ったのと同時に、呆れたとしか言いようがなかった。
状況はめまぐるしく変わっている。
聖人インゴルフは枢機卿に就任したあと、国王夫妻にも取り入ることを忘れず、良好な関係を築いているという。
その人は国をも乗っ取ろうと画策する悪魔だ! と言ってやりたいが、残念ながら証拠はなかった。
エーリク様は聖人インゴルフを追い詰めるための材料を探しているという。
私も同行することはあったものの、基本的にはオルデンブルク大公家の屋敷に残り、メクレンブルク大公と王太子殿下の看病をしている。
メクレンブルク大公の魔力は順調に回復するも、意識が戻ることはない。
心配になったので、医者に診せたいと頼んだところ、エーリク様は隣国から医者を呼んでくれた。
「どうもどうも、闇医者です」
その名もハリー・ジール――曇った眼鏡をかけ、無精髭を生やした年齢不詳感のあるお方だが、エーリク様曰く腕はたしからしい。
メクレンブルク大公の容態については、安定していて問題ないとのこと。
それを聞いて安心する。
「あの、先生、王太子殿下のことも、診察していただけますか?」
「同じ、魔力の枯渇状態なんだよね?」
「ええ、そうだと思っていたのですが」
メクレンブルク大公と比べ、王太子殿下は日に日に元気になっている。
けれども引っかかる部分があったのだ。
「関節が痛むとおっしゃっていて」
「筋肉痛とかではなくて?」
「はい」
さらに、ぶつけていない場所にも内出血のような場所が見られたのだ。
「王太子殿下は、眠っているときにぶつけたのかもしれないとおっしゃっていたのですが」
「なるほど」
通常であれば、気にしなかったのかもしれない。
けれどもその症状に覚えがあったのだ。
「実は、わたくしの亡くなった夫も似たような症状を訴えておりまして」
ルーベン様が生きていた頃から付けていた日記帳に、同じ症状を訴えていたという記録が残っていたのである。
メクレンブルク大公家に出入りしていた医者は、これは不治の病で完治は難しいと言っていたのだ。
「もしかしたら、気のせいかもしれないのですが……」
メクレンブルク大公家にも聖人インゴルフは通ってきていた。
同じように魔力を奪われたことによる症状かもしれない。
けれどもメクレンブルク大公には内出血などなかったので、もしかしたら王太子殿下とルーベン様は同じ不治の病かもしれない、と思ったのだ。
隣国は医術が発達している。そのため、もしかしたら不治の病について治療法があるかもしれないのだ。
そんな一縷の望みにかけて、相談してみた。
「なるほど……。それだけの情報でははっきりわからないけれど、詳しく調べてみよう」
「お願いします!」
今はかつて孤立無援状態だった私の状況とは異なる。
なんとしてでも、治してもらわなくては。
そんな思いのもと、私は看病を続けたのだった。
◇◇◇
ついに、ついに、ついに――卵の黄身が元の色に戻った!
緑色の黄身とようやくお別れできたのである。
これまで野菜で色を誤魔化しつつ食べていたのだが、今日から小細工せずにおいしくいただけそうだ。
あまりにも嬉しくて、朝食にオムレツと茹で卵、カスタードパンを作った。
エーリク様に成果の報告と共に振る舞う。
「おお、卵の色が元に戻ったか」
「はい!」
エーリク様はオムレツを見ながら「卵とはこんな色だったな」としみじみとした様子で呟いていた。
「いただきましょう」
「ああ、そうだな」
エーリク様がオムレツを食べる様子を見守る。
「おいしい! なんというか、きれいな黄色というものは、食欲が湧くな」
「そうなんです!」
野菜などで食べるときは気にならないのだが、卵の緑はどうも気になってしまう。
これまで頑張ってよかったと思いながらオムレツを頬張った。
卵はふわふわで、トマトソースとの相性もよく、どんどん食べてしまう。
エーリク様がしきりにおいしい、おいしいと言ってくれるので、私も嬉しくなった。
新鮮な卵のおかげで、大満足の朝食となったのだった。