軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第950話 ノーヴェ砂漠偵察任務の概要

ネツァクの外壁門を潜り、街の外に出たラウル達。

今現在ネツァクは戒厳令により、特に砂漠側の門は固く閉じられている。なので、ここを通ると衛兵達に言ったらものすごく驚かれた。

だがそれも、ラウルの「冒険者ギルドからノーヴェ砂漠の偵察として派遣された」という言葉とギルドカードの提示により、すんなりと受け入れられた。

ちなみにマキシは『冒険者ではないマキシは、人化したままだと門のところで止められて外に出られないかもしれない』という理由により、外壁門に到着する手前でこっそりと人化を解いてラウルの燕尾服風ジャケットのポケットに顔だけ出して潜っていたりする。

カラスはそのつぶらな瞳も嘴の色も黒いので、ラウルの漆黒の燕尾服が保護色となってぱっと見ではマキシがそこにいることが全く分からない。

そうして四者はネツァクの街の外に出た。

街の外、すぐ目の前にはノーヴェ砂漠が広がっている。

外壁門の近くの数メートル以内こそ、岩や小石が多いゴツゴツとした荒地だが、そこから向こうは次第に砂の割合が増えていく。そして数分も歩けば完全な砂漠となる。

「これが砂漠というものですか……本当に、木の一本どころか草一つ生えていませんね……」

「木がないから、羽を休める木陰すらない……我ら八咫烏には到底住めぬ地だな」

「僕もカタポレンの森を出てから一度だけ、この砂漠を通りましたが……あの時は本当に死ぬかと思いました……」

生まれて初めて見る砂漠という地に、フギン達は驚愕の面持ちで辺りを見回している。

見渡す限り続く不毛の地に、レイヴンどころかフギンでさえもその声音の中に恐怖が宿っていた。

ちなみにマキシは、かつてラウルを追ってラグナロッツァに辿り着く前にこのノーヴェ砂漠を通過したことがある。

その時の地獄のような恐ろしさを思い出してか、兄達と同様にノーヴェ砂漠を見ては身体が震えている。

そして、後ろを振り返ってもネツァクの外壁が見えなくなった頃、ラウルはマキシ達に声をかけた。

「皆、そろそろもとの姿に戻っていいぞ」

ラウルの声に、両肩に留まっていたフギンとレイヴンは羽ばたいてもとの大きさに戻り、マキシも燕尾服風ジャケットから飛び出して八咫烏の姿のまま大きさを変える。

マキシの体格は、兄二羽に比べても遜色ない大きさに成長した。

普段はマキシ一羽しかいないので分からないが、実の兄弟達とともにいると比較できてその成長が如実に見て取れる。

実際フギン達も、マキシの八咫烏姿を見て「おお、マキシも大きくなったなぁ!」「兄ちゃん達を追い越す日も近いかぁ!?」などと、嬉しそうな様子でマキシに絡んでいる。

絡まれた方のマキシも「そ、そうですか? でも、まだまだ兄様達には及びませんよぅ」と、はにかみながら答えている。

そんな仲睦まじい八咫烏三兄弟の姿に、傍で見守るラウルも思わず微笑む。

だが、ここはもうノーヴェ砂漠の中。いつ何時魔物が襲ってくるか分からない。

「皆、ここはもうノーヴェ砂漠だ。いつどこから魔物が出てくるか分からん。気を引き締めていくぞ」

「「「……はいッ!!」」」

ラウルの注意勧告に、マキシ達三羽も一斉に真面目な顔になり答える。

続けてラウルはノーヴェ砂漠の魔物の解説をする。

「このノーヴェ砂漠は寒暖の差が激し過ぎて、生息する固有魔物は数える程しかいない。青くて大きな蛾みたいなヤツ、砂色の星型、黒い靄のような巨大な人型幽霊なんかがいる。そして、前にツィちゃんを襲った首狩り蟲?によく似たカマキリ型の魔物もいる」

「「「……ッ!!」」」

ラウルの解説に、マキシ達の顔が瞬時に強張る。

未だ記憶に新しい神樹襲撃事件。その時にマキシ達を散々苦しめた憎き敵、首狩り蟲によく似た魔物がいると聞けば、マキシ達の顔が険しくなるのも当然だ。

ちなみにこの虫型魔物、エフェメロプターは首狩り蟲の色違いコピペである。BCOの冒険ストーリーを進めていけば、どちらもいずれは遭遇する通常のフィールドモンスターだ。

出てくる順番で言えば、ノーヴェ砂漠の方が先。当然その強さも後から出てくる方が強いので、首狩り蟲よりはエフェメロプターの方が弱い。

しかし、BCOの知識など知る由もないラウル達には、そんなことは全く分からない。故にラウル達は改めて気を引き締めて挑む心積もりである。

そしてラウルは最後に、自身にとって最も大事な情報をマキシ達に伝える。

「あともう一つ、サンドキャンサーという蟹型魔物がいる。こいつが、さっき話した砂漠蟹だ」

「ほう、そのサンドキャンサーをラウル殿が仕留めて、捌いて食するのですか?」

「いや、こいつは生け捕りにしないと食べられない。生け捕りにしてから数日間真水に漬けて砂を抜く作業を経ないと、身の肉が砂だらけのままでとても食えたもんじゃないそうだ」

「ああ、それは確かに……」

「だからそのサンドキャンサーだけは、見つけても仕留めずにそのまま逃がしてやってくれ。偵察に出た俺達が、ここでサンドキャンサーを生け捕りにして持ち帰る訳にもいかんしな」

ラウルがマキシ達に伝えたい、一番大事なこと。

それは『サンドキャンサーを見つけても殺さないで逃がしてくれ』ということ。かつてレオニスとグライフが、フェネセン捜索のためにノーヴェ砂漠を調査しに訪れた時に頼んだのと全く同じである。

もちろんマキシ達に異論などない。ラウルの願いを遂行するために、フギンが改めてラウルに問うた。

「ラウル殿、我らはその蟹?というものを見たことがないので、姿形などが全く分からぬのですが……どのような見た目をしているのですか?」

「背中や足の色はくすんだ橙色で、腹や足の付け根は明るい草色をしている。常に口から泡を噴いていて、平べったい胴体の左右に足が四本づつ、計八本の足が生えていてな。その八本のうちの一番上、二本の足の先には大きなハサミがついていてな。……あ、ハサミってのは、こういう形のことを言うんだが」

森育ちのフギンの尤もな質問に、ラウルも丁寧に答えていく。

蟹だけでなく、ハサミという形も分からないであろうフギンとレイヴンに向けて、ラウルが両手でじゃんけんのチョキの形を作って見せたりしている。

傍から見たらなかなかに奇妙な図だが、本人達は至って大真面目である。

「ほう。足八本というと、蜘蛛みたいなものかと思いましたが……それとはまた違うのですね」

「ああ。蜘蛛なんかはまだ身体が柔らかい方だが、蟹は外骨格と呼ばれる硬い殻で全身が覆われている。骨の役割を果たすだけに、かなり硬いんだ」

「そうなんですね……森の外の世界には、本当に想像もできないものがたくさん溢れてるんだなぁ……」

ラウルの様々な解説に、フギンとレイヴンは改めて外の世界の広さを思い知る。

しみじみと語るその姿は、かつてラウルもマキシも通った道だ。

今まで大神樹ユグドラシアのお膝元、八咫烏の里の中にだけ閉じ篭っていた彼らも、こうして様々な世界を見ては知識を得て大きく羽ばたいていくことだろう。

「ノーヴェ砂漠の固有魔物はこれくらいだ。あとは、今回の偵察の一番の問題であるドラリシオだが……これはまぁ、外見的な特徴云々以前に一目見れば分かると思う」

「そうなのですか?」

「ああ。茎は女性の人型の胴体そっくりで、頭も女性の顔がついていて、人族のような目鼻や口もついている。根は大きな球根のような形をしていて、茎の胴体からは二本の腕のような蔓が生えている。その蔓の先端にはウツボカズラのような花があって、それが五つに裂けていてまるで人の手のような形をしている」

「………………」

ラウルはかつてのカタポレンの森での思い出、彼の脳内にあるドラリシオ達の記憶を懸命に手繰り寄せながらその姿形を語る。

ラウルが滔々と語るドラリシオの容貌。詳し過ぎると言っても差し支えない詳細に、マキシ達も思わず無言のままゴクリ……と喉を鳴らす。

外見的特徴をそれだけ詳しく話せるということは、ラウルがドラリシオとも交流を持てていたことの証左。

するとここで、フギンがさらなる質問を重ねる。

「そのドラリシオというのは、植物系魔物ということですが……やはり茎や葉は緑色をしているのですか?」

「ああ。茎や球根、顔、腕の蔓などは濃い緑色をしている。手の代わりになっている蔓の先端は、外側は濃い緑色だが内側は真っ赤だ」

「植物系だけに、花のようなものもあるのですか?」

「ある。頭の天辺に平べったくて大きな赤紫色の花が咲いていて、胴体と球根の境目にもスカート―――人族の女性が穿く、長い腰巻きの衣装によく似た花びらが何枚もついている。ドラリシオに実がついているところは、俺もまだ一度も見たことはない」

フギンの質問に、ラウルが次々と答えていく。

ドラリシオとは植物系魔物。その祖先はドラリシオ・マザーであり、その名にマザーがつくだけあって見た目も人型女性とかなり似通っているらしい。

もっとも、その色や大きな球根は間違っても人族ではないが。

「それだけ特徴的な箇所がいくつもあれば、一度もドラリシオを見たことがない我らでもすぐに分かりますね」

「ええ。ラウル殿、今回の我らの任務はそのドラリシオを見つけることですよね?」

「ああ。まずはまだ生きているドラリシオを見つけて、現時点で何体残っているかを調べなきゃならん」

レイヴンからの問いに、ラウルも頷きつつ答える。

今回ラウル達は、現在のノーヴェ砂漠がどうなっているかを調査するために偵察役を買って出た。

悪徳商人が違法に運ぼうとした、ドラリシオ・ブルームの種。既に萌芽したという百体以上のこれらを放置しておけば、ノーヴェ砂漠の生態系が狂うことは免れない。

ただし、現状では数の暴力によって外来種であるドラリシオ・ブルームは完全駆除寸前のようだ。

もし既存の魔物達に既に完全駆除されているなら、生きたドラリシオ・ブルームを見つけることはない。

それを冒険者ギルドに報告すれば、今現在ネツァクの街に発令されている戒厳令も解除の方向に向くはずだ。

そしてもし、万が一生きたドラリシオ・ブルームを見つけたら。それはそれでまだ事態が終息していないことを示す。

魔物達の抗争が終息しない限りは、ネツァクの戒厳令はまだ続けなければならない。

いずれにしても、ラウル達が持ち帰る情報如何でネツァクが今後取るべき策も変わる。

偵察役を自ら買って出たラウルも、冒険者としての仕事はきっちりとこなさなければならない。

もし生きたドラリシオ・ブルームが一体も見つけられなければ、その情報を持ち帰って冒険者ギルドネツァク支部にその旨を報告するだけだ。

だが、もし生きているドラリシオ・ブルームを一体でも見つけた場合―――その時に、ラウルは果たしてどう動くのだろうか。

彼の口からは、そうした事態に直面した場合の策はまだ語られていない。

「よし、そしたら全員で空を飛んでノーヴェ砂漠を見て回るぞ。空を飛ぶ魔物は青い蛾とカマキリの二種くらいだが、こいつらは虫型だから鳥類のように高い上空までは飛べんはずだ」

「とはいえ、飛行種族に違いはないから、油断するな。なるべく高い位置に飛んで、砂漠の中に濃い緑色や赤紫色の花っぽいやつがいるかどうかを探してくれ」

「そして、飛ぶ範囲はお互いの姿が見える範囲内で頼む。何か連絡したいことを見つけた時に、その都度いちいち探すのは非効率だからな。お前達八咫烏はかなり目がいいから、遠く離れた場所に飛んでいても互いの姿は感知できると思うが。俺はお前達ほど視力に自信がないので、あまり遠くまで離れないでいてくれるとありがたい」

「そして……」

これから偵察任務を遂行するに当たり、ラウルが各種注意事項を伝える。

どれも適切なものばかりで、マキシ達三兄弟も真剣に聞き入っている。

ラウルがいくつかの注意事項を語った後、数瞬だけ無言になる。マキシ達も無言のまま、ラウルの次の言葉を待っていた。

しばしの静寂の後に、ラウルが徐にその口を開いた。

「その濃い緑色や赤紫色―――ドラリシオを見つけたら、まずは俺に知らせてくれ。生死を確認するために地上に下りるのは危険だから、マキシ達は絶対に地上に下りるな。まずは俺が確認する」

静かに語るラウルの言葉に、マキシ達は力強く頷く。

ドラリシオ・ブルームを見つけた場合、ラウルがどうしたいかまでは未だに分からない。

だが、ドラリシオの生存確認は冒険者の資格を持つラウルが行わなければならないことだけは間違いない。

冒険者ギルドに偵察結果を報告する資格があるのは、四者の中でラウル唯一人。黒鉄級のライセンスを持つラウル自身が、その目と耳で見聞きしたことを上部組織に伝えなければならないのだ。

「とりあえずはこれくらいか。他に何か質問はあるか?」

「いいえ、今のところは問題ありません」

「俺も大丈夫ッス!」

「僕も大丈夫。いつでも行けるよ」

マキシ達の頼もしい返事に、ラウルも小さく微笑みながら頷く。

全ての準備が整ったところで、改めてラウルが皆に声をかけた。

「よし。じゃあ行こうか」

「「「はい!!」」」

ラウルのかけ声をきっかけに、全員がノーヴェ砂漠の空高く飛んでいった。