作品タイトル不明
第946話 二つの再会
ラグナロッツァの屋敷に行くべく、まずはカタポレンの家に移動したラウルと二羽の八咫烏兄弟達。
するとそこには、二日前に畑の片隅に植えたばかりの林檎の木に向かって植物魔法をかけているマキシがいた。
「ン? マキシか?」
「あッ、ラウル!おかえりー!」
「何だ、仕事はどうした。午後から休みをもらうんじゃなかったか?」
ラウル達が帰ってきたことに気づいたマキシ、かけていた植物魔法を止めてラウルのもとに駆け寄った。
そして当のラウルは、カタポレンの家の畑にマキシがいたことにとても驚いている。
それもそのはず、マキシは今日も朝から普通にアイギスに出勤していて、午後に休みをもらえるようカイ達に交渉する手筈だったからだ。
なので、マキシが現れるとしてもお昼ご飯を食べるかどうかという時刻のはずなのに、まだ昼前にカタポレンの森に現れたので驚いた、という訳だ。
「それがね、カイさん達に今日兄様方がラグナロッツァに来るって話をしたら『今日一日お休みでいいから、お兄さん達とともに過ごしていらっしゃい』って言ってもらえたんだ!」
「そっか、そりゃ良かったな」
「うん!だから僕も兄様方を迎えに来たんだ!」
マキシは早々に仕事から上がれた理由を語ると、ラウルより少し遅れて到着した兄達に向かって声をかけた。
「フギン兄様、レイヴン兄様、お久しぶりです!」
「おお、マキシ。出迎えご苦労。お前も元気そうで何よりだ」
「フギン兄様もご壮健そうで何よりです!」
「よう、マキシ!何だ、少しでも早く兄ちゃん達に会いたかったのか?」
「レイヴン兄様!はい、一分一秒でも早く兄様方をお迎えしたくて……向こうの屋敷で待ってなどいられませんでした!」
「くゥーッ!マキシめ、可愛いことを言ってくれるじゃないか!」
思いがけず弟と早くに会えたことに、フギンもレイヴンもとても嬉しそうだ。レイヴンなど、両翼でマキシの頭を包み込んでグリグリと撫でくり回している。
撫でくり回される方のマキシは「キャー!レイヴン兄様、ヤメテー!」という言葉とは裏腹な笑顔で笑い転げ、騒がしい弟達の戯れる様子をフギンもにこやかな笑顔で見つめている。
そんな仲睦まじい三兄弟を見て、ラウルもまた自然と笑みが零れるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
無事マキシと合流したラウルとフギンとレイヴン。
せっかくなので、お昼ご飯は外で食べようという話になり、皆で外に繰り出した。
これは、八咫烏兄弟達に少しでも多くの人族を見学させてやろう!というラウルの親切心からきたものである。
さて、どこで食事を摂ろうかと悩み、ラウルが出した答えは『向日葵亭で飯を食おう!』であった。
向日葵亭と言えば、基本は宿屋だが昼間は定食屋としても大人気を誇る店だ。
向日葵亭の美味しい定食を求めて、様々な人達が訪れて賑わう。その客層は、むさ苦しい度数が高い冒険者ギルドとはまた違って、老若男女問わず様々な人々が集う。
人族の顔や姿形を満遍なく見て学ぶには、もってこいの場所と言えよう。
早速向日葵亭に向かい、四者が中に入る。
マキシは人化したままで入り、フギンとレイヴンは文鳥サイズになってラウルとマキシの肩に一羽づつ留まっている。
「いらっしゃいませー!……って、あーら、ラウルさんじゃない!」
「よ、女将。久しぶり」
「お久しぶりねー!こないだの大運動会以来かしら?」
「そうだな、あん時は美味しい昼飯をごちそうになったな」
「こちらこそ!ラウルさんの絶品スイーツの繊細なお味は、今でも忘れられないわぁー」
ラウル達の入店に気づいた女将のシルビィが、人懐っこい笑顔とともに気さくに話しかけてくる。
こうした人当たりの良さもまた、向日葵亭の人気の秘訣の一つであろう。
すると、雑談中のシルビィがラウル達の肩にいる文鳥に気づいた。
「あら? ラウルさん、今日は可愛い文鳥さんをお連れなのね?」
「ああ、知り合いから数日預かってくれと頼まれたんでな。鳥を伴っての入店は可能か?」
「そしたら、二階席に行ってもらってもいいかしら? 二階席は従魔をお連れのお客さん専用のエリアなの」
「二階席か、承知した」
「後で注文を取りに行くから、お席に座って待っててね!」
「了解」
ラウルとマキシは、シルビィの指示に従い二階席に移動する。
向日葵亭の食堂エリアは二階建ての吹き抜けになっていて、一階は普通の客、二階は従魔連れ用の席と使い分けられている。
二階席に連れ込める従魔も、あまり大きなものは不可。中型犬くらいまでの大きさになれるなら同伴OK、という基準があるという。
そうした観点で言えば、文鳥サイズの八咫烏兄弟は全然OK!である。
ラウルもマキシも、向日葵亭の二階席に行くのは初めてのことだ。
壁の端にある階段を上っていくと、そこにはいくつかのテーブルがあり従魔連れの客が何組もいる。そして彼らは、従魔とともに食事をしていた。
ラウルが周囲をキョロキョロと見回し、一つだけ空いている席を見つけてそこにマキシとともに座る。
席を確保したことで、ほっと一安心のラウルとマキシ。改めて周囲を見てみると、様々な従魔がいた。
中型犬サイズの八本脚の馬に、主人の肩に乗っかった太い蛇、双頭の小型犬もいる。どれも皆主人とともにいるために、自身の能力でサイズを変えているのだろう。
このサイサクス世界には様々な従魔がいることが窺えて、実に興味深い光景である。
そうして周囲を眺めていると、女将が昼食の注文を取りにラウル達の席にやってきた。
「はいはーい、ラウルさーん、ご注文は何にするー?」
「えーと、俺はカツカレーとざるそば二枚。マキシは?」
「僕は……エビフライ定食一つで!」
「はーい、すぐに持ってくるわねー!」
昼食のオーダーを取った女将、笑顔で再び階下に下りていく。
すると、女将が去ってすぐに誰かから声をかけられた。
「……おや、ラウぴっぴではないですか」
「…………ッ!!」
「「「?????」」」
ラウルに向けて突如かけられた声に、ラウル自身は驚きマキシや八咫烏兄弟達は不思議そうな顔をしている。
その声の主は、謎の剣豪眠狂七郎であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「えーと……ねむちゃま、だったか?」
「おお、あちしのことを覚えていてくれたとは。ラウぴっぴの素晴らしい記憶力に乾杯したいですね」
「そりゃあな……あんた程の人を忘れる方が難しい話だ」
「ここで再会したのも何かの縁、あちしもこのテーブルに座ってようがすか?」
「ああ、好きにしてくれ」
あっという間に相席が決まり、眠は空いていた椅子にストン、と座る。
そんな眠に、ラウルが不思議そうに問うた。
「ここは従魔連れ用の席らしいが、あんたも何か連れてんのか?」
「ええ。あちしの連れは、三日ばかり前に裏路地で拾ったこの子ですよ」
ラウルの問いに、眠が着流しの袖をモゾモゾと探り始める。
そしてしばらくして、何かを取り出してテーブルに置いた。
それは、手のひらサイズの白い狐のような動物?だった。
「これは……狐、か? それにしちゃ、かなり小さいが……他の従魔のように、サイズを小さく変身させてるのか?」
「いえ、もともとこの大きさですよ」
「そうなのか?もしかして、かなり珍しい種類なのか」
「ええ、おそらくは。普通の狐と言うにはあまりにちっこいので、あちしはこれを 管狐(くだぎつね) 、もしくはそれに近いものだと睨んでいますがね。……と言っても、まだ確たる証拠は何一つ得られていませんけども」
ラウルと眠が会話している間、文鳥に化けたフギンとレイヴンが物珍しそうに白い狐を見ている。
狐と鳥では鳥の方が被捕食者であり、サイズ的にも同等でかなり分が悪そうに思える。
しかし、二羽が怯える様子は一切ない。それは、この白い狐からは全くと言っていいほど強い力を感じられないからである。
一方の白い狐の方も、眠にテーブルの上に置かれて以降ずっとおとなしく座っている。
白いふさふさの尻尾を軽く左右に振りながら、糸目笑顔でちょこんと座る様はなかなかに愛らしい。
するとここで、今度は眠の方がラウルに問うてきた。
「そういうラウぴっぴの連れは、この黒くて可愛らしい文鳥さん 三羽(・・) ですか?」
「……いや? 見ての通り、文鳥二羽だが」
「またまたぁ。……ま、そういうことにしときましょうかね」
くつくつと笑う眠の物言いに、ラウルとマキシの顔が瞬時に強張る。
この席にいる文鳥もどきは、フギンとレイヴンのみ。端から見たら二羽しかいない状況だ。
なのに、眠は『文鳥さん三羽』と言った。これは明らかに、マキシのことを含めて言っていると思われる。
人化の術で人の姿になっているマキシ、その正体を見破った者はこれまで誰一人としていない。
あの魔術師ギルドマスターであるピースでさえ、そこに言及したことはなかった。
この男、一体何者だ? あのご主人様の知り合いだし、ご主人様ともかなり仲良さげに話していたところを見るに、只者ではないことは確かだが―――
ラウルが脳内で懸命に考えていると、女将がラウル達の注文した食事を持ってきた。
「ラウルさん、お待たせー!……って、あら? ねむちゃまじゃないの。珍しく今日は早起きしたのねぇ?」
「おや、女将。おはようございます。あちしはいつだって早寝早起きさんですよ?」
「よく言うわねぇ、いつも午後の三時頃に起きてきては『女将、あちしにおやつをくらさいましーン』とか言う人が」
ラウル達のテーブルに眠がいるのを見たシルビィが、ラウルとマキシの注文品をテーブルに置きながら眠に気安く話しかけている。
それまで眉間に皺を寄せつつ考え事をしていたラウルも、この場にシルビィが現れたことで険しかった表情が一気に和らぐ。
かつてレオニス達とバッタリ会った際に、眠はこの向日葵亭で寝泊まりしていると言っていた。
その話を聞いたのが八月末頃。一ヶ月半近く前のことだ。
そこからずっとこの向日葵亭に寝泊まりしているとすれば、宿屋の女将達とも懇意になって当然であろう。
そんな懇意の女将に対し、眠は頬を膨らませながら抗議する。
「女将、それはプライバシー暴露というものですよ? もしかして貴女、あちしの暴露本書いて一発当てよう!とか考えてます?」
「ねむちゃまの暴露本書いて、一体誰がそれを買って読むのよ?」
「少なくともレオぴっぴにライぴっぴは、それぞれ十冊以上は購入するでしょうね。そしてここにいるラウぴっぴも、もしかしたら百冊は買うかもしれませんよ?」
シルビィに向かってプンスコと怒っていた眠。
何故かシルビィの問いかけに対し自信満々な顔つきで、フンス!とドヤ顔に変化している。
芸能人でもない一般人の暴露本に、果たしてそこまでの需要があんの?というシルビィの疑問は尤もなものだ。
しかしこの眠は、レオニスもその腕前を認めし剣豪。しかもラグナ宮殿にも何度も出入りしたことがあるらしい。
そこまでの実力者ともなれば、立派な有名人と言えよう。
有名人の私生活暴露本ならば、それなりに売上が見込めるものなのかもしれない。
鼻息荒くドヤ顔する眠の横で、シルビィがラウルに向かってこっそりと声をかける。
「……ラウルさん、ねむちゃまのお知り合いだったの?」
「ぃゃ、俺の知り合いってよりも、俺のご主人様と仲が良いらしくてな……」
「ぁー、それでぇー……」
ラウルの答えに、シルビィも小さく頷く。
レオニスをして『フェネセン以上の変人』と言わしめた 剣豪(ねむちゃま) 、その変人ぶりは宿屋の女将であるシルビィもよく知るところだ。
この変人、ラウルとも知り合いだったの?と彼女が疑問を持つのは当然であり、その答えがラウルがご主人様と呼ぶレオニスと仲良しだと聞けば『あーね』とばかりに納得するのもまた当然である。
「ていうか。あちしの暴露本のことなどどーでもいいのです。女将、あちしにも朝食の日替わりランチBをください」
「はーい、今すぐお作りしますねー。ラウルさんも、どうぞごゆっくりー!」
新たに眠の食事注文を受けたシルビィ、早々に再び階下に下りていく。
昼食を示す日替わりランチBを朝食呼ばわりするのは如何なものか?と思うのだが。シルビィが全く動じないところを見ると、これが眠の向日葵亭での日常なのだろう。
朝食代わりの日替わりランチを注文した眠は、椅子の背凭れに凭れかかりながら再びラウルに向かって声をかける。
「……さて、あちしの朝食確保が完了したところで。ラウぴっぴの愛らしいお連れさん方を紹介してもらえますか?」
「ン? ぁ、ぁぁ、そうだな」
「あ、そちらは食べながらでもいいですよ。せっかく女将が熱々の出来たてを持ってきてくれたんですからね、冷めてしまってはもったいないというものです」
「だな」
眠からの紹介の催促はともかく、食べながらの会話でもいいと言う眠の言葉に、ラウルは内心でちょっとだけ感心する。
料理とは、基本的に出来たてが一番美味しいものだ。
熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに食べる。それが、食べる側から示せる数少ない料理人への敬意の表し方だ。
それを理解しているこのねむちゃまという男は、実はそこまで悪いヤツではないのかも……?とラウルは思い始めながら、まずはマキシ達とともに向日葵亭特製の美味しい昼食を食べていった。