軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第932話 脳筋族の宴

レオニス vs. 中位ドラゴン四頭の死闘は、その後約一時間に渡り続いた。

死に物狂いでレオニスに襲いかかる四頭に、レオニスもまた全力で応戦する。

鋼鉄竜が繰り出す土や岩の硬い槍が次々に地面に生え、獄炎竜が吐く強烈な炎の渦がレオニスを襲う。その渦が消えたと思った直後、氷牙竜が飛ばした無数の鋭利な氷の槍が飛び出してくる。

それをレオニスが見事に避けるも、今度は迅雷竜が数多の雷を縦横無尽に迸らせる。

彼らのその攻撃のどれもが苛烈な威力を放っていて、一発でも食らえばかなりの大ダメージを被りそうだ。

もちろんレオニスだって、ただ逃げ回っているばかりではない。

水魔法に風魔法、雷魔法はもちろんのこと、目くらましの光魔法や足止めの重力魔法などあらゆる手段を使って中位ドラゴン達を翻弄し、四頭を相手に対等に戦っている。

「食ラエ!」

「ハッ!そう簡単に当たってやる訳にはいかんな!」

「エエィ、チョコマカト、小癪ナ!」

「今度はこっちの番だ!おらァッ!」

「グハッ!……グルァァァァッ!」

一人と四頭が空中を自由自在に駆け巡り、炎や氷、石礫や雷が四方八方入り乱れる。

遠目から見ても分かるその凄まじさに、ディラン達はただただ息を呑みつつ呆然と眺めるしかない。

「あれは……本当に、人間の成せる戦い……なのか……?」

「ドラゴン達の攻撃が凄まじいのは当たり前だが……あれを避け続けられるレオニス卿の動きは、もっとあり得ん……」

「……あッ!レオニス卿、危ない!」

それまでずっと中位ドラゴン達の攻撃を避け続けてきたレオニスに、ついに迅雷竜の放つ雷が当たった。

「ぐああああッ!」という叫び声を上げたレオニスが、後方に100メートル以上吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。

ズザザザザーッ!と地面を擦るように、背中から後ろに転がり続けたレオニス。

だが、後方に吹っ飛ばされた勢いが停止した次の瞬間、機敏な動きで体勢を立て直す。そして間を置かずに勢いよくジャンプし高く飛んだ。

「いいヤツくれたじゃねぇか!その礼だ!」

「ナッ…………グァァァァッ!」

斜め上の上空50メートル以上は跳んだと思われるその先にいたのは、先程レオニスに雷をお見舞いした迅雷竜。レオニスは迅雷竜の懐に深く入り込み、そのまま迅雷竜の腹に頭突きをかました。

こんなに素早く反撃に出られるとは予想していなかったのか、迅雷竜はレオニスの攻撃を防げずにモロにレオニスの攻撃を食らい、はるか遠くまで吹っ飛ばされた後地面に墜落した。

そして高い上空にいたレオニス、そのまま即座に地面にいた鋼鉄竜目がけて踵落としをお見舞いする。

「ボケッと突っ立ってんじゃねぇぞ、コラ!」

「ガハッ!!」

かなり高い上空から猛烈な勢いをつけた踵落としを、思いっきり脳天に食らった鋼鉄竜。

如何にその身体全体が硬い鱗に覆われていようと、さすがにそれはたまったものではない。

脳震盪を起こし、身体全体がフラフラと蹌踉めく鋼鉄竜。その覚束ない足を、踵落としが決まった直後に地面に着地したレオニスが容赦なく回し蹴りを食らわせる。

アキレス腱辺りに痛烈な蹴りを食らった鋼鉄竜、体勢を保ちきれずにそのまま背中から倒れた。ズズン……という軽い地響きが、辺り一帯に起きる。

その後レオニスは最も近くに生えていた岩の槍の穂先に飛び上がり、空中にいた獄炎竜に向けて右手を翳した。

「 澎湃波濤(ほうはいはとう) !」

レオニスの詠唱の直後、翳した手のひらの前に巨大な魔法陣が現れた。

レオニスが唱えたのは、サイサクス世界における上級水魔法。円形と正方形が組み合わさった魔法陣の大きさは、レオニスの身長をもはるかに上回る。

その巨大な魔法陣から、螺旋状に渦巻く極太の水柱が怒涛の勢いで噴出した。

「……ッ!!!!!」

獄炎竜は水柱に向かって咄嗟に炎を吐き出し、その威力を相殺しようとする。

だが、如何に強力な炎であっても大量の水を伴う上級水魔法に敵うはずもなく、身を捩りながら何とか直撃を躱すだけで精一杯だ。

獄炎竜が空中で体勢を崩した瞬間、次にレオニスが目を向けたのは氷牙竜。

レオニスから見て左斜め方向の上空にいた氷牙竜をギロッ!と睨みつけ、猛スピードで一直線に飛んでいく。

「待たせたな、氷牙!」

「エ、チョ、待ッテナンカイn……」

「あァ? 何か言ったかァ!?」

慌てた氷牙竜がモゴモゴと何か言っている間に、レオニスの身体がフッ……と消えた。

次の瞬間、氷牙竜の真横にレオニスが現れたではないか。

レオニスは自身の身体を捻り、急回転を加えながら氷牙竜の横っ腹に強烈な回し蹴りを食らわせた。

「ギャアアアアッ!」

思いっきり捻りが加えられた痛烈な回し蹴りを、脇腹にモロに食らった氷牙竜。勢いよく吹っ飛ばされて、窪地の向こうの山の斜面にドカーン!と叩きつけられた。

怒涛の攻撃を一通り繰り出したレオニス。敵である四頭全員が動けなくなっている間に、素早く空間魔法陣を開きアークエーテルを出してグビグビと飲む。

飲み終えた直後に、自身に中級回復魔法のキュアラを数回かけてHP回復も素早く済ませる。

アークエーテルの空瓶を仕舞うまで、その動作は10秒もかかっていない。その手際の良さは、惚れ惚れするほどに見事な動作だった。

だがその回復作業の間に、中位ドラゴン達が立ち上がり再びレオニスを取り囲む。

「お前ら、確かに前より強くなってるじゃねぇか」

「マ、マダダ!我等ノ、 力(チカラ) ハ、コンナ、モノデハ、ナイ!」

「何だ、まだやんのか?」

「当然ダ!」

「おう、そうか。なら今日は、お前らの気が済むまでとことん付き合ってやろうじゃねぇか!」

数言の言葉を交わした後、レオニスと中位ドラゴン達は再び宙に舞う。

全者ふわりと浮いたかと思うと、次の瞬間には目にも留まらぬ速さで飛び回りながら物理魔法問わず攻撃を繰り出す。

「ワーッハッハッハッハ!楽しいなぁ、おい!」

「ギャーハハハハ!」

「今日コソ、負ケンゾ!」

「そりゃこっちの台詞だァッ!おらァッ!」

「アンギャアアアアッ!」

血湧き肉踊る戦いの渦に身を投じた一人と四頭の、狂気じみた哄笑が辺り一帯に響き渡る。

あっという間に再開したレオニス達の死闘を、ディラン達はただただ固唾を呑みながら見守るしかなかった。

「あんな強敵に……しかも全て属性の違う竜族に取り囲まれているというのに……」

「何故笑いながら戦えるんだ……」

「これが……伝説と謳われた、金剛級冒険者の戦い、なのか……」

脳筋族の宴はまだ始まったばかり。

人族と中位ドラゴン達の戦いは、留まるところを知らぬかのように激化の一途を辿っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして一時間ほどが経過しただろうか。

竜騎士達の野営地となるはずだった窪地は、数多の落雷や岩の槍などで地面は凸凹になり、土埃と燻る火炎で煙が舞い辺り一帯に焦げ臭い臭いが漂う。

すっかり地形が変わってしまった中で、最後まで地に足をつけて立っていたのはレオニス唯一人だった。

中位ドラゴンの四頭全員が、仰向けやうつ伏せで地べたに寝転がっている。息も絶え絶えで、もはや立ち上がる気力すらもないようだ。

そんな中位ドラゴン達に、レオニスがスタスタと歩き近づいていく。

とりあえず一番拓けたところにいた鋼鉄竜のところに、レオニスが他の竜達を次々と引き摺っては一ヶ所に集めている。

犬猫のように首根っこを捕まえて持ち抱えるのはさすがに無理なので、両手で尻尾をムンズ!と捕まえて右肩に乗せ、そのままズルズルと中位ドラゴン達を引き摺っていく。

小さな人間一人に中位ドラゴンが引き摺られる図というのも、なかなかに奇っ怪な光景である。

ひとまず中位ドラゴン達を一ヶ所に集め終えたレオニス。

彼らの頭の真横にしゃがみ込みながら、一頭づつ丁寧にその意志を確認していった。

「獄炎、気が済んだか?」

「ク……クッソー……マタモ、オマエニ、負ケル、トハ……」

「鋼鉄はどうだ?」

「マ、マダ、ダ……我ハ、マダ、ヤレ……ル…………(ガクッ」

「何だ、気ィ失ってんじゃねぇか。氷牙はどうだ?」

「俺ハ……モウ……イイ……」

「そうか。迅雷はどうする?」

「俺モ……モウ、負ケデ、イイワ……」

四頭のうち、獄炎竜、氷牙竜、迅雷竜は悔しがりつつも己の負けを認めた。

唯一鋼鉄竜だけは負けを認めなかったが、そのまま白目を剥きつつ失神した時点で負け確定である。

今回の戦いも、見事勝利を収めたレオニス。

だが、負けた中位ドラゴン達も大概ズタボロだが、勝った方のレオニスもかなりボロボロになっている。

戦闘中に切れた額や右頬から流れ出た血が、顔や首にべっとりとついたまま乾き、深紅のロングジャケットや金色の髪は煤だらけで元の色が殆ど分からない。

黒い革パンやロングブーツはところどころ切れていて、そこからも出血していたようだ。

ちなみに身体に負った切り傷や火傷そのものは、戦闘中も随時かけていた回復魔法やエクスポーションでちゃんと塞がっている。

そしてレオニスは空間魔法陣を開き、右手に持った勝利の 祝杯(エクスポ) を高く掲げた後に一気飲みし始めた。

その後立て続けに三本のエクスポーションを飲み干したレオニス。五本目のエクスポーションを飲みながら、まだ気を失っていない獄炎竜達に向かって声をかけた。

「皆お疲れさん。ほれ、お前らの大好きなエクスポだ。口を開けろ」

「「「アーーーン」」」

レオニスの呼びかけに、獄炎竜達三頭が寝転がったまま揃って大きな口を開ける。

その口に向かって、レオニスがポポイのポイー、と矢継ぎ早に未開封のエクスポーションを瓶ごと放り込んでいく。

一頭につき、三十本のエクスポーションを等しく放り込み終えたレオニスが、三頭に向かって声をかけた。

「皆、もう食っていいぞ。今回はお疲れさんの特別大サービスだ。三十本入れてやったから、よーく味わって食えよ?」

「「「……(パリン、バキン、モグモグ、ゴッキュン)……」」」

いつもは一回につき二十本のエクスポーションを与えているのだが、今回は戦闘直後ということもあり、労いの意味も込めて当者比1.5倍の三十本を獄炎竜達に与えたレオニス。

もっしゃもっしゃと食べる三頭、口の中に頬張ったまましみじみと呟く。

「ンー…… 美(ウ) ン 味(マ) ァーイ……」

「戦イノ、後ノ、エクスポハ……格別ニ、美ン味ァーイ」

「歯応エ、アッテ、チィト、顎ガ、疲レル、ケドナ」

「「「ダガ、ソレガイイ」」」

「お前ら、何でそんなにエクスポ好きなの?」

そんな風にレオニスが戦後処理?をしていると、ディラン達がレオニスのもとに駆け寄ってきた。

「レオニス卿!」

「ご無事で何よりですッ!」

「ドラゴンの皆様方もご無事ですかッ!?」

「……双方とも大丈夫そうですね……良かったぁぁぁぁ」

興奮気味に駆け寄ってくるディラン達。

レオニスと四頭の中位ドラゴン達の死闘に決着がついたことで、ようやく両者のもとに近寄ることができる、と判断したようだ。

その死闘は遠目から見ててもとても激しいもので、下手に介入することもできずにただただ行く末を見守るしかなかったディラン達。

レオニスはもとより中位ドラゴン達も無事な様子を見て、皆一様にほっと一安心していた。

「おう、見ての通り俺も獄炎達も大丈夫だ。いきなり戦闘になって、心配かけちまってすまんな」

「いいえ、もとより竜族の方々からの申し出でしたし、あの流れでは致し方ありますまい。そんなことよりも、我等ではお止めすることもできず……己の非力さが悔しくてなりません」

「そりゃしょうがねぇさ。あいつらが 戦(や) りてぇって言い出したんだ、ああなったらもう誰も―――例え白銀であろうと、止めることなんざできんだろうよ」

唇を噛みながら、己の無力さを悔しがるディラン。

竜騎士団は、アクシーディア公国随一の精鋭揃いと常日頃から呼び声が高い部隊だ。

だがそれも、所詮は人族の中でのみ通用する話。野生の竜がうようよいるこのシュマルリ山脈では、赤子に毛が生えた程度の力しかない。

そのことを、先程まで目の前で展開されていたレオニス達の死闘を見ていて、ディラン達は嫌という程思い知った。

しかし、己の実力を正しく把握するのはとても大事なことだ。

できないことをできると言い張る無謀さよりも、的確な状況判断を下せる者の方が戦場で生き残れる確率ははるかに高いのだから。

レオニスとディランが真面目な話をしていると、獄炎竜達の声が響いてきた。

「オーーーイ、レオニスーーー、オカワリーーー!!」

「エクスポ、モット、クレーーー!!」

「「「オッカーワリ!オッカーワリ!」」」

突如起きたエクスポーションアンコールの嵐に、レオニスが呆れたような顔で中位ドラゴン達の顔を見遣る。

「あァ? エクスポのおかわりだぁ? さっき三十本づつ食わせてやっただろうが!?」

「足リナーーーイ!」

「全ッ然、足リナーーーイ!!」

「モット、モット、クレーーー!」

それまで仰向けでへばっていた三頭の中位ドラゴン達が、いつの間にか胡座のような格好でべた座りしている。

エクスポーションを一気に三十本も与えただけあって、回復剤としての効果はちゃんと出ているようだ。

しかし、それでは足りない、もっとおかわりを寄越せ!とエクスポーションの追加をおねだりする中位ドラゴン達。

甚だ図々しい要求にしか聞こえないが、レオニスとの死闘を終えていつもの表情に戻った獄炎竜達の無邪気な顔を見ると、どうにも断りきれない。

レオニスは下を向き、右手で頭をガリガリと掻きつつ、はぁー……と一つだけ大きなため息をついた後、パッ!と顔を上げて大きな声で獄炎竜達に向けて返事をした。

「……しゃあねぇなぁ、あと二十本づつだけだぞ!今回だけだからな!?」

「「「ウェーイ☆」」」

「…………ン? ……ナ、何ダ……?」

エクスポーションのおかわりが認められたことに、両手を上げて大喜びする獄炎竜達。

その騒がしさに、それまで気絶していた鋼鉄竜がやっと目を覚ましたようだ。

のそのそと起き上がる鋼鉄竜に、おかわりのエクスポーションを用意し始めたレオニスが声をかけた。

「お? 鋼鉄もやっと起きたか? ならお前もエクスポ要るか?」

「ォ、ォゥ……エクスポ、カ……タクサン、クレ……」

起きたばかりで半ば朦朧とした意識の鋼鉄竜も、レオニスの『エクスポ要るか?』という問いかけにはしっかりと応じている。

割とちゃっかりとしている鋼鉄竜に、他の中位ドラゴン達がくつくつと笑いながら呟く。

「鋼鉄メ、イイトコデ、起キテ、キヤガッタナ……」

「マ、アイツモ、サッキマデ、スンゲー、頑張ッテタシナ」

「マタ、次モ、頑張ッテ、今度コソ!アイツニ、勝トウゼ!」

「ダナ!」

早くに負けを認めた三頭は、スッキリとした表情で再戦での勝利を誓う。

勝利への飽くなき欲求があるのはいいことだ。勝てない相手に勝つためには、今以上に努力しなければならないのだから。

そんな中位ドラゴン達に、レオニスはまたも不敵な笑みを浮かべつつエクスポーションを二十本づつ与えていく。

「俺だって、そう簡単に負けてやる訳にはいかんぞ? まだまだお前らに負けるつもりはねぇからな?」

「言ッタナ!?」

「クッソー、今ニ、見テロヨ!」

「次コソハ、 絶(ゼ) ッ 対(テ) ェーニ、勝ツカラナ!」

売り言葉に買い言葉じゃないが、次回の戦いに意気込み盛り上がる獄炎竜達にレオニスが容赦ない言葉を放つ。

「おう、そのために白銀にビシバシ扱いてもらえ。俺からまた白銀によーく言っておくわ」

「……ァ、ソレハ、ヤメテ?」

「レオニス……コノ通リ、頼ムカラ、ソレダケハ、ヤメテ?」

「えー、何でだよ? 今より強くなるには、それが一番の近道だろ?」

「強ク、ナル前ニ、俺ラ、全員、死ンジマウッテ……」

「ホンット、お前ら白銀にはとことん弱いね……」

白銀の君の名を聞いた途端に、それまでの戦意が途端にしおしおと急速に萎んでいく。

実際に、中位ドラゴン達と白銀の君とでは体格から何から全て段違いなのは間違いない。

やはり中位ドラゴン達にとって、白銀の君とは決して超えられない壁のようだ。

「……まぁでもな、これから当分ディラン達といっしょに扱かれるのは確定してんだ、頑張れよ!」

「オマエ……ホンット、酷ェヤツダナ……」

「全クダ……自分ニ、関係ナイト、思ッテ、無責任ナ、コトバカリ、言イヤガッテ……」

「オマエモ、イッショニ、扱カレロ!」

レオニスに対しブーブー文句ばかり言う中位ドラゴン達に、レオニスは笑いながら答える。

「おう、気が向いたらいっしょに鍛錬しような!」

「気ガ、向カズトモ、コレカラ、毎日、鍛錬シニ、来イ!」

「いや、毎日は無理。こう見えて俺もそれなりに忙しいんでな!その分っつーか、俺の分までディラン達を鍛えてやってくれや!」

「「「!?!?!?」」」

カラカラと笑いながら突如話を振ってきたレオニスに、それまで静観していたディラン達は思いっきり面食らう。

レオニスに向かっていた文句の矛先が、いきなりディラン達竜騎士に向けられたのだ。ギョッ!と驚き泡を食ったようになるのも無理はない。

「ちょ、待、レオニス卿!?」

「ソウダナ……ディラン、トイッタカ? 明日カラ、ヨロシクナ……」

「え!? ぃゃぃゃぃゃぃゃ、そそそれは……」

「イヤ、明日カラト、言ワズ、今日カラ、ヨロシクナ?」

「よ、よろしく、お願い、いたす……」

「コンゴトモ、ヨロシク……」

「は、はいぃぃぃぃ……」

獄炎竜達のギロリ!という鋭い視線がディラン達に向けられる。

そのあまりにも鋭い視線に、ディラン達は生きた心地がしない。

だが、ディラン達がこの地に研修に来たのは、竜族との親睦を図り連携を強化するため。そして純粋に戦闘能力を上げて、邪竜の島の討滅戦において貢献するため。

その目的を果たすには、レオニスのように中位ドラゴン達とも打ち解けていかなければならない。

頭を下げるように見えて、実は項垂れるディランに向けてレオニスが明るい声で檄を飛ばす。

「皆、明日から頑張れよ!じゃ、俺はぼちぼち帰るな!」

「え"ッ!? ちょちょちょ、ちょっと!レオニス卿、ちょーーーっと待ってくださいッ!」

「グエッ」

存分に戦い終えて、サクッと帰ろうとしたレオニス。

その後ろから、ディランが深紅のロングジャケットの首根っこを慌ててとっ捕まえた。

前に進もうとしたレオニスと、後ろから必死の形相で引き留めるディラン。慣性の法則で首がキュッ☆と締められた格好のレオニス、思わず変な声が出て咳き込んでいる。

「ゲホッ、ゴホッ……な、何だよ……まだ何かあんのか?」

「何かあんのか?も何も……レオニス卿、今すぐご自身の周囲をよーーーく見回していただきたい」

「ンー?……(キョロキョロ)……」

「お帰りになるなら、せめてこの惨状を元に戻してからにしていただきたい」

「………………ぁ」

いきなり引き留められたことに、振り向いて文句をいいかけたレオニスに、ディランが鬼気迫る表情で現状回復を訴える。

確かに辺り一帯は、戦闘が始まる前の平らかな地形など見る影もない。鋼鉄竜の土魔法を始めとして、様々な魔法や物理魔法が飛び交ったおかげでどこも凸凹になってしまっている。

もちろんディラン達の手で直すことも可能だ。

だが、こんな惨状にしたのは他ならぬレオニスと四頭の中位ドラゴン達だ。まずはその当事者達に責任を取ってもらうのが筋というものである。

「もちろんレオニス卿お一人に直せとは申しません。獄炎竜殿、鋼鉄竜殿、氷牙竜殿、迅雷竜殿と協力すべきところですし」

「ぉ、ぉぅ……」

「我等もまだ設営途中ですが、設営が完了次第皆様方のお手伝いをいたしましょう」

「ぉ、ぉぅ……そ、そうだな、まだ帰る訳にはいかんな……」

レオニスの顔前3cmまで迫るディラン。その目は極限まで開かれ、有無を言わさぬ壮絶な圧に満ち満ちている。これにはさすがのレオニスも、タジタジとしながら後ろに仰け反るしかない。

そう、散々暴れるだけ暴れておいて、後片付けからは逃げようなどという虫の良い行動は、例えレオニスであろうとも決して許されないのだ。

ディランは鬼気迫る表情のまま、クルッ!と振り向いてその視線を中位ドラゴン達にも向けた。

「皆様方も、それでよろしいですね?」

「「「「ォ、ォゥ……」」」」

「では、皆様方で先に片付けを始めていてください。我等も後で合流しますので、よろしくお願いいたしますね」

レオニス達と話がついたディランは、ようやく普段の表情に戻る。

そして先程の宣言通り、自分達の設営を再開していった。

そんなディランの後ろ姿を見つつ、レオニスと中位ドラゴン達が何やらゴニョゴニョと囁いている。

「レオニス……アノ、人族モ、カナリノ、気迫ダナ……」

「ああ……やっぱ竜騎士団の団長は伊達じゃねぇな」

「アイツ等モ、オマエミテェナ、化物ニ、ナルノ?」

「さすがにそれは……って、何だよ、俺は化物じゃねぇぞ?」

「「「「嘘ツケーーー!」」」」

一人と四頭がゴニョゴニョと話していると、自分の持ち場に戻ろうとしていたディランがクルッ!と踵を返した。

「レオニス卿!早く動いてください!でないと日が暮れてしまいますよ!?」

「は、はいぃぃぃぃッ!」

「竜族の方々も、ねぐらにお帰りになる前に地形をちゃんと戻していってくださいね!?」

「「「「ハ、ハイィィィィ!」」」」

珍しく声を荒らげてレオニス達を叱りつけるディラン。

その鬼の形相に、レオニス達は蜘蛛の子を散らすように慌てて地形復元作業に走っていった。