軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第933話 美味なる品の思わぬ福音

その後レオニスは、一日置きに竜騎士達の研修の様子を見に通っていた。

いやいや、本当は中日と最終日に迎えに行くだけでいいんじゃねぇの? あまり頻繁に覗き込んで竜騎士達の鍛錬に支障を来してもマズいし。何よりせっかくの厳しい自然の中での修行だってのに、そんなに俺が顔出してたら邪魔になるだけだろ?とレオニスも思ったのだが。

実は竜騎士団団長他多数の精鋭が出向いていることが、大きく影響していた。

まず、竜騎士団団長と長期間連絡が取れないのは、非常によろしくない!というお上=ラグナ宮殿側の意向。

そしてそのラグナ宮殿側から『万が一にも彼らが大怪我を負ったりしては困る!』『せめて一日置きの連絡及び竜騎士達が健在であることの確認を取れ!』というかなり強い口調のお達しが、何と冒険者ギルドのマスターパレン宛に直々に寄せられたのだ。

マスターパレンに頼まれたら、レオニスも嫌とは言えない。

そんな訳で、竜騎士団シュマルリ山脈研修第一班の三日目と五日目にも様子見訪問したレオニス。

そして今日は七日目、第一班の研修最終日である。

レオニスは今日ラグナロッツァに帰還する予定のディラン達を迎えるために、午前十時頃にウィカとともにラグスの泉経由で訪問していた。

ラグスの泉から歩き、竜騎士団の六人が野営している窪地に到着したレオニス。

空では飛竜を駆るディラン達と中位ドラゴン達が模擬戦をしていた。

中位ドラゴン四頭と竜騎士を乗せた飛竜六頭が、かなり高い上空で丁々発止の攻防を繰り広げている。

なかなかに激しい団体戦だが、竜騎士団の方が数は上でも総合力では劣勢であることはレオニスの目から見ても明らかだった。

しかし、竜騎士団達には連携という強みがある。

例え個々の力は劣っていても、連携プレーで中位ドラゴン達を翻弄し、仲間同士助け合って対等に渡り合っている。

緊急事態や戦場での動きを想定し、日頃から連携を取るための動きを訓練してきた者達ならではの努力の賜物である。

「クッソー、チョコマカト、鬱陶シイナ!」

「獄炎殿にそう言われるは、我等が誉れ!」

「俺ノ、氷ノ槍ヲ、存分ニ、食ラエ!」

「させませんよ!」

「コノ程度ノ、魔法障壁デ、俺ノ、雷ヲ、防ギキレルカッ!」

「ならば十重二十重に重ねるのみッ!」

中位ドラゴン達の様々な攻撃を、竜騎士達が魔法障壁を用いて全て防ぎきっている。

おおー、竜騎士達が使う防御魔法もなかなかに見事なもんだな!

そうだよな、一重でダメなら二重、二重でもダメなら三重五重にどんどんバリアを重ねていけばいいんだよな!

しかし……あいつら、魔力補給は大丈夫なんかね? 見た感じ、エーテル系の飲み物は用意してないみたいだが……

……あ、補給役のハンクに近寄っていって直接手渡しでエーテルをもらうのか!それもこれも、六人という大人数のパーティーだからこそ可能なことだな!

はるか上空で行われている模擬戦を見上げながら、レオニスが模擬戦へのレビューを脳内で繰り広げている。

すると、レオニスの一番手近にいた氷牙竜が、何故かピタリ!とその動きを止める。そして他のドラゴン達に向けて、大きな声で呼びかける。

「オーイ、皆!ウィカチャンガ、来テクレタゾーーー!」

「何ッ!?ウィカチャンガ、ココニ来タ、ダトゥ!?」

「ッシャーーー!ディラン、休憩スルゾ!」

「……ぇ? ぁ、はい……よし、我等も休憩するぞ!」

「「「おう!」」」

氷牙竜が発した『ウィカチャンガ来タ!』という言葉に、中位ドラゴン達全員が反応し地面に向かって下りてくる。

そして皆一目散に、レオニスの右肩に乗るウィカ目がけてすっ飛んできたではないか。

レオニスの右肩にちょこん、と乗っかっていたウィカ。

中位ドラゴン達のドスドスドス!という地響きとともに「「「「ウィーーーカチャーーーン♪」」」」という猫なで声の呼び声に笑顔で応える。

『やぁ、皆!お久しぶりだね!』

「ウィカチャン、オ久シブリ!」

「俺達、ウィカチャンニ会エナクテ、スッゲー寂シカッタゼ!」

『そうなの? しばらく来てなくてごめんね? レオニス君から、君達は訓練で忙しいって聞いてたからさ』

「レオニス!オマエ、ウィカチャンニ、何テ、酷イコトヲ、言ウンダ!」

早速ウィカを取り囲む中位ドラゴン達。

久しぶりにウィカに会えてとても喜んでいたが、ウィカがしばらくここに来なかった理由を聞いて全員憤慨している。

だが、八つ当たりにも近い憤慨を受けたレオニスにだって言い分はある。

レオニスはプンスコと怒る中位ドラゴン達に向けて、真っ向から反論を始めた。

「いや、だってお前ら、白銀が指導する訓練をサボる訳にはいかんだろ?」

「ウグッ……ソ、ソリャ、ソウダガ……」

「お前らね、訓練サボってウィカと遊んでるところを白銀に見られてみ? そしたらどうなるか、想像つかん訳じゃねぇよな?」

「「「「………………」」」」

レオニスの至極真っ当な問いかけに、四頭は全員黙り込む。

もしも白銀の君に、彼らが戦闘訓練をサボって遊び呆けている場面を見つかったら―――その後の未来を想像した四頭は、背筋に冷たいものを感じ、ブルブルッ!と大きく身震いしていた。

「ま、今日はディラン達が人里に帰る日だし、少しくらい休んで話をしてたって怒られることはねぇだろうがな」

「マ、マァナ……」

「つーか、白銀はどうした? 警邏に出てるのか?」

「アア、今日ハ、主ニ、東方ヲ、見テクル、ト言ッテ、オラレタ」

「そうか。……ま、昼頃には帰ってくるだろうから、それまで待つか」

鍛錬の指導をしている白銀の君の不在理由を聞いたレオニス。

今度はゆっくりと地上に下りてきたディラン達に向かって声をかけた。

「ディラン達はもう設営を片付け終えたのか?」

「ええ。今日の昼過ぎには、転移門のある山脈中央部まで移動しなければなりませんからね。いつ出立してもいいように、既にテントやら何やらは撤収済みです」

「そうか。じゃ、それまで少しのんびりするか。さっきまで結構派手な模擬戦もしてたしな」

「分かりました。全員、休憩!」

レオニスの意見を受けて、ディランが他の竜騎士達全員に向かって休憩を宣言する。

休憩が確定した竜騎士達は、相棒を労うべくビッグワームの素を取り出しておやつの支度をし始めた。

飛竜達がおやつを美味しそうに食べる姿を見て、今度は中位ドラゴン達がレオニスにおやつをねだり始める。

「レオニス!俺ニモ、オヤツヲ、クレ!」

「何だよ、お前ら……毎日鍛錬の後に、ディラン達からエクスポの差し入れをちゃんともらってんだろ?」

「ソレハ、ソレ。コレハ、コレ!」

「模擬戦ノ、ゴ褒美ヲ、クレ!」

「ッたく……しゃあねぇなぁ……」

獄炎竜達の無邪気なおねだりに、またも勝てずに空間魔法陣を開くレオニス。二十本のエクスポーションが入った篭を取り出した。

毎回毎度エクスポーションをねだるドラゴン達も図々しいが、レオニスの方もこうした無邪気なお願いには大概弱いのだ。

レオニスが空間魔法陣を開いたのを見て、中位ドラゴン達はもう誰に言われずともその大きな口をアーーーン☆と開けている。

レオニスはふわりと宙に浮き、中位ドラゴン達の顔のある位置まで飛ぶ。

そして彼らの口の中に、篭に入ったエクスポーションをザラザラザラ……と無造作に放り込んでいく。

空になった篭を空間魔法陣に放り込んでは、即座に別の篭を取り出しては順番にエクスポーションを放り込むレオニス。

その流れるような作業は実に見事なものだ。

大好物のエクスポーションを口に入れてもらった中位ドラゴン達は、もっしゃもっしゃと美味しそうに食べていく。

「ンー、 美(ウ) ン 味(マ) ァーイ」

「模擬戦ノ、後ノ、エクスポハ、マジ美ン味ァーイ」

「ツーカ、俺、エクスポ、食ウ毎ニ、強ク、ナッテル、ヨウナ、気ガスルー」

「あ、それ、気がするんじゃなくて、お前ら全員ホントに強くなってるぞ?」

「「「「エ、マジ?」」」」

エクスポーションを堪能していた氷牙竜の何気ない一言に、レオニスが肯定の意を示す。

レオニスの言葉に驚いたのは氷牙竜だけでなく、その場にいた中位ドラゴン達全員がびっくりしたような顔をしている。

そんな四頭に、レオニスはさらに言葉を続けた。

「こないだ俺とお前らで、久しぶりに全力で戦っただろ?」

「ウン」

「あん時のお前らの強さは、明らかに前に戦った時より何倍も強かったぞ?」

「イヤ、ダカラ、ソレハ、竜王樹ノ旦那カラ、モラッタ、加護ノ、オカゲ、ダロ?」

「いや、それだけじゃ説明がつかん。如何にラグスの加護が強力であっても、それ一つ増えただけでお前らがあそこまで強くなるはずがない」

「「「「?????」」」」

レオニスと中位ドラゴン達は、先日再び拳を交えたばかり。

そしてそれは二回目のことであり、対戦したレオニスは彼らの強さが以前より何倍も跳ね上がっていることを確信していた。

だが、当の四頭達にはその実感が全くないらしい。

首を傾げて不思議がる中位ドラゴン達に、レオニスは別の視点でアプローチすることにした。

「お前ら全員、ここでちょっと立ってみ?」

「ン? ココニ、立テバ、イイノカ?」

「おう、その二本足で立ち上がってみな」

「普通ニ、カ?」

「そ、普通に立ってみるんだ」

レオニスの言葉に従い、四頭が揃ってその場にのっそりと立ち上がる。

相変わらず体格が良いドラゴン達。その身の丈は8メートルくらいあるだろうか。

レオニスが彼らと初めて会った頃の彼らの身長は5メートル前後で、四頭の中で最も大きな鋼鉄竜でも6メートルあるかどうかくらいだった。

そう、その頃に比べたら四頭の身長は明らかに伸びて大きくなっているのだ。

「お前らの目から見て、俺はどう見える?」

「レオニスガ、ドウ、見エルカ……カ?」

「ソリャマァ……人族ッテノハ、相変ワラズ、チッコイヨナ」

「……ィャ、レオニス、オマエ……モシカシテ、前ヨリ、チッコクナッタカ?」

「違ぇよ。俺がちっこくなったんじゃなくて、お前らがデカくなったんだよ」

「「「「………………」」」」

レオニスの論に、四頭は思わず互いの顔を見つめ合う。

自分達の背が伸びた感覚は全くなかったが、確かに言われてみればレオニスの体格が以前より小さく見えたのは本当のことだ。

それがレオニスの背が縮んだせいでなければ、つまりは鋼鉄竜達の方が大きくなったことにより、相対的にレオニスが小さく見えたからに他ならない。

レオニスからの思わぬ指摘に、中位ドラゴン達の顔が次第に緩んでいく。

「俺、身体ガ、大キク、ナッタノナンテ、スンゲー、久シブリダ……」

「俺モダ……モウ、コレ以上、大キクナル、ナンテ、ナイト、思ッテタ」

「何デ、今更、大キク、ナッタンダロウナ?」

「モシカシテ……コレモ、エクスポノ、オカゲ、カ?」

竜の女王である白銀の君は別格として、中位ドラゴン達の身長は概ね5~6メートルが平均的な身長だ。

そんな中にあって、年齢的にも既に身長の伸びが止まって成体となっていた彼らの再成長は驚くべきことだ。

特に竜族は体格の良さが力の強さに直結する傾向にあり、力を重んじる彼らにとってこの更なる成長はかなりの朗報だった。

そして、先程迅雷竜が確たる証拠もなく呟いた『エクスポノオカゲ?』というのは、実は正解だ。

レオニスや中位ドラゴン達は知る由もないが、BCOシステムの中では人族以外の者は食べ物で経験値を得られることが往々にしてある。

例えばそれは神殿守護神や、使い魔などがそれに該当する。

このシュマルリ山脈南方に生息する中位ドラゴン達は、BCOの中ではレアモンスターという立ち位置にある。

レイドボスや使い魔が食べ物や回復剤を与えることで、卵から孵化したり経験値を得て成長するならば、中位ドラゴン達だって成長してもおかしくはないのだ。

「ヨシ!レオニス、コレカラモ、エクスポ、食ワセテクレ!」

「タクサン、クレ!」

「ソシタラ、俺達、今ヨリ、モットモット、大キクナレル、カモ!」

「頼ンダゾ!レオニス!」

「おいおい、お前ら……俺の懐具合も考えてくれよ……」

「「「「?????」」」」

自分達の成長を実感した中位ドラゴン達が、機嫌を良くしてレオニスにさらなるエクスポーションのおねだりをしている。

エクスポーションが原因だとは知る由もない中位ドラゴン達だが、それでも彼らには「エクスポノオカゲデ、大キクナレタ!」という確信があった。

何故ならば、彼らが成長する前と後で違うことと言えば、『レオニス達人族との出会い』と『人族がもたらしたエクスポーションの美味しさを知ったこと』、この二点くらいしかないからだ。

そして身体の成長に影響することと言えば、エクスポーションの服用以外にない。

これらのことを、中位ドラゴン達は言語や理論ではなく本能レベルで理解していた。

己達の成長を無邪気に喜ぶ中位ドラゴン達。

そしてその中位ドラゴン達の無邪気なおねだりに、レオニスはブツブツと文句を呟きながらもそれを否定する素振りは全くない。

毎回毎度エクスポーションを三桁単位で、しかも瓶ごと食べられるから詰め替えなどの節約すらもできない。

エクスポーション代の費用も馬鹿にならないが、それでもレオニスにとっては瑣末な問題だ。

費用が足りないなら、この近辺で得られる貴重な素材を探して適切な場所で売ればいいし、何なら他の場所で魔物狩りをして売却益を得てもいい。

知己を得た中位ドラゴン達が強くなることは、長い目で見ればレオニスにも利があることなのだ。

レオニスの懐具合など全く分からない中位ドラゴン達は、レオニスが何を言っているのか理解できずにきょとんと首を傾げている。

そんな中位ドラゴン達の気の抜けたような顔を見て、レオニスは思わずくつくつと笑う。

「……ま、いっか。エクスポ代なんざ、これから俺がいくらでも稼げばいいだけの話だ」

「フトコロトカ、グアイトカ、俺ニハ、サッパリ、分カランガ……」

「トニカク、コレカラモ、美味イエクスポヲ、ヨロシクナ!」

「ああ、任せとけ」

「「「「ヤッターーー☆」」」」

エクスポーションという、竜族にとって大変美味なる品。

それはただ単に美味しいというだけでなく、より大きくて強靭な身体にしてくれるという思わぬ福音をもたらしてくれた。

自身の更なる成長とその可能性を実感する喜びは、レオニスもよく知っている。

両手を上げて無邪気に喜ぶ中位ドラゴン達の笑顔に、レオニスもつられて笑顔になっていた。