軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第913話 注意事項と様々な確認

レオニスはその他にも、竜騎士団側にいくつかの注意事項を伝達していく。

シュマルリ山脈南方を訪れたら、まず真っ先に白銀の君と竜王樹に挨拶をしに行くこと、決して白銀の君を怒らせてはならないこと等々。

特にこの二者への敬意は常に忘れずに、積極的に表すようにレオニスは説く。

竜族の統領は白銀の君だが、その白銀の君が敬愛して止まないのがユグドラグスだ。このユグドラグスを蔑ろにしたり無礼を働いたら、白銀の君は烈火の如く怒り狂うだろう。

その実例として、レオニスが鋼鉄竜達から聞いた『白銀の君の逆鱗に触れた獄炎竜が、白銀の君の業火で跡形もなく消し炭にされた』という話をしたら、竜騎士達は全員青褪めていた。

火属性の獄炎竜が消し炭にされる―――これがどれ程の異常事態であるか、竜騎士達にもすぐに理解できたようだ。

そうしたレオニスの様々な話や解説を、皆懸命にメモを取りながら聞いている。

普通の人間は白銀の君の存在など知る由もないが、竜族マニアである竜騎士達はさすがに知っているらしい。

というのも、竜族の生態を著した書物がいくつかあって、竜騎士団の本拠地であるラグナ宮殿内の本部内にはそれらが資料として全て揃えられているのだ。

竜騎士たる者、竜に関する知識だけは他の追随を許さぬ!という気概が感じられる。

「白銀の君という存在はもちろん知っていましたが、その近くに竜王樹がいることまでは知りませんでした……とても貴重な情報を教えていただき、感謝します」

「まぁな、神樹ってのは竜族以上に世に知られていないからな。知らないのも無理はないさ」

「その竜王樹というのは、どのような御方なのでしょう? 竜の名を関する神樹だけに、やはり厳格な方なのですか?」

「いや、ユグドラグス―――ラグス自身はとても温厚で優しい性格だ。世界に六本しかない神樹の中で、ラグスは六番目の末弟だからな。末っ子らしい気質というか、おっとりとしていて怒ったところなんて見たことねぇ。その分白銀の君が恐ぇから、釣り合いが取れてるがな!」

竜王樹のことに関しても、興味深く質問していく竜騎士達。

竜王樹は、今から研修に行く先の土地にいる有力者というだけでなく、竜という文字が含まれた二つ名を持っているからだろう。

するとここで、上役達の席の後ろに立っていたうちの一人、旅団長のエレオノラがおずおずと挙手してレオニスに声をかけた。

「あのー……レオニス卿、一つ質問よろしいですか?」

「ン? 何だ?」

「白銀の君と竜王樹を表敬訪問するにあたり、各自で何か手土産を持参した方がよろしいですかね?」

「手土産、かぁ……ンーーー……」

エレオノラからの質問に、レオニスはしばし考え込む。

白銀の君とユグドラグスへの表敬訪問は、言ってみれば地主と大地主への挨拶のようなものだ。

その一帯に研修として一ヶ月以上、しかも大人数で入れ代わり立ち代わりで出入りさせてもらうのだ、その礼として何かしらの手土産を持参した方が相手方の心証も良くなるだろう。

しかし、竜族相手ならともかく神樹が喜びそうな手土産というのが難点だった。

「俺達から神樹にやれるものってほとんどないから、ユグドラグスに対しては別に手ぶらでもいいと思うぞ?」

「そうですよね……分かりました」

「ま、白銀の君用の手土産はエクスポ百本で十分だろ。白銀の君が大喜びすれば、竜王樹も喜んでその礼を言うだろうし」

「エクスポ百本、ですね……」

「でもまぁ、過剰に神経質にならなくてもいいさ。普通に礼を尽くすだけで、あいつらにもきちんと伝わるから」

レオニスの相変わらずのエクスポ推しに、竜騎士達は未だに若干戸惑いつつも真面目にメモを取る。

そしてディランとアリーチェが小声で相談をし始める。

「アリーチェ、団内で常備しているエクスポは何本だ?」

「えーと、本部に百本、飼育場に二百本は常備しているはずです」

「それじゃ全く足らんな……今日中に薬師ギルドに向かい、ありったけのエクスポ購入及び早急な増産依頼と買い取り予約を手配しておいてくれたまえ」

「分かりました」

ディランの指示を受けたアリーチェが、再びメモにペンを走らせる。

その間にディランはレオニスに更なる質問をした。

「レオニス卿、竜達が好むのはエクスポだけなのか? 他の回復剤も好んで食したりはしないのか?」

「あー、俺はエクスポしかやったことがないから、他の回復剤を好むかどうかは分からん。何ならこの研修中に、いろいろ与えて試してみてもいいんじゃないか?」

「そうだな、それも良いかもしれん。竜族との親睦を深める絶好の機会にもなろう」

「ただし、予算的な面も考えておいた方がいいと思うぞ? あいつらに食わせてやるとしたら、一頭につき十本二十本はやらなきゃならんからな」

「そ、そうだな……」

ディランの妙案に、レオニスは賛同しつつもアドバイスを付け加える。

レオニスがエクスポ推しなのは、竜族が好んで飲むというのが一番の理由だが、実はそれだけではない。エクスポが手頃な値段で買える品だというのも大きな理由となっている。

レオニスがいつも竜達に与えているエクスポーションは、一本600Gで売られている。これは、薬師ギルドでも冒険者ギルドでも変わらない、世界共通の小売価格だ。

そして回復剤は、効果が高いもの程当然値段も上がる。

エクスポーションの一つ上のイノセントポーションは一本1400G、市販品最上級のグランドポーションは一本3000G。

それらを毎回一頭につき二十本づつ与えていたら、如何に冒険者稼業で高額を稼ぐレオニスでも厳しい。

そうした意味でも、手頃な価格のエクスポーションは竜達への手土産として最適なのだ。

「……さ、俺からの注意事項は大体伝達したが。他にも何か疑問や質問はあるか?」

「「「………………」」」

「今のところなさそうだな。もし後から何か疑問が出てきたら、第一陣出立前までに冒険者ギルド総本部に伝えといてくれ。なるべく対応するようにする」

「ありがとうございます」

「じゃ、次は外に行くぞー」

「「「はい!」」」

レオニスの掛け声を皮切りに、竜騎士達とともに会議室を出て全員で外の鍛錬場に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

竜騎士用の宿舎から、外の鍛錬場に出たレオニス達。

何故外に出たかと言えば、シュマルリ山脈中央にこれから設置する予定の臨時転移門、それに対応する竜騎士団側の転移門を見ておくためである。

その転移門は、竜騎士用の宿舎のすぐ横にあった。

だが、レオニスが外に出た途端に再び異変が起こる。

それまで宿舎の近くで遊んでいた飛竜達が、レオニスを見た瞬間にサササーッ!と遠くへ行ってしまったのだ。

宿舎に入る前にも同じようなことになっていたが、二度目も竜達に避けられていると知り、レオニスが竜騎士達に向かって問うた。

「なぁ、ここの飛竜達ってのは、かなりの人見知りなのか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ? むしろ普段のこの子達は、外部からの訪問者が来たところで全く気にも留めないのですが……」

「なら、何で俺はこんなに避けられてんの?」

「「「……それは……」」」

竜騎士達が互いに顔を見合わせながら、何やら言い淀んでる。

そんな中で、全く空気を読まない者が一人。

「レオニス卿って、もしかして人間ではない?」

「「「!?!?!?」」」

空気を切り裂くかの如き言葉を発したのは、第二師団長のカルミネであった。

一人称が『僕』というだけあって、外はねマッシュの青藤色の髪にくりっとした大きな山葵色の瞳は童顔で、外見的にかなり年若く見える。

だが、仮にも師団長という地位に就いているのだから、実力はかなりのものなのだろう。その不用意な言動も、もしかしたら年相応のものなのかもしれない。

そんなカルミネの突然の爆弾発言に、周囲にいた他の者達が目をまん丸&点にして固まっている。

もちろんその中には団長のディランも含まれていた。

「ちょ、おま、カルミネ……」

「そ、その言い方は……」

「もうちょい言い方ってもんがあるだろう……」

カルミネを取り囲み、小声でゴニョゴニョと窘める同僚達に、カルミネははたとした顔になる。

「……あ、ごめんごめん、ちょっとばかり言い方が悪かったね」

「ちょっとばかりどころじゃねぇって……」

「えーとね、僕が言いたかったのは、竜人族の血を引いているかとか、そういうのを聞きたかったんだ」

「それならそうと、きちんとそう言いなさいよ……!」

「グエエェェ……」

周囲の同僚達が、カルミネの首を軽く絞めたり肩を掴んで前後にブンブン振ったり、頭のこめかみを両手の拳でグリグリと締め上げたりしている。

だが、カルミネから人外扱いされた当のレオニスは、ケロッとしながらカルミネの問いに答える。

「俺は見ての通り、普通の人間だぞ? 先祖に人間以外の種族がいたって話も、これまで一度も聞いたことはないし」

「そうなの? でも君からは、竜の匂いが強く漂ってくるんだよねぇ……しかも、とんでもなく高位の竜の匂い。何か心当たりはないかい?」

レオニスの答えに、同僚の檻からサクッと逃げ出したカルミネがレオニスの前に立ち再び問いかけてくる。

匂ってくる、というカルミネの言葉に、レオニスは己の腕をクンクン、と嗅ぎ始めた。

「えー、俺そんなに臭うかー? これでも毎日風呂には入ってるぞ?」

「ンーとねぇ、これは体臭とかの直接的な問題ではなくて、何かの残り香的なものとか?」

「あー……そういや昨日、竜騎士団の研修の許可を事前に得るために、白銀とラグスのところに話をしに行ったが……」

「「「それだーーー!!」」」

「あと、白銀やラグスから加護ももらってるが……」

「「「それもだーーー!!」」」

カルミネが言う『竜の匂い』という言葉に、最初は単純に体臭が臭うのかと思ったレオニス。

だがその後のやり取りで、前日にユグドラグスと白銀の君のもとを訪ねたこと、そして両者からの加護をも受けていることを素直に話した。

そのおかげで、ディラン他十人の竜騎士全員から指を指されるレオニス。

ここにいる飛竜達がレオニスに平伏す原因は、竜王樹と白銀の君から授かった加護にあった。飛竜達は、レオニスが竜族屈指の二大実力者からの庇護を得ていることを敏感に悟ったのだ。

その事実を知った竜騎士達は、唖然としながらレオニスを見つめるしかない。

一方のレオニスは、自分の体臭が臭かった訳ではないことを知り、安堵していた。

「なーんだ、俺が臭かったんじゃなくて良かった!」

「……(そういう問題ではないと思う)……」

「つーか、ラグスや白銀からもらった加護が分かるなんて、ここの飛竜達ってかなり賢いんだな!」

「……(そういう問題でもないと思う)……」

「じゃ、疑問が解決したところで、転移門のところに行くぞ!」

「「「……はい……」」」

明るく笑うレオニスの、何というポジティブさよ。

あまりにも超前向きな捉え方に、竜騎士達はご機嫌な様子で歩き出したレオニスの後ろを素直についていく他ない。

そもそもレオニスを人外扱いしだしたのは、竜騎士団側の方からだ。そんな扱いをされたら、普通なら怒ったり臍を曲げたりして当然なところである。

だがレオニスは、それを怒るでもなく、不快になり問い質す訳でもなく、明るく笑い飛ばしてくれるなら絶対にその方がいい。

竜騎士達は皆、レオニスの器の大きさに感動すら覚える。

もっともそれも、レオニスにしてみたら人外扱いされることなど日常茶飯事過ぎて、ただ単に慣れてしまっているだけのことなのだが。

レオニスの持ち前のポジティブさ、そして多少のことはキニシナイ!精神は、竜騎士団との円満な交流にも役立っていた。

そうして宿舎横の転移門の前に移動したレオニス達。

目の前の地面に、転移門の魔法陣があるようには全く見えない。だが操作用の石柱があることで、そこに転移門があることが分かる。

「これが、ラグナ宮殿に繋がっているという転移門か?」

「ああ。万が一ラグナ宮殿内にて有事が起きた際に、すぐに飛竜達とともに駆けつけられるよう設置されている」

「ふむ……シュマルリ山脈中央の転移門はこれから俺が設置する予定だが、ラグナロッツァとの出入口はこの転移門を使っていいってことか?」

「それで問題ない」

矢継ぎ早に質問するレオニスに、今度は第一師団長のコンラートが答えていく。

短髪で刈り上げた灰茶色の髪に、柘榴色の鋭い瞳は十人の竜騎士の中でももっとも厳つい印象を与える。

その風貌だけでなく、レオニスと同じくらいの身長に筋肉質の身体というのが余計にその威圧感を増しているのだろう。

そしてコンラートの見た目通り、話し方もかなりフランクだ。だが、もともとレオニス自身も畏まった会話を好む方ではないので、ここでも全く気にも留めずに二人は普通に会話している。

「転移門の動作に関する条件付けなんかはあるのか?」

「竜騎士に任命された者には、『竜騎士の証』という徽章が配られる。その徽章には特殊な魔法付与が施されており、それと対になる徽章を相棒の飛竜にも身に着けさせる。その二つを身に着けた者だけが、この転移門を使える仕組みになっている」

「そうか、それなら悪用される心配もなくて安心だな。出口に対する制限はあるか?」

「使用に関しては厳重だが、行き先に関する制限は特にない。時と場合によっては、ラグナ宮殿以外の場所に飛ばねばならないことも想定されるのでな」

「承知した。そしたら第一陣が出立する前の日までに、シュマルリ山脈中央の転移門と繋げよう。繋げる作業と冒険者ギルドへの登録は俺の方でしておくから、もしそれ以外に必要な手続きがあるならあんた達の方で済ませておいてくれ」

使用する転移門に関する質疑応答を、テキパキとこなしていくレオニスとコンラート。

後で聞いた話によると、やはりコンラートもレオニスと同じ脳筋族であることが判明した。

基本的に竜騎士とは、魔法が得意で品行方正な者が多いイメージで、実際のところもそうなのだが。中にはレオニスのように『拳と力こそが全て!』という者も若干いるようだ。

そしてこのコンラートという者が、竜騎士の中でも随一の脳筋族なのである。

道理でレオニスともサクサク会話が進む訳だ。

今日レオニスが、ここ竜騎士団において確認しておくべきことの全てを確認し終えたレオニス。

満足したようにディラン達竜騎士団上層部に話しかけた。

「とりあえず、今日のところはこんなもんだろう。後はあんた達の方で物資調達なり様々な手配を頑張ってくれ。あ、あと、体調管理もな」

「ありがとうございます。レオニス卿には、これからしばらくの間様々な場面でお世話になると思いますが……どうぞよろしくお願いいたします」

「おう、任せとけ。邪竜の島の討滅戦という、同じ目的を目指す者同士だ。俺の方こそ、これからよろしくな」

「「「はい!」」」

広い鍛錬場をのんびりと話し歩きしながら、出入口の門まで突っ切っていくレオニス達。

軽く手を振りながら人間用の出入口から出ていくレオニスを、十人の竜騎士達は静かに見送っていた。