軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第902話 目下の目標

ライトのサイサクス人生初の大運動会を無事終えて、再び平穏な日常生活に戻るライト達。

といっても、振替休日明けの火曜日のライトは大変だった。

ラグーン学園に登校すれば「ライト君!日曜日の運動会、すごかったね!」「あんなに早く走るには、どんな練習をしたらいいの!?」「もしかして、食べ物に秘訣があるとか!?」等々、それはもう英雄さながらに大勢の学友達に囲まれては、四方八方から質問攻めにされてしまう。

それは下駄箱や教室までの廊下だけでなく、昼食を食べるための食堂にまで及んだ。

男女問わず大勢の学園生に囲まれるライト。

あまりの勢いに若干辟易してはいたが、苦笑いしつつ笑顔で根気よく応じ続けている。

ライトは内心で『こんなもの一過性のもんだろうし、数日もすりゃ自然と収まるっしょ……』と思っていたからだ。

実際ライトのその予想は当たっていて、日を追うごとにライトを取り囲む垣根は次第に薄くなっていき、その週の金曜日にはもういつもの平穏な生活に戻っていた。

そうした英雄扱いよりも、ライトとしては皆の反応がかなり好意的だったことが意外だった。

ライトが英雄扱いされたのは、バトンリレー戦で爆走したせいだ。そしてそれは、ひとえに赤チームの勝利のため、クラスのため、そして何より自分のためだった。

だが、間違ってもそれは普通の人間が走って出せるようなスピードではなかった。

如何に皆のためとはいえ、思わず本気で走ってしまったライトは少しだけ後悔していた。

ぁー、やっちまったかなぁ……あんなん子供の走るスピードじゃねぇよね……つーか、俺だって他の子があんな爆走してたらドン引きする自信あるわ。もしかしたら俺、これから学校で化物扱いされちゃうかも……

ライトはそんなことを考えて、少しだけ鬱々としていたのだが。蓋を開けてみれば、皆から持て囃されて戸惑うばかりだった。

これには実は、ちょっとした理由がある。

それは、父兄参加型競技でのレオニスの大活躍だった。

ライトの爆走より先に、ライトの保護者であるレオニスやラウルのとんでもない能力と活躍を見ていたせいで、皆から『あの人達と家族なんだから、ライト君だってあれくらい走れて当然よね!』と思われたのだ。

『ま、俺の活躍を楽しみにしとけってこった』

秋の大運動会開催の前日、ライトに向けてニヤリ……と不敵な笑みを浮かべたレオニス。

レオニスがその持ち前の負けず嫌いを活かし、父兄参加競技に対しても全身全霊全力でもって挑んだことが、図らずも周囲のライトへの見方をも良い方向に変えてくれたのだ。

ライトもレオニスもそのことを知らないが、兄弟の絆のおかげでライトの平穏な生活が守られたのだ。

そんなライトの目下の目標は、クエストイベントのエクストラクエストをクリアすること。その中でも特に『シルバースライムの捕獲』に重点を置いて、いろいろと計画を練っていた。

シルバースライムを捕獲しなければ、クエストイベントのエクストラクエストのお題の一つ『銀色のべたべた』をクリアすることはできないからだ。

他のお題である濃縮マキシマスポーションや濃縮ギャラクシーエーテルは、その二段階前であるグランドポーションやコズミックエーテル作りに励んでいる最中だ。

夏休み明け以降、土日の休みを利用して材料集めをしたり、平日でも暇を見てはレシピ生成で日々コツコツと作り貯めている。

それらの地道な作業と平行しながら、ライトは如何にしてシルバースライムを入手するかを考え続けていた。

まずシルバースライムに関しては、スライム飼育場のロルフからいろいろと話を聞いて情報収集してある。

シルバースライムとは、銀鉱山に生息する銀色のスライムであること、そしてかつてスライム飼育場でもシルバースライムを飼育する試みがあったこと。その結果、餌代他コストに見合わず長期飼育は断念したこと、飼育を断念した最たる理由はシルバースライムが食べる餌が銀のみだったから等々。

それらの話をロルフから聞いて以来、ライトは様々な策を巡らせ綿密な計画を立てる。

シルバースライムを捕獲する前に、まずは潤沢な餌の準備が先決だ。

たくさんの餌を事前に用意しておかなければ、シルバースライムを長期飼育することなど到底できないからである。

幸いにも銀は金属なので、肉や野菜のように腐ったり傷んだりすることはない。兎にも角にも銀を集めておけば、マイページなりアイテムリュックなりに保管できる。

そして肝心の銀だが、ライトには当てがあった。

それは、レオニスとともにエリトナ山で引き取ってきた死霊兵団の装備品の残骸だ。

それらは長らくエリトナ山で野晒しにされていたため、錆などの酸化や劣化が著しかった。

だが、ライトにはクエストイベントで得た【金属錬成】という生産職スキルがある。

それは、この世のあらゆる金属を錬成することが可能になるスキルで、金属の純化はもちろん合金も思いのままに生み出すことができるのだ。

ライトはこのスキルを使い、死霊兵団の装備品の残骸を様々な金属に戻していた。

まずは錆だらけの鎧や兜の一つ一つに【金属錬成】スキルをかける。

そうすると、錆がどんどん薄れて消失していき、最後には新品同様の装備品に戻る。これにより、錆などの不純物を取り除いて純度を高めているのである。

そしてそれらを一旦マイページに全部収納する。

そうすると、アイテム欄に『鉄の鎧 10個』『ミスリルの盾 4個』『オリハルコンの篭手 2個』というように、金属毎に分類されるのだ。

最後にこれらを再び【金属錬成】にかけて、インゴット状態にする。

こうして死霊兵団の装備品残骸は、様々な金属の塊に生まれ変わっていった。

さすがにヒヒイロカネ製の装備品はなかったが、それでも金属の純化の過程で少量のヒヒイロカネが採れた。

ヒヒイロカネという金属には、使用者に対して魔力の増幅や魔力耐性の向上など様々な効果があるという。そのため、鎧や盾などに飾りの象嵌などで埋め込まれていたヒヒイロカネが回収できたのだろうと推測される。

そしてライトのお目当ての銀も、そこそこ回収できた。

【金属錬成】でもとの金属に戻した後、アイテム欄に出てきたのは『銀 45kg』。

シルバースライムが銀をどれくらい食べるのかはよく分からないが、ロルフの話によると「一日につき拳大程の銀を、朝昼晩の三回に分け与えていた」とのこと。

ロルフの言う『拳大の銀』というのが一体何グラムぐらいあるのか、これまたよく分からないが。一日あたり500グラム程もあれば良さそうだな、とライトは考えている。

もしライトの予想通り、一日500グラムの銀でシルバースライムの食事が賄えるとしたら、45kgで90日分。そこそこ持ちそうだ。

だが、ライトとしてはそれだけでは心許ない。もし万が一、捕まえたシルバースライムが大食漢だったら、一日1kgとか2kgくらい平気でペロリと食べてしまうかもしれない。

そこら辺は個体にもよるだろうが、何しろシルバースライムは未知の生物。飼育データもロルフが担当した一件しか実例がないので、銀をどこまで用意すればいいか皆目見当がつかないのだ。

なので、念の為今以上に大量の銀を入手しておきたいライト。いわゆる『備えあれば憂いなし』である。

そのために、ライトが今から取れる手段は唯一つ。

今こそあの激レアアイテム、『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』の出番である。

これを使って幻の鉱山に行き、銀を大量に採掘するぞ!という訳だ。

もっとも、幻の鉱山に行ったら行ったで銀以外の鉱物もたくさん拾ってくるつもりなのだが。

この『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を使用するには、まずツルハシにMP10万を充填しなければならない。

ツルハシのMP充填方法をヴァレリアから教わったのが、九月の初旬。

ヴァレリアが手本として、実際にその場でツルハシに魔力を込めてみせた分のMP50175に、ライトが実践して魔力を追加した。

その結果、ツルハシのMP充填量は『57361/100000』となった。

その日以降、ライトは毎日少しづつツルハシに魔力を込めて充填していった。

一日につきMP1000〜2000を目安として、残り43000弱のMPを約三週間かけてコツコツと貯め続けたライト。

秋の大運動会の翌週の土日には、幻の鉱山に行けるまでのMP10万充填を完了していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そしてやってきた、週末の土日。

ライトは土曜日の朝から早々に動き出す。

朝の魔石回収ルーティンワークを終えて、カタポレンの家で朝食を摂った後浴室でウィカを呼び出す。

「ウィカー、ちょっと来てくれるー?」

浴槽の水面に向かって声をかけると、しばらくしてウィカが現れた。

『ライト君、おはよー☆』

「おはよう、ウィカ!今日もぼく達といっしょにお出かけしてくれる?」

『もちろんもちろん!今日はフォル先輩といっしょなんだねー、フォル先輩、おひさー☆』

「フィィィィ♪」

浴槽から現れたウィカが、ライトの右肩に乗っていたカーバンクルのフォルに挨拶をする。

フォルとウィカは、ともにライトが手ずから孵化させたライトの使い魔。

フォルが一番最初の使い魔で、ウィカは二番目。故にウィカはフォルのことを『フォル先輩』と呼ぶのである。

先輩と後輩の心温まる挨拶の後、ウィカが水面の上にちょこんとお座りしつつライトの顔を見上げて問うた。

『ライト君、今日はどこ行くのー?』

「今から転職神殿に行こうと思ってるんだー」

『転職神殿?……ああ、巫女のお姉さんやボク達の後輩の天使ちゃんや綺麗な龍がいるところ?』

「そうそう、それそれ」

『じゃあ今日は水場の移動じゃなくて、ライト君の瞬間移動で行くんだね☆』

「うん!」

今日の行き先を尋ねたウィカ、自分の出番ではないことを知り早速ライトの左肩に飛び乗る。

何の用事で転職神殿に行くのか、具体的なことは聞いてこない。

だが、ウィカはライトの使い魔。主であるライトが『おいで』『いっしょにお出かけしよう』と言えば、無条件についていくのみである。

ライトは両肩にフォルとウィカを乗せながら、自室に移動する。

そして転職神殿に向かって瞬間移動していった。