軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第897話 お待ちかねのお昼休み

午前中の競技は、和やかに進んでいった。

一年生の玉入れに二年生の大玉転がし、三年生の二人三脚等々、各学年ごとの競技が順次開催され、我が子を応援する父兄達の声援で盛り上がっている。

ウォーベック伯爵夫妻も一年生の入場が始まった頃に現れて、夫婦でレオニス達父兄に挨拶をしていた。

当主のクラウス曰く「今日の休みのために、今朝のギリギリまで仕事をしていたら遅くなってしまった」とのこと。

リリィの父ビリー同様、可愛い娘のためなら頑張る父親の姿に、レオニス達も和む。

レオニス達とそんな話をしていたら、場内アナウンスで『二年生の入場です』という声が聞こえてきて、クラウスは「おお、ハリエットの入場か!間に合ってよかった!ではレオニス君、ラウル君、また後程!」と言いつつテントに入っていった。

普段は多忙なクラウスだが、愛娘の入場場面に間に合うことができて何よりである。

ちなみにハリエットの兄ウィルフレッドは、今日は一年生の世話役として出動しているらしい。

彼はラグーン学園中等部の生徒会副会長をしているので、こういった献身的な役割もこなさなければならないのだろう。

二年生担当ならば、ハリエットのいるA組にも行けたのだが、残念ながら一年生担当なので行けない。そこら辺は身内贔屓防止のために、別の学年担当を割り当てられたのかもしれない。

そうしてやってきた、お待ちかねのお昼休みの時間。

どの子供達も、己の家族がいる敷物の場所目がけて散らばっていく。

レオニス達のところにも、ライトやイヴリン、ジョゼ、リリィ、ハリエットがやってきた。

どの子も皆嬉しそうな顔で父兄のもとに駆け寄ってくる。

もちろんレオニス達も、子供達を笑顔で迎え入れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオ兄ちゃん、ラウル、ただいまー!」

「おう、おかえりー」

「パパ、ママ、私の出番見てくれてた!?」

「もちろん!大玉転がしの時のイヴリンは大活躍だったな!」

「パパ、約束してた美味しいお昼ご飯はー?」

「たくさん作ってきたぞー!」

「わーい!ありがとう!」

「お父様、お母様、お忙しい中を来て下さり、ありがとうございます!」

「可愛いハリエットのためだ、仕事の一日や二日や一年二年くらいいくらでも休めるさ」

ライト達もそれぞれの家族の敷物の中で、楽しそうに会話をしている。

ちなみにジョゼのところも親子で話をしてはいるのだが、小声でゴニョゴニョと会話しているので、何を話しているのかほとんど聞こえない。

とはいえ、少なくともジョゼとジョゼ父はにこやかな笑顔に見えるので、それなりに温かい会話をしているのだろう。多分。

するとここで、イヴリンとリリィがライトやジョゼ、ハリエットに向かって声をかけた。

「さ、皆で美味しいお昼ご飯にしましょ!」

「うちのパパが皆の分もたくさん作ってくれたから、皆でいっしょに食べよー!」

「「わーい!」」

イヴリン達の言葉に、ジョゼとライトが破顔しつつ大喜びする。

もちろんハリエットも喜んでいるが、そこは由緒正しいウォーベック家の伯爵令嬢、両手を上げて喜ぶようなはしたないことはしない。嫋かな笑顔で優雅に微笑んでいる。

「いやー、私達までお邪魔させてもらって悪いね」

「いえいえ、ハリエットちゃんのお父さんとお母さんなら大歓迎ですよ!もっとも、下町の味が皆様のお口に合うかどうか分かりませんが……」

「心配はご無用。私も城下の視察と称しつつ、祭りや屋台の食べ物を口にする機会は多いので」

「そうなんですかぁ、それは意外ですねぇ」

今日も気さくなクラウス伯に、向日葵亭女将のシルビィが恐縮しながらも歓迎の意を示す。

しかし気さくなのは伯爵夫妻だけで、夫妻の後ろには執事と侍女長が一人づつ、そしてガッチガチの鎧を着た三人の護衛が立って警護している。子供の運動会にはおよそ似つかわしくない、かなり物々しい光景である。

だが、クラウス伯の地位や要人という立場を考えると致し方ない。

そして、皆が昼ご飯の準備をしている最中に、ウォーベック家長男のウィルフレッドが合流した。

ウィルフレッドもまた運動会の正装である体操着に身を包んでいる。

中等部の制服姿はライトも何度か見たことがあるが、中等部の体操着姿はなかなかに珍しい。

テント以外の各家庭の敷物を上手く繋いで、一つの大きな輪になる。

その真ん中に、向日葵亭の名入りの巨大岡持ちから取り出された様々な食べ物がずらりと並ぶ。

おにぎりにおいなりさん、一口大のミートボールにタコさんウィンナー、唐揚げ、トンカツ、卵焼き等々、運動会やピクニックなどでもお馴染みの定番メニューだ。

そしてその隙間のところどころに、他家が持ってきたお昼ご飯も混ざる。

ライトの家からは、ラウル特製サンドイッチやらクリームコロッケ、ミニオムレツ、パスタサラダ、ハッシュドポテトなど。向日葵亭のメニューとなるべく被らないものを出している。

ウォーベック家からは、ローストビーフや帆立のマリネ、一口カットの最高級ステーキなどの、一目見ただけで高級食材と分かる豪華料理が並ぶ。

イヴリンの家からは、川釣り師である父スコットが黄大河で夜釣りで獲って早朝に捌いたばかりの、超新鮮なイエローサーモンの料理が出された。カルパッチョやハーブパン粉焼きにカナッペなど、どれも美味しそうだ。

ちなみにこのイエローサーモン、基本的にラグナ宮殿や高級料亭御用達の、いわゆる『幻の高級食材』である。

そしてジョゼのリール家からは、サンドイッチが数個。

箸や飲み物、取り皿などは各家庭が用意したものを使う。

数多の色とりどりの料理が勢揃いしたところで、皆手を合わせて唱和する。

「「「いッただッきまーーーす!」」」

食事の挨拶をした後は、各自好きなものを選んで食べ始める。

ウォーベック家だけは、当主夫妻が選んだものを口にする前に執事と侍女長が毒見役を務める。

銀の皿やフォークを使い、毒見役が一口食べてしばらく経過してから、ウォーベック夫妻が食べる。

何とも手間がかかって仰々しいことだが、これもまたクラウス伯の立場上致し方ない。周囲もちゃんとそれを理解しているので、誰も文句など言わないで普通に受け入れ接している。

「うわー、このクリームコロッケ、すっごく美味しいね!」

「向日葵亭のおいなりさん、大きくて具沢山で甘い味付けがすんげー美味ぇな!」

「ハリエットちゃんちの一口ステーキ、口の中で蕩ける……」

「新鮮なイエローサーモンとは……我がウォーベック家でも滅多にお目にかかれない、幻の高級食材じゃないか!」

各家庭で持ち寄ったお昼ご飯に、皆それぞれが舌鼓を打ちながらモリモリと食べている。

そうして二十分もしないうちに、出された食事が全部完売した。

「ぷはー、食った食ったぁー」

「向日葵亭の旦那さんよ、今度このおいなりさんのレシピを教えてもらえるか?」

「いいとも、そしたらラウルさんの秘伝レシピ一つと交換な!」

「運動会の昼食で、よもや幻の食材に出会えるとは思わなんだ……イヴリンちゃんのお父上、もしよろしければ我が家にもイエローサーモンを定期的に卸す契約をしてはもらえまいか?」

「ウォーベック家との契約ですか!? もちろん承ります!」

ラウルと向日葵亭、ウォーベック家とイヴリン父、いろんなところでそれぞれ新しい交流や商談が生まれている。

だがそれらは大人達の交流であり、子供達にはあまり関係がない。

子供達にとっては、美味しいご飯の後のお楽しみタイム、つまりはデザートの方が重要である。

「ねぇねぇ、ライト君!約束のアレはまだー?」

「うんうん、それ私もすっごく楽しみにしてたのー♪」

「ああ、アレね!ラウルー、食後のデザート出してもらえるー?」

「おう、デザートか。今から出すから、ちょっと待ってな。その間に皆も食器や皿を片付けててくれ」

「「「はーい!」」」

ライトを経由したイヴリン&リリィのデザート催促に、ラウルも早速応える。

ラウルのデザートを迎えるために、イヴリン達もラウルの言葉に従い皿や箸などをいそいそと片付けていく。

ラウルが出したスイーツは、定番のアップルパイに一口ドーナツ、チョコブラウニー、みたらし団子、ミニパンケーキ、苺のタルト、クッキー、小鉢に入った水ようかんやプリン、白玉あんみつ、キャラメルムース、珈琲ゼリー等々。

それはまるで高級ホテルのデザートビュッフェのような、ゴージャスな空間に早変わりである。

「うわぁ……どれもすっごく美味しそう……」

「皆どれでも好きなものを選んでね!……ていうか、これからまだ午後の運動会もあるんだから、イヴリンちゃんもリリィちゃんもあんまり食べ過ぎないようにしてね?」

「もちろんよ!……(ジュルリ)……」

「おおお、ラウル君のピクニック向けスイーツか……」

「貴方、ここは普段いただかないようなものをいただきましょうか♪」

スイーツを楽しみにしていた子供達だけでなく、ウォーベック夫妻までもがラウルのスイーツに目を輝かせている。

午後もまだ運動会が続くのだから、あまり食べ過ぎないようにライトが注意するも、イヴリン達にその言葉が届いているかどうか怪しいものだ。

そして皆、思い思いにデザートに手を伸ばす。

ライトはキャラメルムース、レオニスは珈琲ゼリー、イヴリンは苺のタルト、リリィはプリン、ジョゼはクッキー、ハリエットは一口ドーナツ。クラウスはみたらし団子、クラウスの妻ティアナは水ようかん、ハリエットの兄ウィルフレッドはチョコブラウニー等々。

皆それぞれに好みのスイーツを手に取り、口にしていく。

ウォーベック家のものだけは、ちゃんと執事と侍女長の毒見を経由してから当主達に渡されていった。

「おおお、やはりラウル君が作るスイーツはどれも絶品だな!」

「お褒めに与り光栄だ」

「「……ッ……!!」」

「?? イヴリンちゃんにリリィちゃん、どうした? もしかして、俺のデザートはお口に合わなかったか?」

目を真ん丸にして固まるイヴリンとリリィに、ラウルが気づき声をかける。

イヴリン達が固まったのは、ラウル特製スイーツが二人の想像を絶する美味しさだったからだ。

ラウルの言葉に我に返ったリア充女子二人が、慌ててラウルに返事をする。

「お、お口に合わないなんて、そんな!そんなこと絶対にないですッ!」

「うん……リリィ、こんな美味しいプリン、生まれて初めて食べた……」

「そうか、そりゃ良かった」

イヴリン達の言葉に、ラウルが優しい笑みを浮かべながら安堵する。

ヨンマルシェ市場のアイドルであるラウルに、眩いばかりの悩殺笑顔を向けられたイヴリンとリリィ。一気に顔が紅潮する。

そんなイヴリン達の横で、向日葵亭夫婦やイヴリン父母も感心しきりでスイーツを食べている。

「うおおおおッ、何だこの美味過ぎるムースは!?」

「苺のタルトも濃厚で美味しいわぁー」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ」

「ラウルさん、一品か二品だけでもいいから、是非ともうちにスイーツを卸してくれないか?」

「そうね、それができたら間違いなく向日葵亭の看板メニューになるわね!」

「ンー、お誘いいただくのは嬉しいが、それはちと難しいかな。俺もここ最近かなり忙しいんだ」

「そっかー、それは残念。でも、もしラウルさんがその気になったらいつでも言ってくれ、大歓迎するから」

「ああ、そん時はよろしくな」

ここでも新規の商取引を持ちかけられるラウル。

貴族も認める凄腕料理人だけあって、どこにいても引っ張りだこの人気者である。

しかし、それらの勧誘にラウルが応じることは決してない。

今のラウルは料理だけでなく、カタポレンの畑や天空島での野菜栽培やらオーガ族の料理教室、ユグドラツィの結界作り等々で壮絶に大忙しなのだ。

皆それぞれにラウル特製スイーツを堪能し、しばしのんびりとした会話で休憩を楽しむ。

すると、校庭全域に『これより午後の部が始まります。ラグーン学園の学園生の皆さんは、自分の席に戻ってください』という場内アナウンスが流れた。

そのアナウンスに従い、ライト達が一斉に立ち上がる。

敷物の外に置いてあった靴を履き、保護者達に向かって話しかけた。

「じゃ、いってきまーす!」

「おう、皆午後も頑張れよー」

「パパ、ママ、午後もちゃんと見ててね!」

「ああ、イヴリンの活躍をしっかり見てるからな!」

「パパもママも、父兄参加のかけっこに出てね!」

「うふふ、頑張るわ」

「お兄様も、午後のお仕事頑張ってくださいね」

「ああ、任せたまえ。一年生の子供達を見守りつつ、ハリエットの華麗なダンス披露を楽しみにしているよ!」

それぞれ家族に声をかけつつ、子供達は校庭の内周側にある各組の席に戻っていく。

子供らしい体操着で元気良く駆けていくライト達の背中を、レオニス達保護者は皆温かい眼差しで見つめていた。