軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第888話 第四の職業

『転職すると、レベルが1にリセットされます。所持金、装備品、アイテム、スキル、職業習熟度はそのまま持ち越されますので、ご安心ください』

ミーアのNPCとしての仕事、転職の案内のテンプレ説明が口頭で粛々となされる。

鈴が転がるような愛らしいミーアの声で、いつもの滑らかな説明が心地良く響く。

転職自体はレベルリセットの際にも行われるので、これらの台詞ももうすっかり聞き慣れたものだ。

だが今日の転職は、いつものレベルリセットとは違う。

五月半ばに三つ目の職業として選んだ【僧侶】。約四ヶ月を経てその光系四次職である【聖祈祷師】をマスターし、次に極めたい四次職を目指して新たなスタートとなるのだ。

『どの職業に転職なさいますか?』

「【魔術師】でお願いします!」

ライトが四つ目の職業として選んだのは、魔法系の【魔術師】だった。

この【魔術師】とは、そのままの文字通り『魔法使い』である。

主に攻撃魔法スキルを習得し、地水火風光闇の基本六属性だけでなく無属性を含む全ての属性魔法が使えるようになる。

また、魔防アップや魔攻アップなどのバフ系スキルや敵の魔防ダウン、魔攻ダウンなどのデバフ系スキルも得られる。

バフデバフに関しては、回復職の【僧侶】など他の職でも同じものを覚えることができるので、既にいくつか習得している。

だが、攻撃魔法を覚えたいならやはり【魔術師】は外せない。

ライトは前世ではゴリゴリの物理系至上主義者だったが、今世では魔の森カタポレンで育ったせいで魔力が高い傾向にある。

体質的にかなり魔法使い寄りなので、今世では魔法をメインに習得していく予定なのだ。

大きな力のうねりを伴う職業変更の儀式を無事済ませたライト。

今回就いたのは魔法使いの王道【魔術師】だけあって、身体の奥からこれまでになく魔力が満ち満ちていくのが分かる。

己の新たな力とスタートを確かめるかのように、手を握ったり開いたりしながら見つめるライト。

そんなライトを、ミーアは穏やかな笑みとともに見つめ語りかける。

『転職の儀は無事完了いたしました』

「ありがとうございます!」

『これからは【魔術師】として、様々な攻撃魔法を覚えていくのですね。四次職マスターまでまた長く険しい道のりですが、頑張ってくださいね』

「はい!」

ミーアとの会話を終えたところで、近くで見守っていたミーナとルディがライトのもとに駆け寄ってきた。

『主様!新しい職業への転職、おめでとうございます!』

『パパ様、今度は魔術師になったんですね!』

「うん、ありがとう!」

ライトを主と慕う使い魔達に囲まれ、祝福されて照れ臭そうにはにかむライト。

ミーアもまたそんな三人を温かく見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

三つ目の四次職【聖祈祷師】をマスターし、第四の職業に【魔術師】を選択したライト。

転職も無事済ませたところで、気になるのは恒例となった『四次職マスターのご褒美』である。

「……そろそろヴァレリアさんが登場する頃、ですかねぇ?」

『そうですねぇ。いつもなら、もうそろそろお出ましになられるのではないですかねぇ?』

いつもなら、誰かがその名を呼ぶ前からヒョイ、と突如現れるヴァレリア。

だが、今日に限って未だに現れない。どうしたのだろうか。

するとここで、ライトのお腹から『ぐーきゅるるるる』と盛大な音が聞こえてきた。

盛大な腹の虫の鳴き声に、ライトは顔を赤くして恥ずかしそうにしながらゴニョゴニョと呟く。

「……さっき魔物狩りしてきたからかな、結構お腹空いちゃってまして……」

『ちょうどお昼時ですし、ヴァレリアさんを待ちがてらお昼ご飯にしては如何ですか?』

「そうですね……そしたら皆でお昼ご飯にしましょうか!」

空を見上げながら『昼ご飯にしよう』というミーアの提案に、ライトも笑顔になる。

時刻は正午の十二時近く、昼食を摂るにもちょうど良い時間だ。

ライトは早速転職神殿の敷地内の端っこの木陰に移動し、いそいそと昼食の準備を始めた。

アイテムリュックから取り出した敷物を敷き、その上にサンドイッチなどが入ったバスケットを複数置いていく。

他にも飲み物のカップや取り皿、おしぼりなどを四人分出して、皆の前に手際良く配っていく。

ちなみにルディは既に身体が大き過ぎて、一枚の敷物の中には座りきれないので、半分寝そべるような形で輪に加わっている。

昼食の準備が一通り整ったところで、皆敷物に座り手を合わせて合掌する。

「『『『いッただッきm』』』」

「あれ? 私の分はー?」

「『『『!!!!!』』』」

皆でお昼ご飯を食べようとした、まさにその瞬間。

ライトの背後にヴァレリアが現れた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

相変わらず心臓に悪い登場の仕方に、ライトだけでなくその場にいた四人全員が食事の挨拶の途中でビクン!と飛び跳ねた。

「ヴァレリアさん!?」

「やほー。皆、今からお昼ご飯なの?」

『は、はい、ヴァレリアさんのお越しを待ちながら、皆でお昼ご飯にしようということになりまして』

突如現れたヴァレリアに、ライトとミーアが懸命に平静を装いつつ対応する。

今からライト達がお昼ご飯を食べるところだというのは、状況的に一目瞭然だ。

ライト達が囲んでいるバスケットには、サンドイッチやらおにぎりやら如何にも美味しそうな食べ物がたくさん入っている。

それらの美味しいものを、ヴァレリアが横目でチラッ、チラッ、と見遣りながら呟く。

「いいなー(チラッ)、皆で楽しそうにお昼ご飯を食べるとか、いいなー(チラッ)、羨ましいなー(チラッチラッ)」

「あ、ヴァレリアさんの分もありますよ!」

「え? ホント? 私もご馳走になっていいの?」

「もちろんです!だって、今日はヴァレリアさんが来ることは分かってましたし」

「うん、先週皆で約束したもんね!」

敷物の上に広げられた、ライト達の豪華な昼食の数々。

それらをこれでもか!というくらいに、壮絶にチラ見し続けるヴァレリア。

ここまでされたら、昼食の輪に誘わない訳にはいかない。

もっとも、ライトの方も食べ物の数はまだまだ余裕があるので、ヴァレリアを昼食に誘うことに何ら問題はないのだが。

ライトとミーアが座る位置をずらして、ヴァレリアが座るスペースを新たに確保する。

そしてヴァレリアの前に、新しい取り皿やら飲み物のカップ、おしぼりなど皆と同じように用意した。

その間ヴァレリアは非常にご機嫌そうな笑顔で、終始ニッコニコとしていて花咲くような満面の笑みに満ちている。

「いやー、私の分のお昼ご飯まで出してもらっちゃって悪いねー!」

「いえいえ、皆で食べるご飯は美味しいですから!」

『では改めて、食事の挨拶をしましょうか』

一度は中断された昼食、その挨拶を改めて行うライト達。

皆胸の前で手を合わせて、元気良く挨拶を唱和する。

「『『『「いッただッきまーーーす!」』』』」

急遽加わったヴァレリアとともに、ライト達は昼食を食べ始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ごちそうさまでした!……ケプー」

ラウル特製のご馳走類を、お腹いっぱい食べて実に満足そうなヴァレリア。

丸くなったお腹を手で擦りながら、軽いゲップまでしている。

とてもじゃないが『鮮緑と紅緋の渾沌魔女』などという二つ名持ちには見えない姿である。

「ぃゃー、ライト君が出してくれる食べ物は、本ッ当ーーーにどれもこれも美味しいね!」

『ホントですよね!主様の持ってきてくれるご飯やスイーツは、私達がお使いで拾ってくる食べ物にも負けないくらいに美味しいです!』

『僕、今のお昼ご飯で何だか強くなった気がします!』

満腹になったヴァレリアだけでなく、ミーナやルディまで美味しいお昼ご飯を大絶賛している。

もしラウルがこの場にいたら、皆の大絶賛を受けて「お褒めに与り光栄だ」と喜ぶことだろう。

もちろんラウルだけでなく、ご馳走を振る舞ったライトとしても喜ばしい限りだ。

「ヴァレリアさんやミーナ達にも喜んでもらえて、ぼくも嬉しいです!」

「はぁー……でも、久しぶりにこんなにお腹いっぱいに食べたら、何だか眠くなってきちゃった……ふゎぁぁぁぁ……」

ライトが皆の食器類やおしぼりをアイテムリュックに仕舞う傍らで、ヴァレリアが口を大きく開けて特大の欠伸をした。

そしてそのまま敷物の上にコテン……と寝転ぶヴァレリア。その頭は、ちょうど彼女の横にいたミーアの膝の上に乗っかっている。

「……ライト君、ごめーん……ちょーっとだけ、お昼寝、していーい?」

「いいですよー。そしたらぼくは、腹ごなしに少し外に出て散策してますから」

『あ、そしたら私も主様についていきます!』

『僕もパパ様とミーナ姉様の護衛として、ついていきます!』

「うん……気をつけて……いってらっしゃーい……」

芝居でも何でもなく、どうやらヴァレリアは本当に眠くてしょうがないらしい。

少しだけ昼寝したいというヴァレリアの願いに、ライトが否やを唱えることはない。

家に帰るまでまだ時間はたっぷりあるし、眠たい人を無理矢理起こすのも忍びない。

ならばヴァレリアの望みを叶えつつ、食後の運動代わりに周囲を散策してくれば良いのだ。

ふにゃむにゃとした口調だったヴァレリア。

ライトに向かっていってらっしゃい、と声をかけた後、すぐに寝てしまった。

ミーアの膝枕で、スゥー……スゥー……という寝息を立てて眠るヴァレリア。その寝顔はあまりにも無防備で、見ているライト達も思わず微笑んでしまう。

突如膝枕に指名されたミーアだが、彼女もまた嫌がる様子は一切ない。

フフフ、と小さく笑いながら、やんちゃな弟妹でも見るかのようにヴァレリアの寝顔を見つめている。

そしてミーアがふと顔を上げて、ライト達の方を見つめた。

『ライトさん、気をつけて散策してきてくださいね』

「はい。ミーナとルディもいっしょに出かけるから大丈夫ですよ」

『ミーナ、ルディ、ライトさんをお守りしてくださいね』

ライトに声をかけたその次に、ミーアはミーナとルディに対してもライトをよくよく守るように、と言い含める。

もちろんミーナもルディも、ミーアに言われずとも最初からやる気満々だ。

フンスフンスと鼻息も荒く、だが寝てしまったヴァレリアを起こさぬよう、ミーナとルディは小さな声で返事を返す。

『もちろんです!主様は私とルディがお守りします!』

『僕達にお任せください!』

『フフフ、頼みましたよ』

主を守る!と張り切るミーナとルディに、ミーアの顔にも笑みが溢れる。

ライトがルディの背中に乗り、ミーナもルディとともに宙に浮く。

「『『いってきまーす』』」

ライト達は声を潜めながら、ミーアにお出かけの挨拶をする。

ミーアもまたその膝にヴァレリアの頭を乗せながら、空に浮くライトと弟妹達に向かって無言で小さく手を振る。

ニコニコ笑顔のミーアに見送られながら、ライト達は転職神殿周辺の散策に出かけていった。