軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第882話 感動の対面再び

ウィカの水中移動で、まずライト達はカタポレンの家の浴室に転移した。

カタポレンの家の敷地内に、地上唯一の天空島専用転移門を設置するためである。

浴室から家の外に出るまでの間、光の女王が『これが人族の住む家なのね……』と興味津々で家の中を見ていた。

魔の森のど真ん中に唯一建つ家を『人族が住む一般的な家』と捉えるのもどうかと思うが、かと言ってラグナロッツァの屋敷はさらに非一般的なので、結局はどこに着いてもどうにもならなかったりする。

そして家の外に出たライト達。

どこに転移門を設置するか、レオニスがしばし考えている。

「……よし、ここにするか」

思案中にふと目に留まったものの近くに移動したレオニス。

それは、ラウルが作った四阿だった。

四阿がある一角、家から北西側は唯一家の周辺で畑になっていない平地地帯。そこに転移門を設置しよう!という訳だ。

四阿の横に移動したレオニスが、光の女王に向かって声をかける。

「光の女王、この辺りに四つ目の転移門を設置してくれ。地上唯一の天空島への出入口はここにする」

『……ここには、他の人族や生物が侵入する危険性はないのでしたよね?』

「ああ。そもそも普通の人族は、このカタポレンの森には長時間滞在できん。森が放つ魔力が濃過ぎて、大抵の人間は魔力酔いを起こして動けなくなるからな」

『確かに……この森に入った瞬間、空気の重さが天空とは全く違うことは感じましたね』

「だろ? ま、それでもこの家の周りは結界が張ってあるから、家の周辺はまだ魔力は薄い方なんだがな」

『これで薄いのですか……』

転移門の立地条件の安全性を改めて問う光の女王に、レオニスも真摯に答えていく。

もとより転移門の通過条件に『光の勲章と雷の勲章を持つ者』という、まさに鉄壁の条件を備えてあるので心配無用だ。

だが、光の女王がなおも心配するのもレオニスにも理解できる。何故なら、彼女は天空島の主の一人だから。

そして今回の天空島転移門設置は、これまで地上との接点を全く持つことのなかった天空島にとって、正真正銘初の試みである。

先程までの三箇所は全て天空島内にあるからまだいいが、この四箇所目は唯一の地上設置。地上には彼女達の知らぬ生き物、天空島に住む者達とは全く異なる種族が数多いる。

これらのとこから、特に安全性について光の女王が慎重に慎重を期すのも当然のことであった。

故に問われる側のレオニスも、彼女達の不安を払拭すべく全力で応える。

この魔の森にはたくさんの魔物が住んでいること、だがそれらは属性の女王達が授けた勲章など持っていないので、万が一転移門の上に乗っかったとしても絶対に天空島には転移しないこと等々。

それらをレオニスの口から改めて聞くことで、光の女王の顔もだんだん安堵に満ちていく。

『……分かったわ。危険が全くないことを説明してくれてありがとう』

「理解してもらえたなら何よりだ。そしたら早速転移門の設置を頼めるか?」

『ええ、今から作りましょう』

安全性に納得できた光の女王が、レオニスの要請に応じて天空島専用転移門の魔法陣を宙に描いていく。

四阿から少し離れた場所に、先の三箇所同様転魔法陣を地面に定着させる。

その後レオニスが転移門の操作用石柱を設置し、転移先等をデータ入力していく。

「……よし、四つ目はこれで完成だ。これの稼働実験は、俺達が天空島から帰る時にするとして。さ、そしたら次は水の女王を迎えに行くか」

「うん!」

『はーい♪』

四つ目の天空島専用転移門を設置し終えたライト達は、水の女王を迎えに目覚めの湖に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

カタポレンの家から目覚めの湖に向かって、駆け出すライトとレオニス。

ライトの肩にはウィカが乗り、ライトとレオニスの後を光の女王が飛んでついていく。

その道中で、光の女王が『本当に、この森は濃い魔力に包まれているわね……』と驚きを隠せないでいる。

実は天空島という場所も、地上に比べたらかなり魔力が満ちている。

天空樹ユグドラエルのいる島はもちろんのこと、二人の女王がいる神殿の島も彼女達が自然と発する魔力によって濃い魔力に包まれている。

だが、このカタポレンの森の空気は天空島のものとはまた違う。

それはもはや瘴気にも近いと称される濃さであり、森の魔力の由来や根源が不明なせいもあるためか。

いずれにしても、魔物達も住める時点で天空島の清浄な環境とは全く質が異なることは明らかである。

そうしてしばらく駆けていった先に、突如木々のない広大な空間が現れた。

それこそが、ライト達の目的地である目覚めの湖である。

いつもの桟橋に辿り着いたライト達。

桟橋の先端に立ったライトが、湖の中央に向かって大きな声で話しかけた。

「アクアー、水の女王様ー、イードー、いたら来てくださーい!」

ライトが呼びかけた数瞬後、湖面が盛り上がりザッパーン!と水飛沫が上がる。

『呼んだー?』

『今の声はライトよね?』

『どしたのー? 今日はウィカとお出かけじゃなかったー?』

アクア、水の女王、イードが口々に疑問形で語尾を上げつつライト達を迎え入れる。

一方のライト達は、アクア達のド派手な登場に水を大量に浴びていた。

だが、今のライト達は彼らの加護により不用意に濡れることはない。

滝の如き大量の水を物ともせず、まるで雨合羽のように水を弾いていた。

「皆、こんにちは!」

『あ、ウィカちーもいるのね。もうお出かけ先から帰ってきたのね』

「いえ、今日はまだこれから出かけなきゃならなくて。つきましては、水の女王様にもいっしょについてきてほしいんですが」

『え? 今から私もお出かけするの?』

挨拶も早々に、ライトが水の女王にお出かけの提案をする。

突然のお誘いに、水の女王は己の顔を指差しながら驚いている。

だが次の瞬間、その驚きは別の驚きに塗り替えられた。

レオニスの少し後ろにいた光の女王が、ヒョイ、と横に移動して水の女王の前に姿を現したのだ。

『……って、レオニスの横にいるのは……』

『初めまして、水の女王。貴女に会えて、とても嬉しいわ』

『……光のお姉ちゃん!?』

『ええ、私は光の女王。貴女の姉妹の一人よ』

『え、ウソ!ホントに!? ホントに光のお姉ちゃんなの!?』

『見ての通りよ?』

レオニスの後ろから突如現れた姉妹に、驚きを隠せない水の女王。

その驚きは、彼女の中で瞬時に歓喜に変わる。

水の女王は大喜びしながら、光の女王に抱きついた。

『光のお姉ちゃん!会いたかったわ!』

『ええ、私もよ。雷の女王以外の姉妹に会うのは、これが初めてのことですもの』

『私もね、姉妹に会うのは光のお姉ちゃんが二人目よ!こないだ海の女王ちゃんに会ったばかりなの!』

『そう、それは奇遇ね』

花咲くような笑顔で、バフッ!と抱きついた水の女王を、光の女王が優しく受けとめている。

属性の女王には年齢的な上下などないが、光の女王は優しいお姉さんで水の女王は甘えん坊な妹に見える。これはひとえに彼女達の性格からくるものなのだろう。

光の女王の胸元に顔を埋めながら、会えたことを喜ぶ水の女王。

そんな水の女王の頭をそっと撫でながら、同じく邂逅を喜ぶ光の女王。

初めて会ったことの喜びに浸る彼女達の後ろには、涙を流すライトとレオニスがいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「遠く離れた姉妹の再会……ううッ、何て感動的なんだろう……」

「全くだ……兄弟姉妹ってのは、どんなに遠く離れていても思い合うもんだもんなぁ……」

「光の女王様も、水の女王様も、姉妹同士がちゃんと会うことができて、本当に良かったねぇぇぇぇ」

「ああ、俺も貰い泣きしちまうぜ……頼れる兄貴や姉貴ってのは、本当にいいもんだよなぁ」

滝の如き涙をダバダバダーと流す人外ブラザーズ。どうやら水の女王と光の女王の感動の対面に、二人して思いっきり貰い泣きしているようだ。

そんなライト達に、アクアがおそるおそる話しかけた。

『あのー……感動しているところを申し訳ないんだけど……一つ聞いてもいい?』

「……ンぁ? あ、アクア、どしたの?」

『えーと、さっき水の女王とお出かけしたいって話してたけど……一体どういうことなのかな?』

「あ、えーとね、それはね、光の女王様がここに来たことにも関係してるんだけど……」

アクアからの尤もな問いに、ライトがはたと我に返り事情を説明していく。

天空島に畑を作る計画ができたこと、その畑を運用していくには水場が欠かせないこと。天空島の別の島には過去に水の女王が作った泉が既にあることから、二つ目の泉を水の女王に新しく作ってもらいたいこと等々。

ライトが語るそれらの話を、静かに聞いていたアクア。一通りの事情説明を終えると、アクアが徐に口を開いた。

『……そういうことなら、僕もついていこう』

「え? アクアも来てくれるの?」

『うん。畑ってことは、要は植物を育てるためのものなんでしょ?』

「うん。天空島には二体の神殿守護神がいて、ヴィゾーヴニルのヴィーちゃんとグリンカムビのグリンちゃんっていうんだけど。ヴィーちゃん達に食べさせてあげる美味しい野菜を、天空島で育てたいんだ」

アクアの問いに、素直に答えていくライト。

ライトの答えを聞いたアクアは、うんうん、と頷きながら同行しようとする理由を語る。

『なら、より魔力を含む水が必要ってことだよね?』

「そうだね。質の良い魔力をたくさん含む水なら、畑で作る野菜ももっともっと美味しくなると思う」

『水の女王が作る泉にも、もちろん魔力はかなり含まれるのは間違いないけど。そこにさらに僕の祝福を与えれば、この森の魔力に負けないくらいの高魔力の泉になると思うよ?』

「…………!!」

アクアの言っていることが、ようやくライトにも飲み込めてきた。

大事な友である水の女王やライト達のために、アクアは水神として己の力を揮おうとしてくれているのだ。

水の精霊の頂点である水の女王が作る泉なら、それだけで既に立派な高魔力の泉になるだろう。

だがそこに、さらに水神からの祝福が与えられたとしたら―――その泉は、間違いなくサイサクス世界でも屈指の高魔力を誇る泉になる。

魔力の質こそカタポレンの森とは異なるだろうが、純粋な魔力の高さで言えば遜色ない水になるはずだ。

そしてそんな良質な水で育てた野菜ならば、絶対に美味しいものになるに違いない。

それは、氷の洞窟付近の雪や氷が持つ様々な効果を見れば、一目瞭然である。

氷の女王の魔力が含まれる雪や氷は、ラウルの料理にも欠かせないし神樹からも『美味しい水』という複数のお墨付きを得ているのだから。

アクアの心からの善意を理解したライト。

その嬉しさに、思わずアクアに抱きついた。

「それ、すっごく素敵な案だね!ありがとう、アクア!」

『どういたしまして。水の女王もライト君も、僕の大事な仲間だからね』

「本当に本当にありがとう!」

アクアのありがたい申し出に、大喜びしてアクアの首っ玉に抱きつくライト。

それはまるで木登りする子猿にしか見えない図だが、抱きつかれたアクアも満更ではなさそうだ。

フフフ、と小さく笑いながら、長い首を下げてライトの顔に頬擦りするアクア。

そんなアクアに、レオニスからも礼の言葉を述べる。

「ありがとう、アクア。そうしてもらえたら、俺達もすごく助かる」

『どういたしまして。レオニス君だって僕の大事な遊び相手だしね。それに、天空島にいる守護神仲間の役に立てるなら、僕としても嬉しいもの』

レオニスの礼の言葉に、アクアも顔を上げてレオニスの顔を見つめる。

人族のレオニスを『遊び相手』と認定するアクア。その顔はニッコリと笑っていて、レオニスのことを心から信頼し認めていることが分かる。

そしてさらには光の女王もアクアに礼を言った。

『グリンちゃん達のために力を貸してくれるなんて、本当に嬉しいわ。ありがとう。貴方の名前を聞いてもいいかしら?』

『ああ、自己紹介が遅れたね。僕の名はアクア。この目覚めの湖にある湖底神殿の守護神だよ』

『まぁ、貴方も神殿守護神なのね。湖底神殿の守護神に会えるなんて、何て光栄なことでしょう!』

アクアの名前とその正体を聞いた光の女王、パァッ!と明るい笑顔になる。

光の女王は他の属性の姉妹に会うのも初めてだが、他の神殿守護神に会うのも初めてのことだ。

神殿守護神とは属性の女王を守る存在であり、女王達が崇敬して止まない対象なのだ。

光の女王からの称讚に、満足げな顔のアクアがレオニスに向かって話しかけた。

『さ、皆の顔合わせも済んだことだし。日が傾く前に行こうか』

「ああ、そうだな。空が明るいうちに事を済ませないとな」

『天空島にはどうやって行くの?』

「まずはドライアドの泉に行こう。今の天空島にある唯一の水場だ」

『分かった。じゃあ、皆僕の背中に乗って』

アクアの呼びかけに、ライト、レオニス、水の女王、光の女王がその背に乗り込む。

ウィカはイードの頭にちょこんと乗っかっている。水神アクアのお出ましなので、自分はイードとともにお留守番するね☆ということのようだ。

『皆、行くよー』

「イード、ウィカ、お留守番よろしくね!」

『うん、皆も気をつけてお出かけしてきてね☆』

『いってらっしゃーい♪』

アクアの背からイードとウィカに声をかけるライトに、イード達も笑顔で送り出す。

黒猫と黒猫を頭に乗せた巨大イカに見送られながら、ライト達はドライアドの泉に移動していった。