作品タイトル不明
第878話 バーベキュー大会とログハウスの見分
ライト達が鍛錬場の島に移動すると、そこでは大勢の天使達で賑わっていた。
出来上がったばかりのログハウスの近くで、三台のバーベキューコンロを取り囲んでわいわいと楽しげな天使達。
天使達はそれぞれ皿を持ち、皿の上にはバーベキューコンロで焼いた野菜が盛られている。
「おおー、レオ兄ちゃんが言っていた通り、バーベキューで盛り上がってるねぇ」
「天空島には定住している動物はいないから、野菜焼き大会になってるけどな」
「あー、そうだよねぇ。天空島でお肉なんて食べる訳ないもんねぇ」
「そゆこと。ま、それを言ったら天空島にニンジンだの玉葱だのピーマンなんてものもねぇけどな。それでもまだ野菜は植物の範疇だから、口にするならその方が抵抗ないってことらしい」
皿に盛られた焼き立ての野菜を、ハフハフしながらかぶりつく天使達。
彼女達の楽しそうな顔を眺めつつ、ライト達はラウルを探す。
すると、新設した転移門の一番遠いバーベキューコンロ台のさらに奥に、ラウルがいるのを発見したライト。
早速ライトがラウルのもとに駆け寄っていく。
「ラウルー!」
「おお、ライト。ご主人様の方はもう終わったのか?」
「うん!出来たての転移門で移動してきたんだよ!」
「そうかそうか、そりゃ良かった」
ラウルは大きなテーブルの上にまな板を出し、ニンジンやトウモロコシ、ナスなどをカットしている。これは、臨時調理台のようなものか。
目にも留まらぬ速さで野菜を切っては、大きなザルやボウルに放り込んでいくラウル。
ある程度切って野菜が少なくなったら、空間魔法陣から野菜をゴロゴロと無造作に取り出す。
そして野菜が満タンになったザルやボウルを、ラウルのテーブルの前で列を成して並んでいる天使達が受け取っては、いそいそとバーベキューコンロ台に移動していく。
どうやらラウル天使達に振る舞う野菜を、ひたすら切り続けているらしい。
空間魔法陣から取り出した野菜も、アスパラガスや椎茸、獅子唐などのカット不要のものは、そのままザルに放り込んでは山盛りにしてテーブルの上にドン!と置いていく。
何とも豪快だが、バーベキューの焼き野菜としてはお手軽かつ最適だ。
そして大きなテーブルの上には、塩や胡椒、数種類の焼き肉のタレなどの調味料も置かれていて、時折天使達が各自の皿に調味料をかけてはどこかに消えていく。そこら辺もセルフサービス方式のようだ。
ライトはラウルの左横に立ち、ラウルの華麗な包丁捌きを眺めがら話しかけた。
「ラウル、何だかすっごく忙しそうだね……」
「おう、ログハウス作りを手伝ってもらった天使が、何しろ百人以上いるからな。切っても切っても終わらんわ」
「そっかー。でも、ログハウス作りを手伝ってもらえて良かったね。その分こんなに早く建てられたんだもん!」
「まぁな。おかげさまで、三十分かからずに完成したよ」
包丁を握る手を止めることなく、ひたすら野菜を切り続けるラウル。
もちろんそれらの野菜は普通サイズだ。巨大野菜はそのままではバーベキューコンロで焼くことはできないし、細かく切り刻むにしても余計に手間がかかる。
ならば最初から普通サイズを切った方がマシ、というものである。
「これ、市場の八百屋さんで買った野菜なの?」
「あー、中には八百屋のものもいくつかあるが、半分以上はラグナロッツァの屋敷の温室で育てた野菜だ」
「そうなんだ!温室の方もちゃんと活用できてるんだねー」
「もちろんだ。今でも毎朝温室で何らかの野菜を収穫しているぞ? せっかく屋敷の庭に四つも建てたんだ、どんどん活用していかなきゃな」
普通サイズの野菜の出処、その大半がラグナロッツァの屋敷の温室産だという。
その話を聞いたライトは、最初はちょっとだけ意外に思っていた。
最近のラウルは、カタポレンの畑での巨大野菜栽培の方が忙しそうだからだ。
だが、ラウルが何故野菜栽培を始めたのか―――それを考えれば、自ずと答えは見えてくる。
ラウルの野菜作り、それはラグナロッツァの屋敷のガラス温室から始まった。
ラウルの『ラグナロッツァの屋敷で家庭菜園をしたい』という願いを叶える夢のアイテム、ガラス温室。
如何にラウルが日々多忙であっても、野菜作りの原点とも言えるガラス温室を疎かにする訳がないのだ。
ライトはそのことを知り、ちょっとだけ嬉しくなる。
神鶏達だけでなく、天使達にも自慢の野菜を振る舞うラウル。
忙しそうなラウルの邪魔を、これ以上しちゃいけないな―――そう思ったライトは、ラウルに話しかけた。
「ラウルもまだ忙しそうだから、ぼくはあっちに行ってるね。……ていうか、ログハウスの中を見てきてもいい?」
「おう、いいぞ。何ならご主人様達といっしょに見てきな」
「うん!」
ログハウス施主であるラウルの許可を得たライトは、レオニスやマキシを探すべくラウルの臨時調理台から離れていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウルのもとから離れ、レオニスやマキシを探すライト。
しばらくバーベキューコンロ台の周辺を歩いていると、光の女王と雷の女王と思われる発光を発見した。
とりあえずその場所に行ってみると、そこにはレオニスとマキシがいた。
「あッ、レオ兄ちゃん!マキシ君もいた、良かったー!」
「お、ライト、どこに行ってたんだ?」
「向こうの方にラウルがいたから、ラウルのとこにいたの。天使さん達に出すバーベキュー用の野菜をね、たくさん切り続けていたよー」
「おお、そうか。バーベキューの幹事っつーか、主催者も大変だな」
「うん、手伝ってもらった天使さん達が百人以上はいるから、切っても切っても終わんないって言ってた」
「ハハハ!そりゃそうだろうな!」
ライトとの会話で笑うレオニスの横で、光の女王と雷の女王がまくまくと焼き野菜を食べている。
他の天使達と同じく、左手で皿を持ち右手のフォークで野菜を口に運ぶ女王達。何とも激レアな場面である。
ちなみにその焼き野菜は、パラスがバーベキューコンロで焼いたものだ。
慣れない手つきながらも、トングを懸命に使って各種野菜を焼くパラス。野菜を焦がさぬよう、ひっきりなしにひっくり返していく様子が何とも微笑ましい。
「女王様達も、ラウルのお野菜食べてるんだねー」
「ああ、どれも初めて食べる野菜だが、美味しい美味しいって言って食べてるぞ」
「それは良かった!後でラウルにも教えてあげないとね!」
レオニスの話によると、雷の女王がこの島に転移門を設置した後、既に打ち上げバーベキューを始めていた天使達が早速女王達にも焼き野菜を勧めてきたらしい。
日頃から信頼している天使達から勧められれば、彼女達に否やはない。
フラフラ~……とバーベキューコンロに近寄り、そのままバーベキュー大会に合流して今に至るという。
そして光の女王は『グリンちゃん達が美味しそうに食べるのも当然ね』と言い、雷の女王は『これはヴィーちゃんが夢中になるのも分かるわ!』と大絶賛したそうだ。
ラウルが手がけるラグナロッツァ産の温室育ちの野菜は、カタポレンの畑の巨大野菜に勝るとも劣らない逸品なのである。
「ところでさ、レオ兄ちゃん、マキシ君。今のうちに、ログハウスの中を見に行かない?」
「お、そうだな。俺達が今後使っていくログハウスだもんな。中の作りも見ておかないとな」
「そうですね!僕もきっとアイギスがお休みの日には、ラウルの手伝いでいっしょに天空島に来ると思うので、僕もログハウスの中を見ておきたいです!」
ライトの提案に、レオニスもマキシも大いに賛成する。
そもそもこのログハウスは、転移門同様ライト達が天空島に滞在するための施設として急遽建設したものだ。
自分達が使う施設なのだから、中身を検めておくのは当然のことである。
「じゃ、早速行こうか!光の女王様、雷の女王様、ぼく達三人でログハウスを見に行ってきますねー!」
『『……(コクコク)……』』
この場を離れるため、まずは二人の女王に離席の挨拶をするライト。
ちょうど口の中に野菜を頬張っていた女王達は、無言のままコクコクと頷いた。
フォークを持ったままの手で、左右に軽く手を振る女王達に見送られながら、ライト達はログハウスに向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ログハウスの玄関を開けて、中に入るライト達。
玄関口で靴を脱ぐ仕様になっているので、靴を脱いでから上に上がる。
中にはまだ調度品類はないので、ガランとした広い空間が広がっている。
「おおお……中は結構広いんだね……」
「そうだな、思ったよりかなり大きいな」
「あの仕切りは何ですかね?」
中を彷徨きながら、キョロキョロと見回すライト達。
マキシが言っていた仕切りの向こうに行くと、そこもまだ伽藍堂の空間だった。
「これ、多分ラウル的には台所にしたいんじゃないかな?」
「だろうなー。あいつが使う建物で料理ができないなんて、死んでも拒絶しそうだし」
「でしょうねぇ……」
何もない空間ながら、そこにはラウルのキッチンになるであろう未来しか見えないライト達。
勝手口と思しき出入口の扉もあるし、何やら床下収納っぽい構造も見受けられる。
窓の上には木製の棚が作り付けられていて、入口の横にも食器棚っぽい棚が既に作られている。
それらのことから、『ここはキッチンです!』というオーラがこれでもか!というくらいにヒシヒシと感じられる作りである。
「……ま、ここはまたラウルが好きなように改造するだろうから、他のところを見るか」
「だね……」
台所スペース(仮)から出たライト達。
次に目についたのは、上の階へ上がるための階段だった。
「あ、あそこに階段がある」
「二階があるようだな。早速行ってみるか」
早速二階に上がるライト達。
階段を上がりきった空間は、何の仕切りもない一間だった。
「うわぁ……ここは部屋の区切りは全くないんだね」
「大人数でも雑魚寝ができそうだな」
「あ、一応部屋の隅にはベッドの台がありますね」
一見屋根裏部屋っぽく見えるが、天井がきちんとあるので屋根裏部屋ではない。
そして部屋の隅には唯一の調度品?であるベッド台がある。
ベッド台は平置きで四台、サイズはシングルとセミダブルの中間、いわゆる『ワイドシングル』である。
四台ということは、ライト、レオニス、ラウル、マキシの四人分ということだろう。
まだマットレスなどは置かれていないが、これもいずれ近いうちに設置されるであろう。
二階の見分を終えた三人は、再び一階に下りていく。
先程の台所スペース(仮)以外の箇所も見ていき、一通り中を見終えてから外に出た。
外に出た玄関先から上を見上げ、完成したばかりのログハウスを眺めるラウルが思わず呟く。
「ログハウスキットってどんなもんかと思ってたけど、かなり立派なお家だったねー」
「だな。俺ももうちょい下というか、山小屋に毛が生えたようなもんを想像してたわ」
「ラウルの話によると、これと同じものがあと二個は建てられるらしいですよ?」
「「………………」」
マキシの言葉に、ライトとレオニスは思わず無言になる。
マキシがラウルから聞いた話によると、ラウルはこのログハウスキットなるものを全部で三個注文したらしい。
何でそんなに注文したの?と思わなくもないが、畑の開墾や神樹襲撃事件でそれだけ大量の木材が出てしまった、ということなのだろう。
それが果たしてログハウス三個分で済んだのかどうかは、定かではないが。
それでも何とかカタポレンの木々を有効活用したい、というラウルの意思は貫けているようで何よりだ。
「ログハウスの中も見れたことだし。とりあえずラウルのところに行くか」
「うん!」
「はい!」
まだ天使達が焼き野菜バーベキューで賑わう中、ライト達はひとまずラウルのもとに向かっていった。