軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第876話 レオニスの大苦戦となけなしのご馳走

転移門の図面を引き直すべく、天空神殿に戻ったレオニス達。

レオニスは応接セットのソファにドカッと座り、空間魔法陣を開いて何かを取り出す。

「光の女王、このフェネセンの転移門の図面をしばらく借りるが、いいか?」

『ええ、いいわよ。ただし、丁寧に扱ってね?』

「もちろんだ」

レオニスの要望に快く応じる光の女王。

フェネセンから渡されたというその図面は、応接セットのテーブルの上に置かれたままだった。

レオニスはその図面を見ながら、空間魔法陣から取り出した紙とペンを用いて魔法陣を描き始めた。

「レオ兄ちゃん、別の紙に描き写してるの?」

「ああ。魔法陣の中の構文を書き換えるために、いくつか弄らなきゃならん箇所があるからな」

「へー、そうなんだねー」

レオニスが座る椅子の後ろで、その作業を見ていたライト。

実に興味津々の眼差しで魔法陣の図面を眺めている。

だが、レオニスにとっては責任重大だ。

真剣な顔で描き写した図面を睨みながら、ブツブツと独り言を呟き始めた。

「つーか、転移門の魔法陣を弄るなんて久しぶりだからな……」

「……はて。該当箇所はどこだったっけ……」

「あー、ここか?……ぃゃ、違うな、こっちか……」

時折頭をガリガリと掻きながら、しかめっ面で図面とにらめっこするレオニス。

その様子を見たライト、そーーーっ……と席を離れていく。

そして、応接セットからかなり離れたところで、今度はマキシと二人の女王に向かってチョイチョイ、と手招きをするではないか。

ライトの謎の行動を不思議そうに見ていた三人は、その手招きに応じてスススー……とライトのもとに集まった。

「えーとですね。レオ兄ちゃんは今、魔法陣の書き換え方を一生懸命思い出そうとしてます」

『ええ、そのようね』

「で、ですね。レオ兄ちゃんは一度ああなると、なかなかこっちに戻ってきません」

『そ、そうなの?』

「はい。それに、いろいろと思い出そうとしているのをぼく達が邪魔する訳にはいきません。レオ兄ちゃんの集中力を途切れさせてしまったら、天空島専用の転移門の魔法陣はいつまで経っても完成しませんから」

「ですね……」

小声でこしょこしょと話すライトに、他の三人もコクコクと小さく頷く。

もちろんレオニスの方は、ライト達の相談に全く気づいていない。既に魔法陣の書き換え作業に没頭しているのだ。

「なのでぼく達は神殿の外、お庭でお茶でも飲んで静かにのんびりと過ごしましょう。レオ兄ちゃんも、作業が終われば神殿の外に出てくると思いますし」

『そうね、そうしましょうか……』

レオニスの邪魔をしないよう外に出よう、というライトの案に三人は一も二もなく承諾する。

四人は足音を立てぬよう、そろーり、そろーり……と神殿の出入口の方に向かって移動していく。

そして外の庭に出て、早速ライトとマキシの二人でお茶会の準備をするのであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ライトは今、毎日何をしているの?』

「七日のうち五日間、ラグーン学園という学校に通っていろんな勉強をしてます」

『勉強って、どんなことをするの?』

「文字を書いたり絵を描いたり、足し算や引き算を習ったりしてます」

『タシザンとかヒキザン?というのは、私達にはよく分からないけど……勉強していろんなことを学ぶのは、とても良いことね』

「はい!」

天空神殿の外庭で、様々な話をしながらのんびりと寛ぐライト達。

ライトと光の女王がラグーン学園の話をしている横で、マキシと雷の女王もまた和やかに会話をしている。

『まぁ、マキシって120歳なの?』

「はい」

『見た目はかなり幼く見えるわね』

「実際僕は七羽の兄弟の六番目で、下から数えた方が早いですけどね」

『八咫烏って、子沢山で長寿な種族なのねぇ』

マキシと雷の女王は、八咫烏のことについて話しているようだ。

そうして和やかな会話をしている間も、天空神殿の中から「ぐああああッ」「あーッ、これじゃねぇ!」という、悲鳴にも似た声が時折聞こえてくる。

神殿内では、レオニスが転移門の魔法陣相手に散々苦戦しているのだろう。

そんな悪戦苦闘の絶叫が聞こえてくるのを尻目に、ライト達は秘蔵のマカロンと高級茶葉を用いた紅茶を優雅に楽しむ。

特に二人の女王達は、マカロンの味がお気に召したようだ。

『これ、いつもドライアド達が美味しそうに食べているおやつよね?』

「はい。これはうちのラウルが作ったものです。小さなドライアドさん達に、お礼としてあげるのに最適なんですよねー。だからいつもたくさん作っては、空間魔法陣に保存してるらしいです」

『あの子達が夢中になって食べるのも分かるわ。とっても優しい甘さで、香りもすごく芳しいもの』

『ホントね!色とりどりで見た目も可愛らしいし、この紅茶という飲み物にもよく合ってるわよね!』

ラウル特製マカロンを大絶賛する女王達。

ちなみにこのマカロンはライトが以前ラウルに作ってもらったものだ。

マカロンがドライアド用の定番スイーツになる前にもらったもので、ここ最近は全く譲ってもらえていない。

いや、マカロン自体はラウルもかなり大量に作り続けているはずなのだが。それらは全てドライアド達へのご馳走として消えていってしまうのだ。

今女王達に振る舞っているマカロンは、ライトにとっても手持ちの数が残り少ないなけなしのご馳走である。

とはいえ、今ここでお茶菓子として出したことに後悔はない。

何故ならば、二人の女王達がマカロンを頬張る姿があまりにも尊いからだ。

コロンと丸いマカロンを頬張りながら、キャッキャウフフと微笑む女王達の何と愛らしいことよ。

そのあまりの愛らしさは、直視することすら憚られるような神々しささえ感じる。

あー、光の女王様も雷の女王様も美し過ぎる!

今ここにスマホかデジカメがあったら、写真や動画を撮りまくって永久保存するのに!

ていうか、ラウルにまたマカロンを分けてもらわないとなー。……よし、今度ラウルのマカロン作りを手伝おう。

たくさん作って、ちょっとだけでいいから分けてもらうんだ!

ライトがそんなことを考えていると、天空神殿からレオニスが出てきた。

「皆、待たせたな……何とかようやく書き終えたぞ……」

「レオ兄ちゃん、お疲れさま!こっち来て座る?」

「ぉぅ……久々に頭使い過ぎた……糖分補給に甘いもんくれ……」

フラフラとした足取りで、ライト達のいるテーブルに寄ってくるレオニス。

久しぶりに頭を使いまくったせいか、かなり疲れたようだ。

覇気のない声と覚束ない足取りのせいか、その姿が心なしかだいぶヨレヨレに見える。

マキシが空間魔法陣から急ぎ取り出した追加の椅子に、レオニスが力無く座る。

椅子に座ってすぐに、頭をテーブルの上に乗っけてぐったりとするレオニス。

ライトがアイテムリュックからホットコーヒーを取り出し、レオニスのためのスイーツをいくつかテーブルの上に置いた。

「はい、レオ兄ちゃん、どうぞ」

「おう、ありがとーぅ……」

のっそりと起き上がったレオニス、ライトが出したプリンやドーナツ、たい焼きなどをもっしゃもっしゃと食べていく。

そしてホットコーヒーをクイッ、と飲み、ぷはーッ……と一息ついた。

「レオ兄ちゃん、よっぽど苦戦したんだね……」

「ぉぅ……決まりきった魔法陣を展開するだけなら、俺でも楽ちん楽勝なんだが。そこに手を加えるとなるとな……」

「まぁねー……ぼくはまだ魔法陣のことは何も知らないけど、文字やマークがちょっとズレただけでも発動しないんでしょ?」

「そうそう。条件付けの文章なんかも、入れられる場所が魔法陣によってそれぞれ違うし」

レオニスが己の肩に手を当てつつ、首を左右にコキコキと動かしている。

魔法陣相手の頭脳戦格闘したせいか、余程肩が詰まったらしい。

しかし、魔法陣毎に文章の入れる場所や構成が違うとは。それは想像以上にキツいことだ。

一度覚えてしまえばいいとはいえ、それを完全に覚えるまでが大変なのだ。

「それ、使いたい魔法ごとに全部覚えなきゃならないってことでしょ? それってすっごく大変そう……」

「フェネセンやピースなら、こんなんちょちょいのちょいーの数分で出来ちまうんだろうがなぁ……脳筋の俺には一生無理な芸当だぁぁぁぁ……」

「ぃゃ、それ、レオ兄ちゃんじゃなくてもぼくだって一生無理そうだって……」

己の魔法陣に対する理解力の少なさを嘆くレオニス。

だがしかし、それは比較対象が悪過ぎるというものだ。

稀代の天才大魔導師フェネセンと、その一番弟子ピース。この二人と比べたら大抵の者ははるか下位にあり、劣等感を抱かざるを得ないのである。

凹みまくるレオニスとライトを見兼ねたマキシが、慌ててレオニスに声をかけた。

「で、でも、ほら、レオニスさんだって、こうしてできた訳ですよね?」

「まぁなー……」

「なら、それだけでも十分すごいことですよ!僕なんて、そんな難しい魔法陣なんか全然使えませんし!」

「ぃゃぃゃ、マキシ、お前だって空間魔法陣をサクッと使えるようになったじゃねぇか……」

「うぐッ……そ、それでも!レオニスさんはすごい人です!」

「ンーーー……そうか?」

懸命にレオニスをヨイショするマキシの言葉に、項垂れていたレオニスも少しづつ頭を上げていく。

その好機をマキシは見逃すまいと、さらに畳みかけていく。

「はい!僕にとって……いえ、八咫烏一族にとってレオニスさんは本当に尊敬する人です!そしてそれは僕だけでなく、ラウルだってそう思ってると思います!」

「そ、そうか? そこまで言われたら、まぁ悪い気はしねぇな……」

マキシに『尊敬する人!』とまで言われ、照れ臭そうにはにかむレオニス。

実際その言葉はマキシの嘘偽りない本心であり、心からそう思っている。

そして、それまで何だか居た堪れなさそうな顔をしていた二人の女王も、マキシの励ましに乗っかる形で参戦する。

『レオニス、本当にお疲れさま。いつも私達の願いを叶えるために頑張ってくれて、本当にありがとう』

『ええ、本当に感謝してるわ!勲章を授けるだけじゃ足りないと思ってるくらいよ!』

「そこまで言ってもらえたら、俺も慣れないことをした甲斐があったってもんだ」

光の女王達の感謝の言葉に、レオニスもようやく笑顔になる。

ここまで持ち上げられたら、レオニスのモチベーションだって爆上がりするというものだ。

レオニスの笑顔を見た女王達が、良い流れを維持するべくレオニスに提案をし始めた。

『ねぇ、早速その成果を見せてもらえないかしら?』

『そうね、向こうのログハウス作り?もそろそろ終わる頃じゃないかしら?』

「おお、そういやそうだな。あれからちょうど小一時間くらい経つか……」

女王達の自然な催促に、レオニスも頷きながら席を立ち上がる。

レオニスが黒いパンツのポケットから取り出した懐中時計を見ると、鍛錬場でラウルと分かれてから約一時間が経過していた。

「……よし、そしたら早速転移門の設置に取りかかるとするか」

「レオ兄ちゃん、ぼくも横で見てていい!?」

「もちろんだ。じゃ、まずは設置場所から決めるか」

二人の女王の要請を受けて、レオニスが転移門設置に動き出す。

もちろんライトだって、この好機を逃しはしない。

ライトが席から下りて、レオニスの後をついていく。

兄の背を追う弟、その微笑ましい光景をマキシと二人の女王は笑顔で見つめていた。