軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第860話 洗浄作業と久々の勝負

ライトが転職神殿で、昼頃まで様々なスキル検証をしていた頃から遡ること数時間前。

ラウルは朝からカタポレンの森にいた。

朝イチでトウモロコシを収穫していくラウル。今日のトウモロコシは、今年ラストの収穫である。

そして昨日ようやく完成した新しい畑、北東南西南東に開墾した三枚の畑には秋野菜を植えた。栄えある最初の作物は、サツマイモ、ゴボウ、玉葱である。

特にサツマイモは、大学芋や干し芋、スイートポテトなどのスイーツ面での大活躍が期待される作物だ。

また、サツマイモは家畜の飼料としても優秀らしいので、味が良ければきっと天空島にいる神鶏達にも気に入ってもらえるはずだ。

トウモロコシ同様、神鶏達のために大きなサツマイモをたくさん作らないとな!と内心でラウルは張り切る。

畑の諸々の手入れや仕込みを終えたら、次は目覚めの湖に向かう。

その目的は、前日に海樹ユグドライアのところで褒美としてもらってきた殻や魚の骨を洗浄するためである。

昨晩エンデアンで晩御飯の食事をした際に、ライトから『塩が畑に与える影響は諸説あるんだけど、基本的には畑に塩分は与えない方がいいと思うよー』と聞いたからだ。

しかも、ライトから続けて『ラウルの水魔法で洗うのもいいけど、今日もらってきた量すごいでしょ? そしたらさ、もういっそのこと目覚めの湖で洗わせてもらう方が早いんじゃないかなー。……あ、何なら今日の労いも兼ねて、水の女王様やアクア達に何かご馳走してきたらどうかな? きっと皆とても喜んでくれると思うよー』というアドバイスまでもらったラウル。

ライトのそうした適切な助言に、ラウルは常に助けられている。故に今回も、ラウルは迷うことなくその指示に素直に従う。

うちの小さなご主人様は、本当に頭の回転が早いよな、とつくづく思うラウルである。

ラウルは空間魔法陣から『水神の鱗』を取り出し、目覚めの湖まで瞬間移動した。

移動した先には、朝から目覚めの湖を優雅に泳ぐアクアがいた。

「アクア、おはよう」

『ああ、ラウル君、おはよう。昨日はお疲れさま』

「アクアもお疲れさま。……水の女王はどうした? まだ寝てるのか?」

『うん。昨日は海の女王とたくさん話をしてすっごく楽しかった分、はしゃぎ過ぎたのか疲れも予想以上に大きかったようでね。今日はまだ起きてきていないんだ』

朝の挨拶がてら、軽く雑談を交わすラウルとアクア。

いつもなら、アクアの傍には水の女王が必ずいるのだが、珍しく水の女王の姿が見えない。

そのことを不思議に思ったラウルがアクアに尋ねると、やはりまだ彼女は寝ているようだ。

ラウルとアクアは雑談しながら、水の女王がいつもいる水草の褥に向かう。

「そうなのか。珍しいこともあるもんだが……ま、昨日そんなに楽しく過ごせたなら何よりだ」

『だね。もともと属性の女王達は互いのことを姉妹と呼び合うけど、その中でも特に海の女王は水の女王と同じ水属性でしょ? だから彼女にとっては、実の妹にも等しい存在なんだよね』

「目覚めの湖の外で実の妹とたくさん話ができたなら、そりゃさぞ楽しかっただろうなぁ」

『うん……水の女王のあんな嬉しそうな顔、僕でも初めて見たよ』

そんな話をしているうちに、いつの間にかイードやウィカも現れてラウル達と合流する。

『ラウル君、おはー☆』

「おはよう、ウィカ」

『ラウル君、おはよー。ねぇねぇ、初めての海はどうだったー?』

「おはよう、イード。観察する程じっくりとは見れなかったが、まぁそこそこ楽しめたかな」

昨日のお留守番組であるイードとウィカ。彼らとも朝の挨拶を交わしつつ雑談に花を咲かせるラウル。

そうしてしばらく進んでいくと、水草の褥がある場所に到着した。

ゆらゆらと揺れる数多の水草の上には、すやすやと眠る水の女王。

アクアやラウルが近づいても、未だ目覚めないくらいにぐっすりと寝ている。

「本当によく寝てるな……」

『水の女王ちゃんね、昨日帰ってきてからずーっと妹ちゃんのことを楽しそうに話してくれたんだー』

『うんうん、お留守番のワタシ達にもたーっくさん土産話をしてくれたわよねぇ♪ あんなに嬉しそうな水の女王ちゃんは、ワタシでも初めて見たわぁ』

ウィカ達の話によると、昨日の水の女王は目覚めの湖に帰ってきてからもずっと興奮気味に話し続けていたらしい。

きっと余程楽しかったのだろう。それは、アクアより水の女王との付き合いがはるかに長いイードでさえも、アクアと同じく『水の女王のあんな嬉しそうな顔は初めて見た』と言っていることからもよく分かる。

時折ふにゃふにゃ言いつつ、寝ていてもなお笑顔が絶えない水の女王。

昨日のお出かけの楽しかった夢でもまた見ているのだろうか。

水の女王の愛らしい寝顔を覗き込むラウル達の顔も、自然と綻んでいる。

「……ま、もうしばらくこのまま寝かせてやるか」

『だねー。自然に起きるまで寝かせておいてあげよう』

『うんうん☆……ところで、ラウル君は今日はどしたの? 水の女王ちゃんに用事があるの?』

「ン? いや、実はだな―――」

ウィカがふと発した問いかけに、ラウルが今日の目覚めの湖来訪の理由を語る。

斯々然々(かくかくしかじか) これこれこうで、と説明したところ、真っ先に了承したのはアクアだった。

『そういうことなら、いくらでもこの湖の水を使ってくれていいよ』

『うんうん、この目覚めの湖はすっごく大きいもんね。殻や骨についた海水を洗い流す程度、全く問題ないよね☆』

『ラウル君、そしたらワタシも殻を洗うお手伝いしましょか?』

「ああ、手伝ってくれるなら助かる。よろしく頼む」

ラウルの頼みを聞いてくれるアクアに、ウィカもまた問題ないと太鼓判を押す。イードに至っては、殻洗いの手伝いまでしてくれると言うではないか。

目覚めの湖の仲間達の心優しさに、ラウルも嬉しそうに微笑む。

「じゃ、寝ている水の女王を起こさないように、いつもの小島に皆で行くか」

『はーい』

『うぃうぃ☆』

『オッケー♪』

まだ夢の中にいる水の女王を気遣い、小声で相談するラウル達。

水草の褥の上で眠る水の女王からそっと離れ、ラウル達はピクニックの時にいつも使っている湖中央の小島に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラウル達が小島に移動してから、一時間程経過しただろうか。

全ての殻と魚の骨の洗浄を終えて、ラウルは皆にお礼のご馳走を振る舞っていた。

『ぃゃー、海の貝って巨大なものが多いんだねぇ』

『うんうん、僕もあんな巨大な貝殻初めて見たよ!』

『一番大きいのなんて、ワタシの胴体くらいあったもんねぇー』

『骨も大きいのがたくさんあったねー』

『アレ、明らかにアクア君より大きいのもあったよねー』

『あの骨、ワタシの脚より太かったし……』

魔物肉の巨大肉団子を頬張るアクアやイードに、ジャイアントホタテの刺身を美味しそうに食べるウィカ。

それらをまくまくと食べながら、皆口々にラウルが持ち込んだ海の殻や魚の骨の巨大さに心底感嘆している。

ちなみに今回ラウルがアクアとイードに振る舞った魔物肉の肉団子は、ライトから教えてもらったレシピをもとに作ったものだ。

そのもととなっているレシピは、もちろん『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん』である。

ライト直伝の秘伝レシピを、ラウルは忠実に再現してみせた。

大きさもアクアやイードの体格に合わせて、直径1メートルサイズのボール状のものを各二十個づつ提供した。

アクアもイードも美味しそうに食べてくれているのを見て、ラウルもほっと一安心である。

ラウルがアクア達の協力を得て、小島の畔の水辺で洗った海の殻と骨の数は千個以上。

サイズも大小様々で、小さなものはラウルの手のひらくらい、大きなものは先程イードが言っていたように彼女の胴体程もあった。

ラウルは水辺の際に立ち、空間魔法陣を湖面の上に水平に開いて殻と魚の骨を出す。

大量の殻と骨がザバザバザバー!と滝の如く流れ出てきた時の、アクア達の驚愕した顔。目がまん丸&点の水神達の顔は、なかなかに愛らしく見物であった。

50cm程度までの小さな殻や骨はラウルやウィカが洗い、それ以上大きなものはイードやアクアが沖まで持っていって洗う。洗うと言いつつ、半分くらいは串やお手玉のようにして遊んでいたのだが。

とはいえ、正しい作業ができていれば問題ない。むしろ楽しみながら作業してくれれば、仕事を頼んだラウルとしてもありがたいと思う。

目覚めの湖の水でよく洗った殻と骨は、適当に水を切ってから再びラウルの空間魔法陣に放り込む。

本当は肥料にする前に乾かさなければならないが、今ここでその作業をするには時間も場所も足りない。

後でカタポレンの家に戻ってから、天日干ししつつ風魔法で順次乾燥させていく予定である。

そんな風にラウル達が小島でのんびりしていると、どこかから声が聞こえてきた。

「…………ぉーぃ」

「……ン? 何か、どこかから声が聞こえてきたか?」

『ン、僕も何か聞こえた気がする』

「……ぉーい」

『ホントだー。これは……レオニス君の声?』

最初は遠くから聞こえてきた、誰かの人の声。

ラウルやアクアがキョロキョロと周囲を見回すも、どこにも人影が見当たらない。

二度目の声はさすがに全員の耳に届き、ウィカがその声の主の名を口にした次の瞬間。

何と空からレオニスが降ってきた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

空から降ってきたレオニスが、ドスーーーン!と轟音を立てて小島に着地する。

その衝撃波で、小島の上に座っていたラウルとウィカの身体が30cm程浮き上がり、数秒後にぽすん……と着地した。

着地後のレオニスが、事も無げにラウル達に声をかけた。

「よう!何、お前ら、優雅なティータイムしてんのか?」

「ご主人様よ……何つー登場の仕方だ……」

『レオニス君……どこから飛んできたの?』

『ホンット、レオニス君らしいよねぇー』

『今ので水の女王ちゃんが起きちゃう、かも?』

あまりにもド派手なレオニスの登場の仕方に、ラウルは呆れ、アクアは目がまん丸&点になり、ウィカはうんうんと頷き、イードは水の女王の心配をしている。

イードの言葉を聞いたレオニス、はたとした顔でキョロキョロと周囲を見回した。

「……ン? そういや水の女王がいねぇな?」

「昨日のお出かけが余程楽し過ぎたようでな、疲れきってまだ寝てるんだ」

「おお、そうなのか。俺は森の警邏の帰りにここに寄ったんだ」

「何だ、ご主人様も目覚めの湖に用事があったのか?」

レオニスの突然の乱入は、どうやら全く無意味なものではなかったらしい。

その目的を、レオニスがラウル達に語って聞かせる。

「ああ。昨日水の女王が海の女王から預かったはずの、呼び笛を受け取りに来たんだが……何だラウル、お前も目覚めの湖に用事があったんか?」

「ああ、昨日海樹のところでもらった殻や魚の骨な。これについてる海水を洗い流しに来たんだ」

「おお、そうか。そういや昨日の晩飯食った時にも、そんなことを言っていたな」

「海水がついたまま肥料にするのは良くないって、小さなご主人様が教えてくれたからな」

互いの来訪理由を確認し合うレオニスとラウル。

ラウルの目的はほぼ達成されたが、レオニスの目的は水の女王が起きてこなければ果たされない。

「しかし……水の女王がまだ寝てるってんなら、無理に起こすのは可哀想だな……」

「そうだな。また明日出直してもいいんじゃないか?」

レオニスとラウルが水の女王を気遣い、ゴニョゴニョと話しているところにアクアが入ってきた。

『ねぇ、レオニス君。水の女王が起きてくるまで、僕と遊ばない?』

「ン? アクアと、か?」

『うん。前にほら、賭け事なしで純粋に遊ぶだけならいつでも相手してやるって、レオニス君が言ってくれてたでしょ?』

「おお、そういやそんなこともあったっけな」

アクアからの提案と問いかけに、レオニスも懐かしそうに頷く。

それはかつて、レオニスとアクアが水中で追いかけっこをした時の話だ。

レオニスとアクアはこれまで二回勝負して、二回ともレオニスが勝利した。

アクアはまだこのサイサクス世界に生まれてから一年にも満たないとはいえ、その正体は水神。人族が水神と勝負して勝利するなど、本来ならあり得ないことだ。

二回の勝負を経て、レオニスももうそろそろ水神に勝つ自信はなくなってきた。だがアクアとしては、負けっぱなしではいられない。

罰ゲームも報奨もない、ただの遊びとしての追いかけっこならばいつでも相手してやる―――二回目の追いかけっこが終わった時に、確かにレオニスはそう言った。

その時の約束を、アクアは今果たしてもらおうとしているのだ。

『だから、レオニス君。水の女王が起きてくるまで、僕と追いかけっこしようじゃないか』

「ンー、それはいいんだが……俺、昼飯の後に出かける用事があるんだよな。だから、そんな何時間も遊び相手にはなってやれんぞ?」

『それは大丈夫だよ。水の女王も多分お昼頃には起きてくるだろうし』

「そうか。じゃ、長くても昼飯前までってことならいいぜ」

アクアの事場に、思案しつつも結局は了承するレオニス。

レオニスも、何だかんだ言ってアクアと遊ぶのは楽しいようだ。

するとそこに、ラウルがレオニスに話しかけた。

「ご主人様よ、俺は先にカタポレンの家に戻るぞ。殻や骨の乾燥作業をしたいからな」

「おう、ラウルもご苦労さん」

「ご主人様も、昼飯前までには帰ってこいよ? 午後には俺らと出かけるんだからな」

「分かってるって。また後でな」

ラウルは手に持っていた飲み物のカップを空間魔法陣に仕舞い、すくっと立ち上がる。

そしてレオニス以外の、目覚めの湖の仲間達に向かって声をかける。

「じゃあな。アクア、ウィカ、イード、今日は殻と骨の洗浄を手伝ってくれてありがとうな」

『どういたしまして』

『ラウル君もありがとね!お刺身美味しかった!』

『ラウル君もまたワタシ達と遊ぼうねぇー♪』

一通り挨拶をした後、帰りがけにラウルがアクアに向けて声をかけた。

「アクア、ご主人様との勝負頑張れよ。あと、昼までには家に帰してやってくれな」

『うん、分かってるよ。僕が勝つまで頑張るからね!』

「聞いてねぇな……ま、双方お手柔らかにな」

久しぶりのレオニスとの勝負に、フンス、フンス!と鼻息も荒く意気込むアクア。

普段は冷静沈着でおすまし顔のアクアも、中身はやはりまだまだ子供なのだ。

ラウルは苦笑いしつつ、目覚めの湖を後にしてカタポレンの家に戻っていった。