軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第859話 仲間の期待と支援物資

約三十分のおやつタイムを過ごしたライト達。

ライトはマイページを開き、己のステータスがHP、MP、SP全て満タンになっていることを確認してから実験を再開した。

「よーし、そしたらライト君、さっき言った通り五人全員でのマッピング移動をしてみようか」

「はい!」

ライトはヴァレリアの指示に従い、マッピングの登録ポイント『転職神殿/地点A』の上に立つ。

地点Aに立ったライトとミーナが手を繋ぎ、ミーナはヴァレリアと、そしてヴァレリアはルディの胴体に手のひらをペタリとくっつける。

こうして一本の線状に繋がった状態になってから、ライトは満を持してマッピングを発動させた。

もちろんその行き先は『転職神殿/地点B』である。

五人とも無事地点Bへの瞬間移動に成功し、ライトはその場ですぐにトップページの簡易ステータスをチェックした。

そのステータス値は、以下の通りである。

====================

【名前】ライト

【レベル】25

【職業】聖祈祷師

【職業習熟度】88%

【称号】勇者

【状態】通常

【HP】3849/3849

【MP】9793/9943

【SP】143/148

【BP】−

【所持金】1875900G

【CP】468CP

====================

この数値を見ると、SPが5、MPが150減少していることが分かる。

ここまでくれば、もうライトにもその理由が理解できた。

「あー、そういうことですか」

「やっぱりね、思った通りだ!」

地点Bへの瞬間移動後、すぐにライトの横に来ていたヴァレリアもステータス値を見て納得している。

しかし二人だけで納得していては、他の者には分からないのではつまらない。

ミーナもパタパタと飛びながら、ライトとヴァレリアの後ろに来て早速質問した。

『主様、ヴァレリアさん、今ので何か分かったんですか?』

「ンーとね、このマッピングというスキルは、発動にSP1とMP30を使用するんだけど。複数人を同時に瞬間移動させる場合、その移動人数分のSPとMPを使っていることが分かったんだ」

『と、言いますと……?』

「ぼく一人でマッピングを使えばSP1とMP30、今みたいに五人で移動すればマッピング一回でSP5とMP150を使うってことだね」

『なるほど!ようやく意味が分かりましたぁ!』

ライトの詳しい解説に、ミーナもようやく理解できてパァッ!と明るい顔になる。

ヴァレリアも実験前にある程度の予測はしていたようで、その予測はどうやら当たっていたらしい。こうして実際に数値的な裏付けが取れたことで、大いに満足しているようだ。

「いやー、ライト君、これは実に素晴らしい大発見だよ!世紀の大発見と言っても過言ではないね!」

「そ、そんな……ていうか、ヴァレリアさんでもこのことは知らなかったんですか?」

「うん。今回のような『スキルを複数人に向けて使用する』という例には、今までお目にかかったことがなかったからね」

「そうだったんですか……」

実に満足そうな顔で頷いているヴァレリアに、ライトが不思議そうな顔をしつつ問いかける。

ライトにとってヴァレリアとは、【鮮緑と紅緋の渾沌魔女】という名に相応しい謎めいた存在であると同時に、このサイサクス世界のことを隅から隅まで知り尽くした、いわば神のような存在なのだと考えていた。

そんなヴァレリアでさえも知らなかったことがあるとは、ライトは夢にも思っていなかったのだ。

ヴァレリアの答えを聞いて、ますます意外そうな顔をするライト。

そんなライトに、ヴァレリアは 戯(おど) けたような口調で話しかける。

「そりゃあね? いくらこのヴァレリアさんが『何でもできちゃうスーパースペシャルウルトラグレートファンタスティックワンダフルパーフェクトガール』だからと言って、この世の全てを知り尽くしている訳じゃないからね?」

「そ、そうなんですね……」

戯けたヴァレリアが、何やらどこかで聞いたような超長いフレーズを披露する。

しかもそのフレーズは、某完璧なる淑女が使うそれよりも倍近いてんこ盛り状態だ。

極めつけは一番最後の『ガール』だが、これにツッコミを入れる勇気はライトには毛頭なかった。

「ぼく、ヴァレリアさんなら何でも知っているものだと思ってました。特にBCOのことなら、知らないことなど一つもないのだとばかり……」

「うん。ライト君の言う通り、私もBCOの知識については一廉の人物であるという自負はあるよ。でもこの通り、100%完璧って訳じゃない」

本当に意外そうなライトに、ヴァレリアはBCOの知識についての深さを肯定しつつもそれが完璧なものではないことを自ら告白する。

ヴァレリアがどこまでBCOに関する知識を持っているのかは分からないが、それでもライト以上に詳しく知っていることは間違いない。

今ライトがまさに修行中の、【僧侶】光系四次職【聖祈祷師】をマスターした者だけが使えるスキル【 治癒術・極大(ヒール・アストロ) 】だってヴァレリアは使えるし、空間魔法陣だって持っている。

転移門とは異なる瞬間移動用の魔法陣だって易々と設置し、BCOの課金通貨だったCPに関しても詳細に語っていた。

そうした数々の奇跡的な場面を見てきたライトにとって、ヴァレリアはまさに全知全能の神の如き存在だったのだ。

「私だって一応まだ人間のつもりだし? 知っている範囲だって、頑張ってもせいぜい99.9%ってところさ」

「それに、私にはスキルに対して『複数人を対象に使用したらどうなるか』という発想すらなかったよ。そういう点においても、ライト君の発想力はとても素晴らしいものだ」

「そして何より、例え私が同様の疑問を持ったとしても、私はそれを自力で解決することはできなかっただろう。何故なら……私にはライト君のように『志をともにできる仲間』などいないのだからね」

ヴァレリアはライトの発想力を絶賛すると同時に、寂しげな表情で小さく笑う。

彼女は自分のことを『一応まだ人間のつもりだ』と言った。

確かにヴァレリアの見た目は二十歳そこそこで、その正体を知らなければ極々普通の若い女性だと誰もが思う容姿だ。

だがきっと、ヴァレリアの実年齢はそれに反したものなのだろう。

そしてその長き人生の中で、彼女にとって『本当に志をともにできる仲間』が一人もいなかったのだ。

その寂寥感たるや、如何ばかりか。

寂しげなヴァレリアの心情を察してか、ミーアがヴァレリアのもとに寄り添い、そっと手を取る。

『……ヴァレリアさん。転職神殿の巫女にしか過ぎない私が言うのも、甚だおこがましいことだとは分かっているのですが……今からでも私と……いいえ、私とミーアとルディを、ヴァレリアさんの仲間だと思っていただくことはできませんか……?』

「……ミーア……」

『もちろんライトさんだって、ヴァレリアさんの立派な仲間です。そう、だって私達は……BCOという世界で繋がった『BCO仲間』ですもの』

「「……ッ!!」」

ミーアの言葉に、ヴァレリアだけでなくライトもハッ!とした顔になる。

これまでミーアは、ヴァレリアの知己としてそこそこ親しい間柄であった。だが、ことBCOに関してはヴァレリアから何か相談されたことは一度もない。

そのことについて、これまでミーアは疑問を持ったことなどなかった。

何故なら 自分(ミーア) は転職神殿専属のNPCであって、転職神殿以外のBCOシステムのことなどさっぱり分からないのだから。

だが、今ヴァレリアが見せた寂しげな顔を見て、それは間違いだったことにミーアは気づいた。

ヴァレリアも心の底のどこかで、誰にも頼らず誰にも頼られないことをずっと寂しく思ってきたのだ。

それはかつての自分―――ライトが弟妹を託してくれる以前の自分を見ているようで、居ても立ってもいられなかった。

ミーアからの思わぬ申し出に、しばし固まっていたヴァレリア。

だがミーアの言葉の温もりが、ヴァレリアの冷え切っていた心をじわじわと解かしていく。

その温もりへの歓喜が、次第にヴァレリアの顔にも満ちていった。

「うん……うん……そうだよね、ミーアの言う通りだよね。私達はBCO仲間だよね!」

「そうですよ!ぼくもミーアさんも、ミーナもルディも、皆BCO仲間です!」

『ええ!私だってルディだってただの使い魔ですけど、それでもミーアお姉様の妹と弟で、主様もヴァレリアさんも大事な仲間です!』

『はい!ミーナ姉様の言う通りです!』

嬉しそうに確認するヴァレリアに、ライトだけでなくミーナとルディも明るい笑顔で賛同する。

時折胡散臭い圧を放つ魔女ヴァレリア。だがその実は寂しがり屋で、どこにでもいる普通の人間と大差ない、感情豊かな一個の人間なのだ。

晴れて仲間と呼べる存在が、一気に四人も増えたヴァレリア。

ライト達に囲まれた彼女の眦には、ライト達にも分からないくらいに薄っすらとした一条の光が輝いていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達がBCO仲間として結束を強めた後、しばらくはスキル実験と称して様々なスキルを検証していたライト達。

身体強化系のバフスキルも他者と共有できるのか、回復系スキルも手を繋ぐなどして連結?することで一気に複数人にかけられるのか等々。

結果としてそれらもマッピング同様に『ライトと繋がった状態でスキルをかければOK』『SPやMP消費量は人数分だけ消費する』ことが分かった。

今思いつく実験を一通り終えたところで、ヴァレリアがライトに向けて話しかけた。

「本当に名残惜しいけど、そろそろ私は帰らなくちゃならない。ライト君もぼちぼち家に帰る時間だろう?」

「あ、そうですね、もうそろそろお昼ご飯の時間になりますね」

ヴァレリアの言葉に、空を見上げながら頷くライト。ライト達の真上には、太陽が燦々と輝いている。

皆と行う様々な実験は本当に面白くて楽しいだけに、あっという間に時間が過ぎてしまう。

別れの時間が近づいてきたことに、ミーナが残念そうに口を開く。

『ヴァレリアさんも主様も、もうお帰りになられるのですね……』

『そうですね、ミーナ。でも、きっとお二方にはすぐにまた会えますよ。ね、ライトさん?』

「はい!今就いている職業の【聖祈祷師】が、もうすぐMAXになりますし!そしたらまたヴァレリアさんが、ぼくにご褒美の質問権利をくれますから」

『……そうですね!』

ミーアとライトの話を聞いたミーナ、ライトとヴァレリアにすぐに会えると知ってすぐに明るくなる。

そう、ミーアは前回ライトが転職神殿に訪ねてきた時に『【聖祈祷師】が★7まで進んだ』とライトが話したことを、ちゃんと覚えていたのだ。

ライトが職業システムの四次職をマスターする度に、ライトはヴァレリアに質問する権利を一つ得る。

その時がもうすぐそこに来ていることを、ミーアは知っていた。

もちろんヴァレリアだって承知している。

ミーナの明るい笑顔を更に明るくすべく、ヴァレリアがライトに励ましの言葉をかける。

「そうそう、ミーアの言う通りだよー。さっき見たライト君のステータスによると【聖祈祷師】の職業習熟度が88%だったからねー。あと12%なんて、すぐだよすぐ!」

「え"ッ!? ぃゃぃゃ、その12%がまた果てしなく長いんですけども……」

「ン? 何? ライト君はミーアのこの希望に満ちた笑顔が見えない、とでも言うのかい?」

「う"う"ッ……!」

ヴァレリアの言い草に、ライトが一瞬だけ反論する。

実際職業システムの最終段階である四次職は、ヴァレリアが軽く言う程容易いものではない。

ただでさえ大量の職業習熟度が要る四次職、その後半の最終盤ともなれば歩みは遅々として進まなくなる。何も考えずに無為に過ごしていれば、四次職をマスターするなど一生叶わないくらいには困難な道のりなのだ。

しかし、完全な他人事のヴァレリアの言い草に反論できたのも、ほんの一瞬だけ。

ヴァレリアに返す刀で『ミーアの笑顔を曇らせる気か?』と暗に問われれば、ライトは一切の反論を封じられてしまう。

現にヴァレリアの横では、キラッキラに輝く瞳でライトを見つめるミーアがいるのだ。

両手を胸の前で組み、希望に満ち満ちた表情のミーア。その眼差しは、真夏の太陽よりも眩い煌めきを放っている。

ペカーッ☆と輝くミーナの眩い輝きをモロに受けたライト。そのあまりの眩しさに、思わずキラッキラ光線を遮るように瞼の上に手を翳す。

「も、もちろん、ぼくだって、ミーアさんの笑顔は守りたい、ですよ……?」

「ならば、一日も早く【聖祈祷師】をマスターしなくっちゃね!」

「は、はい……頑張ります……」

「そうだなー、一週間もあれば余裕じゃない?」

「え"ッ!? 一週間ッ!?」

ヴァレリアの更なる無茶振りに、ライトは悲鳴にも近い声を上げる。

ライトの頭の中では、二週間くらいあればイケるかな?と考えていた。

それより半分の納期?を迫られたライトが焦るのも当然である。

何てとんでもない無茶振りをしてくるんだ……この人、絶対にブラック企業に務める極悪上司だ……!!

ライトの考えが思いっきり顔に出ていたのか、ヴァレリアが空間魔法陣を開いて何やらゴソゴソとアイテムを探している。

「まぁねー、ライト君も学園生活があるもんねー。平日昼間はなかなか職業習熟度上げはできないよねー」

「はい……」

「そんなライト君に、私から支援物資をプレゼントしようじゃないか」

「こ、これは……!!」

ヴァレリアが出してきたのは、『エネルギードリンク1グロス』と書かれたチケットだった。

それは『グロス』という名の通り、エネルギードリンクが一気に144本も得られる超貴重な激レアアイテムである。

エネルギードリンクは、一本で500SPを回復できるアイテム。これが144本もあれば、SP消費によって得られる職業習熟度を上げる作業がかなり捗ることは間違いない。

それまで半分死にかけていたライトの目が、ミーアに負けないくらいにキラッキラに輝き出す。

これさえあれば、ヴァレリアが言う『一週間以内に【聖祈祷師】をマスター』という無茶振りも不可能ではないだろう。

ライトの思惑を見透かしたかのように、ヴァレリアはニコニコ笑顔でライトを促す。

「ささ、ライト君。これを受け取って、アイテム欄に入れてくれたまえ。そうすれば、アイテム欄にグロスが収納されるから」

「分かりました!」

ヴァレリアからグロスのチケットを受け取り、早速マイページのアイテム欄開いて収納する。

すると、アイテム欄の中に早速『エネルギードリンク1グロス』という新アイテムが出現した。

これまでにライトがクエストイベントなどで得てきたエネルギードリンクは、最高でもダース(12本セット)である。

グロスとはダース✕ダースであり、ダースよりワンランク上のアイテム。エネルギードリンク類の中で最上級のアイテムなのだ。

サイサクス世界で初めてゲットした『エネルギードリンクグロス』に、ライトの顔も思わずにやける。

半分死にかけたライトの顔に希望が戻ったことを確認したヴァレリアが、満足そうに皆に向かって声をかけた。

「勇者候補生に、無事支援物資を届けることもできたし。私は帰るね!」

「ヴァレリアさん、ありがとうございます!職業習熟度上げ、頑張ります!」

「うん、その意気で頑張ってね。来週もまた皆に会えるのを楽しみにしているよ。じゃあ、またね!」

ヴァレリアはそういうと空高く飛んでいき、空中でフッ……と消えた。

彼女がどこに帰っていくのかは分からないが、神出鬼没の彼女らしい帰り方である。

ヴァレリアが去るのを見送った後は、ライトが帰る番だ。

ライトはかつてヴァレリアが用意してくれた、瞬間移動用の魔法陣の上に乗った。

「じゃ、ぼくも帰りますね」

『ライトさんもお元気で。また来週お会いしましょう』

「はい、頑張ります!ミーアさん、ミーナ、ルディも、皆また来週ね!」

『主様、修行頑張ってくださいね!』

『パパ様、絶対にまた来週来てくださいね!』

魔法陣の上で手を振るライトに、ミーア達もそれぞれに手を振りながらライトに応える。

転職神殿の姉弟達に見送られながら、ライトはカタポレンの家に戻っていった。