軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第857話 マッピングの検証

ライトはマイページを開き、先程までレクチャーを受けていた『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を一旦仕舞い込んだ。

それを見たヴァレリア、満を持したように次の話題に切り込む。

「えーと、次は『紫の写本』スキル、『マッピング』についてだね?」

「はい!ヴァレリア先生、よろしくお願いします!」

「ヴァレリア先生……ンッフフフ、何て素敵な響きー♪」

学校の授業よろしく、引き続きヴァレリアのことを『ヴァレリア先生』と呼ぶライト。

その得も言われぬ甘美な響きに、ヴァレリアは改めてうっとりとしている。

ライトはヴァレリアの上機嫌を維持しつつ、早速マッピングについて質問を始めた。

「マッピングというのは、移動したい場所をピンポイントで指定しておくことで、いつでもそこに瞬間移動できるスキル、ですよね?」

「そうそう。そして登録可能なポイントは十ヶ所まで。これはスキルレベルに比例して、レベルが上がる毎に一個増えていく仕様だね」

「その登録ポイントというのは、例えば『幻の鉱山』のような特殊な場所でも登録可能なんですか?」

「それはさすがに不可だねー」

ライトの質問に、ヴァレリアが速攻で不可と答えた。

「このサイサクス世界で、通常行動で到達できる範囲ではない場所、それこそ『幻の鉱山』のような亜空間などは対象外だよ。そもそもそんなことが許されたら、どんな特殊アイテムだって一回使えば後は用無しになっちゃうしね」

「やっぱりそうなりますよねー」

ヴァレリアの的を射た解説に、ライトもうんうん、と頷く。

この問答の中で重要なのは、瞬間移動スキル『マッピング』の使用可否だけではない。ヴァレリアが幻の鉱山のことを『亜空間』と明確に表現したことだ。

これまではライトやレオニスの憶測でしかなかったが、ヴァレリアが明言したことでそれはライトの中で確定となった。

ああ、やっぱりあの幻の鉱山はこのサイサクス世界とは全く違う、切り離された世界なんだな、とライトは内心で考えていた。

ライトは他にもマッピングについて気になる点を、ヴァレリアに遠慮なく聞いていった。

例えば『他者を連れてともに移動できるのか』とか、『登録ポイントを十ヶ所以上に増やす方法はないのか』等々。

それに対し、ヴァレリアもちゃんと答えていった。

「他人を連れて、いっしょに移動できるかどうか? ンー……BCOのスキルって、基本的にユーザー個人に対して行使される能力だから、できるかどうかで言えば多分不可だと思うけどー……どうだろう、そこら辺は私もはっきりとは断言できないなぁ……」

「ですよねぇ……普通に考えたら、やっぱ無理かなぁ……」

「でもまぁ、いくつかの例外として回復スキルなんかは他者にもかけられるし? ていうか、ライト君の今のマッピングのスキルレベルはいくつ?」

マッピングの複数人行使に対し、一度は否定的な意見を述べたヴァレリア。

だがそこで、ふと思い立ったようにライトのマッピングレベルの確認をしてきた。

ヴァレリアの問いかけに対し、ライトは迷うことなく明かしていく。

「今はまだ3です」

「3か、ならもう既に登録ポイントを三ヶ所使えるってことだよね?……何なら一度ここで、試してみてもいいんじゃないかな? 補助スキルが他者に対して使えるかどうか、という問題は私にとっても実に興味深いものだ。だから是非ともここで実験して、その結果を知っておきたいんだよね」

「!!……分かりました!」

ヴァレリアの提案に、ライトは目を大きく見開きながら賛同する。

確かにここには、ヴァレリアや転職神殿の面々がいる。

皆ライトがBCOの勇者候補生であることを知っていて、普段のようにひた隠ししなくてもよい者達ばかりだ。

いつもはライト一人で奮闘するBCO関連の問題を、ここでは誰憚ることなく存分に共有できる———それはライト自身が思っていた以上に、心強くて嬉しいことだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトは早速マイページを開き、スキル欄の中の『マッピング』を操作し始めた。

今のところマッピングで登録しているのは二ヶ所。カタポレンの家のライトの自室に二点だ。

一昨日まではこの二点を使って、自室の端から端までをマッピング移動してスキルレベルを上げる作業をしていた。

今この場でマッピングのスキル検証をするには、少なくとも二ヶ所分を空けておかなくてはならない。

マッピングのスキルを押して出てきたウィンドウ。そこには『カタポレンの森/地点A』『カタポレンの森/地点B』という登録済みポイントと、八個の未登録枠がある。

ちなみに登録可能な枠は薄っすらと緑がかった青色になっていて、登録済みの地点Aと地点B以外にも同色の空欄が一つある。

これは現時点で三ヶ所登録可能ということが一目で分かる、何気に優しい仕様である。

既存の登録箇所のうち、地点Bの方を長押しする。そうすることで『この登録ポイントを削除しますか?』という確認画面が出てくるのだ。

その下に表示される『はい/いいえ』という選択肢の『はい』をタップするライト。すると、『カタポレンの森/地点B』という文字が消えて空欄になった。

これで二ヶ所の空欄ができて、転職神殿内での往復移動が可能になった。

「ヴァレリアさん、準備できました!」

「オッケー。そしたら早速この敷地内の適当なところに二つ、登録ポイントを設定してねー」

「分かりましたー」

ライトはヴァレリアの指示に従い、転職神殿の敷地内の端っこ二ヶ所にマッピングの移動ポイントを登録した。

登録ポイントの名前は『転職神殿/地点A』『転職神殿/地点B』となっている。

ライトが二ヶ所目の地点Bを設置し終えたところで、ヴァレリアがライトに声をかけた。

「じゃあ、まずは動作確認のためにライト君一人で移動してみてー」

「はーい!」

早速ライトは、登録したばかりのポイント『転職神殿/地点B』の上に立つ。

ちなみにこの登録ポイント、ライトの目には地面の上に赤い点がぽつんと映って見える。

後で皆に聞いたところ、この赤い点はライトにしか見えないものらしい。しかもそれはミーアやミーナだけでなく、何とヴァレリアの目にも映らないのだという。

ヴァレリア曰く『そこら辺は勇者候補生達個々人のデータに属する領域だから、基本的には本人以外には分からないようにしているのではないか』とのこと。

マッピングの登録ポイントも個人情報の範疇だと言われれば、確かにその通りである。

まずは『転職神殿/地点B』の上に立ち、マッピングスキル内の登録ポイント『転職神殿/地点A』をタップするライト。

次の瞬間、ライトは『転職神殿/地点A』に移動していた。

距離としてはほんの数十メートル程度の移動だが、それでも瞬間移動したことに変わりはない。

少し離れたところで見ていたミーア達が、ライトがマッピングで瞬間移動する瞬間を目の当たりにして非常に驚いていた。

『あれが、マッピングスキルですか……本当に瞬間移動なさってましたね……』

『主様、すごい……』

『パパ様、カッコいい……』

転職神殿の面々がライトの偉業?に感動にしていると、その横にいたヴァレリアが三人に向かって声をかける。

「よし、そしたら次はミーアだ。ミーア、ライト君のところに行ってー」

『……え? 私、ですか?』

「そうそう、ミーア達にも実験に協力してもらうからねー」

ヴァレリアに突如指名されたことにミーアは驚きつつも、実験に協力すべくライトがいるところにトトト……と小走りで駆け寄っていく。

二人が同じ場所に立ったことを確認したヴァレリアが、いよいよ実験の本命となる指示をライト達に向けて出した。

「そしたらライト君、ミーアと手を繋いでからマッピングでさっきのところに戻ってみてー」

「はーい!……ミーアさん、手を繋いでもらってもいいですか!」

『は、はい……』

ヴァレリアの指示に従うべく、ライトはミーアの了承を得てから手を繋いだ。

もしミーアがライトとともに地点Bに瞬間移動すれば、マッピングスキルは複数人移動が可能ということになる。

逆にライト一人だけ地点Bに移動して、ミーアが地点Aに取り残されれば複数人移動は不可、ライト単体での移動のみという結果になる。

できれば複数人移動ができた方がいいなぁ、と密かに思うライト。

それは、例えば将来冒険者となってパーティーを組んで行動した時などに、万が一生命の危機に陥った時の脱出のための最終手段として使えるからだ。

とはいえ、それはライトのBCO由来の力が周囲に完全にバレる時でもあるので、本当に本当の最終手段なのだが。

そんなことをつらつらと考えていると、ライトの手にじんわりと汗が滲む。

それは、未知のスキルに対する期待と不安の表れか。

ライトの緊張がミーアにも伝わったのか、ミーアがライトの手をそっと握りしめながら語りかける。

『……ライトさん、緊張なさっているのですか?』

「ぁ……は、はい……」

『もし失敗したとしても大丈夫ですよ。それは勇者候補生であるライトさんだけが使える力であることに、変わりはないのですから』

「……はい!」

優しい語り口のミーアの励ましの言葉に、ライトは勇気づけられていく。

ミーアの励ましは言葉だけでなく、その手の温もりがライトにじんわりと伝わってくる。

そう、ミーアの言う通り、別にこの実験が失敗したっていいのだ。

それによって何か大損害が発生する訳じゃなし、大怪我だの生命の危機だのに晒される訳でもない。強いて言うなら、せいぜいその残念な結果にライトとヴァレリアが少しだけがっかりする程度である。

ミーアの言葉に、ライトは心底救われる思いだった。

ミーアのおかげで緊張が解けたライト、頭を上げてキッ!と前を向き、ヴァレリアに宣言する。

「ヴァレリア先生、今からマッピング移動します!」

「オッケーオッケー、いつでも実行していいよー!」

ライトはヴァレリアに合図を送ってから、開きっぱなしだったマイページのスキル欄のマッピング、その移動先の選択肢である『転職神殿/地点B』を押した。