軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第856話 MP充填方法

「そしたら、まずはこのツルハシについて説明していこうか」

ヴァレリアはそう言うと徐にライトのもとに近づき、ライトが両手で持っていたツルハシを手に取る。

右手でツルハシの柄を持ち、左手の手のひらの上でポン、ポン、と先端を軽く叩くように乗せている。

それはまるで細い木の枝か指揮棒でも弄るかのような、何気ない気軽な仕草。

だがしかし、それは曲がりなりにもツルハシ。それなりに重量があって、そんな風に軽く扱える代物ではないはずなのだが。

「まずは基本的なことからね。このツルハシを使えば、一時間の間だけ『幻の鉱山』に行ける。一時間が経過したら、元の世界に戻ってくる。ここまではOK?」

「はい」

「じゃ、次ね。このツルハシはBCOの仕様と若干違って、使い捨てではなくて繰り返し使えるエコなアイテム。エコだけに、BCOより三段階進んでるECO、なんちって☆」

「『『『………………』』』」

突如ダジャレをかますヴァレリアに、他の四人は瞬時に極寒の風に包まれた気がする。

なのに、極寒の風を起こした張本人は四人の固まる姿に全く怯むことなく、むしろ「ウヒョヒョ♪」とか言いながら楽しそうに眺めている。

どれだけダジャレで滑ろうとも、ヴァレリアはその滑りすらもまるで華麗なるアイススケートのように楽しんでしまう。この魔女の豪胆さは、もはや留まるところを知らないようだ。

「でね、繰り返し使えるエコなアイテムってことは、当然アイテムを使用するための充電が要る。そしてそれは電気ではなく、このサイサクス世界ではMPを充填することで使えるようになる」

「MP100000が要るんですよね」

「その通ーーーり!」

正解を出したライトに、ヴァレリアはビシッ!とツルハシの先端を向ける。指揮棒代わりにツルハシを揮うヴァレリアは、まるで教壇に立つ教師のようだ。

いつものライトなら、ヴァレリアとの問答にはかなり神経を使うのだが。幸いにして今日のヴァレリアは実に機嫌が良さそうだ。

この絶好の機会を逃さんとすべく、ライトは右手を高く上げつつ果敢にヴァレリアに質問していく。

「ヴァレリア先生!このツルハシについて、質問してもいいですか!?」

「もちろんいいよ、何でも聞いてくれたまえ☆」

「ありがとうございます!このエコなツルハシに、どうやってMPを充填すればいいんでしょうか!?」

「うんうん、分かるよー。そこがこのアイテムの一番の謎にして問題点だよねッ!」

ライトの真っ直ぐな質問に、ヴァレリアが目を閉じしたり顔で頷いている。

このツルハシは、BCOでは一回限りの消耗品型アイテムだった。

しかも、それはこのツルハシに限ったことではない。MPを充填して使用するタイプのアイテムは、ライトが知る限りBCOでは存在していなかったのだ。

それ故に、ライトにはツルハシをどう扱っていいのか全く分からなかった。

「ちなみに、ライト君はどうすればいいと思う?」

「えーと……ぼくがカタポレンの森の家でいっしょに住んでいるレオ兄ちゃんも、これと同じものを持っているんですが。レオ兄ちゃんは、カタポレンの森の魔力を半年間充填させるって言ってました」

「ほう、ライト君の保護者もツルハシを持ってるんだ? それはなかなかにすごいことだねぇ」

ライトの話に、ヴァレリアが意外そうな顔をする。

ライト以外の者がツルハシを所持しているなど、ヴァレリアであっても予想外のことだったようだ。

だがそれだけでなく、ヴァレリアがはたとした顔でライトに尋ねる。

「というか、既にツルハシの使用の実例を知っているなら、ライト君もそれに倣えばいいだけなんじゃないの?」

「それはそうなんですが……実際にそうするには、かなり問題がありまして……」

ヴァレリアの尤もかつ素朴な疑問に、ライトはそうできない理由を話していく。

同居しているレオニスには、ライトがツルハシを持っていることを知られたくないこと、どこに隠してもいつか絶対にレオニスに見つかりそうな気がすること、なのでカタポレンの森の魔力を充填する以外の方法を知りたいこと、などなど。

「ぁー、確かにねぇ……このツルハシをただのツルハシだと思ってる者なら、いくらでも誤魔化せるだろうけど。最も身近な人がその真価を知っているとなれば、下手なことして見つかる訳にはいかないねぇ」

「そうなんです……特にレオ兄ちゃんは変なところで鋭いから、万が一にもこのツルハシを持っていることを知られる訳にはいかなくて……だから今は、アイテム欄に入れっぱなしにしてる状態なんです」

「そっかぁ。アイテム欄に入れっぱなしじゃ、いつまで経ってもMP充填完了できないねぇ」

「はい……」

にっちもさっちもいかない現状を話していくうちに、ライトの顔はどんどん沈んでいく。

せっかく有用なアイテムを手に入れたというのに、使用するための条件が満たされない限りはいつまで経っても使えないままなのだ。

絵に描いた餅のように、おあずけ状態を食らっているライト。しょんぼりと沈み込むのも無理はなかった。

そんなライトを哀れに思ったのか、ヴァレリアが一際明るい声でライトに話しかけた。

「……よし。そしたらこのヴァレリアさんがライト君の願いを叶えるべく、これの使い方を伝授しようじゃないか!」

「ホントですか!?」

「ああ、本当だとも。ライト君、今から私がすることをよく見ててね」

ヴァレリアの言葉に、ライトがガバッ!と顔を上げてヴァレリアの顔を見た。

ライトに救いの手を差し伸べてくれるヴァレリアが、ライトの目には天使か女神のように見えてくる。

ヴァレリアはツルハシを両手で水平に持ち、静かに目を閉じて精神集中する。

しばらくすると、ヴァレリアの鮮緑の髪の裾がふわりと宙に舞う。

今は全く風も吹いていないというのに、何とも不思議な光景だ。

そうして一分か二分くらい経っただろうか。

ふわりと宙に浮いていたヴァレリアの鮮緑の髪はゆっくりと元に戻り、閉じていたヴァレリアの瞳が静かに開いた。

「……これで半分くらいは充填できた、かな?」

「ライト君、このツルハシの今のMP充填量を見てご覧。充填量の見方は分かるよね?」

「……あ、はい」

ヴァレリアがライトに向けて徐に差し出したツルハシを、ライトは慌てて受け取る。

そしてツルハシの柄の底面を指で触り、MP充填ゲージを出現させた。

「……え"ッ!?」

ツルハシのMP充填ゲージを見たライトは、思わず絶句する。

驚いたことに、MP充填ゲージが何と半分近く上昇しているではないか。

しかも併記されている数字の方も『50175/100000』と出てきていた。

「ヴァレリアさん……こ、これは、一体……?」

「驚いた? 実はね、これ、手に持った者が意識して直接魔力を注ぐことで、MP充填することが可能なんだ」

「そうなんですか!?」

ヴァレリアの答えに、ライトは目を丸くして驚愕する。

レオニスはカタポレンの森の魔力をツルハシに吸収させていたが、まさか人の手からも直接魔力を吸収できる仕様だとは思いもしなかった。

それに、驚くべき点はそれだけではない。

たかだか一分か二分の間に、ヴァレリアがMPを五万以上もツルハシに吸収させたことだ。

ライトもレオニスから『魔力お化け』と言われてはいるが、それでもライトのステータス値におけるMPは10000あるかどうかといったところだ。

そんなライトが、エーテル系回復剤も飲まずにツルハシにMPを全部注ぎ込んだら、一体どうなるか。間違いなくその場でぶっ倒れるだろう。

それをヴァレリアは、事も無げにMPを五万も注いだのだ。ライトが驚愕するのも当然である。

ヴァレリアという魔女が持つ底知れない力を、ライトはまざまざと見せつけられた思いがした。

そんなライトの様々な困惑など知る由もないヴァレリアは、ライトに向かって更なる指示を出した。

「じゃ、今度はライト君の番だ。ライト君、このツルハシを両手で持って、自分の手からツルハシに力を移すイメージを頭の中で思い描いてご覧」

「……はい……」

ヴァレリアの指導に従い、目を閉じて両手に持ったツルハシにMPが移動するイメージを想像した。

すると、ライトが持っているツルハシがまるでスポンジが水を吸収するかのように、ライトのエネルギーをぐんぐん吸収していくのが分かる。

そうして二十秒か三十秒くらい経過しただろうか。

ライトは目を閉じてイメージしていたのに、何故かクラッ……と目眩がした気がした。

その目眩が起きた瞬間に、ヴァレリアがライトの肩をポン、と叩いた。

「はい、そこまで」

ヴァレリアに肩を叩かれたことで、ハッ!と目を開けたライト。

まだ少し目眩がする。

「ライト君は本当に資質があるね。あまりにも資質がありすぎて、MPを全部ツルハシに渡しちゃうところだったよ」

「す、すみません……ぼく、まだ魔力の使い方とかよく分かっていなくて……」

「ううん、責めた訳じゃないから謝る必要はないよ。ただし、MPが一気に枯渇すると体調にも悪影響が出るからね。そこら辺は気をつけながら、少しづつ慣れていけるように練習すればいいよ」

「はい……」

ライトを優しく諭しながら、空間魔法陣からコズミックエーテルを一本取り出したヴァレリア。

ヴァレリアから差し出されたそれを、ライトは遠慮なくコクコクと飲み干していく。

そういえば、夏休み直前の魔力テストの時にもレオ兄に『お前はイメージ力が強過ぎるようだから、目を閉じないで開けたままでイメージしろ』って言われたっけ……このツルハシへの魔力充填も、目を開けた状態でやらなきゃな……と、ライトはコズミックエーテルを飲みながら心の中で反省していた。

コズミックエーテルとは、一本でMP2400回復するアイテムだ。

これを喉に 閊(つか) えることなく全部飲み干したということは、ライトのMP消費量は少なくとも2400を上回るという証左だった。

実際に、ライトがコズミックエーテルを飲んだ後ツルハシのMP充填ゲージを見ると『57361/100000』となっていた。

「そうだねぇ……これからは一日につきMP3000くらいを目安に、毎日コツコツと貯めていけばいいんじゃないかな? その3000も、一度に充填するんじゃなくて何回かに分けてやる方がいいね。例えば朝晩と寝る前にに一回づつ、とかね」

「そうですね。それくらいなら、無理せずできそうです」

「でしょでしょ? 一日3000なら、一ヶ月とちょっとで一回は使える計算になる訳だし」

ヴァレリアの適切な提案に、ライトも頷きつつ同意する。

ヴァレリアが言うように、朝昼晩と寝る前の四回に分けて充填すれば、一回につきMP750の消費に抑えられる。

これならば、先程のように急激なMP枯渇には至らないだろう。もっとも、ラグーン学園に通っている平日の昼間に充填するのは難しいだろうが。

それに、そもそもこのツルハシで行ける『幻の鉱山』は、今のところそこまで頻繁に通わなければならないような場所でもない。

一ヶ月に一度行ければ十分御の字である。

「とりあえず、『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』の使い方は理解できたかな?」

「はい!ヴァレリア先生の分かりやすい指導のおかげで、すっごくよく分かりました!」

「そうだろうとも!このヴァレリア先生に、指導できぬことなどなーい!」

非常に心のこもったライトのヨイショに、ヴァレリアも鼻高々に胸を張る。今日のヴァレリアは、本当に終始ご機嫌である。

そんなヴァレリアを見たライトの中に、とある思いが沸き起こる。

それは『乗るしかない、このビッグウェーブに!』である。

この機を逃してなるものか!とばかりに、ライトは次の質問に移る。

「ヴァレリア先生!そしたら、紫の写本スキル『マッピング』についても伺ってよろしいでしょうか!?」

「桶桶、今のヴァレリア先生は無敵だからね、どーんと任せなさーい!!BCOアイテムの使い方なら何でもこーい!」

ご機嫌なヴァレリアの了承を得たライトの目が、キラーン☆と輝く。

ヴァレリアを講師としたBCOアイテムの使い方講座は、まだ続くのであった。