軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第844話 海樹の切なる願い

ガラクタ置き場巡りを終えて、海樹のもとに戻ったライト達。

それまで他の男人魚達と話をしていたユグドライア、ライト達の姿に気づき早速話しかけてきた。

『お、おかえり。何かいいもんっつーか、欲しいものとか使えそうなもんはあったか?』

「はい!ぼくは鱗や花瓶、箱なんかをいただきました!ありがとうございます!」

「俺は貝殻と食器類をいただいた。どれも良い物ばかりでありがたい」

『そうかそうか、そりゃ良かった!』

大喜びで礼を言うライトとラウルに、ユグドライアも実に機嫌良さそうだ。

せっかく褒美として渡すのだから、できることならライト達にも喜んでもらえるものをあげたい―――ユグドライアなりの気遣いが実ったことの喜びなのだろう。

そこへ、マシューからもライト達に礼の言葉が述べられた。

『お二方にはガラクタをたくさん引き取っていただき、我等としても大変助かった。心より御礼申し上げる』

『そうかそうか、そりゃまた良かったな!……って、マシュー? お前ね、もうちょい歯に衣着せような?』

『客人方が喜び、我等も助かる。まさに一石二鳥ではないですか。そこに何か問題でも?』

『お前の言い方が一番問題なんだってばよ……』

側近兼幼馴染の物言いに、海樹の声のトーンがしおしおと萎れていく。暖簾に腕押しとは、まさにこのことか。

あのぶっきらぼうで無愛想に見えたユグドライアが、実は男人魚のフォローに回る側だったとは。実に意外である。

初対面の時には全く予想だにしなかった光景に、ライトも思わず微笑む。

するとここで、ユグドライアがはたと何かに気づいたような声でライト達に問うた。

『……ン? つーか、鱗や花瓶はともかくガラクタ置き場にある箱や貝殻なんかは、すっげーデカかったよな? お前達、そんな大量の荷物を抱えてるようには見えんが……?』

「あ、えーとですね、実はぼく達には便利な魔法やアイテムがありまして―――」

実に不思議そうな声で、ライト達に尋ねるユグドライア。

それもそのはず、ライト達がもらった品々はかなり大きなものが多い。開かずの箱はもちろんのこと、貝殻だってラウルの身の丈より大きなものがゴロゴロと打ち捨てられていた。

当然ユグドライアだって、それらガラクタの大きさを知っている。

だからこそ、ほぼ手ぶらなライト達を見て海樹は不思議に思ったのだ。

側近のマシューだって空間魔法陣の存在を知らなかったのだ、海樹も全く知らなくて当然である。

ユグドライアの疑問に、ライトは実は斯々然々これこれこうで、と説明していく。

ラウルが駆使する空間魔法陣やライトが使うアイテムリュック、それらの説明をおとなしく聞いていたユグドライア。

ライトの説明が終わった後、ユグドライアは感嘆していた。

『そうか……レオニスが黒い穴みてぇなところから、皆の分体入りの置物なんかを取り出すところは俺も見てたんだが……あの黒い穴は、そんなすごい魔法だったんだな』

「はい。ぼくはまだ子供で教えるには早過ぎるってことで、空間魔法陣を教えてもらうことはできないんですが。その代わりに、このリュックに空間魔法陣を付与してもらってます。このリュックも空間魔法陣と同じで、たくさんの物が入れられるんです」

空間魔法陣の有能性を知ったユグドライア、心底感動している。

ライトが夏休みの間に初めてユグドライアと会った時に、レオニスが他の神樹の枝で作った置物を渡している。

その時にレオニスが空間魔法陣から置物を取り出したことを、海樹も覚えていたようだ。

だが、ラウルの身の丈よりも大きい貝殻を収納したり、大量の陶磁器を全て入れて持ち歩けるほどの魔法だとは、さすがの海樹も思っていなかったようだ。

ライト達の思いもよらぬ有能さに、ユグドライアはしばし無言で考え込んでいる。

『そうか……なら、 アレ(・・) をお前達に託すことができそうだな』

「「???」」

徐に呟いた海樹の言葉に、ライトもラウルも首を傾げる。

ユグドライアは、ライト達に何か託したいものがあるようだ。

それが一体何なのか、ライト達はユグドライアの言葉の続きを静かに待った。

『俺から一つ、お前達に頼みたいことがある』

「何ですか?」

「俺達でできることなら、力の限り協力しよう」

『それは……今から俺の枝、なるべく太いのをどこでもいいから切り取って、その枝をツィに届けてやってほしいんだ』

それは、海樹からの切なる願いだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『今も人魚達と話していたところなんだがな。まずは人魚達の首元を見てもらえるか?』

「??……ぁー、何か首飾り?がかかってますね……」

『そう。それは俺の枝を身に着けておくためのものだ』

ユグドライアに促され、ライトは一番近くにいたマシューの首元を見る。するとそこには、首飾りのようなものがかけられていた。

周りを見回すと、海樹の傍にいる他の男人魚達の首にも同様のものがかけられているのが分かる。

紐は金属製のようで、綺麗な紅色の石?がペンダントトップのように下げられている。

その紅い石が、どうやらユグドライアの枝のようだ。

「あの紅い石っぽいのが、イアさんの枝で作ったやつですか?」

『ああ。俺の枝には大量の魔力が含まれていてな。雑魚魔物程度なら近寄ってすらこれないし、持っている者への魔力供給もできる。だから、ここら辺にいる男人魚や遠出する若手達全員に護身用として持たせているんだ』

「おおお……それはすごいですね……」

ユグドライアが語るところによると、ユグドライアの枝には様々な効果があるという。

簡易結界だけでなく、魔力供給もできる―――それは、ライト達がよく使う魔石と同じようなものだと思われる。

しかし、ライト達が使う魔石とユグドライアの枝には、決定的に違う点があった。

それは『大きさ』である。

ライト達が日々カタポレンの森の魔力を貯め込む魔石は、基本的に水晶がもとになっている。

そしてその水晶の大きさは、最も大きくてもせいぜいレオニスの拳大程度だ。これは、水晶の産地が幻の鉱山だからである。

世界中を探せば、もっと大きな水晶が採れる鉱山があるだろう。

だが魔石という用途を考えれば、大きさはそこまで重要ではない。むしろ、あまりに大き過ぎても持ち運びが大変なだけだ。

ライト達が日頃使う魔石は、手のひらに収まるくらいの手頃なサイズが最も良い。

そしてそれは、幻の鉱山でツルハシから削り出す水晶がちょうどいいのだ。

しかし、ユグドライアの枝となると話が変わってくる。

前回レオニスが持ち帰るために選んだユグドライアの枝は、細めのものが多かった。それは、珊瑚のアクセサリーとして加工するためのものなのだから、そこまで大きな枝である必要はなかったからである。

もっとも、細めと言ってもライトの腕の太さくらいはあったのだが。

それを、今度は『なるべく太い枝を切り取って、ユグドラツィに届けてほしい』とユグドライア自らが言っている。

もっとも太い枝というと、幹から一番近いところで分岐している枝だ。

ライトがユグドライアの幹周辺を見遣ると、幹以外で最も太い枝はレオニスやラウルの胴体よりもはるかに太い。それどころか、あのマスターパレンの恵体をも軽く上回っている。

さすがにオーガ族族長のラキや長老ニル程ではないが、それでも族長の妻リーネほどはありそうだ。

これ程太い枝ならば、通常の魔石などよりもはるかに強力な魔力貯蔵用の媒体になるだろう。そして、ユグドラツィの結界運用にも十分使えるに違いない。

いや、むしろユグドライアの枝以上に最適な魔力貯蔵媒体はないだろう。

これからのユグドラツィの身の安全をもたらすのに、これ以上相応しい品は他にあるまい、とさえ思える。

そんなことをライトがつらつらと考えていると、ラウルが先に口を開いた。

「それはありがたい。俺達の方もツィちゃんの新たな防衛として、ツィちゃんの周辺に強力な結界を作る計画を立ててるんだ」

『そうらしいな。その話はツィからも聞いている。だから、その結界作りに俺の枝を是非とも使ってほしいんだ』

「ああ。これ程大きな枝ならば、ツィちゃんの広大な枝も余裕で包み込める結界が作れるだろう」

『だろう?』

ラウルもライトと同じことを考えていたようで、ユグドラツィの太い枝を結界運用に使う気満々である。

やる気満々のラウルに、ユグドライアも嬉しそうにしている。

だが次の瞬間、ユグドライアが静かな声で語り始めた。

『……あの事件以来、俺にできることは何かをずっと考えていたんだ。 人魚達(こいつら) ともずっと話し合って、出した結果は『ツィにも俺の枝を持たせて、身を守る役に立ててもらう』だった』

『だが、それには問題があった。俺のデカい枝を、どうやってツィのもとに運んでもらうか。それが最も難題だったんだ』

『だが……今日お前達の持つ力を見て、俺は安心した。お前達なら、切り分けた俺の枝を陸に持ち帰ることができる、ツィのもとに届けてもらうことができる、とな……』

ユグドライアが静かに語る胸中に、ライトもラウルも静かに聞き入っている。

遠い地で悪漢に襲われた妹に、兄として自分ができることは何かないのか―――それをずっと懸命に考え続けてきたであろうユグドライア。

その結果『強力な力を持つ自分の枝をユグドラツィに持たせる』という良策を思いついたはいいが、その策は海に住む者達だけでは到底遂行できなかった。

そして今日、その願いを叶えるために助力してくれる者が現れた。それがライトとラウルだった。

『あの時俺は、何もできなかった。敵に傷つけられ続けて、魂まで貪り食われる妹に何もしてやれなかった……そのことを思うと、今でも腸が煮えくり返る思いだ』

『俺は本当に頼りない兄貴だが……これからは俺の枝を使って、ツィを守る結界をより強力なものにしてほしい。今更だが、俺もツィを守るための力になりたいんだ』

『お前達も、どうか……どうかこれからも、ツィのことを守ってやってくれ。俺からも頼む』

ユグドライアが、心からライト達に妹の行く末を頼み込む。

ユグドライアは海樹なので、その場から全く動けないし表情なども見ることはできない。

だが、普段のざっくばらんな口調は微塵もない。とても真剣な声は、まるでその場に土下座して頭を下げているかのようだった。

そんなユグドラツィに、ライトもラウルも瞬時に答える。

「もちろんです!だってツィちゃんは、ぼく達の大親友ですから!ね、ラウル?」

「ああ、ライトの言う通りだ。イアの頼みでなくともツィちゃんは俺達が守るし、何よりイアはツィちゃんの大事な兄ちゃんだからな。ツィちゃんだけじゃない、イアの願いだって俺達が叶えてみせるさ」

努めて明るく引き受けるライトに、ラウルもまた神樹の友としてユグドラツィを守るのは当然だ、と言い放つ。

ラウルに至っては、ユグドライアのことを『イア』と呼び捨てにしてしまっている。

一見不遜な態度に思えるが、それはラウルが全ての神樹に対して限りない親愛の情を抱いている証。呼び捨てにされたユグドライアの方も、それを不快に思うことはなかった。

『……ありがとう……』

妹の親友達の温かさに、心から感謝するユグドライア。

人族と妖精族と海樹、三者の硬い絆が結ばれた瞬間だった。