軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第843話 ガラクタという名の褒美

ガラクタ置き場に向かうマシューの後をついていくライトとラウル。

海樹ユグドライアのいる場所から程なくしたところにある、大きな岩の後ろに回り込む。

岩の後ろ側には、様々なものが山積みになっていた。

岩陰ギリギリまで 堆(うずたか) く積み上げられた、骨や殻の山を前にライト達はただただ首を真上に上げながら眺める。

「これが、人魚さん達が持ち帰ってきたという品々ですか?」

『ああ、そうだ。ここはガラクタ第一置き場で、主に骨や殻、鱗などが集められている』

「人魚さん達は、お土産の骨や殻を日常生活に使うことはないんですか?」

『形が良いものを選んで、海藻を巻いて枕にしたり子供の玩具として組み立てて遊ぶくらいで、あまり実用性に富んだものではないな』

「そうなんですね……」

あんまり実用性のないものを、何でこんな山ほど拾い集めてくんの?という、素朴かつ尤もな疑問がライトの中で湧きまくる。

だがそこは、思ってても決して口にしないライト。見た目は子供、中身は紳士!なのである。

「ラウル、この中で欲しいものはある? ぼくは鱗があったら欲しいなー、と思ってるけど」

「ンー、とりあえず殻類は欲しいかな……マシュー、ここにある殻や鱗はどれくらいもらえるんだ?」

『先程も海樹が仰った通りだ。ここにあるものは全てガラクタだからな、どれでも持っていくが良い』

「そうか、なら遠慮なく殻を全部いただいていくとしよう。ライトも良い鱗を探してみな」

「うん!」

改めてマシューに確認を取ったラウル。

どれでもお持ち帰り可の許可が下りたので、主に貝殻と思しきものからどんどん空間魔法陣に収納していく。

ライトが鱗を選んでいる間に、ポイポイ、ポイー、と手早く殻を放り込んでいくラウル。その手際の良いことといったら、筆舌に尽くし難い。

本当に根こそぎいただいていく勢いである。

ライトは鱗探しをしながらハラハラしていた。

ラウル……それ、遠慮なさ過ぎじゃね?と思いながら、マシューとラウルの顔を交互に見てしまう。

そんなラウルの勢いに、マシューが目を大きく見開きながら驚いていた。

『ラウル、と言ったか? 貴殿のその黒い穴のようなものは何だ? 何故そこに殻が吸い込まれるようにして入っていくのだ?』

「ああ、これは『空間魔法陣』といってな。荷物や収納したいものを、いくらでも入れて保存しておけるという便利な魔法だ」

『魔法、とな……』

ライトはラウルのあまりの遠慮なさに、マシューに窘められるのではないか、とビクビクしていたのだが、そうではないらしい。

どうやらマシューは、ラウルが使う空間魔法陣にものすごく興味を惹かれたようだった。

未知の魔法に対し、マシューは食いつくようにラウルに質問を続けていく。

『それは妖精族が使う固有の魔法なのか?』

「いや、これは一部の人族が使う特殊な魔法でな。魔力が高い者にしか扱えん」

『そうなのか……我等人魚でも、魔力の高い者ならば使えるだろうか?』

「どうだろうな? そこら辺の難しいことは俺には分からんから、今度ご主人様に聞いておくわ」

『是非とも頼む』

二人の穏やかなやり取りを見て、ライトは心から安堵する。

マシューがラウルに呆れたり、腹を立てていた訳ではないと知ったからだ。

ラウルがガッツリと殻をもらっていくことに対し、マシューの顔色が変わる様子はない。

むしろ『使わぬガラクタが減って、こちらも大助かりだ』とまで呟いていた。

ラウルは畑の肥料の殻をゲットできて、マシュー達男人魚も不要品の断捨離ができてスッキリ、という訳だ。

両者Win-Winの円満関係ならば、これ以上の心配は無用であろう。

ライトも安心して鱗を何枚も拾っていく。

ちなみに骨の方も、実は魚骨粉として畑の肥料に使える。このことをラウルが知るのは、もう少し先の話である。

そうして全ての殻類をラウルがいただき終えたところで、次のガラクタ置き場に向かうマシューとライト達。

それは、ガラクタ第一置き場の向かいにあった。

そこも少し大きめの岩の後ろが置き場となっていて、錆びて使えないような剣や鎧、盾などが無造作に積み重ねられていた。

「これは……人族が使う剣や鎧ですか?」

『ああ。ここはガラクタ第二置き場で、時折海底に沈んでいる船の中やその周辺に落ちていたものの中で、身に着ける装備品と思しきものを特に集めてある』

「人魚さん達は、この鎧や剣は使わないんですか?」

『我等の得物は槍なのでな。たまに槍が見つかることもあるので、それらは磨いて我等の武器として使うこともある。また、錆びない剣は槍の穂先に作り変えたりもする。だが、鎧や兜などの防具は大きさが合わないものが多くてな……使えても、いいとこ鉢金や肘当てくらいか』

マシューの解説に、なるほど……とライトも納得する。

確かにライトがこれまで見た男人魚達は、全員がその手に槍を持っていた。海中で使用する武器は槍のみで、剣や杖などは無用の長物らしい。

盾も似たような理由で、『全ての動作において邪魔にしかならないから不要』なのだそうだ。

実際のところ、右手に槍、左手に重い盾を持ちながら海中を泳ぐのはかなりしんどいだろうな、とライトも思う。

陸上でなら、木の盾や革の盾など軽量なものも選べるが、それらは海の中ではすぐに腐敗して使い物にならない。

いや、防水魔法でも付与してあれば、海中でも少しは長持ちするだろう。だが、このガラクタ第二置き場に革の装備品は一つもないし、いくつかある木製と思しきものもボロボロに傷んでいる。

山積みの九割方が金属製のものであるところを見るに、推して知るべしなのだろう。

「ライトはここで欲しいものはあるか?」

「ンー……錆びてるってことは普通の鉄類が多いだろうから、特に欲しいものはないかなー……」

「そうだな。ミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネなんかは、ずっと海中に沈んでいても錆びることはないだろうしな」

「あッ、でも 何(・) か(・) に(・) 使(・) え(・) る(・) か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) から、とりあえず全種類一個づつだけ頂戴しよっと」

ライトはそういうと、剣や盾、兜や鎧など錆びてはいても程度の良さそうなものを一つづつ選んでアイテムリュックに入れていく。

ライトが言う『何かに使えるかもしれない』とは、『もしかしたら、交換所で何かと交換したり、利用できるかもしれない』という意味だ。

交換所で要求されるアイテムは多岐に渡り、ライトがざっと知るだけでも三百種類以上はある。

そう、そこら辺に転がっている石ころ一つだって強化素材の『砥石』と交換できるのだ。錆びた武器防具だって、何かに使えるかもしれない。

それに、もし万が一交換所で使えなかったとしても、ライトには生産職スキル【金属錬成】がある。

この【金属錬成】を使えば、錆を落として元の金属の塊に錬成することができる。

ライトとしては、どっちに転んでも不利になることはない。ならば一度お試しで全種類を持ち帰って、その結果を検証すればいいのだ。

ライトが一通りの武器防具を選んで頂戴した後、さらにマシューは別の場所に移動していく。

今度は一体どんなガラクタがあるのだろうか?

ワクテカ感が止まらないライト、思わずマシューに問いかけた。

「マシューさん、ガラクタ置き場っていくつあるんですか?」

『次に行く第三で全部だ。我等もそこまで細かく分類はしていないのでな』

ガラクタ置き場にも第一第二とあるのだから、第五や第十くらいまであるのかと思ったが、どうやら第三で打ち止めらしい。

とはいえ、それも当然のことかな、とライトは思う。

持ち帰ってきた品々の保存状態がもっと良ければ、様々なジャンルやカテゴリに分類されて整理整頓されているところだろう。

だがここは海の中。ライト達が住む陸とは何から何まで違う。

ここで得られて、尚且つ耐久性の高いものと言えば、それこそ魚の骨や鱗、貝殻、人族由来の沈没船関連くらいしかない。

岩はただの石で、そこから宝石や鉱物の塊がゴッソリと採れる訳でもないのだ。

「ということは、第一が『骨と殻置き場』で、第二は『人族用武器防具』で、そしたら最後の第三は何があるんですか?」

『それは、着いてからのお楽しみ―――と言いたいところだが。もう到着だ』

マシューに案内された、最後のガラクタ置き場。

そこには、沈没船から持ち帰ったと思しき木箱や陶磁器が溢れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「……おおお……」」

目の前に広がる宝の山に、ライトとラウルは思わず感嘆の声を漏らす。

そんなライト達に、マシューがガラクタ第三置き場の説明をしていく。

『ここは主に沈没船から拾ってきた、武器防具以外の品々が置いてある。見た目にも美しいものが多いので、皆一度は喜んで持ち帰るのだが……これらが一体何に使えるのか、我等にはさっぱり分からなくてな。愛でる以外に活用法がないので、ここに置かれたままのものも多いのだ』

「そうなんですね……確かに海の中でお皿やカップを使う必要なんて、全く無さそうですもんね」

ライト達の前に無造作に置かれている、皿やティーカップなどの陶磁器。絵柄が同じものもいくつかあり、それらは揃いの食器類だったであろうことが分かる。

マシューの話によると、この他にも沈没船からは金貨や金属製のアクセサリーが出てくることもあるらしい。

装飾が美しいものは、男人魚達が身に着けたり、あるいは意中の女人魚にプレゼントしたりするのだそうだ。

金貨はそのままでは身に着けられないので、自分の寝床に鑑賞用として陶磁器などとともに飾るという。

沈没船の金貨かー……冒険ロマン溢れる話だよなー。

この陶磁器も何年前のものか分かんないけど、もし古いものだったらすっごく高い価値がつきそう!

中には割れているものもあるけど……花瓶ならぼくがもらってもいいかな? 他の食器類は、絶対にラウルが全部欲しがるだろうしね!

ライトがそんなことを考えていると、早速ラウルが目をキラキラとさせながらマシューに声をかける。

「マシュー、ここにあるのも好きなだけ持ち帰っていいんだよな?」

『ああ。我等は使わぬものばかりだからな』

「なら早速選ばせてもらうことにしよう」

ラウルは見るからにウッキウキの様子で、陶磁器のもとに向かっていく。

ライトは先程考えていたように、花瓶や一輪挿しなど食器類以外のものをいくつかアイテムリュックに入れていった。

ライトは数個拾っただけで完了したが、ラウルはそうはいかない。

ただでさえ普段から食器類に目がないラウル。目の前の陶磁器の山を相手に、彼が納得いくまで取捨選択するのはかなり時間がかかりそうだ。

なので、ラウルの気が済むまで待つことにしたライト。

その間マシューと親睦を深めるべく、何か話をしたい。

その時、ガラクタの山の中に積まれてあるいくつかの箱がふとライトの目に留まった。

その箱の詳細を知るべく、早速ライトはマシューに話しかけた。

「マシューさん、あの箱は手付かずのようですけど……中を開けてみないんですか?」

『あの箱か? もちろん我等も中を開けて、その中身を検めたかったのだがな……これまで誰一人として、あの箱を開けることはできなかったのだ』

「そうなんですか? 鍵を壊すとかもできなかったんですか?」

『ああ……男人魚の中でも、力自慢の強者達が何人も挑んだのだがな。あの箱の鍵はおろか、箱そのものを壊すことも、箱に傷一つつけることすら敵わなんだ』

「…………」

とりあえず、目の前のガラクタのを振ったライトだったが、思わぬ話に無言になる。

あの筋骨隆々な男人魚達が、しかもその中でも力自慢だという者達が、たかが箱一つ開けられなかったというではないか。

見た目は本当に、ゲームに出てくるテンプレのような宝箱。金属製の枠と木板でできたその箱は、一体どれだけ頑丈に出来ているのだろうか。

しかしそうなると、ライトもその中身が俄然気になってくる。

男人魚達に開けられないものが、ライトに開けられるかどうかは全く分からない。

だが、不要品としてここに打ち捨てられているものだ。ライトが家に持ち帰って、開封チャレンジしても問題はないだろう。

ライトは早速マシューにお願いすることにした。

「マシューさん、あの箱をもらってもいいですか?」

『もちろん。我等には何をどうしても開けられぬ箱だ。ここに置きっ放しにしたままよりは、人族や妖精族が開けられるかどうか試してみるのも悪くはあるまい』

「ありがとうございます!」

マシューの許可を得たライト、早速箱のもとにいきアイテムリュックに収納していく。

ライトのアイテムリュックも、ラウルの空間魔法陣のように大容量収納が可能だということを知ったマシュー、またも驚きを隠せないでいる。

『むぅ……人族とは、我等が思う以上に様々な魔法や叡智を持っているのだな……』

「マシューさん、お待たせしましたー!」

顎髭を擦りながら唸るマシューのもとに、ライトが戻ってきた。

そしてライトが合計三つの箱を収納したところで、ラウルの陶磁器選びも終わったようだ。

「マシュー、ライト、待たせたな」

「ラウルもおかえり!良い食器類はあった?」

「おう、とりあえず罅や欠けあるものも含めて、片っ端から拾ってきた」

「え、罅入りや欠けてるのも拾ったの?」

ラウルからの思わぬ返しに、ライトも思わず問い返す。

無類の食器類好きのラウルのことだから、きっと罅や欠けのないものを選ぶだろうと思っていたライト。

だが、ラウルの真意は別のところにあるらしい。

「ああ。割れたものがこのままここにあっても、ゴミとして邪魔になるだけだろ? ならひとまず俺が持って帰って、割れたものもきちんと処理しておこうと思ってな」

「そっか、環境保護ってやつだね!」

「そゆこと」

ラウルの真意を理解したライト、ニッコリと笑う。

確かに陶磁器がそのまま打ち捨てられていても、海洋環境に良いことは一つもないだろう。

ならば食器類好きのラウルがひとまず全部引き取って、褒美をもらった礼に使えないものの処理もいっしょ引き受けよう、というのだ。

実にラウルらしい優しさである。

ラウルの優しさに触れたライトは、己の利己的な思惑を心から猛省する。

そして自分にもできることをしよう!と思ったライト。マシューの方に向き直り、話しかけた。

「マシューさん、そしたらさっきの第二置き場に戻ってもいいですか?」

『もちろん構わんが、何か忘れ物でもあるのか?』

「はい。あの鎧や剣も、錆びていくばかりならこの海の水を汚していくばかりですから……ぼくが持ち帰って、ラウルの陶磁器といっしょにちゃんと処理しようと思いまして」

『それはありがたい。そうしてもらえると、我等も助かる』

ライトの申し出に、マシューも快く応じる。

陶磁器が海底に沈んでいるのもゴミのままだが、剣や鎧の錆びは海の水にもっと悪そうな気がする。

ライトもラウルとともに、海洋環境保護のために一肌脱ぐつもりなのだ。

もちろんマシューとしても、ライトの申し出を断る理由などない。

もともと海樹に『褒美として好きなだけ持たせてやれ』と言われているし、むしろゴミが大幅に減って願ったり叶ったりの万々歳である。

『では、早速戻ろうか』

「はい!」「おう」

マシューの呼びかけに、ライトとラウルも応じながらガラクタ第二置き場に戻っていった。