軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第831話 初めてのお買い物

ロレンツォが空間魔法陣から取り出した、チケットのようなもの。

それをライトに見せるために両手で持つロレンツォの表情は、何やら自信に満ちている。

ライトはそれを不思議そうな面持ちで眺めつつ、ロレンツォに問うた。

「これは……何ですか?」

「こちらはお一人様一回限りのスペシャルアイテム【お役立ちアイテム詰め合わせセット】でございます」

「詰め合わせセット……もしかしてそれ、福袋形式のヤツですか?」

「ええ。全ての勇者候補生皆様方のお役に立つアイテムが、 ランダム(・・・・) で五個入っている、それはもうお得なセットなんですよ!」

「……ランダム……」

いつもは静かな語り口のロレンツォが、いつになく興奮気味に力説している。

それは、普段は滅多に売買することのない課金アイテムだからなのか、あるいはNPCであっても商人としての 性(さが) か。いずれにしても、ロレンツォにしては実に商魂逞しく珍しいことだ。

だが当の勇者候補生であるライトは、何故か半目のジト目でロレンツォの持つチケット?を眺めている。

二者の間には、その認識に何やらかなりの相違がありそうだ。

「ロレンツォさん…………」

「はい、何でしょう?」

「ぼく、BCOでこの手の詰め合わせセットを買って喜んだ記憶、ほッ……とんどないんですけど……」

「そ、それは……」

ものすごーく渋い顔で呟くライトに、ロレンツォが怯む。

ライトもかつてはBCOで、年始の三ヶ日限定や周年イベントで出される福袋やら、時折発売される『ミステリー箱』という名の課金アイテムをリアルマネーを注ぎ込んで購入したことがある。

それらの共通点は『購入手続き完了後、ユーザー自らが開封するまでは何が入っているか分からない』という、福袋形式のアイテムである。

運営にしてみれば、びっくり箱のようなドキドキ感や『あわよくばレア物を当てたい』という 消費者(ユーザー) 側の射幸心を煽る意図があると思われる。

もちろんライトもそれに踊らされ続けた一人だった。

特にミステリー箱は、名前に『白』『黒』『金』などの色名や1から10のナンバリングをつけたりと、手を変え品を変え何度も発売されていた人気商品だ。

何度も発売するということは、それだけ売上が良かったのだろう。

販売価格も50~100CPとお手頃だったし、新しいミステリー箱が発売される度に大抵のユーザーは『運試し』『ご祝儀買い』と称しては必ず一個か二個は買っていた。

確かに大当たりとされる課金武器や課金防具を当てられれば超ラッキーだし、実際にライトも何度か良いアイテムを引き当てたことがある。

しかしそれも、実際には指折り数える程度の出来事。大当たりどころか、まあまあ良いものと言える中程度の当たりですらなかなか引けた試しがない。

ライトの体感では『十回に一回引けるかどうか』という有り様だった。

これは、裏を返せば『十回のうち九回はハズレ』であることを指す。そしてそのハズレの品がまた酷いものだったのだ。

髪型やアバターのチェンジチケットだの、騎士団の紋章変更申請書類、補正値がショボくて使えない称号、同じく補正値が少なくて使う気も起きないアクセサリー等々。

『これ、絶対に誰も使わんし喜ばんだろ?』という、タダでもらっても要らないようなゴミアイテムが出てくるのだ。

あまりのゴミ率の高さに、ユーザーの間でのミステリー箱の通称が『ゴミ箱』と呼ばれるまでになった程である。

嗚呼、BCOのミステリー箱とか福袋とか、俺にとっては悪夢でしかないわ……ゴミ箱を10個も20個も買っても、ろくなもん当たらんのなんかザラっつーか当たり前だったし。

俺の引きのあまりの悪さに、仲間内でついた二つ名が【ゴミ収集の達人】だぞ!? そんな二つ名嬉しくねーーー!!

つーか、このサイサクス世界にもゴミ箱方式の福袋……もとい鬱袋があるとはな……どうせ俺が買うヤツにはゴミしか入ってないんだろ!?チクショーめ!!

ライトの中で、前世での苦い思い出が走馬灯のように蘇る。

そのあまりの苦々しさに、ライトの顔は口の中で苦虫を百匹噛み潰したかのように歪んでいく。

ライトの向かい側にいるロレンツォも、ライトの顔の苦々しさに若干後退っている。

「ロレンツォさん、それまさかポーションとか入ってませんよね? ポーションなんて、スライム数体倒せば出てくるような雑魚アイテムですよ? ……ていうか、中身は確認させてもらえないんですか?」

「そ、それは……如何に店主である私でも、中に何が入っているかは全く知らされておりませんでして……先に中を検めることもできない仕様なのです」

「ぇーーー……今時中身を選べない福袋なんてー……そんなん絶対に鬱袋確定じゃん……」

すっかり目が座ったライト、ブツブツと怨み言を零している。

CPの入手方法の一つであるCP箱も出てくる数値がランダム方式だが、この『ランダム方式』というのが曲者で、ライトは 前世(むかし) も 今世(いま) も良いものを引けた試しがない。

それ故に、ロレンツォが力説した中にある『ランダム』という言葉に敏感に反応したのだ。

そんなライトに、ロレンツォが若干慌てたように【お役立ちアイテム詰め合わせセット】の利点を解説する。

「ぇー、BCO本家の方はともかくですね……こちらの【お役立ちアイテム詰め合わせセット】は、本当にお買い得なんですよ? アイテムが五個入りで値段100CPという超格安価格ですし、そのためにお一人様一回限りとなっているくらいですから」

「ンー……そのセットに入っている品の例はないんですか?」

「少々お待ちください。……お役立ちアイテムの一例として、深紫竜の衛杖、狂戦士の大盾、ガンメタルソード、エリクシル、エネルギードリンクグロス等々……とありますね」

ライトの問いかけに、ロレンツォが再び空間魔法陣のようなところから紙のようなものを取り出して読み上げた。

どうやらそれは【お役立ちアイテム詰め合わせセット】の中に入っている品の一例を挙げた、取扱説明書のようなものらしい。

ロレンツォが読み上げた品々に、絶望に染まり濁りきったライトの目がじわじわと輝き出す。

それらの例は最も良い品々であり、大当たりと言える部類のものだ。ラインナップの中にエリクシルやエネルギードリンクグロスがあることからも、それは明白である。

もちろんそれらが必ずしも入っている訳ではない。だが、運が良ければ100CPでは到底入手できないような超レアアイテムが手に入るかもしれない―――これはライトの好奇心を一気に駆り立てた。

「それ……かなりいいラインナップですね……」

「でしょう? しかもこれは、たったの100CPでお一人様一回限りですから!絶対にお買い得間違いなしです!」

「ンーーー……分かりました、買います!」

「お買い上げありがとうございます!」

決してロレンツォの口車に乗った訳ではないが、それでも詰め合わせセットへの好奇心を抑えきれなかったライト。この場で【お役立ちアイテム詰め合わせセット】の購入を決意する。

100CPで五個のアイテムということは、一個あたり20CP。これはかなり格安だ。

この世界でCPを稼ぐのは尋常でない努力が要るが、それでもいつかはCPを活用して課金アイテムを得る日が来る。

いつかは使うものならば、今ここで運試しとして使ってもいいかも……とライトは判断したのだ。

威勢のいいライトの返事につられて、ロレンツォも勢いよく礼を言う。

常に紳士然としたロレンツォにしては、滅多に見られない珍しい姿だ。必死のセールストークが成就した喜びの現れだろうか。

ライトの気が変わらないうちに、とばかりにロレンツォが話を続ける。

「では、お手数ですがマイページを開いてください」

「はい。……開きました」

「マイページ内のショップ欄、その中のCPショップを開いてください」

「はい」

ロレンツォの手引きに従い、マイページを開いて操作していくライト。

ライトの座るソファの後ろ側にロレンツォが回り込み、マイページのホログラムにチケットを差し込んだ。

するとチケットはホログラムの中にスーッ……と吸い込まれていった。

「これでCPショップのラインナップに【お役立ちアイテム詰め合わせセット】が追加されました。こちらをタップして、ご購入いただければ完了です」

「……はい、購入しました!」

「では、アイテム欄に移動してください。通常アイテム欄の中の『その他』というところに【お役立ちアイテム詰め合わせセット】というアイテムが新たに追加されているはずですので、ご確認をお願いします」

「はい……えーと……あ、ありました!」

マイページのCPショップ欄に出現した、ロレンツォのイチ押しアイテム【お役立ちアイテム詰め合わせセット】。

その購入を決意し、【100CP】と書かれたアイコンをタップし、その次に現れた【購入決定】というボタンを押したライト。CPショップ欄の右上のCP所持金額が【468CP】に変化している。

そして100CP減った代わりに、アイテム欄の中にそれまでなかった【お役立ちアイテム詰め合わせセット】が新たに出現していた。

初めての課金アイテム購入に、ライトの胸が何だか熱くなってくる。

このサイサクス世界のCPも課金アイテムも、前世のようにリアルマネーを注ぎ込んでホイホイと買ったり気軽に交換できるような代物ではない。

だが、イベントをこなしたり使い魔達の尽力によってCPを得て、こうして課金アイテムを購入することができた。

これはライトにとって、本当に大きな一歩である。

「これ、今ここで開けてもいいですか!?」

「もちろんいいですよ」

「じゃあ早速……ポチッとなー」

ライトはアイテム欄の【お役立ちアイテム詰め合わせセット】の欄にある【開封】というボタンを押す。

すると、ロレンツォが言っていた通り、五個のアイテムが出てきたことを示す文字列が現れた。

その内容は、以下の通りである。

====================

【エネルギードリンク】を手に入れた!

【金糸雀色の香炉】を手に入れた!

【スキル書・紫の写本】を手に入れた!

【髪型変更チケット・ツインテール】を手に入れた!

【幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン】を手に入れた!

====================

新たに出現した五つのアイテムに、ライトは一喜一憂する。

エネルギードリンクか、ダースやグロスじゃないのは残念だが、それでもエネルギードリンクが増えるのは良いことだ!

金糸雀色の香炉……これ、禍精霊が出てくるヤツだよな……金糸雀は禍精霊【光】だったか? 現時点で禍精霊を討伐する必要性は全くないから、しばらくはお蔵入りだな……

スキル書、紫の写本か……はて、紫ってどんなスキルだったっけ? 写本シリーズも十種類以上あったし、色毎にスキルの効果が違うから思い出せん……こりゃ使ってみないと分からんな、後で家に帰ってから使ってみよう。

髪型変更チケット……ここでも出てくるんか……つーか、男の俺がツインテールにできる訳ねぇだろ!? もしツインテールでラグーン学園に登校してみろ、皆にドン引きされるわ!いや、それ以前にレオ兄やラウルにまで白い目で見られるやろがえ!

そうして見ていった最後の品、【幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン】、これがライトにとって最も嬉しい品だった。

これは、レオニスが魔石用の水晶や宝石、鉱物類を採取するために使用しているものと同じである。

これさえあれば、ライトも宝石類や金属類を採掘することができるようになるのだ。

レアな武器や防具こそ一個も出なかったが、幻のツルハシを始めとしてそこそこ良い物が引けたと思うライト。

その結果にライトは大いに満足していた。

「ロレンツォさん、ぼくにしては珍しくそこそこ良い物が引けました!」

「そうですか、それはようございましたね」

「はい!良いアイテムをオススメしてくれて、ありがとうございました!」

「どういたしまして。勇者候補生の皆様方のお役に立つことこそ我が使命。それを全うすることができたなら、このロレンツォ、本望でございます」

明るい笑顔で礼を言うライトに、ロレンツォも手に胸を当てて恭しく頭を下げる。

BCOのNPCは、ゲームの進行やユーザー達の冒険討伐を円滑に進めるために生み出された存在。勇者候補生達の力になることは、ロレンツォの使命でありこの世界で生きていく上での存在意義にも等しかった。

「でもこれ、お一人様一回限りなんですよね……残念だなぁ、もっと買えたらいいのに」

「申し訳ございません……こればかりは創造神のお決めになったことですから、私には覆すことができません」

「あ、いえ、それは分かってます!ロレンツォさんは何も悪くないので、謝らないでください!」

「お気遣い、痛み入ります」

これ以上ライトに【お役立ちアイテム詰め合わせセット】を売ることができないことを謝罪するロレンツォに、ライトが慌てて謝罪を止める。

ロレンツォは交換所とCPショップの店主ではあるが、そのラインナップや購入上限を決められる立場ではない。

それらは全て 創造神(うんえい) が決めることであり、店番に過ぎないロレンツォにどうこうできる権限などないことはライトにも分かっていた。

頭を上げたロレンツォに、ライトが明るい笑顔で声をかける。

「でも、本当に……CPで買い物ができるなんて、感激です!」

「そうですね。この世界でCPの本来の価値と意味を知っていて、それを本当の意味で活用できるのはライトさん、貴方唯一人ですからね」

「ですよね……CPを得るのは本当に大変だけど、これからもCPを貯めてまた何か良いアイテムを買えるように頑張ります!」

「当方でもCPショップのラインナップを徐々に拡充させていきますので、今後ともご贔屓の程よろしくお願い申し上げます」

ロレンツォが差し出した手に、ライトも小さな手を差し出して握手を交わす。

こうしてライトの初めての課金アイテム購入は、成功のうちに完了したのだった。