軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第830話 CPの使い道

店主の後ろにくっついて、ルティエンス商会の奥の部屋に移動するライト。

結構歩いているのに、まだ店主は歩き続ける。

このとても長い廊下を歩く感覚は、前回店の奥に通された時と全く同じである。

あの時のライトはまだロレンツォの正体を知らなかったので、不可解に思いつつも何も聞けなかった。

だが、ロレンツォがBCOのNPCであることを知った今なら、遠慮なく聞けるというもの。ライトは早速この疑問をロレンツォにぶつけてみた。

「あのー……ロレンツォさん、このお店ってこんなに長く歩く程大きなお屋敷なんですか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。ですが、そうですね……ライトさんが不思議に思うのも、無理はないかもしれませんね」

「やっぱりこれ、何か仕掛けというかからくりがあるんですよね?」

「ええ。これは次元を渡っているのです」

「次元を……渡る??」

ロレンツォの思いがけない答えに、ライトは言葉に詰まる。

だが、ロレンツォは気にすることなく解説を続ける。

「この店は、表の商売の他にも裏の顔―――BCOにおける『交換所』の役割を果たしているのは、ライトさんもご存知のところですね」

「あ、はい、それはヴァレリアさんに教えていただき、前回ここに来た時に知ることができました」

「『交換所』システムを含め、BCOに関する全ての事象はそれを知る者以外に知られてはなりません。そのため諸々の交渉は全て、現世とは切り離された亜空間で行わなくてはならないのです」

「亜空間……道理で……」

ロレンツォの答えに、ライトは驚愕しながらも得心する。

ひたすら真っ直ぐ続く廊下は、さながら王宮や宮殿と見紛うような長さだ。

外観的にも決して大きな店舗とは言えないこの店の奥に、こんなに長く続く廊下がある訳がないのだ。

しかし、この廊下が現実にある物質的なものではなく、亜空間に続く道だと言われれば納得がいく。逆に言えば、そういう理由でもないとこの空間の違和感に説明がつかない。

「じゃあ、例えばラウルとか、BCOのことを全く知らない人がここに入ったりすることはできるんですか?」

「基本的にはできませんね。交換所の店主であるこの私、ロレンツォが認めた者でなければここに入ることはできません」

ひたすら続く廊下をキョロキョロと見回しながら、ロレンツォとともに歩くライト。

廊下には他の部屋に出入りするための扉などはなく、ただただ白い壁と床の赤い絨毯が続いている。

ライトは歩きながら、横にいるロレンツォにどんどん質問していく。

「この空間は、ロレンツォさんが作ったんですか?」

「いいえ。交換所のしがない番人の私に、そんな大それた能力はありませんよ」

「じゃあ、最初からこの店にあったんですか?」

「ええ、その通りです。時折ヴァレリアさんが、メンテナンスと称して不具合がないかどうか見に来てくれています」

「ヴァレリアさんが……」

ここでも謎の魔女ヴァレリアの名前が出てきたことに、ライトは内心で驚いている。

以前ロレンツォが語ったところによると、ヴァレリアは時々ルティエンス商会を訪ねてはレアな武器防具を売りに来たり、旧貨幣他様々なアイテムを当店に持ち込んだりすると言っていた。

それ以外にも、BCOにまつわる様々なことを行っているようだ。

ここで、ライトがあることをはたと思いつく。

ライトがヴァレリアに会える機会は滅多にない。

ライトが職業システムの四次職をマスターした時か、さもなくば転職神殿に来ていたところを偶然ライトも訪ねて出会うか。今のところ、ヴァレリアに会う手段はこの二つくらいしかない。

だが、もしこのルティエンス商会でもヴァレリアに会うことができたら―――四次職マスターのご褒美のような重大な質問は無理だろうが、軽い雑談くらいならヴァレリアも応じてくれるだろう。

そしてそこから何か、ライトにとって有益なヒントを得られるかもしれない。

「ヴァレリアさんがいつこのお店に来るかとか、決まった日とか周期はあるんですか?」

「いえ、来訪の周期などは特に定まってはいません。年に三回か四回くらい、ふらりと当店を訪ねて来てはレア物の売買やメンテナンスをしていくくらいでして」

「ロレンツォさんでも、ヴァレリアさんと好きな時に好きなように会える訳ではないんですね」

「はい。全てはあの御方の気分次第、ということですね」

「そっかぁ……残念です」

ヴァレリアに会う機会を増やせるかも!と思ったライト、アテが外れてがっかりする。

ロレンツォの店にも、ヴァレリアは事前のアポなく突然訪れるようだ。ヴァレリアの二つ名【鮮緑と紅緋の渾沌魔女】に相応しい、神出鬼没ぶりである。

しょんぼりと俯き心底残念がるライトに、ロレンツォが静かに微笑みながら励ましの言葉をかける。

「ライトさん、そんなにヴァレリアさんに会いたかったんですか?」

「はい……ヴァレリアさんも、ロレンツォさんと同じくBCOを知る数少ない人ですから……」

「そうですねぇ、そのお気持ちは私にも分かりますよ。……そうだ、今度ヴァレリアさんが当店にいらした時に、私の方からヴァレリアさんに『ライトさんが、もっと気軽に会えるようになりたい、と言っていた』とお伝えしておきますね」

「ホントですか!? よろしくお願いします!」

ロレンツォの計らいに、ライトがパッ!と顔を上げて喜びながら頼み込む。

もしロレンツォの口添えでヴァレリアに会う頻度が上げられたら、それこそライトにとっては儲けものだ。

ダメ元に近い賭けではあるが、何もしないよりはマシだろう。

ロレンツォの気遣いが良い結果を生むことを祈るばかりである。

「ちなみにライトさんは、ヴァレリアさんとはどのようにして出会ったのですか?」

「えーとですね、ぼくとヴァレリアさんが初めて会ったのは、ディーノ村にある転職神殿で……」

ロレンツォに問われ、ライトはヴァレリアとの出会いを話して聞かせていく。

一番最初の出会いは、ライトがようやく見つけた転職神殿で偶然出会ったこと、その時にライトが勇者候補生であることをヴァレリアに瞬時に見抜かれたこと、それ以後ライトが職業システムの四次職をマスターする毎に、その褒美として質問する権利を一回得ることなどを話していった。

ライトの話を静かに聞いていたロレンツォが、徐に口を開いた。

「私は交換所以外のシステムのことは、あまりよく分からないのですが……その職業システムの四次職マスターというのも、きっと想像を絶するくらいに大変なことなんでしょうねぇ」

「はい……職業の習熟度を上げてマックスにするには、BCOのスキルを何十万回と使わないと到達できません……」

「心中お察しします……かの世界は、ところどころでものすごく過酷な無理難題を突きつけてきますからねぇ……」

「全くですよ……ホンット、あの運営は鬼畜です……」

はぁぁぁぁ……と二人同時に深いため息をつくライトとロレンツォ。

ロレンツォはNPCであり、ライト達のようなユーザーではないが、ユーザーの苦労は何かしら聞き及んでいるようだ。

そんな苦労話をしているうちに、廊下の突き当たりまで来ていたライト達。

突き当たりの左側にある扉をロレンツォが開く。そこは前回も通された部屋だ。

「さぁ、どうぞお入りください」

「お邪魔しまーす……」

奥の部屋に通されたライト、部屋の中央にある応接ソファに座る。

ロレンツォは部屋の隅に置いてあるワゴンのもとに行き、お茶を淹れてからソファまで運んできた。

ライトの前に、温かいお茶が入ったティーカップをそっと置くロレンツォ。お茶菓子の入った籠もテーブルの中央に置く。

向かい側に自分の分のティーカップを置き、ロレンツォもソファに座った。

「さぁ、お茶をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

ロレンツォに出されたお茶を、早速啜るライト。

ツェリザークはもう冬間近なせいか、出されたお茶も温かいほうじ茶だった。

お茶を一口二口飲み、ホッと一息ついたところでロレンツォがライトに問うた。

「して、本日はどのようなご用件でいらしたのですか? 先程お伺いした時には、BCO関連のご相談がある、と仰っておられましたが」

「はい、実はCPの使い道について、ロレンツォさんに相談したかったんです」

「ほう、CPですか。それは、使い道に悩むほどCPが貯まった、ということでよろしいですか?」

「はい。今ぼくのマイページには568CPありまして」

ライトがロレンツォに相談したかったこととは『CPの使い道』であった。

今ライトのマイページには、568CPがある。

その内訳は、クエストイベントでの報酬が500CP、ヴァレリアからCPについて指南してもらった時に譲ってもらった14CP、そして使い魔であるフォルやミーナ、ルディがこれまでにお使いで持ち帰ってきたCP箱から得た54CP。

ちなみに開封したCP箱は全部で五個。出てきた数値は3、11、7、24、9である。

以前ヴァレリアが、CP箱の見本としてライトの目の前で一箱開けて見せた時に『相変わらずこのCP箱ってのはしょっぱい数値しか出てこないよね、チッ』と吐き捨てるように言っていた。

もちろんライトもCP箱の出す数値がしょっぱいことは、前世からの知識で当然のように知ってはいた。

そして、このサイサクス世界でも相変わらずしょっぱい数値が連続しているらしい。

最大値が100なら、五箱のうち一つくらいは半分の50を超えても良さそうなものなのだが。ここら辺はライトの個人的な運も絡んでいるのかもしれない。

「500CPあれば、課金任務の『天空神殿討伐権』なんかも買えますよね?」

「そうですね。当交換所は課金アイテムの取り扱いも兼任しておりますので、500CPをお支払いいただければすぐにでも『天空神殿討伐権』と交換いたしますよ」

「でも……ぼく、もう課金任務と交換する気はないんです」

「おや、それは何故ですか?」

ライトの言葉に、ロレンツォが心底不思議そうな顔をしている。

BCOユーザーにとって、課金任務とは強くなるために欠かせないコンテンツだ。討伐対象を倒すことで様々なレアアイテムを獲得し、武器や防具を強化していくことでユーザーは強くなっていく。

こうしたシステムは、BCOに限らずRPGを謳うゲームならよくある話だ。課金すればする程他の人より早く強くなれる、それはゲーム世界での常識であり常套手段なのだ。

それをライトが否定するとは、ロレンツォは夢にも思わなかったようだ。

そんなロレンツォに、ライトが理由を説明していく。

「ぼく、この世界の天空島に行ったことがあるんです。天空島には光の女王様や雷の女王様がいて、最古の神樹の天空樹であるユグドラエルのエルちゃんもいて、BCOのレイドボスだったグリンカムビのグリンちゃんやヴィゾーヴニルのヴィーちゃん、警備隊隊長のパラスさんがいて……皆もうぼくの大事な友達なんです」

「そうでしたか……」

ライトが俯きながら語る話に、ロレンツォも小さく頷きながら聞いている。

「BCOの『天空神殿討伐権』って、天空島の神殿にいるパラスアテナという女神を倒すって内容でしたよね? 今のぼくには天空島にたくさんの友達がいて、とてもじゃないけど天空神殿を攻撃する気にはなれません……もし課金任務がこの世界とは違うパラレルワールドだとしても、気分的にどうしても無理そうで……」

「そうですね、ライトさんがそう感じるのも尤もなことだと思います」

ライトの心情を汲んだロレンツォが、その理由に同意する。

そしてライトが言った『パラレルワールド』という言葉を補足するように、ロレンツォが課金任務について語り始める。

「まず、当店で扱う課金任務についてご説明させていただきますね」

「ライトさんが仰るように、この世界に実在する天空神殿と課金任務で出現する天空神殿は別物です。いわゆる『パラレルワールド』というやつですね」

「『天空神殿討伐権』を例に挙げますと、課金任務を使用した際に実際に空の上にいる天空島に飛ぶのではなく、この亜空間のような場所に移動してそこで戦闘が繰り広げられます」

「だから、この世界にいる光の女王や雷の女王、天空樹などと戦闘になるということは絶対にありません」

ロレンツォが『天空神殿討伐権』を例に取り、課金任務とこの世界に実在する天空神殿は全くの別物である、ということを丁寧に解説していく。

その話を、うんうん、と頷きながらライトは聞き入る。

「ただし……全く別物の存在とは言いつつも、神殿の外観などは全く同じデータを用いています。いわゆるデータ流用ですね」

「ですよね……」

「しかもそれは、建物などの外観だけに留まらず、女神のグラフィックもおそらくはパラスという警備隊隊長と同じものでしょう。BCOでの天空神殿における討伐対象の名は『パラスアテナ』ですからね」

「はい……パラスさんの外見は、BCOの『天空神殿討伐権』で何度も見てました……」

「やはりそうでしたか……」

ロレンツォの更なる解説に、ライトの顔はますます絶望の色に染まる。

ライトはまだこの世界での『天空神殿討伐権』を使用したことはないが、前世のソシャゲでは何度も討伐していた。

その討伐対象である女神パラスアテナは、天空島の警備隊隊長パラスと同じ姿形をしていたのだ。

「いくら中身は別物と言っても、外見が全く同じだったら……ライトさんが『天空神殿討伐権』を使う気が起きないのも納得です」

「はい……ですので、それ以外でCPの良い使い道がないか、と思いまして……」

「でしたら、こちらの品はいかがでしょう?」

ロレンツォの横に、空間魔法陣のような黒い穴が出現し、そこから何やらチケットのようなものを取り出した。