軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第826話 ツェリザークの秋

冒険者ギルドの転移門で、ラグナロッツァからツェリザークに移動したライトとラウル。

早々に城壁の外に出て、氷の洞窟に向かう。

「おおお……街の外はますます涼しいねぇ」

「ああ、受付嬢の姉ちゃんの言ってた通りだな」

ツェリザーク郊外の涼しさに、ライトもラウルも驚いている。

それらに比べたら、ツェリザークの街中もかなり涼しくてすっかり秋の気配が漂っていたのだが。街の外はもっと気温が低く、秋の気配どころかもう冬の準備を整えている、といったところだ。

先日来た時にはまだ木々に緑の葉があったが、今はもう赤や黄色に染まり緑の葉は残っていない。

そしてそれらの紅葉も半数以上は落葉となり、今や地面は枯葉で埋め尽くされている。

一ヶ月足らずで、こうも景色が一変するとは驚きだ。ツェリザークは夏だけでなく、冬以外の季節は全て本当に短いんだなぁ……とライトは内心で感慨に耽る。

ライト達が歩を進める度に、踏みしめた落ち葉がカサカサと音を立てる。

秋特有の乾いた音を聞きながら、氷の洞窟に向かうライトとラウル。

時折狗狼やオオツバメバチ、グレイシャルワームなどが襲いかかってくる。それらはツェリザーク固有の魔物達だ。

ラウルはそれらを一瞥した後、即座に風魔法を繰り出して一撃で仕留める。どれも一発で首チョンパもしくは胴体真っ二つという凄腕ぶりに、後ろにいたライトは「おおおー」と感心しながら思わず拍手をしている。

そして、このエリアのレアモンスターであるダークキマイラも道中で一体出てきた。

ダークキマイラとは、獅子と山羊と竜、三つの頭を持ち背中に竜の翼が生えている魔物で、エビルキマイラやマンティコア、暗黒の魔獣の色違いコピペである。

もちろんそいつもラウルめがけて一直線に襲いかかってくる。

レアモンスターは他の雑魚魔物よりも数段強いので、さすがにラウルの風魔法一発では仕留めきれない。

しかしそれも『一撃では倒せない』というだけのことで、ラウルが風魔法を三回繰り出した時点でダークキマイラは息絶えた。

獅子と山羊と竜、三つの頭を全部切り落とされれば、如何に強力なレアモンスターといえどさすがに生き延びられまい。

ちなみにラウルが戦闘している間、ライトはラウルが仕留めたモンスターをせっせとアイテムリュックに収納している。

ライトが護身のために着けている魔導具のおかげで、魔物達はライトの存在に気づかないのだ。

魔物達がラウルめがけて突進しては返り討ちに遭い、ラウルの後ろにいるライトが死骸を回収する。実に効率の良いシステマティックな魔物狩りである。

今回出てくるモンスターのうち、ラウルが欲しいのは狗狼の肉だけ。他の魔物には、肉などの有用な食材や可食部がほとんどないからだ。

なので、ライト達が帰宅したら後でラウルに譲る予定だ。

それ以外のものは、ライトが全部自由にしていいことになっている。

それらは後日解体して、各部位を素材として確保しておくつもりだ。

この先どんな生成レシピが手に入るか分からない。ツェリザークの魔物達がレシピと原料に指定されることも大いにあり得る。

また見ぬ新しいレシピのために、ライトは常に備えておかねばならないのだ。

そうしてしばらく進んでいくと、氷の洞窟の入口が見えてきた。

するとここで、ラウルがライトに問いかけた。

「そういやライト、今日は銀碧狼の親子には会っていかないのか?」

「ンー、それがね? ぼくもアルやシーナさんに会えたらいいなー、と思ってたんだけどさ。どうもアルはこの近くにいないっぽいんだよね」

「そうなのか?」

「うん。近くにアルがいれば分かる魔導具を耳に着けてるんだけど、マップの中にアルの居場所が出てこないんだ。だから、今はツェリザークにいないんだと思う」

ラウルが気になったのは、アル親子のことだ。

雪狩りなどでライトとともにツェリザーク郊外に出た折には、必ずと言っていい程アル親子との再会を果たしていたからだ。

もちろんライトとしても、今回もアル親子に会うつもりだった。こうしてライトがツェリザークに出向かない限りは、アルやシーナと会える機会など滅多に訪れないのだから。

だが、お揃いのイヤーカフを着けてマップを出してもアルの居場所を示す緑の点がどこを見ても出てこないのだ。

ラウルに問われるより前に、ライトもアルに会うつもりで 専用魔導具(イヤーカフ) を着けてマップを見ていたのに、一向にアルを示す点が出ない。

最初のうちは、アルが少し離れたところにいてマップに映らないのかな?と思っていたのだが。氷の洞窟の入口間近に来ても出現しないところを見ると、これはもはやアル親子はツェリザーク近郊にはいないと考えて間違いないだろう。

せっかくツェリザークに来たのに、アル親子に会えないのは残念だ。

だが、普段ここら辺を根城にしている銀碧狼も、遠出することだってあるだろう。

かつてライトがレオニスとともにアルと一ヶ月程過ごしたのだって、シーナがもっと遠出するからレオニスにアルを託したという経緯だったのだ。

そうした前例がある以上、ツェリザークに来たからといって必ずしもアル親子と会える訳ではないのである。

「そうか、そりゃ残念だな」

「うん……でも、またいつか会えると思う。カタポレンの家に遊びに来てくれるって、アルやシーナさんと約束したしね」

「その時は、また美味しいご馳走食べさせてやろうな」

「うん!」

友達(アル) に会えないライトが気落ちしないよう励ますラウルに、ライトも笑顔で応える。

そして二人は氷の洞窟の入口手前まで辿り着いた。

ここでライトがラウルに問いかけた。

「ところでラウル、今日はどうする? 奥にいる氷の女王様に会っていく?」

「そうだなぁ……氷の女王からは『いつ洞窟に来てもいい』とは言われてはいるが……氷をたくさんもらっていくのに、一言の挨拶も無しに採りまくるってのはさすがにないよなぁ」

「だねぇ……氷がたくさん欲しいなら、少なくとも事前にちゃんと挨拶はしといた方がいいよねぇ」

「だよなぁ。……よし、先に氷の女王に挨拶しに行くか」

今回二人が氷の洞窟に来たのは、氷の洞窟の氷を採取するためだ。

この洞窟は氷の女王が住まう場所なので、夏でも壁一面凍りついたままだし、いくら壁の氷を削っても氷がなくなることはない。

一年中氷が途絶えることはない、実に特殊な場所だ。

だが、如何に氷が無尽蔵に涌くといっても、一言の挨拶も無しに採っていくのはライト達としても申し訳がない。

洞窟の主である氷の女王だって、快くは思わないだろう。如何に氷の女王がラウルのことを大好きでも、礼を尽くさない者はいずれ愛想を尽かされてしまう。

相手の好意に胡座をかいて、礼を尽くすことを怠るような者になってはいけないのだ。

幸いにして、この氷の洞窟は然程難しい構造ではない。

小さな脇道には目もくれず、大きな道だけを進んでいけば最奥に辿り着く。それは前回初めて氷の洞窟の内部に入った時に、ライトもラウルも学習した。

要はほとんど一本道のようなものであり、道に迷う心配は一切ないのだ。

まずは氷の女王のいる最奥の広間を目指すため、ライトがアイテムリュックから魔物除けの呪符を一枚取り出す。

ラウルとともに氷蟹を狩るのもいいが、それは氷の女王に挨拶を済ませた帰りでもできることだ。

行きも帰りも魔物狩りしていると、時間も手間もかなりかかってしまう。なので、行きの挨拶をサクッと済ませてから帰りに氷蟹を狩るのがベターである。

ライトは取り出した魔物除けの呪符を真ん中から破り、その効果を発動させる。

前回訪問した時には、最奥に行くまで約三十分だったので、呪符を一枚使うだけで十分だ。

準備が整ったライトとラウルは、早速氷の洞窟の中に入っていった。