軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第812話 柔軟な対応

屍鬼化の呪いに関する情報を得た二日日。

レオニスは、ライトとラウルとともにアドナイの街に向かっていた。

本当は一人で行くつもりだったのだが、ライトがどうしてもついて行きたい!と言い張ったのだ。

朝ご飯を食べた後、レオニスとともにラグナロッツァに移動したライト。

レオニスが出かける前に、懸命にレオニスにまとわりついていた。

「マードンの話だと、とりあえずは屍鬼化の呪いがすぐに発動する心配はなくなったんでしょ? だったらぼくもいっしょに、アドナイの洞窟調査に行きたい!」

「ンー、でもなぁ……」

「炎の洞窟調査の時だって、ぼくは役に立ったでしょ? それに、夏休みももう今日で終わりだし……レオ兄ちゃん、お願い!」

「ンンンン……炎の洞窟ん時とはまた事情が違うんだが……」

「レオ兄ちゃん、お願い!……ね?」

レオニスに懸命に頼み込むライト。子犬のような潤んだ瞳になりながら、上目遣いで懇願する。

その愛らしくも健気な姿に、思いっきり胸を射抜かれるレオニス。

仰け反るレオニスの、グハァッ!という小さな呻き声とともに、ドギューーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

「ハァ、ハァ……ひ、久しぶりの衝撃だな……」

「???」

前屈みになり胸を押さえるレオニスに、ライトがきょとんとしている。

ライトもラグーン学園に通うようになり、レオニスともいろんなところに出かけるようになった。

ライトもどんどん成長していってるな、こりゃ俺を追い越す日もそう遠くないだろうな……と思っていた矢先のこの衝撃。

やはりライトはまだまだ子供、可愛い盛りなのだ。

そんな微笑ましい?二人の様子を横で見ていたラウルが、レオニスに向かって声をかける。

「ご主人様よ、心配すんな。俺もついていくから」

「え? お前もまたアドナイに行くの?」

「おう。俺も冒険者になったからには、殻処理以外の依頼もこなせるようにならんとな」

「そりゃまぁそうだが……」

ラウルの尤も至極な言い分に、レオニスも同意しつつ呻る。

確かにラウルの言う通りで、ラウルが冒険者登録してからちょうど半年が経つ。

今後も冒険者として活動していくなら、最も得意な殻処理以外の依頼も引き受けられるようにならなければならないのだ。

「俺もついていけば、ライトの身も守れて安全だろう? それに、洞窟内で何か不測の事態が起きた時には、俺も力になれるし」

「ありがとう、ラウル!大好き!」

「おう、ありがとうよ」

俺がライトの護衛をするから、ライトも連れていってやってくれ、と暗に言うラウル。自分の味方をしてくれたラウルに、ライトが大喜びしながら抱きついた。

バフッ!と飛び込んできたライトの頭を、ラウルが微笑みながらくしゃくしゃと撫でる。

そんな二人の仲睦まじい様子を見ていたレオニスも、そこまでラウルに正論を説かれたら頷くしかない。

「しゃあないなぁ……まぁ、危険性は少ないと思うけど、俺とラウルがいりゃ何かあっても対処できるだろうしな」

「ホント!? ありがとう、レオ兄ちゃん!」

「………………」

レオニスの承諾を得られたことに、今度はレオニスに思いっきり抱きつくライト。

大喜びしているライトに、レオニスが何故だか口篭るようにゴニョゴニョ言っている。

「ライト、俺には『ありがとう』だけなのか?」

「ン? 何のこと?」

「……ほら、さっきラウルにはもっと何か言ってただろ?」

「…………ああ!」

レオニスが何を言っているか、ようやく理解したライト。

レオニスの顔を見るために頭を見上げたまま、とびっきりの笑顔でその『何か』を追加する。

「レオ兄ちゃん、いつもありがとう!大好き!」

「そうそう、それそれ」

望んでいた言葉を引き出せたレオニス、実に満足そうな顔をしている。

ラウルに張り合うなど、レオニスも大人気ないなぁ……などと思うことなかれ。

こうしたコミュニケーションは、きちんと言葉に出してこそより伝わるものなのだ。

三人でのアドナイ行きが決まり、ライト達は早速出かけていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオニスさん!お待ちしておりましたぁぁぁぁ!」

冒険者ギルドの転移門で、ラグナロッツァからアドナイに移動したライト達。

アドナイ支部の広間に行くと、レオニスの姿を目敏く見つけたマリサが席から立って大きな声で歓迎した。

クレア姉妹同様、マリア姉妹も普段は冷静沈着で仕事のできるレディーなのだが。レオニスの再訪が余程待ち遠しかったらしい。

まるで花が咲いたかのようにパァッ!と明るい笑顔のマリサに、ライト達も引き寄せられるように窓口に向かう。

「よう、マリサ。一昨日ぶり」

「思っていたより早くにお越しいただけて、すっごく嬉しいですぅ!……で、例の件、如何でしょう?」

「おう、そのことについては依頼場所に出向く前に、いくつか話をしておきたいんだが」

「分かりました。では支部長室にてお伺いしますので、ご案内いたしますぅ」

お互い挨拶も早々に、本日の目的及びその本題に入る。

レオニスは今回の依頼である小洞窟に出かける前に、アドナイ支部で打ち合わせしておきたいことがあるようだ。

マリサとともに支部長室に行く前に、レオニスがライトとラウルに声をかける。

「ライト、ラウル、話はそんなに長引かないと思うから、支部内の売店か依頼掲示板でも見ながら待っててくれるか」

「うん、分かった!」

「了解ー」

ライト達の快諾を得たレオニスは、再びマリサとともに奥の支部長室に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

先頭を歩き、レオニスを支部長室に案内するマリサ。

支部長室の前に到着し、扉を二回ノックしてから中に声をかける。

「支部長、レオニスさんがお越しですぅ」

「入ってくれたまえ」

入室の許可を得たマリサ、扉を開きレオニスを先に通してから扉を閉める。

部屋の中には、書類仕事に勤しむ男性がいた。

男性は走らせていたペンを止め、執務机から立ちあがってレオニス達を出迎えた。

「初めまして、レオニス君。私はサイモン・クラーク、冒険者ギルドアドナイ支部の支部長を務めている者だ。よろしく頼む」

「丁寧な挨拶、痛み入る。俺はレオニス、金剛級冒険者なんてもんを務めさせてもらっている」

「君の高名は、かねてから聞き及んでいるよ。今回は我が街の問題解決に手を貸してくれるとのこと、心より感謝する」

「気にすんな、これもまた冒険者としての務めだ」

さり気なく握手を求めるサイモンに、レオニスも快く応じる。

冒険者ギルドアドナイ支部の支部長であるサイモンは、見た目は五十代手前くらいでほっそりとした体躯をしている。

冒険者ギルドの支部長というと、マスターパレンを始めとして恵体に恵まれた者が多いのだが、このサイモンは違う。おそらくは魔術師系もしくは回復系のジョブで活躍してきた人なのだろう。

互いの挨拶を終え、ひとまず応接ソファに腰を下ろすレオニスとサイモン。その間にマリサは二人に出すお茶の用意をしている。

「ところで、レオニス君。今日は例の件、単眼蝙蝠の巣窟の調査を引き受けてくれるのだよな?」

「ああ。それに関して、昨日総本部のマスターパレンとも話をしてきた」

「おお、既に君の方でマスターパレンに報告してくれたのか。本来ならば、我々から報告すべきところなのだが……手間をかけさせてしまってすまない」

レオニスが既に総本部ギルドマスターであるパレンに相談済み、と聞いてサイモンがレオニスに頭を下げる。

「いや、俺の方からもマスターパレンにいろいろと報告しておきたいことがあったからな。そのついでだから、気にしなくていい」

「そう言ってもらえると助かる」

「で、だな。早速本題に入らせてもらうが―――」

レオニスは、昨日会ったマスターパレンとの話をサイモンにも聞かせていった。

…………

………………

……………………

レオニス達が、マードンから屍鬼化の呪いに関する新情報を得た翌日の午前中。

冒険者ギルド総本部にて、レオニスがマスターパレンと話をしていた。

本当はマードンを尋問した直後に会いに行ったのだが、生憎その時はマスターパレンが終日不在で面会ができなかったのだ。

そして今日のパレンの出で立ちは海パン一丁という、実にシンプルなスタイルである。

海パン一丁と聞くと、そんなんただの半裸じゃね?としか思えないだろう。

だが、マスターパレンは違う。その鍛え抜かれた筋骨隆々の身体に、誰もが度肝を抜かれて心奪われる。

そう、マスターパレンの場合、その身にまとう筋肉美こそが何にも勝る衣装なのだ。

「やぁやぁ、レオニス君。昨日は会えなくてすまなかったね」

「いやいや、マスターパレンは冒険者ギルドマスターなんて務めてんだ、忙しくて当たり前の身なんだから気にしないでくれ」

「気遣いありがとう。ささ、これは我が息子が営む【Love the Palen】の特製涼菓だ。季節限定品でな、毎年大好評なのだよ。是非ともレオニス君も食べてくれたまえ」

「おお、そりゃありがたい。遠慮なくいただこう」

第一秘書シーマが運んできた茶菓子を勧めるパレン。

それは、【Love the Palen】の季節限定品『マンゴープロテインゼリー』である。

プルプルとした食感が大人気で、マンゴーの鮮やかなオレンジ色が見目美しい、実に夏らしい涼菓である。

これを【Love the Palen】の店頭で買おうと思ったら、遅くとも開店二時間前には店の前に並ばなければならない。ただでさえ【Love the Palen】は超人気有名店、その季節限定品を購入するとなると競争倍率も半端ないのだ。

だが、そんなことを知る由もないレオニス。パレンの言葉通りに、遠慮なくマンゴープロテインゼリーを食べている。

「おおッ、こりゃ美味いな!」

「そうだろう、そうだろう。同じものを箱買いしてあるから、良ければライト君やラウル君への土産に持って帰ってくれたまえ」

「いいのか?」

「もちろんだとも。おーい、シーマ君、レオニス君にマンゴープロテインゼリーを一箱持たせてあげてくれたまえー」

「畏まりました」

別室で仕事をしているシーマに、レオニスへのお土産の指示を出すパレン。

ギルドマスターから指示を受けた第一秘書が、早速その用意をしに給湯室に向かう。

あー、今日のマスターパレンは海パン一丁か。

普通なら露出狂扱いされて、速攻で警備隊に突き出されてとっ捕まるところだが……この格好で仕事をするのが許されるのは、世界広しと言えどマスターパレンだけだよな。

これをコスプレと言っていいものかどうか、門外漢の俺には全く分からんが。でもまぁ、去りゆく夏を惜しむという意味合いもあるんだろうな。

季節に沿った装いだけでなく、移ろいゆく季節にも心を寄せる……さすがはマスターパレン、風流人と名高いだけのことはあるな!

パレンとシーマ、二人のやり取りを眺めながら、レオニスは脳内でパレンのファッションレビューを繰り広げている。

海パン一丁という出で立ちが、果たしてコスプレと呼べるかどうか。門外漢でなくとも、甚だ怪しいところではある。

だが、レオニスはこれまでパレンのコスプレを否定したことは一度もない。

妙なところでポジティブ思考溢れるレオニスである。

「で、本日はどのような報告で来てくれたのだね?」

「実はだな―――」

レオニスが昨日アドナイで知った単眼蝙蝠の巣窟発見の件、そしてマードンから得た屍鬼化の呪いの新たな情報をパレンに伝えていく。

どちらも重大案件であり、海パン一丁のパレンも真剣な顔つきでレオニスの話に聞き入っている。

「ふむ、そうか……ついに単眼蝙蝠の集団発見の事案が起きたのか」

「ああ。ただ、それを見つけた冒険者パーティーが規則に則ってギルドに報告したはいいが、当のアドナイ支部では持て余してるようでな」

「確かに。その危険性を考えると、生半可な者達には任せられんな」

「俺もそう思う。だが、街の規模によっては高位の冒険者パーティーがいなくて、引き受け手を探すのにも一苦労するだろう。今回のアドナイがその好例だ」

「ふむ……」

レオニスの言葉に頷くしかないパレン、しばし無言になり考え込む。

そして何か考えがまとまったのか、徐に口を開いた。

「よし、そしたら早急に規約に追加事項を加えよう。シーマ君、ちょっと来てくれたまえ!」

パレンがシーマを呼び寄せたかと思うと、シーマにいくつかの指示を出した。

その指示は、以下の内容である。

・十匹以上の単眼蝙蝠の集団あるいは巣を発見したという報告を受けた支部は、速やかに総本部に連絡をする。

・連絡を受けた総本部は、責任を持って調査員を派遣する。

・調査依頼にかかる費用は、全て総本部が負担するものとする。

パレンが述べる新しい規約を、シーマは手元のメモ帳にスラスラと書き込んでいく。

そして一通りパレンが伝え終えると、シーマはその新規約を全支部に伝えるべく早足で執務室から出ていった。

「これで、人材不足に悩む地域のカバーをできるだろう」

「さすがだな、マスターパレン」

「いやいや、この程度のこと、本来なら最初に気づくべきだったのだ。遅ればせながらではあるが、これで何とかより円滑な連携が取れることを望むばかりだ」

規約の追加変更という重大案件を、こんなにもスムーズに行えることに、レオニスはパレンへの尊敬の念をさらに強くする。

「さて、そしたらレオニス君に頼みがある。早急にアドナイに向かい、単眼蝙蝠の件を解決してきてくれないだろうか?」

「もちろんだとも。マスターパレンに言われるまでもなく、最初からそのつもりだったからな」

「それはありがたい。依頼の達成条件は小洞窟の完全封鎖、報酬はアドナイ支部職員が洞窟の封鎖を確認したら支払う。金額は3万Gでどうだろうか?」

「それで十分だ」

「ありがとう。正式な依頼書は今日中に作成しておこう」

「頼んだ」

レオニスとパレンの間で、サクサクと労使交渉が進む。

現時点ではまだ口頭での打ち合わせだけなので、これを正式な依頼な依頼とするには総本部の方からレオニスへの指名依頼書を作っておかねばならない。

「そしたら、アドナイにはいつ行くのかね?」

「アドナイのマリサには、三日以内にまた行くと約束してある。マスターパレンの了承も得られたことだし、明日にもアドナイに行くつもりだ」

「そうか。では今回の件もレオニス君の方からアドナイ側に伝えておいてくれると助かる」

「分かった」

シーマが退室する前にテーブルに置いていった、マンゴープロテインゼリーの箱をレオニスが空間魔法陣に仕舞う。

お土産の件を決して忘れずに、ちゃんと約束通り用意してくれたシーマ。その有能さに、レオニスは内心で感謝するばかりだ。

「じゃ、依頼書発行の件、頼んだ」

「ああ、レオニス君もアドナイの件よろしく頼む」

話が無事まとまり、レオニスはギルドマスター執務室を後にした。

……………………

………………

…………

「総本部で、そのような決定がなされたとは……ギルドマスター自ら柔軟な対応をしていただけるなんて、我等のような弱小地方にとってこれ程ありがたいことはない」

「だな。マスターパレンは本当にすごい人だよ」

サイモンはパレンの柔軟な対応に感銘を受けている。

そしてパレンを讃えるサイモンの言葉に、レオニスも頷きながら同意する。

「そういう訳で、今日は小洞窟の調査とともに単眼蝙蝠の殲滅と洞窟封鎖までを請け負う。あんた達アドナイ支部には、俺が洞窟を封鎖した後の確認をお願いしたい」

「承知した。確認に向かう職員と護衛用の冒険者パーティーを今日中に選出し、明日にも小洞窟に向かわせよう。マリサ君、早急に手配してくれ」

「畏まりました」

要件を伝え終えたレオニスが、ソファから立ち上がる。

レオニスが立ち上がったのを受けてサイモンも立ち上がり、マリアも加えて二人して支部長室の扉に向かう。

マリサが部屋の扉を開け、先に廊下に出る。

レオニスが退室しようとしたところで、サイモンがレオニスに向かって声をかけた。

「レオニス君。今回の件、何卒よろしく頼む」

「ああ、任せとけ」

深々と頭を下げて頼み込むサイモンに、レオニスがニカッ!と笑いながら応える。

マリサとともに広間に戻っていく世界最強の男、その頼もしい背中をサイモンはいつまでも見送っていた。