軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第799話 新たな交流の橋渡し

その後ラキとフギンは、互いの種族をよく理解するために様々な話をした。

互いの好物などの軽めの話から、自分達の種族の生い立ちや特性などの大真面目な話まで、それこそ話題はたくさんあって尽きない。

「八咫烏族は魔力が高く、攻撃魔法などで戦闘力も高いことで有名な種族。いやー、我等オーガは魔法関連はからっきしダメでな。魔法を使えるフギン殿達が本当に羨ましい」

「いえいえ、オーガ族こそその恵まれた体躯と腕力で、勇猛果敢な戦士族として高名ではありませんか!」

「いやいや、魔力の多寡を抜きにしても、空を飛べるというだけでも羨ましい限りだ」

「大地に根を下ろし二本の足で立って、二本の腕と手で何かを作り生み出す……我ら霊鳥族には成し得ぬ偉業です」

ラキとフギン、それぞれの種族の長所を褒め称え合う。

そしてそれはお世辞ではなく、彼らの本心から出ている言葉である。

『隣の芝生は青く見える』という諺のように、己にないものに惹かれるのは人間ばかりではないようだ。

「大神樹を守る八咫烏族のことは、我も話に聞き及んではいた。大神樹の御座すところから程なくした場所に、我が里の行商隊がいつも訪ねるトロール族の里があるのでな」

「トロール族、ですか……名前だけは聞いたことがあるのですが、我らとは交流がなくて……実際にどのような種族なのか全く知りませんでして」

「ほう、そうなのか? トロールの里からは、大神樹の雄大な御姿がよく見えるくらいにはかなり近い距離にあったと記憶しているが?」

フギンがトロール族のことを名前以外全く知らない、ということを聞いたラキ。かなり意外そうな顔をしている。

トロール族の里と八咫烏の里は、オーガとナヌス程のご近所ではないが、それでもトロールの里から大神樹が間近に見えるくらいなのだから互いに近所のはずだ。

なのに、八咫烏達がトロールのことを全く知らないということは、本当に一切の交流がないのだろう。

ラキの不思議そうな表情に、フギンは俯き加減で話す。

「お恥ずかしい話ですが、我等は大神樹ユグドラシア様以外の他種族と交流を持ったことは、今まで一度もないのです」

「そうなのか……我等オーガもそこまで開放的な種族ではないが、八咫烏族はかなり閉鎖的な種族なのだな」

「仰る通りです。つい先日まで、我等はそのことに何の疑問も持たずに生きてきました」

フギンは恥じ入るように、己達の過去を振り返る。

しかし、すぐに頭を上げて前を向くフギン。

ラキの目を真っ直ぐ見つめながら、暗い過去を払拭するかのようにはっきりとした口調で言い切る。

「ですが……とあることをきっかけに、それではいけないということに我等は気づいたのです」

「ほう、そのきっかけとはどのようなことなのだ?」

「それは……話せば長いことになりますが……よろしいですか?」

「もちろん。それまで瞑目したままずっと内に篭っていた者達が、開眼し外の世界を見るに至った経緯にはとても興味がある―――と言えば、甚だ不躾かとは思うが」

言い方が不躾かもしれないが、と自ら先に言うラキ。実際そういう響きに捉えられかねない、興味本位な尋ね方ではある。

だが、そう思っててもなお、八咫烏達が変化したというきっかけを知りたかったのだ。

そんなラキの気遣いに、フギンは頭を振る。

「いいえ……我等が長きに渡り犯し続けた大罪―――『無知』という罪がどれ程重いものであったかを、今一度我等の魂に刻むためにも……是非ともお聞きください」

ラキの要望に応えるべく、フギンはかつて八咫烏の里で起きたことをラキに語って聞かせていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

約百年以上前に、八咫烏の里を襲ったスケルトン襲撃事件。

そしてそれ以後、八咫烏の里をじわじわと蝕んでいった不和の種、マキシの魔力の無さとその真相。

その隠された真相を暴き、八咫烏の里に真の平和も絆をもたらしたのは、他ならぬライトとレオニスであったこと、等々。

ラキはどの話にも真剣に耳を傾け、時折小さく頷いている。

「―――以上が、我が八咫烏の里に起きた事件です」

「我等は百年もの間、マキシの中に植え付けられた悪意の塊の存在を知らず……そのせいで、我が弟マキシはずっと苦しんできました」

「もちろん一番悪いのは、マキシに穢れなどという悍ましいものを植え付けた者共です。ですが……その悪意を看破することもできず、ただ見ているだけで何もできなかった、愚昧な我等にも大きな咎がある」

「本当に……無知は罪です」

事の経緯を口悔しそうに語るフギンの横で、レイヴンとマキシもまた悔しげな顔で俯く。

そんな八咫烏兄弟達を見て、それまで静かに話を聞いていたラキが徐に口を開いた。

「そうか……八咫烏の里も、奴等のせいで長年大変な目に遭ってきたのだな」

「??……『八咫烏の里 も(・) 』とは……?」

「我等オーガの里も、先日何者かに襲われたのだ。しかもその黒幕は、かつて貴殿らの八咫烏の里を襲った真犯人と同じ……廃都の魔城の四帝だ」

「何ですって!?」

険しい顔で呟いたラキの言葉に、フギンが耳聡く反応する。

そのすぐ後に語られた事実は、フギンとレイヴンにより強い衝撃を与えていた。

百年以上も前から八咫烏族を苦しめ続けてきた、廃都の魔城の四帝。

そいつらが、このオーガの里にも魔の手を伸ばしていたとは思いもしなかったのだ。

ラキは己の話を裏付けるかのように、レオニスに向かって声をかける。

「そうだな、レオニス?」

「ああ。奴等は世界中至るところにその魔の手を伸ばして、他者の魔力や生命力を簒奪し続けている。炎の女王や火の女王、水の女王などの属性の女王達も常に奴等に付け狙われているし、こないだツィちゃんを襲ったのもそうだ。そしてツィちゃんやシアちゃんだけでなく、他の神樹のところにも奴等の手先が繰り返し襲撃してくるそうだ」

ラキの話を補完するように、これまで露見してきた四帝関連の事例を挙げていくレオニス。

その中に、フギン達が決して聞き逃せない話も含まれていた。

「レオニス殿!それは真ですか!?」

「廃都の魔城の四帝は、シア様やツィ様だけでなく他の神樹まで襲っているのですか!?」

「ああ。竜王樹ユグドラグスや天空樹ユグドラエルのもとにも、時折邪竜の群れが襲来するらしい」

「……!!」

フギンとレイヴンは、衝撃の事実に絶句する。

フギン達にとって、神樹とは崇敬すべき存在。それは里の中心にいる大神樹ユグドラシアだけでなく、他の神樹も例外なく含まれる。

何故ならば、他の神樹は大神樹ユグドラシアの数少ない同胞であり家族だからだ。

世界に六本しかない神樹は、同族と呼べる者が六体しかいないことをも意味する。それだけに、互いを家族として思い遣る気持ちが人一倍強いのだ。

家族が傷つけられれば、フギン達が敬愛する大神樹ユグドラシアも深く悲しむ。

それだけは絶対に許すことができなかったフギンとレイヴンは、怒りを露わにする。

「シア様やツィ様だけでは飽き足らず、他の神樹の方々にまで害を及ぼそうとは……絶対に許せん!」

「全くです!一昨日ツィちゃん様のお元気そうな御姿を見て安堵したけど……それでも襲撃直後の無惨な姿を思うと、今でも胸が痛むというのに……」

身体をふるふると震わせていたフギンとレイヴンが、突如レオニスに詰め寄る。

「レオニス殿!廃都の魔城を討ち滅ぼすには、どうすれば良いのですか!!」

「俺達にできることはないですか!? あったら何でも言ってください、全力を以て協力させてもらいますから!」

「我が弟マキシから全てを奪い、シア様やツィ様を悲しませる悪辣な者共め……もう我慢ならん、絶対に滅ぼしてくれる!」

「フギン兄様、俺もお供します!これ以上奴等をのさばらせちゃいけないし、何よりこの世に存在してはいけない奴等だ!」

プンスコと怒りながら詰め寄ってくる兄弟に、レオニスは気圧されながらも必死に宥める。

「まぁまぁ、ちょっと落ち着けって」

「これが落ち着いていられますか!今すぐにでも奴等のもとに殴り込みに行きたいくらいだというのに!」

「お前達の気持ちは分かる。奴等には、人族も長年煮え湯を飲まされ続けてきてるからな」

「……そうなのですか? 人族もまた、廃都の魔城の四帝の被害に遭っておられるのですか……?」

「ああ。それこそ八百年以上、人族は廃都の魔城を殲滅させるために戦い続けている」

「八百年…………」

八咫烏兄弟を宥めながら、人族と廃都の魔城の戦いの歴史を語るレオニス。

その戦いの歴史が八百年に渡ると聞いたフギン達は、呆然とする他なかった。

レオニスやライトという存在を知り、人族がそこまで非力な種族でないことをフギン達も知っている。

そんな人族であっても、廃都の魔城の四帝と八百年以上戦ってきてなお殲滅させられないというではないか。

廃都の魔城の四帝という存在がいかに強大であるかを、フギン達はレオニスの言葉で思い知る。

「廃都の魔城の四帝というのは……それ程までに強大で、手強い相手なのですね」

「ああ。だが……いつか必ず、この俺が廃都の魔城の四帝を殲滅し、討ち倒す。奴等は俺の大切な人達の命を奪った仇だからな」

「「「…………」」」

レオニスが、その右手を握りしめながら呟く。

いつもの底抜けに明るいレオニスからは、想像もつかないくらいに低くくぐもった暗い声。

底知れない暗さを伴う復讐への決意に、フギン達は竦み上がる。

そんなレオニスに、ラキだけは怯むことなく穏やかな口調で語りかける。

「レオニスよ。気持ちは分かるが、お前らしくないぞ」

「……ああ、そうだな……すまんな、ついカッとなっちまった」

ラキに優しく声をかけられたことで、我に返るレオニス。

張り詰めていた空気が、瞬時にして緩和されて霧散していく。

そしてラキは、まだ緊張しているフギンとレイヴンに対しても新たな話題を振った。

「フギン殿よ、大神樹の八咫烏達もこれからは変わっていくのだったよな?」

「え? え、ええ、これからは我等も外の世界に目を向けて、邁進していかねばなりません」

「ならばその手始めに、トロール族と交流を始めてみては如何かな?」

「トロール族と、ですか……?」

ラキからの意外な提案に、フギンが呆気にとられている。

そんなフギンに構うことなく、ラキが明るい声で話を続ける。

「そう、トロール族。八咫烏の里とトロール族は互いに距離が近く、新たに交流を持つにもってこいであろう?」

「た、確かに……」

「何なら我がトロールの里の族長に書簡を書こう。オーガ族族長からの紹介とあらば、トロール族も無碍にはすまい」

「本当ですか!? それは我等にとっても願ってもないことです!」

ラキが紹介状を書いてくれるという話に、レイヴンが食いつくように反応する。

もともと引きこもりだった八咫烏達。外の世界を見て学ばなければ!と思いつつも、引っ込み思案な性格まではすぐには直せない。

これまでは、ライトとレオニス、ラウルという顔見知りがいたから、人里見学にも思いきって出ることができた。

だが、トロール族相手だとそうはいかない。これまで全く交流のなかった者達相手に、八咫烏の方から飛び込んでいく―――これは今まで以上に高いハードルだった。

だが、ラキの紹介状という橋渡しがあれば、ハードルは一気に低くなる。

それは、フギンとレイヴンにとっても大いにメリットのある魅力的な提案だった。

「では早速、今から書状を 認(したた) めよう。書くものを持ってくるから、少々待っててくれ」

「お気遣い、痛み入ります!」

「本当にありがとうございます!」

「おー、いってらー」

急遽書状を書くことになったので、別室にある筆記具を取りに一度客間を出ていくラキ。

オーガ族の若き族長、その頼もしい背中をフギンとレイヴンは感激の面持ちで眺めていた。