軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第798話 大きな第一歩

里の外れからラキの自宅に向かうライト達一行。

その道すがら、レオニスとラキは【加護の勾玉】について話し合っていた。

「なぁ、ラキよ。オーガの里には三十個分の【加護の勾玉】があるよな?」

「ああ。今はまた行商隊が旅に出ているから、今この里にあるのは二十個だがな」

「すまんがそのうちの五個くらいを、俺に貸しといてくれないか? 俺達がここに誰かを連れてくる度に、【加護の勾玉】の貸し出しのため族長自ら御足労をかけるのは忍びなくてな」

「それはまぁ、気にせずとも良いが……」

レオニスやライト、ラウルはナヌス製の結界は顔パスで通れるので、日々の行き来には全く問題ない。

しかし、今日の八咫烏兄弟や先日のバッカニア達のような、ライト達の知己を連れてきた時には、その都度【加護の勾玉】を借り受けねばならない。

それはライト達にとっても手間がかかり、特にラキに対して都度手を煩わせることに申し訳がない。

それを解決するには、レオニス達も【加護の勾玉】を常時持つことが必須だ、とレオニスは考えたのだ。

レオニスの意図を理解したラキは、「ふむ……」と言いつつ顎に手を当てながらしばらく考え込む。

そして徐に口を開いた。

「でも、そうだな……お前達がそれを良しとせず気が引けてしまうようであれば、レオニスとライト、そしてラウル先生にも【加護の勾玉】を二個づつ貸し出すということで、常時持っていてもらってもいいかもしれん」

「二つづつ貸してもらえればありがたい。全部で六個あれば、大抵の連れに対応できるしな」

ラキの提案に、レオニスがパッ!と明るい顔になる。

三人に二個づつ貸し出してもらえれば、最大六人分の連れを里に招くことができる。

例えば再び『天翔るビコルヌ』のバッカニア達三人を連れてきても、ラキの手を煩わせることなくそのまま入ることができる。

さすがに八咫烏族長一族の九羽同時訪問は無理だが、そもそも彼らが一家全員同時に八咫烏の里を離れることは絶対にあり得ないので、そこら辺は心配しなくてもいいことだ。

「そしたら、我が家で管理している十個のうちから六個を貸し出そう」

「残りの十個は他の誰かが管理してんのか?」

「ああ。里にある勾玉の半分づつを、我とニル爺で常時管理している」

「あー、まぁな。あの手の品を常に一ヶ所だけに置いておくのは、あまりよろしくないもんな」

「そういうことだ」

ラキが語る【加護の勾玉】の管理体制に、レオニスが感心しながら頷いている。

【加護の勾玉】はオーガの里の出入りに必要なアイテムであり、里を守る結界運用において不可欠な品だ。

それを現族長であるラキと、前族長である長老ニルの二手に分かれて管理するというのは、リスク分散という観点からも理想的な管理体制である。

そんな話をしていると、だんだん居住地区に近づいてきてオーガの民達とすれ違うようになってきた。

今日もオーガの民達は、ライトやレオニス、ラウルの姿を見て気軽に声をかけてくる。

「あッ、ライト君だ!遊ぼー!」

「うん、後でいっしょに遊ぼうね!」

「ラウル先生、今日はお料理教室ありますか?」

「今日は忙しいから、また今度な」

「レオニス!腕相撲の次は相撲だ!」

「おう、いつでも受けて立つぜ?」

それぞれに答えているライト達を、フギンとレイヴンは驚きの面持ちで眺めている。

ちなみに今の二羽は、ラキの好意によりラキの両肩に留まっている。もちろんサイズは本来の姿だ。

巨躯を誇るオーガの中でも、特に立派な身体を持つラキ。その両肩にちょこん、と留まっているフギンとレイヴンは、まるで普通の烏のように見える。

オーガの民達に明るく迎え入れられているライト達を見て、フギンがぽそりと呟く。

「レオニス殿もライト殿も……そして妖精であるラウル殿までも、貴方方の友なのですね……」

「ああ。皆我等の掛け替えのない友だ。鬼人族、人族、妖精族―――種族こそ違えど、我等は互いに助け合い、そして心を許せる真の友なのだ」

フギンが思わず洩らした言葉に、ラキは真っ直ぐに前を向きながら静かに微笑みつつ答える。

種族の異なる者達が、手を取り携えながらともに生きていく。それは、今までの八咫烏族には全く考えもしなかったことだ。

だが、外から持ち込まれた穢れにマキシが侵されたことで、里の中に静かに不和が広がっていった。

穢れにより魔力を簒奪されていたマキシを、魔力無しと侮蔑する者達。そんな理不尽な目に、百年以上という長きに渡り遭わされ続けてきたマキシは、耐えきれずに外の世界に飛び出した。

それをきっかけに、八咫烏の里に強烈な風が吹き込むことになる。

風の元である二人の人族、ライトとレオニス。

外の世界に飛び出したマキシが連れ込んできた新風二人は、マキシの不名誉と汚名を雪ぎ、八咫烏が崇敬して止まない大神樹ユグドラシアとの絆まで取り戻してくれた。

それら一連の出来事は、閉ざされた世界で井の中の蛙だった八咫烏達の目をこじ開けるに十分だった。

『心を許せる真の友』―――ラキが誇らしげに言った言葉が、フギンとレイヴンの中で幾度となく響き渡り続ける。

果たして我等には、ラキ殿のように『真の友』と胸を張って言える友がいるだろうか?……否、いる訳がない。

我等は大神樹シア様をお守りするという大義名分を掲げ、その実シア様のお膝元でぬくぬくと生きてきただけなのだから。

だが、これからは違う。今までのような、内に篭もっているだけではいけない。

これからの八咫烏一族の未来のためにも、我等がしっかりとこの目で外の世界を見ていかねば―――

ライト達との縁で新たに出会った、オーガ族族長ラキの肩に留まりながら、フギンは決意を新たにするのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうこうしているうちに、ラキ宅に辿り着いたライト達。

客間に通されてしばらく待っていると、客間の扉がそっと開いた。

扉の隙間から、黒い何かと子供達の顔が覗いている。

「あっ、ルゥちゃん、レン君!こんにちは!」

「ライト君、こんにちは!レオちゃんとラウル先生も、ようこそいらっしゃい!」

「おう、ルゥ達じゃないか。今日も元気そうだな」

「うん!ラニもいるよ!」

「ワォン!」

ライトがルゥ達の名を呼んだことをきっかけに、ルゥ達が扉を開けて勢いよくライト達のもとに駆け寄ってきた。

その中には、ルゥとレンだけでなく黒妖狼のラニもいる。

彼女達とは一週間前に会ったばかりだが、ちょっと会わない間にまたラニが大きくなった気がする。

大きさだけで言ったら、もう普通のサラブレッドくらいの体格である。

「ねぇ、ライト君、今からラニの毛をブラッシングするところなの。ライト君もいっしょにしない?」

「いいね!ていうか、ぼくもラニの毛を梳かしていいの?」

「もちろんよ!皆でいっしょにラニを綺麗にしてあげましょ!」

「うん!」

ルゥからの嬉しいお誘いに、喜び勇んで席から降りるライト。

すると、ここでルゥがフギンとレイヴン、そしてマキシの存在に気づき声をかけた。

「……ねぇ、そっちにいるカラスちゃん達もおいでよ!ラニといっしょにブラッシングしてあげる!」

「「ウキョッ!?」」

ルゥからの突然のご指名に、びっくり仰天するフギンとレイヴン。

ルゥが言う『ブラッシング』なるものが一体何なのかは分からないが、満面の笑みとともに明るく言い放つルゥの言葉に悪意は感じない。むしろ善意でいっぱいなのが、これでもか!というくらいに伝わってくる。

これからは、異種族とも積極的に交流していかなくては―――先程そう心に誓ったばかりのフギン達に、ルゥのお誘いを断るという選択肢はない。

例えそれが子供からの誘いであろうとも、決して馬鹿にしたり見下すことなどない。子供達との触れ合いもまた大事な交流であり、異種族交流の大きな第一歩となるのだ。

フギンとレイヴンはパタパタと飛び上がり、マキシとともにライトと合流してルゥ達とともに客間の端に移動する。

そしてルゥとレン、ライトの三人で早速ラニ達のブラッシングを始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達が部屋の隅で、ラニのブラッシングでキャッキャウフフし始めた頃。客間にラキが入ってきた。

その手には、六個の【加護の勾玉】が握られている。

「待たせてすまない。我が家で管理している【加護の勾玉】十個のうち、六個を持ってきた」

「ありがとう、ラキ」

ラキが差し出した六個の【加護の勾玉】を、レオニスが受け取って早速空間魔法陣に仕舞い込む。

そして部屋の隅に行っていたフギンとレイヴンに声をかける。

「おーい、フギン、レイヴン、ちょっとこっちに来てくれー」

「あ、はい!」

レオニスに名を呼ばれた八咫烏兄弟が、慌ててレオニス達のもとに戻ってきた。

戻ってきた八咫烏兄弟の首にかけられた【加護の勾玉】をレオニスが外し、そのままラキに返却した。

【加護の勾玉】を新たに六個借りたので、今フギン達のために先に借りていたものを返したのだ。

二個の【加護の勾玉】をラキに渡しながら、レオニスが改めて礼を言う。

「里の大事なものを、いっぺんに六個も借りてすまんな。おそらくはそのまま長く借りっぱなしになるだろうから、今度ナヌス達にオーガ用の【加護の勾玉】六個を新しく作ってもらうよう頼んでおくわ」

「そうだな。【加護の勾玉】の予備分はかなり余裕があるとはいえ、新たに補充してもらえるならその方がありがたい」

「新しいのができるまでに、少し日数をもらうことになると思うが……そこは了承してくれると助かる」

「承知した。よろしく頼む」

レオニス達の話が一段落したところで、フギンがおずおずと口を開いた。

「あの……もしよろしければ、ラキ殿にいろいろとお話を聞きたいのですが……」

「ン? 我で良ければいくらでも。答えられることなら何でも答えよう」

「ありがとうございます!」

ラキの快諾に、フギンが深々と頭を下げて礼を言う。

ルゥ達子供との異種族交流もいいが、まずはオーガ族族長であるラキといろんな話をしたいと思っていたフギン。

出会ってすぐに一族の族長と話ができるなど、滅多にあることではない。この絶好の機会を逃す手はないのだ。

故に、【加護の勾玉】の返却のためにレオニスから呼ばれたのは、フギンにとって渡りに船だった。

こうしてオーガ族現族長と、未来の八咫烏一族族長の会談?が始まっていった。