軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第796話 ちょっとした寄り道

翌日、フギンとレイヴンの人里留学滞在二日目。

ライト達は朝食を済ませ、オーガの里に行く前にとある場所に寄り道をしていた。

それは、ライトの行きつけの一つであるスライム飼育場である。

「ほう、ぬるぬるの素ってこんなにたくさんの種類があんのか、すげーな……俺、初めて見たわ」

「あー、レオ兄ちゃんはあまりここに来たことなかったっけ? ぼくはナヌスの里やオーガの里に行く時のお土産用に、よく買いに来るけど」

「この手の買い物は、いつもライトやラウルに任せっきりだからなー」

「いろんな色や味があって面白いよねー」

売店でレオニスと会話しながら、様々な種類のぬるぬるの素を店の備え付けのカゴにドサドサと入れていくライト。

今日の買い物はレオニスがスポンサー&荷物持ち担当なので、遠慮なく大量買いしていく。

カゴも五杯目ともなると、ぬるぬるの素が置いてあった棚はかなりすっかすかになった。特に黄色と茶色は棚にあるだけ全部買ったので、そこだけ棚がすっからかんである。

買い占め状態になったところで、ライト達は会計に向かう。

「あら、ライト君、こんにちは!……って、今日はまた大量に買っていってくれるのねぇ」

「こんにちは!今日は友達の家に遊びに行くので、集まる皆への手土産も買っていくんですー」

「そうなのねー。ぬるぬるの素はジュースにしたりお菓子に使ったり、いろんな使い道があるから人気高いのよねー」

「子供には紫のブドウや薄黄色のリンゴ味、白の乳酸菌味が人気で、大人のお姉さん達には黄色のレモン味が大人気なんですよー」

「あー、分かる分かるー。特に黄色は肌荒れやシミに効くものね!」

カゴの中の商品をテキパキと出して、色毎に分けたり個数を確認していく会計のおばちゃん。

その手慣れた手つきは、まさにプロフェッショナル。長年真面目に会計係を勤めてきた賜物であろう。

「全部ぬるぬるの素で、黄色と茶色が二十個、紫と白と薄黄色が十個、橙、水色、赤、緑が五個。合計九十個で9000Gのお買い上げになります!」

「レオ兄ちゃん、お会計よろしくね!」

「おう」

買い物の合計金額が出て、レオニスが財布から1万Gの金貨を一枚取り出す。

ぬるぬるの素は大袋入りで1個100Gとお買い得品だが、それを九十個ともなると9000G=9万円相当のお買い物となる。

代金として金貨を渡されたおばちゃんは、お釣りの1000Gである大銀貨一枚をレオニスに渡しながら心配そうにライトに声をかける。

「……っていうか、こんなに大量に買い込んで大丈夫? 持ち帰るの、大変じゃない?」

「あ、それは大丈夫です。レオ兄ちゃんに持ってもらうんで」

会計のおばちゃんは9万円相当の爆買いには驚かずに、持ち帰りの心配をしている。

このスライム飼育場の売店では、美容効果抜群の『べたべたの極み』他高額商品が結構置いてあり、それらの売れ行きも結構いいらしいので高額の買い物は珍しくはないのだろう。

だが、そんなプロフェッショナルなおばちゃんでも、レオニスが空間魔法陣を開いて買った品物を入れていくのにはびっくりしている。

大量のぬるぬるの素を、次から次へとポイポイ、ポイー、と手当たり次第に放り込んでいくレオニス。

その様子を見て、会計のおばちゃんが心底感心したようにため息をつく。

「空間魔法陣って、すごいのねぇ……こんなにたくさんの買い物や荷物も、全部入っちゃうなんて」

「ですよねー。ぼくも早く空間魔法陣を覚えたいんですけど、まだ小さいうちは無理だって言われてるんですよねぇ」

「そうなのねぇ。でも、今話題のアイテムバッグ? これが手に入ったら、私達もそうやってたくさんの荷物を運べるようになるのよね」

「ですねー!」

レオニスの空間魔法陣を見た会計のおばちゃんが、今巷で持ちきりの話題『アイテムバッグ』に言及する。

これまでほんの極一部の者しか使えなかった空間魔法陣。そんな高嶺の花にも等しい高等魔法を、誰でも使えるようになる身近なものにしてくれる夢のようなアイテム。

レオニスが百個近いぬるぬるの素を空間魔法陣に仕舞う間、会計のおばちゃんがライトにこっそりと耳打ちをする。

「実はね、ここだけの話よ? 昨日、アイテムバッグらしきものを持った人がこの売店に買い物に来たのよ」

「えッ!? そうなんですか!?」

「べたべたとかねばねばとかたくさん買って、それを小さな鞄に全部入れてたの。どこの誰のお使いかは分からないけど。見た感じ、貴族じゃなくて豪商のお使いかも」

「へー、それはすごいなぁ……もうアイテムバッグを持てる人が出てきたんですねぇ」

会計のおばちゃんのナイショ話に、ライトはびっくりした顔をしつつ頭の中で思考を巡らせる。

つい最近ピースに会った時に、『アイテムバッグ研究の方針を転換して、一般市場への早期普及を第一の目標とすることに決まった』と言っていた。

それが果たしていつ決まったことなのかはライトには分からないが、早期普及の第一弾としてアイテムバッグを所望する大金持ちに高額で販売した可能性が高い。

豪商のような大金持ちならば、アイテムバッグという革新的な夢のアイテムを手に入れるためならばいくらでも大金を積むだろう。

そして魔術師ギルドの方は、大金を得てより潤沢な活動資金を得ることができる。両者の利益は完全一致する訳だ。

特に魔術師ギルドで一番金がかかるのは研究費だ。様々な実験や試行錯誤を繰り返すためには、いろんな素材が要る。

例えばドラゴンの骨とか海竜の背鰭、飛竜の皮膜等々、入手困難な素材を手に入れる必要がある。そしてそうした品々は、大金を積んで冒険者ギルドに依頼を出すなどして広く募集しなければ得られないのだ。

そうした研究費は、いくらお金があっても足りない。

だが、アイテムバッグの販売費でそれらを賄うことができれば、魔術師ギルド全体の研究費が潤い様々な研究や実験が捗る。

それはアイテムバッグの早期普及の促進にも繋がることである。

魔術師ギルドがアイテムバッグをいくらで売ったかは分からないが、何にしてもアイテムバッグの早期普及の第一歩を踏み出したのはいいことだ。

これなら号外で見た当初の予定、何年後かには500万Gで一般販売が開始されるという予想はもっと前倒しで実現するかもしれない。

ライトとしても、一日も早くアイテムバッグが普及してくれることを願っている。そうすれば、自分が日頃使っているアイテムリュックを堂々と使えるようになるからだ。

ライトがそんなことをつらつらと考えていると、レオニスが声をかけてきた。

「全部入れ終わったぞー。ラウル達と合流するか」

「うん!おばさん、また買いに来ますね!」

「毎度お買い上げありがとうね!」

ライトは仲良しの会計のおばちゃんに挨拶をしながら、レオニスとともに表のスライム牧場に出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達が建物内の売店で買い物をしている間、ラウルは建物の外でフギンとレイヴンとともにスライム飼育場の牧場を眺めていた。

文鳥サイズの二羽はラウルの両肩に一羽づつ留まり、目の前に広がる光景に驚愕している。

「おおお……こんなにたくさんのスライムが……」

「俺、スライムって苔色のしか見たことなかったけど……こんなにいろんな色のスライムがいるんだな……」

外の広い牧場では、イエロー、グリーン、オレンジなどの色とりどりのスライム達がそれぞれのエリアでのんびりと寛いでいる。

それを見た八咫烏兄弟は、目を見張りながらその光景を見つめている。

本格的なスライム見学をしたい訳ではないが、広く公開されている外の牧場を見て眺めるだけならタダである。

なので、ライト達が買い物をしている間に八咫烏兄弟に牧場を見せてあげよう!ということになったのである。

八咫烏兄弟とともに、外飼いのスライムを見ていたラウル。

ふと思い出したように呟く。

「そういや八咫烏の里の近くには、モスグリーンスライムがいたな」

「苔色スライムのことですか? あれは、人族の間では『モスグリーンスライム』というのですか?」

「ああ。ま、モスグリーンも苔色も意味は同じだ」

「そうなんですね。ここには苔色はいないようですが、別のところにいるんですかね?」

「多分な」

ラウルやフギンの話では、八咫烏の里の近辺にはモスグリーンスライムが生息しているらしい。

モスグリーンスライムはヘドロやアオコを好んで食べる習性があるので、人族の中では汚れた湖や河川の浄化作業に使われるスライムだ。

暗い色で水を好むので室内飼いされているため、屋外の牧場にはモスグリーンスライムはいない。

するとここで、レイヴンがラウルに質問をしてきた。

「というか、何故人族はスライムを飼っているんです?」

「さぁなぁ……俺は妖精だから、人族の考えることはあまりよく分からん。だが、このスライムからはぬるぬるとかねばねば、べたべたなど、とにかく有用な素材が採れるらしい」

「有用な素材、ですか?」

「人族はスライムのぬるぬるを加工して『ぬるぬるドリンク』といって好んで飲んでいるし、俺もぬるぬるドリンクは割とよく飲んでいる。他にもねばねばやべたべたを使って、化粧品なんかを作っている、と聞いたことがある」

レイヴンの質問に、ラウルが詳しくないながらも真摯に答える。

ラウル自身もぬるぬるドリンクは割とよく飲む方で、茶色の珈琲味や水色のソーダ味が好きだったりする。

もちろんそれは 人里(ラグナロッツァ) に住むようになってからの話であり、レオニスに連れられて人里に出てきたばかりの頃には「スライムを飲む? 意味分からん!!」と思っていたのだが。

今ではすっかり受け入れてしまっているのは、ライトと同じである。

「仮にも魔物であるスライムから、素材を得るとは……人族はなかなかに豪胆というか、 強(したた) かなんですね」

「素材になるのは、スライムばかりじゃないぞ? 人族は、ありとあらゆる魔物から採れるものは何でも採る。角、皮、牙、骨、目玉、内臓、尻尾、殻、核、枝、葉、茎、根―――使えると思ったものは何でも使う、それが人族だ」

「「…………」」

ラウルの話に、フギンとレイヴンは思わずゴクリ……と喉を鳴らす。

人族とは基本非力な存在で、特筆すべき点は異常なまでの繁殖力と、それに付随する数の暴力が得意な種族だと思っていた。

だが、人族が持つ威力とはそれだけではない。欲の深さ、貪欲さもまた他の追随を許さない。

その欲の深さでもって利便性を推進し、さらなる快適さや美食を求める原動力ともなっているのだ。

「人族の力―――ますます以って侮れぬ……」

「ですね……人族が持つ力は底知れないものがありますね」

スライム飼育場という、常識外の施設から漂う人族の底力を垣間見たフギンとレイヴン。その計り知れない欲望の深さに、二羽は恐れ慄く。

するとそこに、売店での買い物を終えたライトとレオニスが来た。

「ラウル、フギンさん、レイヴンさん、お待たせー!」

「おう、ご主人様達。買い物はもう済んだのか?」

「うん!おかげさまで、オーガの里へ持っていく手土産はバッチリだよ!」

「そうか、そりゃ良かった」

明るい笑顔でラウル達のもとに駆け寄ってくるライト。

その溌剌とした笑顔は、人族が持つ暗さや醜い欲望など欠片も感じさせない。

全員が揃ったところで、レオニスが皆に向かって声をかける。

「じゃ、ぼちぼちオーガの里に行くか。一旦屋敷に戻ってカタポレンの家に行くぞー」

「うん!」

「おう」

今からオーガの里に向かうべく、レオニス邸に戻ることにしたライト達一行。

するとフギンとレイヴンが、無言でライトの両肩に留まった。

ライトは『ン?』と思いつつ、自分の肩に留まったフギン達に声をかけた。

「フギンさん、レイヴンさん、スライム飼育場の牧場にいたスライムはどうでしたか?」

「ああ、様々な色のスライムがいて、とても驚いた」

「ですよねー、ぼくも初めて見た時は驚きましたもん!」

フギンの答えに、にこやかに笑うライト。

その眩い笑顔に、フギンもレイヴンも小さく笑う。

人族という種族が持つ業の深さは、確かに計り知れない。

だが、フギン達の目の前にいる人族―――ライトとレオニスは信用できる者達だと思っているし、実弟マキシの大恩人だという厳然たる事実がある。

そしてその大恩は、家族や大神樹ユグドラシアとの絆を取り戻すきっかけともなっていて、レイヴン達にとってはもはや生涯をかけても返しきれないものだった。

もし人族そのものが信頼できないものだったとしても、ライトとレオニスという個人だけは信じ続けよう―――そう心に誓ったフギンとレイヴンだった。